Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/05/16
Update

【ネタバレ】シン・ウルトラマン考察解説|ザラブこと“にせウルトラマン”が横須賀を襲った意味と“外星人”の表象とは【光の国からシンは来る?11】

  • Writer :
  • タキザワレオ

連載コラム「光の国からシンは来る?」第11回

2016年に公開され大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』(2016)を手がけた庵野秀明・樋口真嗣が再びタッグを組み制作した新たな「シン」映画。

それが、1966年に放送され2021年現在まで人々に愛され続けてきた特撮テレビドラマ『空想特撮シリーズ ウルトラマン』(以下『ウルトラマン』)を基に描いた「空想特撮映画」こと『シン・ウルトラマン』(2022)です。

「2021年初夏公開」の延期から劇場公開時期の調整が続いていましたが、ついに「2022年5月13日(金)」での劇場公開が決定された『シン・ウルトラマン』。

本記事では公開直前に登場が発表された外星人ザラブ、ザラブが擬態していた「にせウルトラマン」から、『シン・ウルトラマン』のおける外星人の存在が意味するものを考察・解説していきます。

【連載コラム】『光の国からシンは来る?』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『シン・ウルトラマン』の作品情報


(c) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (c)円谷プロ

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
樋口真嗣

【企画・脚本】
庵野秀明

【製作】
塚越隆行、市川南

【製作】
鷺巣詩郎

【出演】
斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、西島秀俊、山本耕史、岩松了、嶋田久作、益岡徹、長塚圭史、山崎一、和田聰宏

【作品概要】
昭和41年(1966年)の放送開始以来、海外でも100を超える地域で放送され、今なお根強い人気を誇る日本を代表するヒーロー“ウルトラマン”がウルトラマン55周年記念作品として映画化したリブート作品。

企画・脚本は、自身もウルトラマンシリーズのファンであることを公言する庵野秀明。監督は数々の傑作を庵野氏と共に世に送り出してきた樋口真嗣。この製作陣の元に斎藤工、長澤まさみ、西島秀俊、有岡大貴、早見あかり、田中哲司ら演技派・個性派キャストが総出演。

『ウルトラマン』の企画・発想の原点に立ち帰りながら、現代日本を舞台に未だ誰も見たことのない「“ウルトラマン”が初めて降着した世界」を描く。キャッチコピーは「そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。」「空想と浪漫。そして、友情。」
 

映画『シン・ウルトラマン』外星人ザラブ考察・解説


(c) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (c)円谷プロ

「専守防衛」を描いたザラブのエピソード

ガボラとの一件を経て、ウルトラマンとコミュニケーションがとれる希望が見えた矢先、禍特対本部に突如姿を現した外星人ザラブ。人類を上回る高度な科学力を持ち、日本政府への不平等条約をいとも簡単に締結させてしまいました。

さらに「条約締結を契機に国家同士を争わせ、地球原住知的生物であるホモ・サピエンスを殲滅させる」というザラブの陰謀を悟った神永を拘束。

神永がウルトラマンへ変身できないその夜、なぜかウルトラマンが横須賀に現れて街を破壊。ザラブは日本政府に対し危険な存在と判明したウルトラマンの抹殺計画を提案。しかし街を破壊する巨人が「にせウルトラマン」だと悟った浅見によって神永は救出され、ベーターカプセルを取り戻します。

神永の正体が「人間であり、外星人である」という二者の狭間を生きる者であると知った浅見が真に神永とバディとなり、神永は人間として、外星人としてザラブとの戦いに臨みます。

ウルトラマンとにせウルトラマンの戦いの中で、にせウルトラマンの光学擬装は解け、日本政府を騙していたザラブの目論見はその正体と共に露見する……というのが、本作における外星人ザラブをめぐるエピソード。この一幕は概ね、オリジナルにあたるテレビドラマ『ウルトラマン』の第18話「遊星から来た兄弟」を土台にしています。

東京に発生した放射能霧から現れた「地球人類との兄弟」を自認するザラブ星人。友好的な態度を示すザラブ星人の真の目的は地球侵略であり、正体を突き止めたハヤタはザラブ星人に捕らえられてしまう。その直後に出現したウルトラマンが、街を破壊し始める……。

プロットの共通点だけでなく、にせウルトラマンに顔面チョップを浴びせたウルトラマンが手首を振るって一瞬痛がるシーンなど、本作の該当シーンは原作を強く意識させながら、ネットワークを掌握する描写やウルトラマンとの空中戦などにおいて現代的にブラッシュアップをされていました。

このザラブにまつわるエピソードは、“にせウルトラマン”の存在を通して専守防衛を描くための一幕でした。

「専守防衛」とは第二次世界大戦後に提唱された日本独自の防衛戦略を指し、「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その防衛力行使も自衛のための必要最低限度にとどめ、また保持する防衛力も自衛のための必要最低限度のものに限られる」と定義づけられています。

このような受動的な防衛戦略は、日本の政治状況から生み出された独特の防衛構想であり、軍事的な合理性以上に、憲法上の問題など内政による要請をより強く反映したものとして本作でも基本的にこの姿勢が貫かれています。

日本に蔓延る縦社会の病理によって、直接現場の指揮を取る禍特対が自己判断と責任の皺寄せを食らう様子は非常に現代的であると同時に、「牧歌的な雰囲気に宿った社会批評性」という初代ウルトラマンの空気感を現代に上手くトレースしていました。

