Netflixドラマ『地獄が呼んでいる』を各話完全紹介
『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)とその前日譚の長編アニメ映画、『ソウル・ステーション パンデミック』(2016)を公開し、韓国を代表するホラー映画作家となったヨン・サンホ。
『新感染』シリーズ待望の続編『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)も大ヒットを記録します。
その彼が手掛けるNetflixオリジナルドラマ、『地獄が呼んでいる』が2021年11月19日(金)より、全世界に配信されました。
第2話は死との宣告を受けたジョンジャに、地獄に行く姿を生中継したと持ち掛けた宗教団体・新真理会。相談されたミン弁護士は困惑しますが、結局ジョンジャは残される子供のために、報酬目当てに承諾します。
新真理会の議長ジンスは、神の裁きを世に知らしめようと”試演”を自演します。それはギョンフン刑事の妻の殺害犯を、生きたまま焼き殺す事でした。それに加担するギョンフンの娘、ヒジュン。
神の騒ぎが実現したと信じた新真理会の狂信者、通称”矢じり”たちは様々な暴挙に走ります。ギョンフンとミンは、かろうじて”矢じり”の追及を逃れてジョンジャの子供たちを、国外に脱出させることに成功します。
ついにジョンジャが地獄に行くと予言された時刻が訪れます。多くの人が固唾を飲み見守る中、一体何が起きるのでしょうか?
【連載コラム】「ある日、地獄行きを告げられた」Netflixドラマ『地獄が呼んでいる』を完全紹介の記事一覧はこちら
CONTENTS
ドラマ『地獄が呼んでいる』の作品情報
【配信】
2021年(韓国ドラマ)
【原題】
지옥 / Hellbound(英題)
【監督・脚本】
ヨン・サンホ
【キャスト】
ユ・アイン、キム・ヒョンジュ、パク・ジョンミン、ウォン・ジナ、ヤン・イクチュン、キム・ドユン、キム・シンロク、リュ・ギョンス、イ・レ
【作品概要】
「新感染」シリーズのヨン・サンホが手掛ける、世界に向け配信された全6話のホラードラマ。この作品は彼が2003年に発表した短編アニメーション映画を発展させた作品です。
彼はドラマ配信に併せ、1980年代の韓国民主化闘争を描いたグラフィック・ノベル『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』を描いたチェ・ギュソクと共作で、この作品の原作となるコミック『地獄』も発表しました。
主演の謎めいた人物に、ドラマ『トキメキ成均館スキャンダル』(2010~)や『チャン・オクチョン-張禧嬪-』(2013~)で人気を高め、映画『バーニング 劇場版』(2018)や『#生きている』(2020)に出演のユ・アイン。
彼を追う刑事役を『あゝ、荒野 完全版』(2017)のヤン・イクチュンが、その娘役を『新感染半島 ファイナル・ステージ』の演技が絶賛されたイ・レが演じました。
ドラマ『愛人がいます』(2015~)や『ウォッチャー 不正捜査官たちの真実』(2019~)のキム・ヒョンジュ、『それだけが、僕の世界』(2018)や『サバハ』(2019)、『スタートアップ!』(2019)のパク・ジョンミン、『英雄都市』(2019)のウォン・ジナらが共演しています。
ドラマ『地獄が呼んでいる』第3話のあらすじとネタバレ
パク・ジョンジャ(キム・シンロク)の”試演”の時が迫ります。サイレンが鳴り放送が流れます。
「パク・ジョンジャは4日前に”告知”を受けた、”試演”とは罪人が地獄で受ける永遠の苦痛を、皆に示す神の介入です。罪の重さを人類に知らしめる、神の意図です…」
カウントダウンが開始され、集まった人々もテレビの前の人々も、固唾を飲んで見守ります。
予言された時刻が訪れました。何事も起きないのかと思われた瞬間、轟音が響きました。
ジョンジャの前の扉が打ち壊されます。集まった群衆もミン・ヘジン弁護士(キム・ヒョンジュ)も、現れた黒い巨体の怪物を目撃します。
