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Entry 2023/05/24
Update

『いずれあなたが知る話』あらすじ感想と評価考察。映画冒頭からネタバレ寸前の脅威満載で‟真の幸福”を問う|映画という星空を知るひとよ156

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第156回

映画『一礼して、キス』(2017)のほか、ピンク映画や自主映画も手がける古澤健監督が、日常に潜む孤独と愛情を描いたノワールサスペンス『いずれあなたが知る話』

主演は大山大と『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020)の小原徳子。本作は家族の絆と犠牲、そして過去の傷とその結末について探求しています。

アパートの隣人のストーカー行為によって明らかになってゆく、とあるシングルマザーの母娘の秘密。シングルマザーと隣人の男の運命が交差し、驚きの結末が待ち受けています。

秘密と過去の謎に包まれた登場人物たちの心の闘いも描き出す映画『いずれあなたが知る話』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『いずれあなたが知る話』の作品情報


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督】
古澤健

【脚本】
小原徳子

【プロデューサー】
大山大

【撮影】
高田祐真

【キャスト】
大山大、小原徳子、一華、大河内健太郎、蓮池桂子、穂泉尚子、蓮田キト、伴優香、はぎの一、オノユリ、小川紘司、久場寿幸、奥江月香、中村成志

【作品概要】
テレビドラマ『鉄オタ道子、2万キロ』(2022)や映画『一礼して、キス』(2017)『走れ!T校バスケット部』(2018)のほか、ピンク映画や自主映画も手がける古澤健監督が、日常に潜む孤独と愛情を描いたノワールサスペンス。

主演はテレビドラマなどにも多く出演する大山大と、『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020)などで活躍する小原徳子。本作は小原が自ら構想して書き上げたオリジナル脚本作品で、大山がプロデューサーを務めました。

映画『いずれあなたが知る話』のあらすじ


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

ある古びたアパートに、ひとり娘の綾を育てているシングルマザーの靖子がいました。隣の部屋には、自称カメラマンの、しかし実は無職の働く意欲を失くした男が住んでいます。

靖子は弁当屋で働いていましたが、その稼ぎだけではやっていくことができません。生活のため、風俗でも働き始めます。一方、隣人の男は靖子が気になり、ストーカーのようにつけまわして写真を撮りだします。

仕事から疲れて帰って来る靖子は、つい娘の綾にも冷たく当たるようになりました。そんなある日、綾が誘拐されてしまいます。

愛娘のことを心配した靖子は綾を探しに行き、ついにその居場所を突き止めました。しかし靖子は、綾を取り戻そうとはしませんでした。

その日から、靖子は秘密のある行動を始めます。誰にも知られていないはずのその行動を、隣人の男はじっと見つめていました……。

映画『いずれあなたが知る話』の感想と評価


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

物語は、シングルマザーの靖子と娘の隣の部屋に住む男の平凡な日常を脅かすような行為から始まりました。

隣人の男はアパートの隣に住む母娘に興味を持ち、彼女たちを写真に撮り始めます。働く意欲も失くした男の歪んだ興味の対象となった母娘。どんな結末を迎えるのかと、最初からハラハラします。

隣人の男は隣の母娘に、自分の理想とする家族の姿を重ねているようでした。それは、自分では手に入れることのできなかったもの。ないものねだりではありませんが、どうしても欲しくてたまらなくなったものではないでしょうか。

窓ガラス越しに母娘をのぞき見する羨望の眼寂しい人が持つ心の闇を映し出しているようです

また母娘の方にも、ある出来事が起こりました。母・靖子は風俗で働き出し、幼い娘の綾の存在が少し重くのしかかってきます。寂しくなった綾が誘拐され、その犯人宅で大事にされて楽しそうに過ごしている様子を見てしまった靖子。娘を取り戻そうとせずに、窓ガラス越しに綾の様子を見て、満足そうに微笑みます

娘が幸せなら自分も幸福……あるいは、娘がいなくなった分、自分は自由を取り戻したから幸せと感じたとも言えます。観る人によって解釈も違ってくるでしょうが、キャストの大山大と小原徳子が演じる、部屋を覗く隣人の男と靖子の細やかな心情をあらわす演技に注目です。

実はこの作品は、「誘拐された我が子を迎えに行かず見守ってるのってどう思う?」という一言から生まれたそうです。

靖子が娘の綾に見せる愛情たっぷりの表情や仕草は本心ですが、幸せそうな我が子の様子を見守るというのも一つの愛情表現かもしれません。

まとめ


(C)いずれあなたが知る話/Cinemago

キャストの小原徳子が自ら構想して書き上げたオリジナル脚本の作品で、大山大がプロデューサーを務めた『いずれあなたが知る話』。ピンク映画や自主映画も手がける古澤健監督が取りまとめました。

愛娘の愛し方を問う一方、隣人の男の生き方も問題視しています。靖子が気になる隣人の男は、向き合うことができなかった自分の母や弟への劣等感や屈辱感を再び思い出し、彼の精神を歪めていきました。

幸せそうな人が実はそうでなかったり、その反対のこともあったり、また優しく育てられても劣等感を抱いていたりと、見ただけではわからない複雑な人間感情が、人生のさまざまな局面にあることに気付かされます。

果たして、自分の幸せって何でしょう。本作は、平凡な日常生活の中で自分の幸せを見つめ直す機会を与えてくれているのです

映画『いずれあなたが知る話』は2023年5月に下北沢トリウッドで封切り後、9月2日(土)より大阪シアターセブンにて拡大公開!

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。





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