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Entry 2017/09/13
Update

映画『ぼくらの亡命』あらすじと感想レビュー!【内田伸輝監督作品】

  • Writer :
  • 西川ちょり

前作『さまよう獣』から四年。内田伸輝監督の新作『ぼくらの亡命』は、思いっきり、じっくり撮ってみたいという監督の想いから、完全自主制作という形で生まれました。

第7回サハリン国際映画祭(2017年8月25日~9月1日)で好評を博し、10月28日からは、横浜ジャック&ベティでの公開を控えています。

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1.映画『ぼくらの亡命』作品情報


(C)2017 Makotoya Co Ltd.,/(C)2016 NOBU Production

【公開】
2017年(日本映画)

【監督】
内田伸輝

【キャスト】
須森隆文、櫻井亜衣、松永大輔、入江庸仁、志戸晴一、鈴木ひかり、椎名香織、森谷勇太、高木公佑

【作品概要】
東京近郊の森でテント暮らしをする昇は、ある日、樹冬という女性に出逢う。彼女のあとをつけると、恋人らしき男と美人局をやっていることがわかる。別の日、昇は樹冬の彼氏のはずの男が別の女と組んで美人局をやっているのを目撃する。昇は客として樹冬に近づき、男に騙されていることを告げるが、樹冬は男を刺してしまう。昇は樹冬を自分のテントに匿い、二人で日本脱出することを夢見るようになる。

2.映画『ぼくらの亡命』の内田伸輝監督とは?

1972年11月20日、埼玉県上尾市生まれ。画家の道をめざしていましたが、高校時代に映画に目覚めたのをきっかけに、絵筆をカメラに持ち替え、映像表現の世界へ。

2002年に手がけたドキュメンタリー『えてがみ』、2007年に手がけた初の長編劇映画『かざあな』で映画祭の数々の賞を受賞。

2010年の長編第二作『ふゆの獣』では、男女4人のむき出しの感情を描き、第11回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞しています。

2012年『おだやかな日常』、「さまよう獣』を撮ったあと、思う存分じっくり撮りたいという思いが膨らみ、2017年、待望の完全自主制作長編劇映画『ぼくらの亡命』を制作。

2017年8月25日~9月1日に開催された第7回サハリン国際映画祭コンペティション部門にノミネートされ好評を博しました。

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3.映画『僕らの亡命』のあらすじ


(C)2017 Makotoya Co Ltd.,/(C)2016 NOBU Production

東京近郊の森にテントを張って暮している昇。ある日、彼は公園で、男一人、女二人が激しく言い争っている場面に出くわします。

樹冬(キフユ)という女が、恋人重久(シゲヒサ)ともう一人の女との仲を疑ったことからのいざこざでしたが、重久に後ろから強く抱きしめられ、樹冬は落ち着いたようでした。

数日後、仕事をしようとやってきたものの、気が乗らず、調査地に行くのをやめてしまった昇は、樹冬と重久が仲よさげに歩いているところを目撃します。あとをつけてみると、彼らは思いがけないことをしていました。

樹冬がスマホで男と連絡を取り、重久のアパートに連れ込むと、その現場に重久が乗り込んで男に暴力を奮って金を出させるのです。昇はその様子を隠れて全て見ていました。

昇は重久が樹冬以外の女とも付き合っていて、同じことをさせているのに気がつきました。樹冬は騙されている! 助けねば! と思った昇は、自分が客としてアクセスすることを思いつきました。

街中で樹冬と落ち会い、重久のアパートに向かいます。「お客さん、前に会ったことあります?」と樹冬が聞いてきましたが、彼は首を振りました。

樹冬の方から彼にしがみついてきて、ベッドに押し倒されます。そこへ重久がやってきました。

重久はいつものように暴力をふるい、金を要求しますが、昇が金を持っていないことを知り、激しく罵り始めます。

「お前だってクズじゃないか。全部見てたんだ。何人の女を騙してんの?!」

昇は外に引き出され、ボコボコにされてしまいます。

起き上がった昇は、樹冬のマンションに向かいました。前回、あとをつけて場所を確認していたのです。

驚く樹冬でしたが、「あんたは騙されているんだ」と、スマホで撮った証拠写真を見せられて戸惑いを隠せません。

樹冬は重久に電話をしますが、出ないので留守電を入れました。「誘拐されました。連絡ください」

折り返しかけてきた重久に、昇は「150万円だせ」と怒鳴りましたが、重久は相手にしませんでした。

翌日、樹冬はいつもの場所に重久がいるのをみつけ詰め寄りますが、重久は別の女のところに駆け寄ると、肩を抱いて歩いていってしまいました。女が面白そうに笑みを浮かべてこちらを見ていました。

重久は女を自分の部屋に連れ込んでいました。女が出ていったあと、樹冬は素早く部屋に入り込みました。

その頃、昇は樹冬のことを心配し、必死で自転車を漕いでいました。アパートに来てみると、樹冬がドアから出てきたところでした。手にはナイフが握られていました。樹冬は黙って屋上に上がっていき、昇は部屋に飛び込みました。

