ふたりの女性が、キャリアや人生を見つめなおすコメディ映画『レイトナイト 私の素敵なボス』!
2019年にアメリカで公開された映画『レイトナイト 私の素敵なボス』。スタンダップコメディアンのキャサリンが、番組降板の危機にさらされたことから巻き起こるコメディ映画です。
主演を『日の名残り』『クルエラ』のエマ・トンプソンが務め、共演のミンディ・カリングが脚本を務めています。監督は『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』のニーシャ・ガナトラ。
『ヴェノム』のリード・スコット、『リチャード・ジュエル』のポール・ウォルター・ハウザーにくわえ、ドラマ「ハンニバル」シリーズのヒュー・ダンシーも出演する本作。
数々のジョークに笑わされながら、余計なプライドを捨てて生きることについて考えさせられる内容となっています。
映画『レイトナイト 私の素敵なボス』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【監督】
ニーシャ・ガナトラ
【キャスト】
エマ・トンプソン、ミンディ・カリング、ジョン・リスゴー、ヒュー・ダンシー、リード・スコット、デニス・オヘア、マックス・カセラ、ポール・ウォルター・ハウザー
【作品概要】
監督のニーシャ・ガナトラは、ドラマ『ヘイヴン シーズン3』(2012~2013)や『トランスペアレント シーズン1』(2014)、『MR.ROBOT/ミスター・ロボット シーズン1』(2015)などを手がけたのち、ダコタ・ジョンソン主演の『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』(2020)を監督しています。
キャサリン・ニューベリー役のエマ・トンプソンは、『ハワーズ・エンド』(1992)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したのち、『日の名残り』(1993)、『父の祈り』(1993)でもアカデミー賞主演・助演女優賞ダブルノミネートを果たしたことで知られる演技派女優。また主演・脚本を兼任した『いつか晴れた日に』(1995)ではゴールデングローブ賞脚本賞を受賞しています。
本作の脚本を務めたのはモリー役のミンディ・カリング。『オーシャンズ8』(2018)やアン・ハサウェイ&キウェテル・イジョフォー出演の『ロックダウン』(2021)などに出演した他、『インサイド・ヘッド』(2015)では声の出演もしています。
映画『レイトナイト 私の素敵なボス』ネタバレあらすじ
キャサリン・ニューベリー(エマ・トンプソン)は、1991年に女性で初めて夜のトーク番組の司会者に就任。「キャサリン・ニューベリーのトゥナイト」は6000回放送され、43のエミー賞を受賞するという輝かしい功績をもったキャリアウーマンです。
しかしキャサリンは、子どものために昇給してほしいと言ってきたライターから、「フェミニストぶっているが女性嫌いだ。番組は面白くない」と言われて、彼をクビにしてしまいます。
モリー(ミンディ・カリング)は化学製品の工場で働いているお笑い好きの女性。エッセー大会に参加し、局の親会社の重役に会えるというのを利用してキャサリンのライター面接に業界経験ゼロでこぎつけました。
キャサリンのスタッフであり面接を担当したブラッド(デニス・オヘア)に、自身のジョークを気に入られたモリーは、13週間の試用期間という条件で雇われることになりました。
一方、キャサリンは社長(エイミー・ライアン)から、視聴率低迷のせいで番組から降板させると言われてしまいます。彼女にとっての生きがいは愛する夫ウォルター(ジョン・リスゴー)と番組であり、どうにか番組の人気を回復させようと躍起になります。
翌朝、ほぼ行ったことのない会議室に行きライターたちを呼び出します。ライターたちは自己紹介しますが、名前は覚えられないからと番号で呼ぶことにします。そこへ、新人のモリーがやってきました。
7人いるライターの中で唯一の女性社員であることで、キャサリンから番組に対する意見を求められたモリーは正直に「改善したほうがいい」と主張します。
キャサリンはモリーを含めてライター全員に改善案を出すよう指示し、番組のためにどんなアイデアでも出すようにと厳しく言い放ちました。
ライターたちは未経験で雇われたモリーに疑問を抱き、彼女のことを歓迎していませんでした。やがてライターのひとりのトム(リード・スコット)が電話で、彼女のことを「多様性枠」で採用されたと言っているのを聞いたモリーは怒り喧嘩します。
企画会議にて意見を求められたモリーは、オリジナルコーナーの新設、SNS運用などの案を出しますが、キャサリンに「ネタがないのに批判だけするな」と怒鳴られてしまいます。その後、へこんで泣いているところを同室のライターに慰められます。
2002年のキャサリンのショー動画を見て、オープニング案を考えたモリーは翌日の会議で発表します。中絶をネタにキャサリンの年齢もいじったネタは会議で賛否両論。政治ネタは避けるべきという意見もありましたが、信念を通せるということで採用されました。
しかし、その日のオープニングでモリーのネタは使われませんでした。若い女性YouTuberをゲストに招いて番組は行われましたが、彼女に対し「知性がない」と指摘するような質問をしてしまい、結果「時代遅れのおばさんだ」と文句を言われ帰られてしまいます。
同僚のライターであるチャーリー(ヒュー・ダンシー)のスタンダップショーを見に行ったモリー。キャサリンにネタを使ってもらえなかったことを慰められ、良いムードになります。キスをしてその日は別れました。
モリーは父が肺がんで亡くなったので、肺がん患者のチャリティーMCを務めることになっています。そのショーにチャーリーも出ると言います。
