Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/05/15
Update

【ネタバレ感想】シンウルトラマン考察解説|シンゴジラの続編?つながりと違いから“シン”タイトルの意味の新たな形を探る【光の国からシンは来る?9】

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム『光の国からシンは来る?』第9回

庵野秀明と樋口真嗣がタッグを組み製作し、大ヒットを記録した映画『シン・ゴジラ』(2016)。

この『シン・ゴジラ』の成功を受け、庵野秀明監督は「シン」シリーズとして複数の作品を発表しました。

今回は2022年5月13日(金)に劇場公開された『シン・ウルトラマン』(2022)から、「シン」シリーズの前作『シン・ゴジラ』(2016)とのテイストの違いを比較検証していこうと思います。

【連載コラム】『光の国からシンは来る?』記事一覧はこちら

映画『シン・ウルトラマン』の作品情報


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

【日本公開】
2022年(日本映画)

【監督】
樋口真嗣

【企画・脚本】
庵野秀明

【製作】
塚越隆行、市川南

【作品概要】
鷺巣詩郎

【キャスト】
斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、西島秀俊、山本耕史、岩松了、長塚圭史、嶋田久作、益岡徹、山崎一、和田聰宏

【作品概要】
1966年にTBS・円谷プロダクションによって制作された特撮テレビドラマ『ウルトラマン』を、『のぼうの城』(2012)の樋口真嗣と「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明が共同でリブートした作品。

ドラマ『昼顔』で俳優として注目され、『blank13』(2018)などで監督としても活躍の場を広げた斎藤工が主演を務めたことでも話題となりました。

人類を脅かす「驚異」の対象の違い


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

シン・ウルトラマン』と『シン・ゴジラ』という庵野秀明と樋口真嗣がタッグを組んだ両作では、作品のテイストや演出技法など多くの点が類似し、その類似点こそが作品の魅力ともなっています。

しかし「物語」にフォーカスを当てた時、2つの作品には似て非なる大きなポイントが存在するのです。

両作には地球を脅かす未知の生命体が登場し、政府関係者は地球を守るために未知の生命体と対峙することを余儀なくされます。

このように物語を大枠で見ると異なる点はありませんが、地球を脅かす「未知の生命体」に2つの作品のコンセプトを大きく分けることになる違いがありました。

「ゴジラ」で描かれた「自然災害」の恐怖


(C)2016 TOHO CO.,LTD.

シン・ゴジラ』の劇中において、ゴジラは学者によって「不可能」と断定された、現代科学では解明し得ない異常とも言える進化を繰り返しながら日本を蹂躙。

日本政府総力での武力行使も意に介さず、ゴジラは破壊を繰り返し、物語中盤では東京中心部に凄まじい被害をもたらすことになりました。

人知を遥かに越え予測困難な「怪獣」による被害は「自然災害」のメタファーとも言われており、作中におけるゴジラは行動を停止した後にも解明されない謎を多く残し、またいつ大きな被害をもたらすかが誰にも分からない「自然災害」の驚異を体現したかのような顛末を迎えます。

「未知の超進化生命体」であるゴジラには人間による説得や駆け引きが一切通じず、人間社会やそこに暮らす個人も一切合切意に介さない「破壊」の振る舞いは、理解が及ばない「自然災害」としての恐怖を完全に再現していました。

【ネタバレ注意】「知的生命体」がもたらす侵略と破壊


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

映画『シン・ウルトラマン』の序盤ではネロンガ・ガボラなど、一定の行動原理をもとに現れ人類に被害をもたらす「自然災害」としての「禍威獣(怪獣)」が多数登場。

この部分のみを切り取ると『シン・ゴジラ』と同様、『シン・ウルトラマン』で「未知の生命体」を通じて描かれているのは「自然災害」としての恐怖に思えますが、物語の中盤に差し掛かると様相が一変します。

物語の中盤、人間の言葉でコミュニケーション可能な「外星人」ことザラブが出現。日本国政府と友好的な関係を築き上げますが、その裏で人類絶滅の計画を練っていることが発覚。

さらにネロンガ・ガボラなどの「禍威獣」の出現、そしてザラブの出現も「外星人第0号」ことメフィラスによる計画の一部であったことが明らかとなり、地球を舞台にさまざまな思惑が交差していくとになります。

己の行動原理に従い行動していた禍威獣と異なり、ザラブメフィラスは意図的に人々の思想を操作し、人類の滅亡や従属に向けた策略を実行に移しており、そこには強い「悪意」や「欲望」が存在しています。