そこには刺されて、喘いでいる重久の姿がありました。昇は、重久の財布から金を取り出しました。

屋上にあがってきた昇に樹冬は「彼、死んでた?」と聞き、「うん、死んでた」と昇は応えました。「どうしょう?」と呟く樹冬に「俺の家に隠れればいい」と応えました。

樹冬は自転車を漕ぐ昇の背中にしっかりしがみついていました。

樹冬が眠っているのを確かめてテントを出た昇は一人の男が近づいてくるのを見て、あわてて駆け寄り「ここから入らないでくださいって言ってるでしょ!」と怒鳴りました。

男は渡辺といい、昇の死んだ父の知人で、何かと昇の面倒を見ようとしていました。しかし昇は彼に激しく反発していました。

樹冬のアパートに着替えなどを取りに行くから鍵を貸してと昇が言うと、彼女は壁に貼ってある地図を持ってきてと頼むのでした。

それは国後島(くなしりとう)の地図でした。彼女は祖父の遺骨を国後の地に埋めたいという想いを持っていました。

じゃぁ行こう!という昇に「パスポート持ってるの?」と樹冬は訪ねました。「国後島はロシアのものでしょ?!」。二人ともパスポートなど持っていません。

「パスポートなんて無くてもなんとかなるよ。日本にいたってしょうがないよ。だから逃げよ。こういうのなんていうんだっけ? 日本から逃げる・・・」

「亡命」と樹冬が答えました。

二人の亡命の旅が始まりました。しかし二人の想いはすれ違い、事態は思わぬ方向へ向かっていくのでした…。

4.映画『ぼくらの亡命』の感想と評価


(C)2017 Makotoya Co Ltd.,/(C)2016 NOBU Production

見た目も生活もホームレス然としている昇ですが、普通にスマホを使っているかと思えば、どうやら、渡辺からは定期的に金を振り込んで貰っているらしい。けれど、渡辺にはけんもほろろの態度を見せる…。

観ていてそれはちょっとどうなの? と説教をしたい気分になってしまったのですが、そんなことをすれば、渡辺同様、昇から大声で怒鳴られてしまうことでしょう。

それは、そんな説教、そんな言葉、もうわかってるし、出来るならとっくにやっている、という魂の悲鳴です。

これまで何度も何度も同じ台詞を言われてきた人間の激しい拒否反応を須森隆文が見事に演じています。

社会にうまく溶け込めない人、折り合いがつけられない人と定義するのは簡単ですが、映画を見ていくうちにだんだんと、彼こそ、この社会の欺瞞に満ちた仕組みをしっかり見抜いているのではという気になってきます。

内田監督の2012年の作品『おだやかな日常』は、原発事故後、放射能の正しい情報がない中、政府の発表を鵜呑みにし、疑問を呈する人を排斥し、事なかれ主義で「おだやかな日常」を装う“世間”が描かれていました。

主人公はその流れについていけず、追い込まれていきます。昇に、その主人公が重なって見えました。

労働者を威圧し搾取するブラック企業、右傾化社会の中の反戦デモ、少しずつ、確実に狂っていく日本社会が作品の中に見え隠れしています。

社会の欺瞞に目を向けない人ほど、“楽に生きられる”のだろうし、そうでない人は社会からはみ出していくしかない。

内田監督の視点はいつも「そうでない人」に向けられているように思います。

観ている私たちも次第に居心地が悪くなってきて、高みの見物とはいかなくなってきます。

櫻井亜衣扮する樹冬も、恋愛依存症とも言うべき人物で、「どうしょう?」と人に問うことしか出来ないような女性に見えます。こちらも共感とはほど遠いキャラクラーです。

しかし、冒頭、ずんずんと前に進んでいく彼女の背中の威勢の良さが忘れられません。車よけの柵を鮮やかにくぐり抜ける体のキレ! 長回しでとらえるこのシーンの彼女はとても魅力的です。

キレて怒っている彼女は実に美しい。映画にとって、ある意味それは最も重要なファクターといえるかもしれません。

二人の愛がどう展開していくのか、そもそもこれは愛なのか? 二人の行く末を映画館で是非確かめてください。

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まとめ


(C)2017 Makotoya Co Ltd.,/(C)2016 NOBU Production

内田伸輝監督最新作は、待望の完全自主制作で、構想3年、撮影1年、仕上げに1年をかけて制作されました。

現場スタッフは3名。斎藤文が撮影ほか8役を、内田伸輝が監督ほか8役を担当しています。

主演の須森隆文、櫻井亜衣、重久役の松永大輔等は、オーディションで選ばれ、今の日本社会で生きる“リアル”を見せてくれます。3人とも、これからが期待される役者です。

映画は冒頭からヘリコプターの音が響き、そこにセミの声が重なって競演し、雨模様の東京の街では雷鳴が低く聞えてきます。

風の音や鳥の鳴き声など、生活音や自然音は、ときに役者の台詞よりも響くことがありますが、そんな中、ふっと何もかもが静寂になる瞬間があります。

もしかしたら、あのシーンが最も幸福な一時であったのかもしれない、と今、筆者はそう考えています。

本作は、2017年8月25日~9月1日に開催された第7回サハリン国際映画祭コンペティション部門にノミネートされました。受賞は逃したものの、2回の上映は満席でビビッドな反応が返ってきたそうです

国内では渋谷ユーロスペース、シネマスコーレ名古屋に続き、横浜ジャック&ベティでの公開が控えています[2017/10/28(土)〜11/3(金)]。

全国順次ロードショーが待たれる一作です。

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