怪物はジョンジャを殴り飛ばしその首を掴み持ち上げ、体を壁に押し付けます。腕を鋭い尖端を持つ形に変型させると、ジョンジャの右手首に突き刺し壁に固定した怪物。
突然の出来事にSWAT隊員たちは射撃出来ず、集まったカメラマンたちは一斉に写真を撮り始めます。捜査班長の射撃命令を聞くと、狂喜するウンピョ刑事を残して怪物に向かい、拳銃を発砲するギョンフン刑事(ヤン・イクチュン)。
銃弾は命中しても効果は無く、ギョンフンは怪物に殴り倒されました。助けを求めはって逃げるジョンジャの前に現れた3匹の怪物は、彼女の体を凄まじい力で殴打します。
その光景は見るに耐えないものでした。3匹の怪物がジョンジャに手をかざすと、まぶしい光が放たれます。”試演”を終えると、最前列で見守るVIP客の方へ走り出す怪物たち。
怪物は彼らに衝突すること無く異界へ姿を消しました。周囲が静まった時には、無残に焼け焦げたジョンジャの遺骸だけが残されていました。
ギョンフンは意識を失ったままです。信じられぬ出来事に遭遇した人々はうろたえますが、ウンピョ刑事は正座すると、遺骸に向かって深々と拝礼します。
それを見たVIP客も、野次馬たちも警察・マスコミ関係者も、同じように土下座します。周囲の人々が皆土下座する光景を、立ち尽くして見つめるミン弁護士と同僚のパク弁護士…。
目覚めたギョンフンは病院にいました。周囲に誰もおらず、病院を抜け出した彼は自宅に戻ります。娘と連絡が取れぬままベットに横たわるギョンフン。
翌朝、ソウル市内は静まりかえっていました。ギョンフンは車を走らせソブク警察署に向かいますが、そこも人の気配がありません。
テレビは昨日、多くの人が信じられぬ光景を見たと報じています。いまや韓国一の重要人物になった者のメッセージを、皆が待っているだろうと伝えます。
その人物は火災現場から母子を救出し、大通りで人質を取り刃物を振り回す男を大人しくしさせた人物として、既に報道されていたと語るアナウンサー。
現在起きた事態を10年前から警告していたその人物。彼は新真理会議長、チョン・ジンス(ユ・アイン)と紹介します。テレビは自宅の彼とのインタビューを流し始めます。
昨日”試演”を目撃した人々が、神のメッセージを考えるには時間が必要だと話すジンス。しかし悪行を恐れ、何もしないのは解決にならぬと語りかけました。
ジンスが通常の生活に戻り善行に励むべきと話す声を聞きつつ、キム・チャンシク殺害事件の捜査資料の映像を確認するギョンフン刑事。
それは焼死体で発見された、ギョンフンの妻を殺したキムの体を運ぶ人物の映像です。顔は確認できませんが、その人物が着ている服の特徴に気付いたギョンフン。
アナウンサーに最初の”試演”で死んだチュ・ミョンフンと、昨日”試演”されたパク・ジョンジャの罪は何かと問われ、民間の我々の調査力には限界があると語るジンス。
特にジョンジャの罪の証人、つまり彼女の子供たちは海外に逃亡したと説明します。逃亡を助けた警官と弁護士は確認済と語ったジンスは、全ての市民、そして警察と検察と政府には、慣行にとらわれず積極的に動いて欲しいと訴えます。
なぜ今、”試演”が行われたのかとの問いに、神が人間の歴史に介入しメッセージを送る事は過去にもあった、今起きたでは無く、なぜ今まで注視しなかったと考えるべきだ、と話すジンス。
今日やっとインタビューが行われたのは、今まで皆が神の意図を無視していた証拠だ。だから神は明確な形で我々に意図を示した、彼はそう訴えます。
ギョンフンはテレビに映るジンスの自宅にある服が、防犯カメラ映像の人物の服の特徴と同じと気付きます。それは彼の娘ヒジョン(イ・レ)の着るジャージに似ていました。
アナウンサーがジンスの正義感を持って生きろとの言葉は、当然であり抽象的だと疑問を口にすると、強い口調でその当然の行為が史上一度も成されない、それが神の不満だと叫ぶジンス。
少し興奮したと詫びると、ジンスは新真理会は過去に調査した132件の”告知”と”試演”を元に、地獄に送られた者の罪を分析したと説明します。
