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Entry 2020/09/16
Update

映画『窮鼠はチーズの夢を見る』ネタバレ解説と結末の内容考察。コミック実写版で描いた大倉忠義×成田凌共演の“男性同士の恋愛”

  • Writer :
  • もりのちこ

追い詰められて行き場を失ったネズミ君。
さぁ、本気の恋をしよう。

セクシャリティを超え、恋愛の喜びと切なさを描き出した、水城せとなの人気漫画『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』を、行定勲監督が実写映画化。

優柔不断で受け身体質の主人公・大伴恭一を演じるのは、関ジャニ∞の大倉忠義。そして、そんな恭一にずっと思いを寄せる今ヶ瀬渉役を、成田凌が演じます。

好きになるのに理由も性別もない。ずっと繋がっていたい。そう思える唯一無二の存在に気付いた時、本当の恋愛が始まるのかもしれません。

恭一と今ヶ瀬の恋の行方はいかに。映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を紹介します。

映画『窮鼠はチーズの夢を見る』の作品情報


(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【原作】
水城せとな

【監督】
行定勲

【キャスト】
大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子

【作品概要】
水城せとなの人気漫画『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』を、関ジャニ∞の大倉忠義と成田凌の共演で実写映画化。

監督は、『GO』(2001)『世界の中心で、愛を叫ぶ』(2004)『ナタラージュ』(2017)の行定勲監督。これまで多くの男女の恋愛を映像化してきた行定勲監督が、男性同士の恋愛を繊細かつ大胆に映像化しました。

2人の男をめぐり登場する女性陣には、『チワワちゃん』のヒロインで注目を浴びた吉田志織、バンド「ゲスの極み乙女。」のドラマーさとうほなみ(ほな・いこか)、元宝塚雪組の咲妃みゆ、『ジムノペティに乱れる』(2016)の小原徳子と4名の個性派女優の共演にも注目です。

映画『窮鼠はチーズの夢を見る』のあらすじとネタバレ


(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

大伴恭一は、絶賛浮気中です。大学時代から、女性に言い寄られると断れないという受け身恋愛体質の恭一は、妻ともなんとなく結婚したという非情な男です。

そんな恭一の元に、学生時代の後輩である今ヶ瀬渉が訪ねてきます。7年ぶりの再会を喜ぶ恭一でしたが、今ヶ瀬が取り出した資料を見て愕然となります。

今ヶ瀬が持ってきたものは、恭一の妻から頼まれた浮気調査の証拠写真でした。浮気調査員として働く今ヶ瀬は、依頼人が先輩の妻と知り、報告前に相談に訪れたのです。

恭一は、これ幸いと、今ヶ瀬に口止めを頼みます。「どうしたらいい?」「先輩に考えてもらいたいです」。今ヶ瀬はどこか楽しそうでした。

その日の夜、今ヶ瀬が恭一に出した口止めの条件は、キスをすることでした。「ずっと、先輩のことが好きでした」。

今ヶ瀬の告白に、「ごめん、ムリ」と、一度は拒否する恭一でしたが、得意の流されスキルを発揮しキスを受け入れます。

次の日から恭一は、妻への機嫌取りに乗り出します。週末に一緒に出かける約束をし、上手くごまかしたつもりでしたが、浮気はどうにも止められません。

そして、またしても浮気現場に現れた今ヶ瀬にも弱みを握られ、あれよあれよと関係を深めていきます。

週末、妻と食事に出かけた恭一。突然、妻が泣き出します。聞けば、浮気調査を依頼したという懺悔でした。「結果は何も出てこなかったわ。あなたは完璧な夫だったのね」。

妻の言葉に安堵する恭一でしたが、妻の懺悔は続きます。「浮気していれば、慰謝料が取れると思っていたのに。もう限界なの別れて欲しい」。なんと、妻も浮気をしていたのです。

