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Entry 2023/05/10
Update

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事

  • Writer :
  • 河合のび

ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は2023年5月14日(日)より、NHK BSプレミアムにて放送開始!

2023年5月14日(日)よりNHK BSプレミアム・BS4Kにて放送開始後、毎週日曜・夜10時00分〜10時50分に放送されるドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』

作家・岸田奈美が自身の家族について綴った自伝的エッセーを原作に、困難が次々と訪れる中で「家族」というものに真剣に向き合い続けた、ある一家の物語を描いた作品です。


photo by 田中舘裕介

このたびの放送を記念し、本作にて河合優実さん演じる主人公の母・岸本ひとみ役を演じられた女優・坂井真紀さんにインタビュー。

「車椅子とともに生活している人間」としての嘘をつかないための車椅子の練習や役作り、「役の“描かれない部分”を想像する仕事」としての役者についてなど、貴重なお話を伺うことができました。

人々の“生”の言葉が、ひとみを形作った


(C)NHK

──河合優実さん演じる主人公の母・ひとみを演じられるにあたって、最も気をつけられたことは何でしょうか。

坂井真紀(以下、坂井):ひとみは作中で下半身不随となり車椅子の生活になります。人物の心情や物語に沿って役作りをするのと併せて、ドラマを観てくださる方が作品と向き合ってゆく過程を邪魔してしまうようなことがないように、車椅子の動かし方、日々の生活、身体の動かし方をきちんと学び、演じたいと思いました。

練習のために実際に車椅子へ乗って街に出てみると、普段何気なく通り過ぎている街が必ずしも車椅子ユーザーの方にとって安全に作られているわけではなく、「怖い」と感じる瞬間がたくさんありました。

ほんの1cm程度の段差でも、車椅子に乗っているととても大きな段差だと感じますし、きちんと舗装されている歩道であっても傾斜や凸凹が結構あったりなど、車椅子へ乗らなくては実感できなかったことを今回改めて学ばせていただきました。


photo by 田中舘裕介

坂井:また車椅子の練習に協力してくださり、実際に車椅子ユーザーとして生活されている方々から、ご自身が車椅子ユーザーとなられた経緯、生活の中での多くのご苦労、今現在の生活に至るまでに経た様々な想いについてお話を伺う機会も作っていただけました。

その役の“作中では描かれない部分”を想像し、それらを積み重ねることで役を作り上げていくのは、演じる上で大切なことの一つだと思っています。車椅子ユーザーの方々から本当の“生”の言葉を教えていただけたことは、演じる上で本当に助けとなりましたし、皆さんから多くのお力をいただけたからこそ、ひとみという役ができたと強く思っています。

“描かれない部分”を想像する仕事


photo by 田中舘裕介

──演じられる役の“作中では描かれない部分”を想像し、それを積み重ねていくことの大切さを、坂井さんはいつ頃から意識されるようになったのでしょうか。

坂井:役の“作中では描かれない部分”、その役の日々の生活や好きな食べもの、タンスの中の洋服や、送ってきた人生について想像することは、昔から脚本を読む際に意識していました。

ただ、2005年に『センセイの鞄』という舞台作品に出演させていただいた時、演出家の久世光彦さんと同作の脚本についてお話をしていた際に「君さ、うるさがれるだろう」と言われたんです(笑)。

その時私は「ああ、そうかもしれないです、すみません」と答えたのですが、それに対して「いいんだよ。それで」「あなたが私に尋ねてくるように、役者はホンに書かれていないことを、どれだけ想像するかが仕事だ」「うるさがられてもいいから、あなたはそのまま行きなさい」と久世さんは仰ってくださったんです。

この久世さんの言葉は、役者として私自身が、「これからも極めていくべきもの」として心に刻み込まれました。そして、常に、役に向き合う時の大きな力となっています。

大九明子ならではの演出の“スパイス”


(C)NHK

──演出を手がけられた大九明子監督とは、本作の制作についてどのような言葉を交わされたのでしょうか。

坂井:大九監督は本作について、「まず“個”として生きている人間があり、その個によって“家族”という関係が形作られている」「『岸本家の母』であるひとみさんにも、個の人間として積み重ねてきた人生があって、その人生の中でたまたま岸本家という家族ができあがったのです」と当初から話されていました。

