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Entry 2023/02/08
Update

【窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー】映画『Sin Clock』ピュアさがもたらす“存在”の演技ד公園で遊ぶのが好きな子ども”の心

  • Writer :
  • 河合のび

映画『Sin Clock』は2023年2月10日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開!

『GO』(2001)、『ピンポン』(2002)などで知られる俳優・窪塚洋介の18年ぶりとなる邦画長編映画の単独主演作『Sin Clock』

最低の人生を生きる男たちが思いもよらぬ《偶然の連鎖》に導かれ、幻の絵画をめぐるたった一夜の《人生逆転計画》へ挑む様をスリリングに描き出した《予測不能》の犯罪活劇。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念し、主人公・高木シンジを演じた俳優の窪塚洋介さん、自ら執筆したオリジナル脚本のもと本作を手がけられた牧賢治監督にインタビュー

窪塚さん・牧監督それぞれが思う、窪塚さんが演じたシンジ、坂口涼太郎さん演じるダイゴ、葵揚さん演じるキョウの3人組の魅力、牧監督が実感された窪塚さんの演技の魅力、窪塚さんにとっての“演じる”という行為の魅力など、貴重なお話を伺いました。

この映画で自分は本当に楽しめるのか


photo by 田中舘裕介

──『Sin Clock』は窪塚さんにとって、18年ぶりの邦画長編映画の単独主演作になりました。牧監督からの本作への出演オファーを引き受けられた際にも、そのことはやはり意識されたのでしょうか。

窪塚洋介(以下、窪塚):「『Sin Clock』が18年ぶりの邦画長編映画の単独主演作になる」と知らされたのは、実はこの映画の宣伝活動が始まった時だったんです。「ああ、そうだったんだ」「そんなにやってなかったんだ、俺」と少し驚きました。

撮影時も含め、そのことは意識していなかったので、正直プレッシャーというものは全くなかった。「この映画を自分は本当にやりたいのか」「この映画で自分は本当に楽しめるのか」といういつも通りの純粋な感覚で、オファーを引き受けさせてもらいました。

牧監督の書いたオリジナル脚本が、とにかく面白かったんです。

「シンクロニシティ」をテーマに据えつつも、どこまでも予想できない結末へと転がっていくストーリー展開に惹かれた。牧監督の人となりや才能も、後々のやりとりの中でより実感していったわけですが、一番の決め手はやっぱり脚本でしたね。

“新たな窪塚洋介”と“目”に注目してほしい


photo by 田中舘裕介

──牧監督は脚本執筆の段階から、窪塚さんの出演を想定された上で“当て書き”をされていたと伺いました。それほど出演を切望されていた牧監督の目には、撮影現場での窪塚さんの姿がどのように映ったのでしょうか。

牧賢治監督(以下、):自分だけでなく、窪塚さんの出演する映画やドラマを観たことのある方なら誰もが“俳優・窪塚洋介像”を持っているはずです。その“窪塚洋介像”を形作っている要素たちはもちろん『Sin Clock』でも生きているんですが、今回の映画はそれだけではなく、“新たな窪塚洋介”を見られたと感じています。

シンジに「40代の男」という窪塚さん自身の“素”と重なる部分があったからこそ、これまで観てきた“俳優・窪塚洋介像”とは一味違う、窪塚さんのパーソナルな部分、言ってしまえば“人間・窪塚洋介”を垣間見れる瞬間が撮れたんじゃないかと僕自身は思っています。


(C)2022 映画「Sin Clock」製作委員会

:また、撮影現場でカメラのモニター越しに見た窪塚さんの“目”は、映画やドラマで観ていた時以上の迫力があり、ギラついた目や真に物憂げな目など、窪塚さんの様々な目を見られました。

その結果、『Sin Clock』は窪塚さんの目の寄りカットが結構多いんですが、目だけでストーリーを動かせてしまうほどの凄まじさがそれだけあった。ストーリーも楽しんでもらいたい一方で、窪塚さんの目にもぜひ注目してほしいです。

坂口涼太郎・葵揚が作ってくれた“シンジの場所”


photo by 田中舘裕介

──窪塚さんと牧監督は、シンジ、ダイゴ、キョウのことをどんな3人組だと捉えられていますか。

:本当に全然違う3人なのに、うまく足りない部分を補い合うことでお互いの関係性の微妙なバランスを保っているんです。

ただ、3人それぞれに足りない部分があることは変わらないので、ほんの些細なことでも噛み合っていたはずの歯車がどこか掛け違い、大きく狂っていってしまうという危うさを常に持っている。そういった面白さが、この3人の間では自然に浮かび上がってくるわけです。

僕はキャスティングの時点で、窪塚さん、坂口涼太郎さん、葵揚さんのお三方のことを、それぞれの役柄を構成する要素をご本人自身も何かしら持っている方だと感じていたんです。

その感覚が当たっていたのは、撮影でお三方の芝居を実際に見たことで確信できましたし、3人組の魅力が映像として浮かび上がっていく様に感動しながら撮影を進めていました。


photo by 田中舘裕介

窪塚:俺はもう、本読みをした時点から「こいつら、すげぇいいな」と思えた。坂口くん、葵くんも役者としては後輩なわけですが、「これは頼りがいがあるぞ」と感じられたし、現場が始まったらそれ以上のものを仕上げてきてくれたんです。

シンジはパッとしないしうだつも上がらない、宙ぶらりんな性格の役なんです。ただそこから、チームの先頭に立とうする“前門の虎”なキョウと、後ろからついてくる“後門の狼”なダイゴに挟まれてしまうことで、動かざるを得なくなる。ダイゴはあまり狼っぽくはないですが(笑)。