結婚生活はあっさり終わり、恭一は家を出ます。引っ越し先のマンションを訪ねてきたのは、今ヶ瀬でした。「お前、浮気調査の理由、知ってたのかよ!」。完璧な八つ当たりです。

天気の良い朝、恭一のパンツをはいて掃除機をかける今ヶ瀬の姿がありました。恭一の所に転がり込んできた今ヶ瀬は、好きな感情を隠さず甘えてきます。

それを邪険にできない恭一と、その性格につけ込むように暮らしに溶け込む今ヶ瀬。付き合っているようで、男同士だからそれはない。恭一は、セクシャルマイノリティに偏見がない方でしたが、自分のこととなると別です。

ある日、浮気相手だった女性と仕事で再会し帰りが遅くなった恭一は、「遅かったね」と聞く今ヶ瀬に、仕事だったと嘘を付きます。

何でもお見通しの今ヶ瀬は、恭一の嘘を責めます。「別に付き合ってるわけじゃないだろ」。「じゃ、何で嘘を付くの」。

恭一は、今ヶ瀬が傷付くのでないかと気遣ったつもりでした。「好きってそういうもんじゃないんだよ」。今ヶ瀬は、恭一の半端な優しさに結局は傷つき家を出ます。

出て行かれると途端に寂しいと感じる恭一。「どうしてる?食事どう?」調子のいい電話をかけます。「何で電話してくんの?」と文句をつけながら、嬉しそうな今ヶ瀬。

その日から2人の関係は、一気に深まります。愛されている実感。愛おしいと感じる心。こういう幸せもあるんだろうか。

しかし、恭一の優柔不断で流されやすい性格は、この後も遺憾なく発揮されるのでした。そして世間はまだ、セクシャルマイノリティへの偏見がありました。

以下、『窮鼠はチーズの夢を見る』ネタバレ・結末の記載がございます。『窮鼠はチーズの夢を見る』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

ある日恭一は、学生時代付き合っていた夏生と偶然再会します。「懐かしい、相変わらず流され侍なの?」親し気に近付いてくる夏生。

恭一は夏生と頻繁に連絡を取り合うようになっていました。スマホを盗み見した今ヶ瀬は、2人が食事をしていたタイ料理屋に、元カレを連れ来店します。

「お久しぶりです。夏生先輩、大伴先輩」。偶然を装い合流した今ヶ瀬に、恭一は呆れますが、ごつい連れの男にけん制され良い気がしません。

恭一は、もやもやした気持ちを今ヶ瀬にぶつけます。「あいつとがお似合いだ。お仲間だもんな。俺とは違う世界なんだって思ったよ」。

悲しそうに一足先に帰る今ヶ瀬。恭一の部屋で、恭一のスエットに着替え、お気に入りのハイチェアに丸まりながら彼の帰りを待ちます。

酔いつぶれた恭一をマンションまで送っていく夏生。部屋から現れたのは、帰ったはずの今ヶ瀬でした。夏生は気付いていました。今ヶ瀬が、学生時代から恭一のことを好きだったことを。

夏生と今ヶ瀬の直接対決の日がやってきます。行きつけのタイ料理屋でにらみ合う2人。「引いて下さい」。今ヶ瀬の発言に夏生は余裕のようです。

「恭一は、ハメルンの笛について行くネズミなの。見す見すドブに落とすわけにはいかないのよ」。夏生は、恭一をその場に呼んでいました。

修羅場にやってきた恭一は、「どういうつもりだよ」と怒ります。「さぁ、選んで。今夜どっちを持ち帰るのか!」。夏生の問いかけに答えを出せない恭一に、夏生はさらに追い打ちをかけます。

「女と男だよ。わかってる?流されてんじゃないの。そろそろ下りないとね」。畳みかける夏生の勢いに、恭一は答えを出します。

「俺はお前を選ぶわけには行かない。普通の男には無理だよ。分かるよな」。恭一の言葉に「はい」と良い子の返事をする今ヶ瀬。今ヶ瀬だって分かっていながら苦しんでいたのです。

