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Entry 2020/01/13
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【山口まゆインタビュー】映画『太陽の家』長渕剛という存在のおかげで“本気”が生まれた撮影現場

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『太陽の家』は2020年1月17日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー!

20年の時を経てよみがえった「俳優」長渕剛が主演を務めた映画『太陽の家』。気の優しい大工の棟梁を中心に、彼が周辺の人々との複雑な関係に思い悩みながらも自身の思いを貫いていく姿を描きます。


(C)Cinemarche

本作で主人公である川崎信吾の娘・川崎柑奈役を務めたのが、女優の山口まゆさん。劇中において重要な役柄を演じられた山口さんは、長渕さんとともに体当たりの演技に挑戦しました。

今回は山口さんにインタビューを敢行。映画初主演への意気込みや演じた役柄への向き合い方、自身の役者としての仕事への思いなどをおうかがしました。

俳優・長渕剛が呼んでくれた“本気”


(C) 2019映画「太陽の家」製作委員会

──本作の出演オファーを受けられた際のお気持ちをお聞かせいただけますか?

山口まゆ(以下、山口):脚本を読んだ限りではどちらかといえば日常的な話で、一人の男性をフィーチャーした物語だという印象でしたが、主演が長渕剛さんであるということが新鮮で驚きました。その上でどんな作品が出来上がるのかと、脚本を読みながらワクワクしていました。長渕さんが主演を務められることで、もっといろんなものが違って見えるのではないかと感じたんです。

一方で長渕さんがお父さん役、私が娘役という関係には少し緊張もありました。「“長渕さんの娘”って、どうあればいいんだろう?」とか…(笑)。ワクワクや不安など、いろんなことを考えていましたが、脚本からはカンナという子がとても明るい女の子だという印象を抱きました。

──実際に長渕さんとお会いした際には、どのような思いを抱かれましたか?

山口:「“本だけではわからないこと”は本当にあるんだ」と実感しました。長渕さんと初めてお会いしたときには本読みもしたんですが、その際にもう、長渕さんは「ああ、きみが柑奈か!?よろしくな!」とフランクに声をかけてくださいました。

本読みでは私と飯島直子さん、そして長渕さんと権野元監督の4人で川崎家の場面の読み合わせをしたんですが、もう最初から長渕さんが、まさしく“パパ”な存在になっていました。

特にその日の本読みは、親子が対峙するシーンから始まったのでとても緊張したんですが、それに負けまいとチャレンジを続けました。長渕さんもそれを一生懸命受け入れてくださって、“倍”にして返してくださったので、「ああ、これはやらなきゃいけない」と自然に“本気”へと気持ちが変わっていました。そのようなモチベーションのままでクランクインを迎えたので、現場での撮影時にはすっかり自分は“川崎柑奈”になっていました。

人の心へ触れてくる作品


(C)Cinemarche

──映画『太陽の家』の物語自体に対する印象を、より詳しくお聞かせ願えますか?

山口:簡単に説明すれば「主人公・川崎信吾を取り囲むいろんな人々が信吾に振り回される」という話なんですが、一方で「本当に女性が“強い”」と感じられました。

「映画」だからなのかもしれないんですが、本作の劇中のように、女性が怒ったり男性を奮い立たせるような場面は、普段そう見かけることはないと思うんですよね。当然昔はより少なかったでしょうし。ですが本作の物語では、そういった女性の“強さ”がフィーチャーされていました。

その一方で権野監督からは、「“女性とはこうである”と思ったらダメだ」という指導をいただきました。

──それは具体的にはどういう意味でしょうか?

