『パーフェクト・ケア』は2021年12月3日(金)、全国劇場3週間限定公開と同時にデジタル配信開始決定!
イギリスの映画・ドラマ・舞台で様々な役柄に挑み、体当たり演技を披露していたロザムンド・パイク。『ゴーン・ガール』(2014)でゴールデングローブ賞・アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ、一躍世界の注目を集めました。
以降も意欲的に様々な役柄に挑戦し、演技派女優として活躍を続けているロザムンド・パイク。そして彼女が2021年ゴールデングローブ賞主演女優賞 (ミュージカル・コメディ部門)を獲得した、待望の作品が日本でついに公開となりました。
そのタイトルが『パーフェクト・ケア』。アメリカで社会問題化した事件、日本でも他人事ではすまない題材を映画化した、様々立場の方々の関心を引いている作品です。
高齢化が進む社会で起きてはならない、しかし確実に起き増加するであろう、洒落にならない犯罪をブラックな笑いを交えて描いた作品です。この話、決して他人事ではありませんよ…。
CONTENTS
映画『パーフェクト・ケア』の作品情報
【公開】
2021年12月3日(アメリカ映画)
【原題】
I Care a Lot
【製作・監督・脚本】
J・ブレイクソン
【出演】
ロザムンド・パイク、ピーター・ディンクレイジ、エイザ・ゴンザレス、クリス・メッシーナ、イザイア・ウィットロック・Jr.、ダイアン・ウィースト
【作品概要】
判断力の衰えた高齢者など社会的弱者の、生活と財産を守るため誕生した法定後見制度。それが悪用された場合、どれほど恐ろしい事態になるのか。アメリカで明るみになり、衝撃を与えた事件を元に生まれた社会派ブラックコメディです。
誘拐犯と被害者の複雑な駆け引きを描いた映画『アリス・クリードの失踪』(2009)で注目を集め、その後『フィフス・ウェイブ』(2016)を監督したJ・ブレイクソンが手掛けた作品です。
主演は『ゴーン・ガール』以降、『エンテベ空港の7日間』(2018)や『プライベート・ウォー』(2019)など様々な映画に出演しているロザムンド・パイク。
共演はドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011~)で注目を集め、『スリー・ビルボード』(2018)や『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018)、『孤独なふりした世界で』(2019)のピーター・ディンクレイジ。
そして『ゴジラvsコング』(2021)のエイザ・ゴンザレス、『ラジオデイズ』(1987)や『I am Sam アイ・アム・サム』(2001)、『運び屋』(2018)のベテラン名優、ダイアン・ウィーストらが出演しています。
映画『パーフェクト・ケア』のあらすじ
成年後見人を務めるマーラ・グレイソン(ロザムンド・パイク)。彼女のの仕事は判断力の衰えた高齢者を守り、彼らの生活をケアすることです。裁判所から信頼され、周囲からは良心的な法律家と見られるマーラですが、その実態は悪徳詐欺師そのものでした。
パートナーのフラン(エイザ・ゴンザレス)と共に医師や老人ホームと手を組んで、本来は保護すべき高齢者から財産を奪い取ってゆくマーラ。彼女の悪事は法を利用して行われ、その結果罰されることもありません。
彼女が次に狙ったのは、身寄りの無い老資産家の婦人ジェニファー(ダイアン・ウィースト)でした。絶好のターゲットに接近した彼女の前に裏社会の大物、ロシアン・マフィアのローマン・ルニョフ(ピーター・ディンクレイジ)が現れます。
今まで無力な高齢者を喰いものにしてきた傲慢不遜なマーラも、ローマン一味を前には命すら危うくなります。まったく共感の持てない主人公マーラに、いかなる結末が訪れるのでしょうか。
今見るべきヤバすぎる映画『パーフェクト・ケア』を解説
自ら脚本を手掛けた『アリス・クリードの失踪』で注目されたJ・ブレイクソン監督。次作のヤング・アダルト小説を映画化した作品『フィフス・ウェイブ』で、映画における脚本の重要性を改めて痛感させられます。
