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Entry 2022/08/19
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【谷口悟朗監督インタビュー】映画『ONE PIECE FILM RED』原作ファンに“ドラマの補正”を託した理由と“アトラクション”を作る者の課題

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

『ONE PIECE FILM RED』は大ヒット上映中!

2022年7月で連載開始25周年を迎えた大ヒットコミック『ONE PIECE』。その記念すべき年に公開されたのが、長編劇場版作品の15作目であり、原作者・尾田栄一郎が総合プロデューサーを務める『ONE PIECE FILM RED』。

映画オリジナルキャラクターでシャンクスの娘でもあるウタのボイスキャストを名塚佳織、歌唱キャストを人気歌手のAdoが担当することでも一躍話題となりました。


(C)Cinemarche

2022年8月6日(土)に劇場公開を迎えたことを記念し、本作を手がけられた谷口悟朗監督にインタビュー

本作を制作する上で最初に行われたこと、近年の映画・映像作品における「アトラクション性」と「ドラマ性」の傾向、アニメーションと音楽の親和性など、貴重なお話を伺いました。

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映画というアトラクションで「旅」を体験する


(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

──本作を監督されるにあたって、はじめに谷口監督は何をしなくてはならないと考えられたのでしょうか。

谷口悟朗監督(以下、谷口):まず真っ先にやったのは、当然ではありますが原作漫画を読み直すこと。原作の内容を確認する必要ができた時、その場で即座に確認が取れるようにするために電子書籍版の単行本も全て買い揃えました。

それとあわせて、過去数作の映画の脚本やコンテ、当時のスタッフ構成、興行収入、動員数とその男女比などのデータをできるだけいただきました。

今現在の『ONE PIECE』が掴んでいるファン層の中で、原作漫画のファン層とテレビアニメも欠かさず観ているファン層はイコールというわけではない。また今回は劇場で公開される映画なので、まずは「劇場に足を運んでくれるファン層」に向けた作品にしなくては意味がない。自分が映画で目指すべきマーケットを見据えるためにも、多くのデータが必要でした。

──「映画『ONE PIECE FILM RED』、あるいは『映画』というエンタメに求められているもの」を調査し分析された上で、本作をどのような作品へと作り上げようと判断されたのでしょうか。

谷口:本作について脚本の黒岩勉さんと話した時、私は「この映画にドラマ性は必要なのか」という意見を伝えたんですが、黒岩さんもその意見に共感してくれたんです。

近年の映画を観てくれるお客さんが、映画に対して「アトラクション性」を求めている傾向が年々増しているのは事実であり、その需要に応じる形で、映画におけるドラマ性の比重も減りつつある。「映画におけるドラマ性は、お客さんの頭の中で既に先行して完結しているものではないか」「お客さんはもう、映画にドラマを求めていないのではないだろうか」と話し合った上で、「この映画はまず『アトラクション』である必要がある」と考えました。

映画の目的の一つには、映像や音のアトラクションを介してお客さんに「旅」をしてもらうというものがあります。映画でしか体験できない、あるいは映画でしか楽しめない風景や音によって、作り手はお客さんに忘れられない旅を体験してもらわなきゃいけない。それを特に大事にしようと思ったわけです。

ただ私も黒岩さんも、「アトラクション性が肝心であり、ドラマはいらないのでは」と考えた一方で、作り手の矜持としてドラマは不可欠だとも感じていました。たとえお客さんが求めていなくても、映画を作るためにはやはり必要だと思える以上、アトラクション性とドラマ性のバランスをどうするかは重要な課題でした。

観客にドラマの「補正」を託す


(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

──「映画におけるドラマ性は、お客さんの頭の中で既に先行して完結している」という状況について、より詳しくお教えいただけますでしょうか。

谷口:たとえばある作品で、主人公の男の子のそばに可愛い女の子が登場したら「二人の間には、いずれ恋愛感情が生まれるのかな」と多くの方が予想されるはずです。ただ、それは作品を観ているお客さんが無意識のうちに想像し作り上げたドラマであって、脚本の中で明確に構成されているドラマではないわけです。

「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ(2001〜2003)でも、主人公と旅の仲間たちの間に友情が芽生えた場面が明確にあるかというと、実は映画作中では見当たらない。結果「彼らの間に絆が存在するのは当然」という前提で物語が展開されていくんですが、お客さんがその展開に違和感を抱くことなく観られるのであれば、「友情を育んでいく」というドラマを省略してしまっても問題ないわけです。

