誰しもが2014年のハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」を観た際に、「怪獣映画」というジャンルも、ハリウッドに持って行かれたと嘆いたことでしょう。
しかし、庵野秀明監督が、初代ゴジラに並ぶ、あるいは超えた、新解釈のゴジラを蘇らせて作り上げた「怪獣映画」。
それが、『シン・ゴジラ』。社会現象とも呼べる怪獣映画『シン・ゴジラ』をご紹介します!
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映画『シン・ゴジラ』の作品情報
【公開】
2016年(日本映画)
【脚本・総監督・編集】
庵野秀明
【監督・特技監督】
樋口真嗣
【キャスト】
長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、柄本明、余貴美子、市川実日子、國村隼、平泉成、松尾諭、渡辺哲、中村育二、矢島健一、津田寛治、塚本晋也、高橋一生、光石研、古田新太、松尾スズキ、鶴見辰吾、ピエール瀧、片桐はいり、小出恵介、斎藤工、前田敦子、浜田晃、手塚とおる、野間口徹、黒田大輔、吉田ウーロン太、橋本じゅん、小林隆、諏訪太朗、藤木孝、嶋田久作、神尾佑、三浦貴大、モロ師岡、犬童一心、原一男、緒方明、KREVA、石垣佑磨、森廉、岡本喜八(カメオ出演)、野村萬斎(ゴジラ所作)
【作品概要】
2004年に公開された、『ゴジラ FINAL WARS』以来、東宝が12年ぶりに製作した日本版のゴジラ。
総監督・脚本は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の庵野秀明、監督は「平成版ガメラシリーズ」(特技監督)『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の樋口真嗣、准監督は『のぼうの城』『進撃の巨人』(特撮監督)の尾上克郎。
映画『シン・ゴジラ』のあらすじとネタバレ
(C)2016 TOHO CO.,LTD.
東京湾内で漂流する1隻のクルーザー。船内を沿岸警備隊が調査をするが人影はありません。
そこに残されていたのは、牧悟郎の揃えれた靴と折り鶴。そして「春と修羅」の本、そして、ダイニングメッセージには、「わたしは好きした、君たちも好きにしろ」とあるのみでした…。
突如、湾内で海水爆発が起きる。東京湾アクアラインのトンネルが崩落して、人的な被害を引き起こしかねない事態。
爆発した海面からは巨大な生物らしき尻尾が伸びて動き始めが、政府は慌てることもなく、マニュアル通りの傍観者的な対応を繰り返します。
内閣官房副長官の矢口蘭堂は、一般人の発信する動画やツイートから大惨事になる危険性を周囲に示唆しますが、誰にも受け止めてもらえず、政府の関係者は臨時会議を無策にこなすばかりでした。
これまでに見たこともない出来事に、専門家を招集してアドバイスを求めますが、大学教授たちは、尻尾のみでは何も言えないと、頼りになりません。
やがて、巨大生物は進行を始めると東京上陸、その姿は、これまでに見たこともない巨大な深海魚や、トカゲを連想させるおぞまし姿。
矢口の心配の事は的中。その生物は、見る見るうちに街を破壊しながら侵攻してきます。
しかし、街中で突然動きを止めた生物は、身体を起こし立ち上がると、今度は、小さな腕が生やしてメタモルフォーゼをはじめます。
矢口は、「巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)」設置します。
事態を監視する矢口の元に、情報を聞きつけたアメリカ人のカヨコ・アン・パタースンが訪日。
カヨコは、ゴジラ出現の謎について重要な鍵を握っている人物の牧悟郎を探して欲しいと、矢口に申し出ます。
しかし、矢口は、牧悟郎の姿を見つけることは出来ませんでした。だが、彼の残した資料を発見するのみ。その資料に、「GODZILLA」と書いてありました。
カヨコも、かつてゴジラ研究を行なっていたようで、ゴジラは神の化身として崇められている存在で、それが謎の生物の正体だと推測されますが、ゴジラの問題を解決するには至りません。
矢口は、各分野のスペシャリストを集めて、ゴジラに対処するための特別対策作本部を設立。ゴジラの解明に全力を尽くします。
ある日、ゴジラは再び上陸。しかし、その姿は、以前よりも2倍ほど巨大に進化を遂げていました。
自衛隊による武力行使でゴジラ退治に向かい、ヘリコプターや戦車のゴジラ攻撃を開始。
しかし、何1つ、ゴジラに打撃を与えることはできませんでした。
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映画『シン・ゴジラ』の感想と評価
(C)2016 TOHO CO.,LTD.
この作品の注目点は、何と言っても、“ゴジラ”そのものをどのように解釈するかではないでしょうか。
それには牧悟郎役でカメオ出演をした岡本喜八(監督)に注目しなけれいけませんね。
1:牧悟郎役の岡本喜八は何者か?