その経験から学んだ彼が、自ら脚本を書いて映画化した作品こそ『パーフェクト・ケア』。実に悪辣な主人公マーラは、現実に起きたから様々な事件から創作された人物です。
身寄りの無い、あるいは家族と疎遠な高齢者の保護者として振る舞い、彼らを必要のない施設に送り込み閉じ込め、生活を破壊し財産を奪う成年後見人は多数存在する。悲しいが、これは現実だと語るブレイクソン監督。
彼はこの悲劇を告発するだけの物語を描いた訳ではありません。多くの人が信頼を寄せる人物が悪人の場合もある、という事実を示しつつ、法の抜け穴を熟知した悪人と法を何とも思わないマフィアとの、悪と悪とのデスマッチを描いたと監督は説明しています。
この法を盾にしつつ巧みに悪用する、しかし外面は善良そのものの人物を演じるのに『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイク以上の適役がいるでしょうか。
ちなみに予告編を見ると、水中に落とされながらもしっかり生還しているらしいロザムンド・パイクが登場します。これは『ゴーン・ガール』を見た方ならこの作品へのオマージュ、いやパロディだと感じたでしょう。
“アンチヒロイン”の主人公を演じるために
物語の中でさまざまな役割を演じることを楽しむ女性、そんなキャラクターを演じることを私は楽しんでいる、とインタビューに答えたロザムンド・パイク。
本作の主人公マーラも、複雑な性格と悪魔的な魅力を持つ人物で間違いないようです。しかし単純に極悪人を演じては観客からの共感は得られません。
彼女とブレイクソン監督は、「観客が思わず応援したくなる悪役」と「観客から見捨てられる悪役」の境界はどこかを探るために、『甘い毒』(1994)や『誘う女』(1995)・『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)など、参考になる多くの映画を見たそうです。
そして観客に支持される悪役とは、無理に観客に共感を求めない。感情を露わにしたり、深く理解してもらえるよう働きかけると、すぐに観客の支持を失うものだ。ロザムンド・パイクはそのように感じたと語っていました。
主人公マーラは追い詰められても観客に同情を求めず、立ち直り決してあきらめません。悪役を演じるなら悪い人間のままで良い。ひどい目にあったと観客に急に共感を求めたり、ブラックでコミカルな展開で気を引くべきでは無い。それが私の得た結論だと続けたロザムンド・パイク。
汚いゲームを可能な限り、他のプレイヤー同様汚くプレーしてやると宣言している人物こそ、私が演じたマーラだと彼女は話しています。アメリカの様々な制度が、マーラのような人々に利益を与えると語りました。
法律スレスレの悪事を働く性悪女、それが本作の主人公です。しかしこの役でロザムンド・パイクはゴールデングローブ賞主演女優賞を、それもミュージカル・コメディ部門で獲得しています。
誰もがこれは『ゴーン・ガール』で演じた役柄の発展形だと想像するでしょう。彼女は常に俳優として、自分の新しい部分を探求していると説明しました。
新たな挑戦から多くを学び成長し演技の幅を広げる。時に不快な状況に追い込まれる中で、何か驚くべきことが起こると自らの演技について語るロザムンド・パイク。彼女が『パーフェクト・ケア』で演じる際に考えていたのは、「ただ、悪くなりたい」の一つだけだったそうです。
被害者は高齢者だけでなく、あのセレブも
社会風刺を込めながらも、悪女を主人公とするコメディ映画として高い評価を得た『パーフェクト・ケア』。
高齢者など、保護を必要する人々を救うために生まれたアメリカの成年後見制度。しかし運用上の問題も多く、2018年11月に米上院高齢化問題特別委員会は、後見制度の仕組みを大幅に見直すことが必要だと宣言しています。
その内容は「不徳な後見人が立場を悪用、被後見人を意のままに動かし、資産や貯蓄を現金化して個人的利益にしている」と警告するものでした。将に本作の内容そのままと言えるでしょう。
成年後見制度の悪用で多くの方が犠牲となり、社会問題化した事実を踏まえた宣言です。しかしこの制度は「成年」を対象にしたもので、老人だけが被害者ではありません。
精神的に追い込まれ、引きこもり状態になり家族・友人の助けを得られぬ成年が、自ら「成年保護サービス」に連絡する選択がある点では、優れたセーフティネットとも言えるでしょう。