夏生を選びホテルに入った恭一でしたが、夏生を抱くことが出来ませんでした。「ちゃんと人を好きになったことある?」夏生は去って行きます。

その日、今ヶ瀬が待つ自宅に帰った恭一は、初めて自分からキスをします。「拒まれたら二度と触らない」と言う今ヶ瀬を、恭一は受け入れます。

恭一は、自分でも気付かぬうちに本当の恋に落ちていました。ふとした瞬間に恭一からこぼれる愛情に、くすぐったい思いの今ヶ瀬。

嬉しい気持ちとは裏腹に、世間一般に堂々と出来ない関係性は2人の間に常に不安を抱かせます。

そんな中、恭一は会社の部下である岡村たまきの相談に乗るようになります。スマホのやり取りを覗く今ヶ瀬は、「俺のこと、うっとうしくなった?」とけしかけます。

互いの不安な心が爆発し、激しい言い合いの末、「あなたじゃダメだ。あなたも僕じゃダメだ。ずっと苦しかった」と悲痛の叫びで泣き崩れる今ヶ瀬。

2人は朝方のドライブに出かけます。向かった先は海でした。「今度は、情の厚いお前を大事に愛してくれる奴にしろよ」。恭一の言葉には愛情が滲んでいました。

その後、恭一はたまきと婚約をします。家には、今ヶ瀬が置いていった灰皿が大事に置かれています。

たまきは感づいていました。たばこを吸う元カノが、恭一の心に居座っていることを。「あまりにも好きすぎると、自分の型が保てなくなって壊れるんですよね」。他の誰かが心に居続ける恭一を、たまきは嫉妬の中で辛抱強く愛します。

見覚えのある車が最近、自分の周りを張っています。恭一は、気付かぬふりをしていましたが、声を掛けずにはいられませんでした。「今度は誰の依頼だよ」。

久しぶりに会った今ヶ瀬は、「再婚を止めるつもりはありません。月に1度でいい。体の関係とかいらないから、全部言う通りにするから。側に置いて下さい」と健気でした。

「お前はもういらない」。「出会ったときに言ってくれれば良かったのに」。そう言い合いながらも2人は充分に分かっていました。止められない愛を。

恭一は、今ヶ瀬を抱きます。それが自然であるかのように。「恋愛でじたばたもがくより、大切な事が人生にはいくらでもあるだろう。一緒に暮らそう」。恭一の心は決まっていました。

今ヶ瀬がずっと望んでいた、恭一の心からの愛の言葉でした。しかし次の朝、今ヶ瀬は姿を消します。

たまきは、恭一の部屋にある灰皿の他にジッポライターが増えていることにも気付いていました。別れを切り出された時も、「彼女が戻ってくるまでで良いです」とすがります。

会社の上司の娘でもあるたまきとの結婚は、以前であれば流されて受け入れているであろう恭一でしたが、今回は流されませんでした。本当の恋を知ったからです。

今ヶ瀬はというと、他の男に抱かれながら泣いていました。恭一の心を手に入れた今ヶ瀬でしたが、女性が恋愛対象だった恭一を巻き込んでしまった申し訳なさ、不幸にさせてしまうかもしれないという怖さから逃げ出してしまいました。

それでも、好きで好きで仕方がありません。「心底惚れるとすべてにおいてその人だけになってしまう」。そんな気持ちを、恭一にぶつけてしまっていいのだろうか。

「今度こそ戻ってこないかもしれない。それでも、待ちたいんだ」。恭一は、今ヶ瀬が置いていった灰皿を綺麗に洗い、テーブルに置きました。

今ヶ瀬がお気に入りだったハイチェアに腰掛け、穏やかに微笑みます。

映画『窮鼠はチーズの夢を見る』の感想と評価


(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

現代においては、セクシャルマイノリティの多様性、LGBTQを理解しようとする取り組みや、BLの世界にハマる女子など、個人の性的思考、男性同士の恋愛にも偏見が少ない時代になってきたと言えます。