その資料はホームページで確認できる。神が我々に何を望み、何を禁じたかが判るとジンスは言います。これは新時代の聖書になると語るアナウンサー。
しかし人間には善悪の判断は難しいと言葉を続け、強い口調で人間は何が正しいのか判るのだ、神はその能力を与えたと叫ぶジンス。
しかし善悪を選ぶ瞬間、人は悪の誘惑に勝てない。選択とは罰に過ぎない。私たちにもはや悪行を放置する権利は無く、善行を成す義務が残った。それが新時代の人間の成すべきことだとジンスは語りました。
最後にまたインタビューしたいと告げたアナウンサーに、自分は神の意図を伝える義務を果たした、今後は神に呼ばれるまで、その御業の痕跡を探すと語るジンス。
新しい世界に来た皆さん、歓迎します。ジンスは最後に視聴者にそう呼びかけました。
放送に反応して、配信番組で人間は神に愛されていると喜ぶ奇妙な扮装の男、”骸骨野郎”。しかし彼は、ジンスに対しやりきったと満足してる場合か、と問いかけます。
怒りが我々を駆り立てる。”試演”を見て神に従った人間もすぐ忘れる。有識者が意見を口にすれば世界は一瞬で過去に戻るのだ。
昨日の”試演”の後に皆がひれ伏す中、立っていた者がいるとミン弁護士とパク弁護士の姿を映す”骸骨野郎”。彼らの弁護士事務所は我々の邪魔をしてきたと主張します。
そして怪物、予言の実行者に発砲するギョンフン刑事の姿を示し、こんな人間がいる限り我々は休めない、我々はもっと苦労すべきと呼びかける”骸骨野郎”。
ミン弁護士はカナダ行きの航空券を手配し、ガンと闘病中の母と共に逃げようと慌ただしく準備しています。この家で死にたかった、とつぶやく母に私に従ってと訴えたミン。
荷物をまとめるミンは、昨日”試演”の直前に受け取った、キム・ジョンチルなる人物から送られた封書に気付きます。開封すると中には「未来宗教」と書かれた冊子が入っていました。
ギョンフンはジンスの家に向かいます。家の前には彼の言葉を求める信者たちが集まっています。彼らはギョンフンが、昨日予言の実行者に発砲した刑事と気付きます。
未来宗教の資料の付箋が貼られた箇所に、「天使の声を聞いたチョンさん」の体験談が乗っています。写真に写る男はチョン・ジンス議長でした。
資料の日付は2004年10月です。この冊子を発行した人物こそ、封書を送ったキム・ジョンチル牧師と知ったミン。
なぜ現れたと言い寄る信者たちをかき分け、ジンスの元に向かうギョンフン。同じ頃、母と共に車で弁護士事務所に向かうミンは、パク弁護士に電話しますがつながりません。
ミンは駐車場に止めた車に母を残し電話をかけます。電話に出たパクに未来宗教の資料から得た情報、ジンスは20年前に予言を受けていたと告げるミン。
彼女が弁護士事務所に入ると誰もいません。そこは新真理会の信者、”矢じり”たちの襲撃を受け荒らされていました。
壁には「神に逆らう者は死ぬ」など落書きが書かれていました。ミンに対しもう止めよう、と告げるパク弁護士。
パクは襲撃を受け、血を流し倒れていました。俺は怖い、お前は早く逃げろと告げたパク。彼の傍には”矢じり”のマークが描いてありました。
ミンの母が残った車を”矢じり”たちが襲います。ミンの母を引きずりだすと、凶器で殴打する”矢じり”たち。駆け付けたミンにも暴行を加えます。
“矢じり”たちは去っていきました。ミンは母に近寄りますが、頭部を殴られた母の意識はありません。
ギョンフンはジンスの家に押し入りますが、中にはジンスもヒジョンもいません。そしてミンは母と共に救急病院に到着していました。
待合室のミンは、皆が自分を見てささやいていると気付きます。ネットでは自分の名が検索1位になっており、先ほど受けた暴行の動画までネット上にアップされています。
治療室に入って母の死を確認するミン。彼女は固い表情で病院から出て行きました…。
ドラマ『地獄が呼んでいる』第3話の感想と評価
第3話。”試演”を目の当たりにした人々は恐怖し、神にひれ伏します。狂信者は自分の正しさを確信し、傍若無人に振る舞い始めます。