1924年に鳥取県米子市で生まれた岡本喜八(本名岡本喜八郎)は、1941年に上京、明治大学入学すると西部劇など洋画に熱中。1943年には、東宝に入社します。
しかし、すぐに戦時徴用され、終戦は豊橋陸軍予備士官学校で迎え、その豊橋滞在時に多くの友人たちの死を見た岡本喜八は、戦争に強い憤りを抱くようになります。
1959年に、出世作となった『独立愚連隊』では、戦争映画を西部劇のパロディ仕立ての活劇にすることで、これまでの日本映画にはないドライな雰囲気を見せます。
岡本監督ならではの細かいショットを積み重ねたアクションつなぎの編集は、快いテンポの演出を生み出し、アクション・コメディの人気監督となります。
しかし、本場アメリカの西部劇を取り入れた岡本監督の意図は、戦争体験者として、悲惨な出来事を見てきた者としての無念さと、屈折した心情にあります。
「戦争は悲劇だった、しかも喜劇でもあった だから喜劇に仕立て、バカバカシサを笑い飛ばす事に意義を感じた」と、自著の中で述べています。
また、1967年には、東宝の大作映画『日本のいちばん長い日』の監督を果たし大ヒット。戦争指導者の緊迫1日を描きます。
しかし、岡本監督は、『日本のいちばん長い日』の中で、戦争で庶民が死んだことを描かなかった自分自身を許せずに、その翌年68年に、自主映画作品『肉弾』を完成させます。
『肉弾』に向かう岡本監督は、「岡本喜八そのもの」と手記に残し、学徒兵と少女の切ない恋や、孤独な終戦と死を岡本喜八の分身として描いています。
そんな、岡本喜八監督の大ファンなのが庵野秀明監督です。
庵野作品『新世紀エヴァンゲリオン』や『トップをねらえ』の中で、岡本作品の引用やオマージュがされています。
では、『シン・ゴジラ』の中でどこにそのような点が見られるのでしょうか。
2:『シン・ゴジラ』に描かれた岡本喜八へのリスペクトとは?
『肉弾』と『日本のいちばん長い日』から特徴的な2点をあげたいと思います。
『シン・ゴジラ』の冒頭シーンに登場する、東京湾に浮かぶ一隻のモーターボートは、『肉弾』のラストシーンからの引用です。
『シン・ゴジラ』の妻を死に追い込んだ戦争を恨む牧悟郎博士と、『肉弾』の初恋の少女を原爆で亡くした主人公「あいつ」の心情の類似です。
それが洋上で浮かぶモーターボートと人間魚雷をメタファーとしてダブルイメージにしています。
また、『シン・ゴジラ』の中で繰り返し行われる政治家や官僚たちの会議シーンは、『日本のいちばん長い日』の編集にリスペクトしたものです。
同様に政治家や要人たちが会議を展開せるシーンとして、庵野監督は引用しています。
岡本監督は、撮影スタイルは技巧派で、クランク・インの前に全てのカット割りを秒単位で決めて撮影に挑んだと言われ、カット編集を積み重ねた映像のリズムと、テンポの良さは日本映画界屈指の第一人者。
その後継者が庵野秀明監督といっても良いのではないでしょうか。庵野監督は、実写撮影前にCGアニメを使用して、現場スタッフにイメージの共有を図ったそうです。
『日本のいちばん長い日』には、もう1つ、重要な点が、『シン・ゴジラ』のゴジラ自身に強い影響を与えています。
3:ゴジラのメタファー(比喩)は、福島第二原子力発電所だけではない?
『シン・ゴジラ』に登場する凍結作戦は、実際に福島第二原発の様子を描いているのは誰もが気が付くところです。
原発は核融合させて発電をしますが、核融合をしている大きな存在は、太陽です。
太陽をデザイン化したものは国旗「日の丸」であり、また、日本そのものの象徴。
そのゴジラはどんな象徴でもあるのでしょう。『シン・ゴジラ』の中では、天皇の姿は一切描かれていません。
このことは、岡本監督版の『日本のいちばん長い日』でも同様に、天皇の姿(顔)は一切描かれていません。
これは、あえて見せないことで象徴的に存在をさせています。
つまり、ズバリ、神であるゴジラは“天皇”というメタファーでもあるのではないでしょうか。
今、凍結されているのは、福島第二原発だけではなく、天皇という存在でもある。
その凍結は、新たな戦争が起きれば「天皇」という神を解凍をさせられるという暗示ではないでしょうか。
『シン・ゴジラ』は、岡本喜八監督をカメオ出演させたことで、庵野秀明監督らしい、二重三重のイメージが露光された作品となっています。
ちなみに、ゴジラは東京のどこに向かってるかは、もうわかりますよね?
まとめ
(C)2016 TOHO CO.,LTD.
庵野秀明監督の岡本喜八監督へのリスペクトの強さや、メタファーのアイデアは、ご理解していただけたと思います。
実は、物語の中で、牧悟郎の意思を継いだ形で描かれている人物がもいます。間邦夫准教授役を演じた塚本晋也です。
牧悟郎の残した謎を解明したのが間邦夫です。脚本段階では、謎を解いた台詞は他の俳優が言う設定でしたが、後に塚本晋也監督が発見したことを言うように変更されたそうです。
ここにも意図があります。岡本喜八監督は、自主制作映画『肉弾』を制作しましたが、塚本晋也は、自主制作映画『野火』を完成させた監督です。
どちらも、戦争に対して強いメッセージ性のある作品がここでも繋がっているのです。
塚本晋也に出演のオファーを直接伝えたのは樋口真嗣監督。『シン・ゴジラ』には、このような仕掛けがたくさんあるのも見どころなのです。
また、牧悟郎のダイニングメッセージ「わたしは好きにした、君たちも好きにしろ」は、岡本喜八監督が実際に口にした言葉です。
岡本喜八監督の『なぜか近頃チャールストン』などで助監督を務めた利重剛監督は、実際にこの言葉を言われていたそうです。
もしかすると、生前の岡本喜八監督に庵野監督も言われていたのかもしれませんね。
2016年、怪獣映画世代のみならず、新たな世代に大きな感動を与えてくれたのが、庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』。
多くの方が楽しんでもらえる映画、ぜひ、ご覧いただきたい映画です!
まだまだ映画館でも公開中!ぜひ、お見逃しなく!