私自身も脚本を読ませていただいた時から、本作は「家族ドラマ」と言うよりも「家族についてのドラマ」と言う表現が近いと感じていました。そこに大九監督ならではの演出の“スパイス”が入ったことで、今まであまり観たことのない家族ドラマになったと思っています。

大九監督の“スパイス”は、時に家族という概念を覆されるような不思議な気持ちになる瞬間があるのですが、掘り下げていくと、「ああ、なるほど」と、それこそが普遍的なものだったりするんです。今回のドラマ化にあたって、原作における家族や人生の捉え方と、大九監督ご自身の捉え方が混ざり合う中で、より普遍的で、作品を観てくださる方の心により突き刺さる物語が生まれたと思います。

人々に“元気”を届け続ける仕事


photo by 田中舘裕介

──坂井さんにとって、女優というお仕事における一番の目標とは一体何なのでしょうか。

坂井:私は美術や映像作品などから、「感動」や「笑い」といった形で色々な種類の元気をいただいています。だからこそ私自身も、作品を通して多くの方へ元気を届けられたらいいなと思っています。

作品を観てくださった方の心が動き、潤っていく。そういう作品が届けられたらいいなと思いますし、今回のドラマは「皆さんの元に届けたい」と強く感じている作品ですので、その制作に関われたことは大変光栄です。

しかし何年やっていても、自分の芝居に満足できないものですね。むしろ、キャリアを重ねてきているからこそ努力がもっと必要で、「努力は裏切らない」という言葉通り、これからも努力を続けていきたいです。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
ヘアメイク/ナライユミ
スタイリスト/梅山弘子(KiKi inc.)

【衣装クレジット】
・ピアス ¥97,900
・リング ¥159,500
(共にENEY/Tel:03-3401-0842)

坂井真紀プロフィール

1970年生まれ、東京都出身。テレビドラマ『90日間トテナム・パブ』(1992)で俳優デビュー、『ユーリ』(1996/監督:坂元裕二)で映画初出演。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008/監督:若松孝二)で日本映画批評家大賞助演女優賞、高崎映画祭特別賞を受賞。

近年の主な映画出演作は『架空OL日記』(2020/監督:住田崇)、『461個のおべんとう』(2020/監督:兼重淳)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020/監督:藤井道人)『はるヲうるひと』(2021/監督:佐藤二朗)、『燃えよ剣』(2021/監督:原田眞人)、『鳩の撃退法』(2021/監督:タカハタ秀太)、『そばかす』(2022/監督:玉田真也)、『ロストケア』(2023/監督:前田哲)、『銀河鉄道の父』(2023/監督:成島出)、『水は海に向かって流れる』(2023/監督:前田哲)、『逃げきれた夢』(2023/監督:二ノ宮隆太郎)、『春に散る』(2023/監督:瀬々敬久)など。

テレビドラマでは本作のほかに、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(2021)、『だが、情熱はある』(2023)などに出演。

プレミアムドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の作品情報


(C)NHK

【放送】
5月14日(日)スタート<全10話>
毎週日曜・夜10時00分〜10時50分(NHK BSプレミアム・BS4K)

【原作】
岸田奈美

【脚本・演出】
大九明子

【脚本】
市之瀬浩子、鈴木史子

【音楽】
髙野正樹

【キャスト】
河合優実、坂井真紀、吉田葵、錦戸亮、美保純 ほか

【制作統括】
坂部康二(NHKエンタープライズ)、伊藤太一(AOI Pro.)、訓覇圭(NHK)

【作品概要】
作家・岸田奈美が自身の家族について綴った自伝的エッセーを原作に、困難が次々と訪れる中で「家族」というものに真剣に向き合い続けた、ある一家の物語を描いた“家族”ドラマ。

主人公・岸本七実役は、映画界で数々の賞に輝き、本作が連続ドラマ初主演作となった河合優実。また主人公を見守る母・ひとみ役を坂井真紀、父・耕助役を錦戸亮がそれぞれ演じるほか、ダウン症の弟・草太役をオーディションを経て本役を勝ち取った新人・吉田葵が、祖母・芳子役を美保純が務めた。

《プレミアムドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の詳細ページはコチラ→》

ライター:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介





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