多くの人が犠牲となる兵器を用いて「侵略」や「破壊」を行う、思考力や意思を持つ「知的生命体」だからこその恐怖が『シン・ウルトラマン』では描かれていました。

共通する人間の「罪(sin)」と償い


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

シリーズの全ての作品の題名に付く「シン」の意味について言及された庵野秀明は、その意味について「見る人それぞれの答えを感じてもらいたい」と回答しています。

リブートの意味を持つ「新」や、ゴジラを恐怖の対象として復活させた「真」の意味など、各作品における「シン」の意味はさまざまな場所で考察や議論が繰り返されています。

シン・ゴジラ』ではゴジラは「自然災害」のメタファーとして登場する一方で、その存在は原子力による核兵器と放射能災害を生み出した人類の「罪(sin)」を裁く「神(シン)」と捉えることもできました。

同様に『シン・ウルトラマン』の終盤では、ウルトラマンと同じ「光の星」の民であり、地球の新たな監視者/裁定者に選ばれたゾーフィが出現。人類の行動を危険と捉え「廃棄処分」という名の人類滅亡の判定を下します。

その行動は「罪(sin)」を裁く「神(シン)」そのものであり、両作は「罪(sin)」と「神(シン)」の意味でもつながったシリーズなのだと言えます。

両作ともに「神」による裁きは人類が知恵や行動を合わせることで解決を果たしており、「罪」を作るのは人間でありながらも、作った「罪」を償えるのもまた人間のみであると言う庵野秀明のメッセージとコンセプトを感じさせてくれました。

まとめ


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

アニメ映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズの完結作となった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)や、「仮面ライダー生誕50周年」として企画されている『シン・仮面ライダー』(2023)など作品の垣根を越えて広がり続ける「シン」シリーズ。

人類の「罪(sin)」や人間の知恵を遥かに越えた「神(シン)」の存在を登場させ、過去の作品をさらに奥深くリブートさせる庵野秀明の手腕とセンスが光るこのシリーズで次にどんな作品やメッセージを見せてくれるのか

映画を観るドキドキやワクワク、そして映画鑑賞後の考察に対する楽しみが止まらない「映画」としての魅力が詰まった「シン」シリーズは、映画公開前の想像と期待を遥かに上回る異色の映画シリーズであると断言できます。

【連載コラム】『光の国からシンは来る?』記事一覧はこちら









関連記事

連載コラム

映画『mellow』あらすじ感想と考察。今泉力哉監督が描いた“告白”の真相|映画道シカミミ見聞録45

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第45回 こんにちは、森田です。 今回は1月17日より全国公開された映画『mellow』を紹介いたします。 さまざまな「告白の瞬間」が切りとられた本作をとおして、人は …

連載コラム

映画『1秒先の彼女』あらすじとネタバレ感想解説。消えたバレンタインデーの理由と再会の奇跡を手紙から読み解く|映画道シカミミ見聞録64

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第64回 こんにちは、森田です。 今回は、2022年2月からU-NEXT他で配信開始された台湾映画『1秒先の彼女』を紹介いたします。 消えたバレンタインの記憶をめぐり …

連載コラム

映画『英雄の証明』あらすじ感想と評価考察。アスガー・ファルディが描く借金苦にあえぐ男が遭遇する“事件の真実”|タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』10

連載コラム『タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」』第10回 『別離』(2011)、『セールスマン』(2013)でアカデミー賞外国語映画賞を二度にわたり受賞したイランの巨匠、アスガー・フ …

連載コラム

『三日月とネコ』あらすじ感想と評価解説。安達祐実×上村奈帆監督がネコとのほのぼの共生を健やかに描く|映画という星空を知るひとよ199

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第199回 映画『三日月とネコ』は、「第1 回anan 猫マンガ大賞」の大賞受賞作、ウオズミアミ『三日月とネコ』の実写映画化したものです。 熊本地震をきっかけに …

連載コラム

亀山睦実映画『恋はストーク』あらすじと感想レビュー。福永朱梨が演じた“ひとすじに好き”の物語|ちば映画祭2019初期衝動ピーナッツ便り5

ちば映画祭2019エントリー・亀山睦実監督作品『恋はストーク』が3月31日に上映 「初期衝動」というテーマを掲げ、2019年も数々のインディペンデント映画を上映するちば映画祭。 そこで上映された作品の …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学