人々が地獄を恐れ、罪を犯さぬ新世界が到来するのか。悪人が超自然的な裁きを恐れることで、凶悪犯罪が減った社会が到来する。将に『デスノート』(2006)で新世界の神として、主人公の夜神月が築こうとした、犯罪の無い世界が生まれるのでしょうか。
しかしドラマは、実は神の裁きはまやかしかもしれない、この現象を利用してチョン・ジンスが作った虚像だと示します。次のエピソードでどんな”新世界”の姿が描かれるのでしょうか。
罪が人知を越えた力、ノートに名を記す者によって裁かれた『デスノート』、しかしその物語は到来した新世界の姿より、ノートのルールを巡る頭脳戦として展開します。
ジェームズ・ワンの人気シリーズ『ソウSaw』(2004)シリーズも、殺人鬼ジグソウには命を軽んじる者に、その価値を命を懸けたゲームで学ばせる狙いがありました。
そんな設定を脇に置き、「ピタゴラスイッチ」的殺人マシーンの描写や、時系列を駆使して凝りに凝ったストーリーを提供し観客を喜ばせた『ソウSaw』シリーズ。
これらの作品を非難してはいません。物語に与えた設定やルールを駆使し、観客を驚嘆させる展開を目指すのは想像力とサービス精神の発揮で、それを成し遂げたジャンル映画やドラマは人気シリーズに成長します。
その結果、当初観客に示したフィクションならでの問い、もしそれが起きたら(そんな状況に遭遇したら)どうする、という思考実験の要素が薄れるのは確かです。
しかし『地獄が呼んでいる』は、罪に天罰が下る社会が現れればどうなるのか、その社会はどう実現するのか、そんな社会はいかなる状況を生むのか、そしてその社会はどう運営されるのかを正面から追及します。
そして、そもそもその社会を生んだ奇跡は信じて良いものか。それは偽りや集団幻想の類いに過ぎない可能性は無いのか。本作が観客に問う思考実験は、社会の様々な現実に応用できるものと誰もが気付くでしょう。
ホラー作家にして社会派映像作家、ヨン・サンホ監督。世界中の人々が思いを巡らせる、壮大なテーマを持つドラマに挑みました。
暴力がもたらす残酷な死が意味するもの
地獄に堕ちるなら、そこで充分に酷い目に遭うはず。ところが怪物=予言の実行者は、堕とす前に凄まじい暴力を振るいます。”試演”されたジョンジャは逃れようともがき、ジンスは苦痛を終わらせろと叫びます。
韓国映画、そしてヨン・サンホ作品のバイオレンス描写は過激。しかしキリスト教の価値観がストーリーに大きく関わる本作は、暴力描写にも様々な意味があると考えるべきでしょう。
荒野で苦行し、十字架に磔にされ、神の子として復活したイエスを信仰するキリスト教。正統派の教義は苦行を重視しませんが、自らの体に苦行を与えること意義を見い出す宗派もあります。
そこまで過激な教えを信仰せずとも、十字架にかけられたイエス像に礼拝するキリスト教徒。彼らにとり暴力と、その結果もたらされた死から復活の物語は、実に大きな意味を持っています。
今回のエピソードで冒頭に”試演”されたジョンジャ。彼女は手首を刺され壁にうちつけらます。これは磔にされたイエスと同じ目にあった、と解釈することができます。
イエスが釘を打たれたのは手のひら、と思った方もいるでしょう。しそれは医学的に無理との考証が広まると、その場所は手首だと考えられるようになりました。
キリスト教信者などの体に、イエスが磔刑にされた際に傷付けられた箇所に傷が現れる「聖痕現象」。これは『スティグマータ 聖痕』(1999)など、ホラー映画などに度々登場しています。
ドラマの中で罪を語らぬまま、罪人として”試演”されたジョンジャ。正確に磔にされた訳では無く深読みかもしれませんが、彼女の死にはイエスの姿が重ねられているのでしょう。
黒澤明の映画『用心棒』(1961)で主人公の三船敏郎は、敵の手に捕らえられ激しく拷問された後に、最後の戦いに挑み敵を倒します。
このシチュエーションはマカロニ・ウェスタン『荒野の用心棒』(1964)でも再現され、その後欧米のアクション映画に繰り返し登場します。
ヒーローが拷問され、疑似的な死から復活し、救世主として悪を倒す。この姿がイエスと重なり好んで採用されたと言われています。