「福音」という名の虐殺


(c) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (c)円谷プロ

テレビシリーズにおいてもザラブ星人は何にでも姿を変えられる擬態能力を持っており、フジ隊員やウルトラマンになりすまし科特隊を罠に陥れました。

このザラブ星人の登場回「遊星から来た兄弟」が、共に敗戦を経験した人間同士の共同体が毀損される恐怖と異星人との外交への懐疑性を描いたのに対し、『シン・ウルトラマン』におけるザラブの存在はコミュニティ内に潜伏する異質な存在(=マイノリティ)への恐怖を煽るものではありませんでした。

ここに作品が作られた時代性と背景に違いが見られます。共同体への帰属意識が希薄または個人の差異が激しい現在の日本社会において、「隣人が隣人でなくなる恐怖」はもはや現代的なものとして機能しないのです。

近隣国の核ミサイル実験やウイルスのパンデミックに怯えながらも、現在の日本は「安心安全」が常態であり、つい最近まで戦争の脅威は対岸の火事に過ぎませんでした。

圧倒的な力を見せつけ、不平等条約を締結させる本作のザラブは、これから起こりうる諸外国もとい諸外星から地球を防衛してくれる、地球にとっての新たな依存先という立場を有します。それは国単位に置き換えれば、「日本にとってのアメリカ」とほぼ同じ関係性といえます。

テレビシリーズにて同エピソードの脚本を担当した金城哲夫の出身地・沖縄を関連づけることへの是非・懸念はありますが、ザラブ星人=アメリカ軍の符合はオリジナルにおいても成立する符合であり、それは「怪獣が日本の東京に出没する理由」にも紐づけることができます。

主だった理由は、ウルトラ怪獣の「先祖筋」であるゴジラが蘇った戦没者の亡霊として、権力中枢と権威が鎮座する首都・東京を目指したことに集約されます。

テレビドラマ『ウルトラマン』(1966)は、お茶の間の子どもが戦争経験者である大人とともに視聴することを想定しており、登場人物の背景に戦争があったことを暗示していました。

終戦から77年を経た2022年の『シン・ウルトラマン』(2022)においてザラブ星人が登場することは、にせウルトラマンという偽神の象徴を出現させる上で必要でした。

先の戦争によって、かつては君主制であった国家制度は、戦勝国の条件をのむ立憲君主制へと変えることを余儀なくされました。そして象徴であり神であった天皇は、戦勝国の意向によってかつての機能と信仰を失います。

にせウルトラマンが横須賀を破壊した理由は明白でしょう。そこにアメリカ軍の基地があるからです。

スポンサーリンク

まとめ


(c) 2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (c)円谷プロ

2022年現代に「ウルトラマン」を語り直すというリブートの意義は、このザラブ星人回にこそありました

専守防衛を戦勝国から押し付けられた自衛の行使を通して「他国に先駆け、最初に外星人との交渉に応じる日本独特の姿勢」と捉えた本作は、日本でしか作り得ないヒーロー映画です。

日章旗色を身体に纏った神は、禍威獣の出現していない横須賀へと自主的に降り立ち、破壊行為を行う。横須賀とは在日アメリカ海軍の施設がある場所です。

この描写には、清算されない戦争を引きずった作品として「ウルトラマン」が持つ戦後作品としての側面を、1966年当時以上に呼び起こす目的があったのです。

【連載コラム】『光の国からシンは来る?』記事一覧はこちら

タキザワレオのプロフィール

2000年生まれ、東京都出身。大学にてスペイン文学を専攻中。中学時代に新文芸坐・岩波ホールへ足を運んだのを機に、古今東西の映画に興味を抱き始め、鑑賞記録を日記へ綴るように。

好きなジャンルはホラー・サスペンス・犯罪映画など。過去から現在に至るまで、映画とそこで描かれる様々な価値観への再考をライフワークとして活動している。









関連記事

連載コラム

映画『揺れるとき』あらすじ感想と解説評価。サミュエル・セイス監督が描く危うくも美しい少年期の感情|2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集3

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国際コンペティション部門最優秀作品賞サミュエル・セイス監督作品『揺れるとき』 2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業 …

連載コラム

韓国映画『アワ・ボディ』あらすじと感想レビュー。キャストのチェ・ヒソが全身で表現するヒロインの共感力|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録4

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第4回 毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で14回目となります。 2019年3月08日(金)から3月17日(日)までの10日間に渡ってアジア全域 …

連載コラム

映画『テル ミー ライズ』ネタバレあらすじ結末と感想解説。ピーター・ブルック監督が投げかけた“究極の反戦論”|タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」1

連載コラム『タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」』第1回 既存の文化への対抗、反抗として生まれたカウンターカルチャーの時代。多くの暴力・残虐行為から目を背け、誰もが何もしないでいること …

連載コラム

映画『ぼくと、彼と、』感想とレビュー評価。日本のマイノリティカップルの“ありのまま”とは|だからドキュメンタリー映画は面白い27

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第27回 日本に暮らすマイノリティカップル。そのあり方とは――。 今回取り上げるのは、2019年11月29日(金)より池袋HUMAXシネマズにて劇場公開 …

連載コラム

未体験映画『バースト・マシンガール』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。美女が改造されて殺人アリーナでデスマッチ!|未体験ゾーンの映画たち2021見破録5

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第5回 世界の隠れた名作から珍作・怪作まで、埋もれかけた映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第5回で紹介するのは、これぞ未体験映画 …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学