日本映画でいえば「男はつらいよ」シリーズも、当時の人々にとって「毎年の行事」のように観られていた映画だからこそ、多くの「お約束」で構成されている。そして「お約束」をお客さんがよく知っていて、ドラマにおける情報を補正してくれるからこそ映画が成立している。心の中でのモンタージュとでも言うべきものですね。

お客さんが意味を生み出してくれるから、ドラマもまたお客さんの中で生まれる。情報を作品だけで処理しようとするのではなく、お客さんの頭の中も利用させていただく。分散処理と捉えてもらってもいいです。アトラクション性とドラマ性のバランスをとりながらその情報をまとめていくためにも、お客さんにドラマを想像してもらう余白を作る必要があったともいえます。

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アニメーションの作り方は音楽そのもの


(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

──ウタによる美しい歌声と、ともに映し出される多彩な映像演出が本作の大きな見どころの一つですが、谷口監督はアニメーション作品と音楽の関係性をどのように捉えられているのでしょうか。

谷口:もともとアニメーションと音楽は昔から相性がいいもので、ほぼセットの存在に近いと考えています。特にフィルム・スコアリング(完成した映像に音楽を付けていく手法)は、アニメーション作品の制作における情報コントロールのしやすさと綺麗にハマるんです。

アニメーションにはカットの動きの中にすでにリズムがあり、カットつなぎでテンポが生まれる。アニメーション作品の作り方は、ある意味では音楽そのものなんだと思います。

また近年、お客さんがアニメーション作品で一番素直に楽しんでいる要素がやっぱり「音楽」なんです。音楽をアトラクション性の重要な要素として捉えていて、それを楽しむ作品がいっぱい増えてきている。アニメーション作品、ひいては映像作品の「音楽」を楽しむ層のマーケットが温まってきていると言えばいいんでしょうか。

実写映画でも、私自身は当時「お客さんは果たして入るのだろうか」と疑問を抱いていた『レ・ミゼラブル』(2012)は、むしろ大ヒットした。そして以降も『ラ・ラ・ランド』(2016)や『グレイテスト・ショーマン』(2017)など、ミュージカル映画をはじめ歌とセットの実写作品が多くなっていった。

もちろんその傾向には『アナと雪の女王』(2013)の功績と影響もあるとは思いますが、私からするとあまりにアメリカ的だと思っていた音楽中心の作品が多くなっていったことで、歌とセットの映像作品にお客さんが違和感を持たなくなった。歌を前面に押し出しても、お客さんは満足感を得てくれる。その流れの中で、今回の映画も作れたという側面もあります。

また、そういう作品の作り方ができるからこそプロット段階から「お客さんに満足感を得てもらえるためには最低限必要な曲数はいくつなのか」「作品のどの場面・どのタイミングで歌が入ってくればいいのか」など、歌の用い方には気を遣わなくてはいけない。

本作でも、お客さんが歌を聞き取りやすくするために、アクションシーンでも意図的にアクションの効果音を下げ、歌の音声を前面に出せるように演出しています。「まずは『歌』を届ける」ということを前提に音の演出を考えていきました。

「音楽との親和性」にみる実写とアニメーションの違い


(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

──音楽との親和性において、アニメーション作品と実写作品にはどのような違いがあるのでしょうか。

谷口:アニメーションは、物や身体をピタッと止めることができたりする。それは実写ではできない動きの演出であり、だからこそ休符を含めて音楽をはめ込んでいきやすいんです。

具体例として分かりやすいのは、本作でウタが『逆光』を歌う場面で、曲の最後に彼女がポーズを決める瞬間じゃないかと思います。

歌唱場面でのウタの動きは、モーションキャプチャー映像をベースにしているんですが、アクターさんは人形ではないので、同じくピタッと決めポーズをしたとしても、微妙に体が揺れる。当初、作画の方はその揺れも再現しようとしていたんですが、ピタッと決めポーズをしたのにフラフラッと揺れていたら「ウタ、踊り疲れたのかな」と観たお客さんは気になってしまう。「この映画はアニメーションなのだから、それをやめましょう」と私は伝えました。

そうした動きの演出によって、アニメーションはより音楽との親和性が高くなるし、それは結果的に、私がアニメ業界から抜けられなくなった理由でもあります。ただ、カットごとの情報コントロールがしやすいアニメーションと、そうではない実写のどちらが正しいのかは、正直わからないです。

たとえば日本映画でも、プリヴィズ(CGシミュレーション映像により撮影映像の画面設計を事前に作成する手法)が用いられるようになりましたが、プリヴィズで作ったCGシュミレーション映像からどう撮影を進めるかへの答えは、アニメーションと実写の思考の違いが顕著に現れると感じています。