キャサリンはYouTuberの件で世間から叩かれ、印象回復のためにホームパーティを開きます。チャーリーは過去にキャサリンと一夜の関係になったことがあり、ふたりで話したいと言い寄りますが、キャサリンはあれは過ちだと拒否しました。
ウォルターがピアノを弾いているのを見て話しかけたモリー。キャサリンに「嫌いだが必要だと思わせるのが大事だ」と助言を受けます。
記者たちにインタビューされているキャサリンの元へ行き、キャサリンへの厳しい質問に対し助け舟を出したモリー。インド人女性という立場も利用し、自分の存在をアピールしてキャサリンとツーショットを記者に撮らせました。
パーティに来ていた人気コメディアンのダニエルをマネージャーから紹介されたキャサリン。彼がキャサリンの番組後任者だと知って動揺します。
翌日の会議で、残業せず帰ろうとしたモリー。肺がん患者のチャリティーMCに行かなければならないと説明したものの、キャサリンは決して認めようとせず「帰ったらクビだ」とさえ言いますが、モリーはそれでもチャリティーに向かってしまいます。
悩んだ末、キャサリンはモリーのショーを見に来ました。モリーに目配せして、そのステージに立ったキャサリン。即興でジョークを言いますがウケません。
やがてキャサリンは、「50代の女性がこの業界で何をすればいいのか、わからない」と本音を漏らします。「なにがおもしろいのか分からないのだ」と。静まり返る客席でしたが、そこから自虐ネタを交えたジョークを話し、観客にウケて喝采を浴びました。
モリーを連れて会議に戻ったキャサリン。そして「自分をいじるネタでいいから考えてくれ」とライターたちに指示します。「50代のイギリス人女性、出産経験なし」の自身の人物像に基づき、おもしろいことなら何でもいい。また政治的なネタも認めました。
また新コーナーでは、街角インタビューのような企画も開始。学者や作家以外のゲストを呼ばなかったものの、若い女優をゲストに招いたところ真摯な対応によって女優からの信頼を得て、ネットでの好感度も次第に回復していきました。そして番組内ではモリーが発案した新コーナーも大好評で視聴率も戻り、番組の支持も高まります。
キャサリンと乾杯するモリー。人生を変えてくれたと感謝するモリーに対し「その熱意がうっとうしい。成功者は褒められると疑ってしまうものだ」と返すキャサリンでしたが、やがて自身には友達がいないと打ち明けました。
翌朝、視聴率調査の前にダニエルを番組内にて後任者として紹介するよう通達されました。他のスタッフは潔い幕引きのために番組中に降板を発表するよう言いますが、モリーは反対します。
ダニエルを招いたその日の収録。観客に「残ってほしい?」と聞き歓声を浴びるキャサリン。そしてダニエルからも誘導尋問によって「残るべきだ」と言質を取り、番組に残ると宣言してしまいました。その後の放送ではツイッターでも大勢から支持を集めました。
サプライズにと祝いのお酒も持って、チャーリーの元を訪ねたモリー。チャーリーは他の女性を家に招いており、モリーはショックを受けて帰りました。
チャーリーが遊び人なことは職場の同僚は皆知っており、モリーはトムに慰められます。トムとは「多様性枠での採用」の件で険悪でしたが、その出来事をきっかけに打ち解けていきます。
映画『レイトナイト 私の素敵なボス』の感想と評価
世代・キャリア・国籍の違う女性ふたりがそれぞれに影響を受けたことで、生き方や人間関係を見直し、人生の再スタートを切るという内容になっています。
コメディアンとして数々の賞をとり名声を手に入れたキャサリンですが、その栄光にすがり自分のポリシーや考えを曲げず、まわりの助言を受け入れようとしませんでした。そのことが災いして番組の視聴率は低下し、世間の好感度も大切な人からの信頼も失っていきます。
彼女にとっての一番の問題は、時代に合わせるという柔軟性に欠けたところでしょう。発信する立場の彼女にとって世間が何を求めているかを知ろうとすることは重要なはずなのにそうしなかったのです。
それは、成功者にありがちな問題だともいえるし、プライベートで夫以外の大切な存在がいないキャサリンにとっては、自分と異なる意見を聞く状況そのものがほとんどなかったからだともいえるでしょう。しかし、そんな彼女に遠慮なく踏み込んできたモリーという存在が、キャサリンの価値観を大きく変えさせます。
モリーは業界未経験のまったくの素人でしたが、その無鉄砲なパワフルさや番組愛に感化されていくキャサリンの姿は見どころです。それも、キャサリンらしい文句を言いながらというのがポイントです。
そして、好きなことを仕事にして挫折しながも諦めずに夢を追いかけるモリーの姿からも勇気を貰える作品となっています。
あまりによくできたストーリーに現実味をもたらしたのは、キャサリンを演じたエマ・トンプソンによる説得力ある演技に他なりません。
ある意味差別的で傲慢ながら、夫への愛にあふれて憎めないキャラクターのキャサリンを知性を漂わせながら演じ切っています。本作にとって、エマ・トンプソンの存在はなくてはならないものでした。
まとめ
本作は、数々のアメリカンジョークが飛び交います。そのブラックな笑いを好む人ならば、本作をより楽しめるのではないでしょうか。
また『ヴェノム』『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』に出演したリード・スコットや、ドラマ「ハンニバル」シリーズ(2013~2015)でマッツ・ミケルセンと共演しているヒュー・ダンシー。
そして、クリント・イーストウッド監督『リチャード・ジュエル』(2019)や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)に出演しているポール・ウォルター・ハウザーが共演しており、映画ファンには嬉しいキャスティングもみどころとなっています。