そんなシンジとの距離感を、坂口くんも葵くんも明確に表現してくれたから、「この“間”の中でシンジは、うだつが上がらなければいいんだな」と信じることができました。

あえて言葉にはせず、芝居を通じて、それぞれがやるべきことをやってくれた。そうやって俺にシンジとしての場所を提供してくれたので、本当に最高でしたし、楽しかったですね。

“公園で遊ぶのが好きな子ども”のように


photo by 田中舘裕介

──前述の“目”の表現はもちろん、ご自身初の商業映画デビュー作『Sin Clock』を通じて、窪塚さんの演技を目の当たりにされた牧監督にとって、窪塚さんの演技の魅力とは何でしょうか。

:透明感、あるいはピュアさなんでしょうね。

「何色にもなれる」といいますか、おでんの大根のように、その作品や現場の空気を本当に全部吸ってしまえる人だと感じられた。多分それは窪塚さんが、俳優として、人間として、あまりにもピュアな一面を持つ方だからこそなんだと思います。

その場と一体化してしまうほどに、そこに存在することができる。「本当に、そこにいる」と思える佇まいが、窪塚さんの演技の根幹なのかもしれません。


photo by 田中舘裕介

──窪塚さんご自身は、“演じる”という行為のどのような点に魅力を感じられているのでしょうか。

窪塚:「公園で遊ぶのが好きな子ども」みたいな感覚で、本当に役者が好きなんだと思うんです。

好きである理由をつけようと思えば、いくらでも理由はつけられる。ただ子どもは、好きである理由をわざわざ言わないじゃないですか。それに近いのかもしれないですね。

脚本を読む時、いわゆる“役作り”をする時、他の役者やスタッフとの本読みをする時、撮影の時、できあがった作品を観る時、作品を観た人から評判を聞く時……1本の作品で役を演じる中でも、とにかくたくさんの面白い時間がある。

それに“人生”という尺度で測ったら、「いくつもの作品で役を演じられる」ということは、「1回きりの人生の中で、いろんな人の人生を生きられる」ということでもあると思うんです。

そういったマクロな視点でも、ミクロな視点でも芝居の魅力はたくさんあるけれど、「好きだから」というシンプルな心が、今まで続けてきた理由なんじゃないかなと感じています。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

窪塚洋介×牧賢治プロフィール

高木シンジ役:窪塚洋介

1979年5月7日生まれ、神奈川県横須賀市出身。

『金田一少年の事件簿』(1995/NTV)で俳優デビュー。その後『池袋ウエストゲートパーク』(2000/TBS)の怪演で注目される。そして『GO』(2001/行定勲監督)で第25回日本アカデミー賞新人賞と史上最年少での最優秀主演男優賞を受賞した。

『Silence -沈黙-』(2017/マーティン・スコセッシ監督)では、物語の鍵となる”キチジロー”を演じハリウッドデビューを果たす。『最初の晩餐』(2019/常盤司郎監督)では、高崎映画祭、日本映画批評家大賞で最優秀助演男優賞を受賞し高く評価され、映画を中心に国内外問わず多数の話題作に出演している。

舞台でも活躍するほか、音楽活動、モデル、執筆と多彩な才能を発揮。自身のYouTube番組やコスメなどのプロデュースにも注力している。

監督・脚本:牧賢治

1979年生まれ。2014年に初の脚本・監督作として短編『japing』をわずか20万円で製作し、スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスも受賞経験のあるヒューストン国際映画祭短編部門にてゴールド賞を受賞。

その後もサラリーマンをしながら、2017年にHIP HOP長編映画『唾と蜜』を自主制作。同作はニース国際映画祭ほか国内外で賞を獲得し、単館劇場系で一般公開された。

『Sin Clock』は記念すべき商業映画デビュー作となる。

映画『Sin Clock』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
牧賢治

【劇中曲】
「GILA GILA feat. JP THE WAVY,YZERR」Awich(Universal Music LLC)、Jinmenusagi「Metchalo」

【テーマソング】
「赤曜日」「BODY ODD」GEZAN

【キャスト】
窪塚洋介、坂口涼太郎、葵揚、橋本マナミ、田丸麻紀、Jin Dogg、長田庄平、般若、藤井誠士、風太郎、螢雪次朗

【作品概要】
どん底の人生からの一発逆転を目指すタクシードライバーたちによる絵画強奪計画の顛末を描いたサスペンス・ノワール。オリジナル脚本を自ら執筆した牧賢治監督は、本作が初の商業映画デビュー作となった。

主人公・高木シンジ役は、本作が18年ぶりの邦画長編映画・単独主演作となった窪塚洋介。またシンジと強奪計画を画策する同僚・番場ダイゴ役を坂口涼太郎、坂口キョウ役を葵揚が演じるほか、橋本マナミ、田丸麻紀、長田庄平(チョコレートプラネット)、藤井誠士、風太郎、螢雪次朗が出演する。

また近年熱い注目を集めるヒップホップシーンからも人気ラッパーのJin Dogg、般若らが出演を果たすなど、多彩なジャンルから個性豊かなキャストが集結した。

映画『Sin Clock』のあらすじ


(C)2022 映画「Sin Clock」製作委員会

社会からも家族からも見放されたタクシードライバー、高木。

奇妙な偶然が呼び寄せた、巨額の黒いカネを手にするチャンス。鍵を握るのは一枚の絵画。

高木はたった一夜での人生逆転を賭け、同僚らと絵画強奪計画を決行。

だが、運命の夜はさらなる偶然の連鎖に翻弄され、男たちの思惑をはるかに超えた結末へと走り出していく……。

ライター:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介





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