「CGで作り上げた『完成形』の映像をできるだけ再現してほしい」「スタッフ・キャスト陣のプラスアルファの表現を取り入れつつも、目指す方向は『完成形』の延長線上にしてほしい」と考える方もいれば、「現場ではハプニングが起こり得る以上、『より面白いもの』を追求していった結果として、当初の『完成形』とは異なるものを作ることも選択する」という風に考える方もいる。

アニメはコンテという歴史がありますからね。プリヴィズはすべてのスタッフが経験しているとも言えます。ただ、その発想からだとプリヴィズは前者、目指すべき完成形になりやすい、という事です。それでよいのか、は今後の課題でしょうね。

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現実もまたアトラクションの一つ


(C)Cinemarche

──谷口監督は2022年現在、映画ならびに映像作品が今後どのような時代を迎えるとお考えなのでしょうか。

谷口:映画におけるアトラクション性がこれからも強まっていく以上、ゲーム、ひいてはメタバースといった分野と一体化していくんじゃないかとは思っています。

そもそも映画には、まだ統一された画面アスペクト比がない。表現形式が定まっていないんですね。これまでコロコロ変わっている中で、映像業界全体はもちろん、ゲーム及びメタバースの分野では180度・360度の画面に力を入れている。映画にしろアニメにしろ、いずれはその流れに吸収されていくと感じています。

ただ映像も、現実も、人がアトラクション的要素を好むことには変わりない。現実世界で繰り広げられるスポーツ競技も、ネット上で展開されるe-Sportsも、お客さんにとっては同じ「アトラクション」であると考えられます。イベントやストーリー、ドラマといったものにどのようにかからめて構築していくのかが今後の課題の一つになってくるんじゃないかと思っています。

インタビュー/出町光識、河合のび
撮影/出町光識

谷口悟朗監督プロフィール

1966年生まれ。アニメーション監督、プロデューサー。

「エルドラン」シリーズ、「ガンダム」シリーズの演出を経て1998年に『ONE PIECE 倒せ!海賊ギャンザック』にて監督デビュー。以降、『スクライド』『プラネテス』『コードギアス』『ジャングル大帝』『revisions リヴィジョンズ』『バック・アロウ』『スケートリーディング☆スターズ』など監督作多数。

今回、初監督作の『ONE PIECE』に再び取り組むことになる。

『ONE PIECE FILM RED』の作品情報

【日本公開】
2022年(日本映画)

【原作・総合プロデューサー】
尾田栄一郎

【脚本】
黒岩勉

【監督】
谷口悟朗

【音楽】
中田ヤスタカ

【キャスト】
田中真弓、中井和哉、岡村明美、山口勝平、平田広明、大谷育江、山口由里子、矢尾一樹、チョー、宝亀克寿、名塚佳織、Ado、津田健次郎、池田秀一、山田裕貴、霜降り明星(粗品、せいや)、新津ちせ

【作品概要】
2022年7月で連載開始25周年となる大ヒットコミック『ONE PIECE』の記念すべき年に公開される、長編劇場版作品の15作目にして、原作者・尾田栄一郎が総合プロデューサーを務める。

シャンクスの娘と名乗る映画オリジナルキャラクター・ウタの声を声優・名塚佳織が務め、歌唱パートを歌手のAdoが担当する。

監督は「コードギアス」シリーズなどで知られ、『ONE PIECE』初のアニメ作品『ONE PIECE 倒せ!海賊ギャンザック』で監督デビューを果たしたという縁を持つ谷口悟朗。

『ONE PIECE FILM RED』のあらすじ


(C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

世界で最も愛されている歌手、ウタ。素性を隠したまま発信するその歌声は”別次元”と評されていました。そんな彼女が初めて公の前に姿を現すライブが開催されます。

色めき立つ海賊たち、目を光らせる海軍、そして何も知らずにただ彼女の歌声を楽しみにきたルフィ率いる麦わらの一味、ありとあらゆるウタファンが会場を埋め尽くす中、今まさに全世界待望の歌声が響き渡ろうとしていました。

物語は、彼女が”シャンクスの娘”という衝撃の事実から動き出します。

「世界を歌で幸せにしたい」とただ願い、ステージに立つウタ。ウタの過去を知る謎の人物・ゴードン、そして垣間見えるシャンクスの影。

音楽の島・エレジアで再会したルフィとウタの出会いは12年前のフーシャ村へと遡ります。


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