山口:「本作の登場人物たちのような女性が、現実にもたくさんいると思うのは大間違いだ」「“女性がなんでもやってくれる”と考えるのは、違うよ」と権野監督はおっしゃっていました。

男性は力などでは強いですが、実は本当の“強さ”に関しては女性のほうがあると私は感じています。ただ権野監督は、その“強さ”に甘えすぎてしまう、頼りすぎてしまうのは少し違うのではと考えられていたんだと思います。

また物語は、とにかく“熱い”んです。そういった“熱”も、普段の日常はあまりないものだと思うんです。だからこそ、本作の物語はある意味ファンタジーなのかもしれません。実際にそういった場面が訪れることも少なからずあると思うんですが、“むき出し”になっているなにかに対して周囲が影響を受けてゆく様を、本作は明快に描こうとしているんだと感じられました。だからこそ、人の心へ触れてくる作品なんだと。

男性と女性、それぞれの“強さ”


(C) 2019映画「太陽の家」製作委員会

──そのように女性の“強さ”が描かれている本作において、山口さんも“女性”である柑奈役を演じられました。実際に彼女を演じるにあたってどのようなことを意識されましたか?

山口:劇中、柑奈はパパである信吾と衝突しても自分からは謝りにいかなかったけれど、実際に私が彼女の立場だったとしても、多分しないと思うんです。それに対してパパは、衝突があった後に居酒屋でグダグダしながら「どうしちゃった俺、大丈夫か」なんて言っているくらいで(笑)。やっぱり、女性のほうが強いんですよね。

そういった瞬間に、男女における“強さ”の違いが描かれていましたね。一方で、力の“強さ”は男性のほうがある。たとえば長渕さんの演じる信吾が筋トレをする場面などでは、それが表されていたと思います。

また養子という立場ではありますが、お兄ちゃんのような存在である高史役の瑛太さんと娘・柑奈役の私という関係も“兄妹”と対照的になっていて、一見複雑なように見えるけど実はハッキリしている関係性、そういった男女の微妙なバランスも非常にいいなと感じました。

“長渕剛”だからこそぶつかり合えた現場


(C) 2019映画「太陽の家」製作委員会

──また彼女の性格など、柑奈の役柄についてはどのように役作りをされていったのでしょうか?

山口:細かく役柄を作り込んでいくというよりは、現場での長渕さんの熱量が本当にすごかったので、それに大きく影響されたと感じています。

現場に長渕さんがいると、自然とみんなが背筋が伸びてビシッとなる気がするんです。一方で長渕さんがいるおかげで場が和むところもありますし。私が演じた柑奈も、長渕さんがパパだからこそ引き出してもらえた魅力もたくさんあったと思うし、川崎家という家の雰囲気に関してもそうだと思います。

柑奈という女の子が弱々しいわけがない。だからこそ、父親にも対抗しなきゃいけないんです。ある意味ではお父さんと対峙しても常に少し優勢であるくらいのほうが、彼女の役柄にとってもいいと感じていたんです。それに対し、長渕さんは100%の気迫でお芝居に臨まれていたので、私もその気迫に負けないよう「いつも以上に“本気”でやらなくては」と思いながら演じていました。

撮影の間はもう“山口まゆ”としてではなく、“川崎柑奈”として常にエネルギッシュに、カツカツと動いていました。その面では、やはり柑奈としてパパに突進していく、ぶつかっていく場面が思い出深いですね。お芝居の中で長渕さんがこちらにぶつかってくると、私自身の奥底にあった怒りなどもかき立てられる感覚がありました。

そのため、親子でぶつかり合って最後にはべそをかいて柑奈が家を出ていくシーンは、演じている自分自身にも「何でなんだ!」といった悔しい気持ちが本当にわき上がってきてしまい、カットがかかってもずっと涙が止まらないということもありました。

──長渕さんの影響はかなり大きかったんですね。

山口:撮影現場の長渕さんは、権野監督以上なのではと思えるくらいに本作の登場人物たちを愛されていました。だからこそ「もうちょっとこうしたい」といろんな提案をしてくださいました。

そうやって撮影の中で変化していくのも新鮮な体験でした。長渕さんのいる現場だからこそ、そういったアイデアが生まれる雰囲気があったんだと思います。

キャストやスタッフが常に全力で登場人物と向き合う、お芝居に向き合うということは、他の現場ではあまりない経験だったので、毎回毎回の撮影で“すがすがしさ”を感じていました。

今はとにかく“役者”をやりたい


(C)Cinemarche

──山口さんは幼少のころから役者ひいては女優を志されていますが、たとえば「他のことをしたい」と迷ってしまうことはありませんでしたか?