しかしは本人の意志に関係なく、近隣の人物から成年後見制度の対象者だと当局に訴えられ、ケースワーカーと精神科医が認めれば執行される事例があります。
一度対象者になると保護施設に収容され、財産は他人に管理され様々な法的権利を失うどころか、生活上の基本的決め事をする権利まで制限されます。それは保護者や後見人が必要無いと認める日まで続くのです。後見人・保護施設・医師らが結託するとどうなるか、想像できましたか。
この制度は家族間の財産争いや、邪魔な人間の排除に悪用される事例も現れます。その場合まだ若い人物も成年後見制度の対象者になりうるのです。
1990年代後半から2000年代前半に、世界的人気を極めたブリトニー・スピアーズ。しかし2004年に結婚直後に離婚、同年別の人物と結婚し2児を出産した後に離婚した時期から、様々な奇行がゴシップとして世間を騒がせました。
あて逃げと無免許運転で告訴され、アルコールや薬物に依存し厚生施設に入るなど、彼女のスキャンダラスな話題を記憶している人も多いでしょう。芸能活動を停止した彼女を救うべく、2008年に父親が成年後見人になりました。
父親の管理下で芸能界に復帰、2009年に完全復活したと讃えられたブリトニー・スピアーズ。ところが社会人として芸能活動を続けている状態でも、彼女は被後見人の立場とされ行動は制限され、膨大な収入も仕事も父に管理・支配され続けます。
この状態は不当な搾取と虐待だと訴えたブリトニー。2018年成年後見人の立場から退いた(後見人は他の人物に変更)父は、その後も娘の財産の後見人を続けます。これは家庭内のゴシップ騒ぎと見ていたマスコミも、事態は異常であると報じ始めます。
両者の言い分は対立を続け、争いは法廷に持ち込まれます。娘にはまだ後見人は必要との父親側の主張はトーンダウンしますが、それでも彼女の訴えは中々認められません。
2021年11月12日、ついにロサンゼルス郡の判事はブリトニーに対する後見制度の適用の終了を決定します。セレブであり、芸能など社会的活動を行っていた彼女ですら、被後見人の立場から完全に解放され自由になるには長い年月が必要でした。
ブリトニー・スピアーズが被後見人であった期間、得たはずの収入はどこに消えたのか。後見人の父親に協力していた弁護士や医師らは、事態にどう関与していたのか。今後の展開はまだまだゴシップ記事を賑わせるでしょう。
この騒動も『パーフェクト・ケア』の興行・評価に大きな影響を与えました。世間の注目を集める社会派の問題を、ブラックコメディとして映画化した本作。実にタイムリーで、かつ誰もが関心を持たらずを得ない題材を扱った作品です。
まとめ
ゴールデングローブ賞主演女優賞を獲得した『パーフェクト・ケア』。間違いなくロザムンド・パイクの熱演(怪演?)が楽しめる作品であり、映画ファンは見逃せない作品です。
彼女がそうとうヤバい人物を演じたのは確か。ブラックかつシニカルな映画を求める方は必見、予習として『ゴーン・ガール』をご覧になるのも良いでしょう。
そして超高齢化社会となった日本。認知症など問題を抱えた老人を守るために成年後見制度が活用される機会も増えています。この制度を悪用し被後見人の財産を横領する、悪質な法律専門職の後見人による犯罪も報道されています。
様々な貧困ビジネスなど、社会的弱者を喰いものにした犯罪が話題になる現在。今後間違いなく成年後見制度を悪用した事件は日本で増加するでしょう。
このような社会的問題をベースにオリジナルストーリーの脚本を作成、犯罪サスペンスコメディとしてエンタメ化。そして実力ある俳優を起用して高い評価を獲得した事実は、今後もハリウッドで映画を製作したいと考える人々に、大きな勇気を与えました。
多くの方が様々な立場から期待し、注目を集めている内容盛りだくさんの映画『パーフェクト・ケア』。素直に笑えるものやら、鑑賞後に明日の我が身と考えるのか、家族を心配することになるのやら…どうぞ心してご覧下さい。
『パーフェクト・ケア』は2021年12月3日(金)、全国劇場3週間限定公開と同時にデジタル配信開始決定!
増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)