予言の実行者の激しい暴力に晒された罪人は、本当に死んだのでしょうか。特にシングルマザーであるジョンジャの”試演”には、様々な神性が与えられていると思われます。
そして”試演”ではありませんが、”やじり”たちの暴力に晒され倒れたミン弁護士も、本当に死んだのでしょうか…。
重大な選択を強いるトリックスター、チョン・ジンス
物語の外にいる我々観客は、”試演”という神の裁きは偽りだと知っています。そして”試演”が人の罪の結果であるなら、その罪とは何なのかは明確ではありません。
ドラマの中の世界では、人々はジンス議長の描いた筋書きを信じ、神の意図だと”試演”を受け入れます。悩み抜いた末に悪魔的策略家となったジンスの計略で、新たな世界が誕生したのです。
ジンスの企みは人の”自律”を口にした、ギョンフン刑事に狙いを定めます。自らの手を汚すか否か、それは正しい判断なのか、と究極の2択を迫られたギョンフン。
キリスト教の説く7つの大罪を題材にした映画『セブン』(1995)は、ラストで主人公のブラット・ピットに究極の選択を迫ります。これと同様の状況をヨン・サンホ監督は描きました。
主人公を翻弄する悪魔的な犯罪者は、映画に度々登場する魅力的なキャラクターです。その中の1人に『ダークナイト』(2008)でヒース・レジャーが演じた、あのジョーカーがいます。
劇中でバットマンに恋人レイチェルか、地方検事ハービー・デント(後のトゥーフェイス)のどちらを救うのか、と迫るジョーカー。
ジョーカーはラストではゴッサムシティの市民たちに、善良な市民と囚人たちのどちらを救うべきか、その命をもて遊び愚弄しつつ、残酷な選択を強要します。
究極の選択をゲーム感覚で迫る、悪魔的トリックスターの姿こそ、ヒース・レジャー版ジョーカーの魅力です。ホアキン・フェニックスが『ジョーカー』(2019)で演じた、社会への不満を爆発させるジョーカー像と異なっていた事実を思い出して下さい。
ユ・アインが演じたジンス議長は、ヒース・レジャー版ジョーカーと並べるべき、屈折した思いを抱くキャラクターです。
そう考えると彼は、歪んで危険な思想であっても理想の”新世界”を築こうとした『デスノート』の主人公・夜神月と異なり、善意から正義が果たされる”新たな世界”を築こうとしたとは考えられません。
後の世を権力欲にまみれた、ジョンチル牧師に託すジンス。さあ、お前たちはどんな世界を作るのだ、と彼が人類に対して仕掛けた、壮大なゲームの行方を見守るしかありません。
まとめ
怒涛の展開の『地獄が呼んでいる』第3話、この後世界はどのように変わったでしょうか。
我々観客には、”試演”が必ずしも神の企てと言えぬと明かされます。”試演”で地獄に送られた者がどんな罪を犯したのか、そもそも罪人であったのかすら判らなくなりました。
しかし人が共通して抱く信仰心、それは共通の幻想と呼ぶべきかもしれません。間違っていようが、共通の幻想を共有できる集団の恐ろしさは、世界のあらゆる人々が実感しているものです。
そんな危険な集団が自分たちは正しさを確信し、多数を占めた場合は。その集団に不安を覚えながらも迎合する者が増える状況とは。この状況を利用し権力を得ようとする者が現れれば。果たしてどんな世界が誕生するのでしょう。
ホラーを通じ社会問題を取り上げ、思考実験を巡らした果てに創作するヨン・サンホ監督。そして彼は複雑なキャラクター、チョン・ジンスを描いたことで、『ダークナイト』に登場した、ヒース・レジャー版ジョーカーの魅力を思い出させてくれました。
もし身近に社会に不満を抱き、ジョーカーの姿で現れた人物に気付いた場合、映画ファンなら「ほかの作品のジョーカーも見てね!」、と教えてあげてはいかがでしょうか。
Netflixオリジナルドラマ『地獄がよんでいる』は2021年11月19日(金)より配信開始
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増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)