しかし、法的には認められていなかったり、偏見や差別問題はまだまだつきません。

映画『窮鼠はチーズの夢を見る』は、単なるBL映画と言ってしまうには、余りにも浅はかです。相手が誰であれ、人を好きになるということの喜びや痛み、それに加え、やはり難しい同性愛の葛藤が切なくも心に染みる、極上のラブストーリーでした。

恭一と今ヶ瀬の関係は、うらやましいほど素敵です。

男だからこう、女だからこうという古い考えに縛られることなく、料理も、洗濯も、掃除もやれる人がやればいい。甘えたいときに甘え、反対に甘えさせてあげることも出来る、平等な関係です。

身体の関係もそうです。極端かもしれませんが、男が女を抱くという表現が一般的ですが、恭一と今ヶ瀬は、心が抱きたいと思った時は相手を抱き、抱かれたいと思った時は抱かれることもあります。身体ではなく、心の繋がりが大事なのです。

また物語には、恭一と今ヶ瀬を取り巻く4人の女性が登場しますが、それぞれの恋愛で満たされない部分に共感してしまいます。

物分かりの良すぎる夫への不満から浮気をする妻・知佳子。妻がいることを知りながら、身体の関係だけでいいと言う浮気相手・瑠璃子。

男の今ヶ瀬に女である自分が負けるはずがないと思い込んでいるプライド女子・夏生。純真な世界に生きどこまでも健気な少女のまま・たまき。

恋愛にルールはないと言うけれど、それぞれが少しのズルをしてでも好きな人の側にいようともがく姿に、「分かるわぁ」とため息がこぼれます。

「あまりにも好きすぎると、自分の型が保てなくなって壊れるんですよね」という、たまきのセリフが印象に残ります。

もうひとつ、印象的なシーンとして食事シーンがあります。なぜか官能的に見える寿司屋のカウンター、ピリピリとした修羅場がよく似合うタイ料理屋、ソファーでくっついてポテチを食べさせあう微笑ましさ、寝起きに台所から聞こえてくる包丁の音など、人間の欲望には「食」もかかせないものだと感じさせられます

最後に、恭一と今ヶ瀬を演じた大倉忠義と成田凌の圧倒的な演技力について触れたいと思います。

まずは、ゲイである今ヶ瀬を演じた成田凌の演技の幅の広さに驚かされます。成田凌が演じたことで今ヶ瀬は男女の性別に関係なく、人間的に魅力的な人物に仕上がっています。

時に可愛らしく、時に小憎たらしく、時にカッコよく、恋する気持ちが表情や目線から伝わってくるようでした。かっこかわいいなんて、ズルイ!要するに、最強です。

そして、恭一を演じた関ジャニ∞の大倉忠義。アイドルの枠を軽やかに飛び越え、大胆なベッドシーンにも挑戦しています。

大倉忠義の代表作と言っても過言ではない圧倒的な存在感。仕上がった体を惜しみなくさらけ出し、自信みなぎる演技に見惚れてしまいます。

優柔不断で流されやすい男・恭一が、今ヶ瀬との関係で本当の恋を知り、痛みを知り、自分の幸せは何かを選択できる強い男になっていきます。

その変化を見事に演じきった大倉忠義。すべての覚悟を決めたラストシーンの表情が一番セクシーでした。

まとめ


(C)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会

多様な愛の形を認め、本当の幸せについて考えさせられる映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を紹介しました。

映画の中には、恋愛経験のある人なら誰もが共感できるであろう、心に刺さるセリフが散りばめられています

自分をコントロール出来ず暴走したり、許されない関係だとしても止められなかったり、幸せすぎると怖いと感じたり、恋愛で悩んでいる人たちに見て欲しい。そして、全身で恋をしたくなる映画です。





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