山口:いま思えばなんですが、もともとバレエが好きで、小さいころにはバレエを習っていたんです。ですがほぼ同じころ、劇やミュージカルが好きだったお母さんに「ミュージカルを観に行こう」と誘ってもらえて、劇団四季の舞台を観に行ったんです。すごくキラキラした舞台に、あっという間に惹かれてしまいました。

もともと華やかな場が好きだったということもあって「そこに入りたい」と思いはじめ、いまの事務所に入ってレッスンなどを続けていくうちに、今度はお芝居自体がとても楽しくなっていって。

「いろんな自分になれる」ということよりも、誰かになるために「もっとこうしてみたい」「自分だったらこうやる」「この人はこうやるんだ」と試したり、実際に演じてみたりと試行錯誤することがすごく好きだったんです。

だから、他のことに目が行ったり、迷ってしまった時期はあまりないかもしれません。いまの自分にとって“演技”というものは苦ではなく、「どんどんやってみたい」と思うようになっていますし、できないときには少し悔しさも感じてしまいますが、それでもチャレンジを続けたいと思います。

自分が出演していない作品を観ていても、「この役は面白い」「この役を演じてみたい」「演じてみたかった」という思いが次々とわいてきます。それらもまた、「やっぱり役者をやりたい」というエネルギーへとつながっていっています。

ヘアメイク:尾曲いずみ
スタイリスト:道端亜未

インタビュー・撮影/桂伸也

山口まゆ(やまぐちまゆ)のプロフィール


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2014年に「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」(フジテレビ系)でドラマデビュー。主な出演作はドラマ「アイムホーム」(テレビ朝日系)、「リバース」(TBS系)、「明日の約束」(カンテレ・フジテレビ系)、「駐在刑事」(テレビ東京系)、映画「くちびるに歌を」、「相棒‐劇場版Ⅳ‐」、「僕に、会いたかった」、「下忍 赤い影」など。

映画『太陽の家』の作品情報

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
権野元

【キャスト】
長渕剛/飯島直子 山口まゆ 潤浩/柄本明 上田晋也(友情出演)/瑛太 広末涼子

【作品概要】
大工の棟梁とある母子との交流を、複雑な関係を持つ家族や弟子たちとのエピソードを絡めながら描きます。ドラマ「相棒」シリーズなどを手掛けた権野元が監督を、特撮ドラマ「牙狼」シリーズなどを担当した江良至が脚本を担当しています。

主演はドラマ『とんぼ』、映画『英二』など俳優としても活動してきたトップミュージシャン・長渕剛。他にも『メッセンジャー』などの飯島直子、『ゼロの焦点』などの広末涼子、「まほろ駅前」シリーズなどの瑛太らが出演。さらに名優・柄本明やお笑いコンビ「くりぃむしちゅー」の上田晋也らが集結しています。

また長渕は、本作のためにオリジナル楽曲「Orange」を主題歌として提供しています。

映画『太陽の家』のあらすじ


(C)2019映画「太陽の家」製作委員会

人情に厚い川崎信吾(長渕剛)は、仕事を支え家庭を守ってくれている妻・美沙希(飯島直子)と年ごろの娘・柑奈(山口まゆ)がいるにもかかわらず、好みの女性には弱いという大工の棟梁。

ある日、弟子たちと現場に出ていた川崎は、ふとしたきっかけで保険会社の営業員・池田芽衣(広末涼子)と知り合います。

父親を知らない息子・龍生(潤浩)とともに、シングルマザーとして懸命に生きる芽衣。そんな彼女を気にかけ、信吾は人見知りな龍生の面倒を見るようになっていきます。その気遣いが、芽衣や自分の家族たちの思いに波紋を呼ぶとも知らずに…。

映画『太陽の家』は2020年1月17日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷他で全国ロードショー



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