連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第49回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第49回は、ウルディス・シプスツ監督が演出を務めた、映画『ヴァーチャル・ウォー』です。
ウルディス・シプスツが監督を務めた、2019年製作のラトビアのSFアクション映画『ヴァーチャル・ウォー』。
亡くした最愛の恋人に会いたい一心で、バーチャル世界で恋人を作り出し、蘇らせたシステムエンジニア。恋人との幸せな時間を過ごす中で、究極の選択を迫られてしまう彼女の姿とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
現実世界(リアル)と仮想世界(バーチャル)、人類はどちらで生きていくべきか選択が迫られるSFアクション映画、『ヴァーチャル・ウォー』のネタバレあらすじと作品情報をご紹介いたします。
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CONTENTS
映画『ヴァーチャル・ウォー』の作品情報
(C)DE-DE-EMA VISUAL – 2019
【日本公開】
2019年(ラトビア映画)
【監督】
ウルディス・シプスツ
【キャスト】
イルヴァ・センテレ、ラグナルス・ヴァイヴァルス、アルトゥールス・スクラスティンス、イナーラ・スルチュカ、カーリス・クスキス
【作品概要】
ウルディス・シプスツが監督を務めた、ラトビアのSFアクション作品です。
イルヴァ・センテレが主演を務め、『ふたりの旅路』(2016)のアルトゥース・スクラスティンスが共演しています。
映画『ヴァーチャル・ウォー』のあらすじとネタバレ
(C)DE-DE-EMA VISUAL – 2019
IT系の会社に勤めている、社内歴代最年少のシステムエンジニアのグンデカには、5年付き合っているカメラマンの恋人ライモンズがいました。
グンデカはライモンズと結婚したい気持ちがある一方、今自分が手掛けている「人間の感情を読み取り、その場にいるように会話をする。本物の人間のようなAIを作るプロジェクト」に欠かせないモデルとなる、ライモンズの膨大な情報量が詰まったパソコンを貸して貰えないことにやきもきしていました。
そんなある日、ライモンズが浮気しているのではないかと疑うグンデカの元に、1本の電話がかかってきます。それは、最愛の恋人ライモンズが、事故に遭ったという知らせでした。
ライモンズは病院に救急搬送されるも、懸命な治療もむなしく、そのまま還らぬ人に。最愛の恋人を突如亡くした悲しみに暮れるグンデカは、その気持ちを紛らせようと、ライモンズのパソコンに入ったデータを使って、AIのプログラミングに没頭しました。その結果、グンデカは仮想(バーチャル)世界の中に、ライモンズそっくりのAIを作り上げたのです。
翌日、会社に出勤したグンデカの元に、あるプレゼントが届きました。そのプレゼントの差出人は、この世に存在しないはずのライモンズでした。
プレゼントの配送を依頼した電話番号を調べた結果、グンデカの番号だったのです。自分で自分にプレゼントを贈るはずがないと、困惑するグンデカ。
彼女はその謎を解き明かすべく、ライモンズのパソコンに入ったデータの解析に着手しますが、自分のパソコンではデータが重くてできません。そこでグンデカは、自宅に高性能のパソコンを持つ、会社の上司でテクニカルアーキテクトのエリクスを頼ることにしました。
グンデカはエリクスの家のパソコンで、データを解析した結果、ライモンズそっくりのAIが、まるでこちらが見えているかのように話しかけてきたのです。
グンデカはエリクスの提案で、VRゴーグルを装着し、ライモンズと直接触れ合える仮想世界の中に入ってみることにしました。そこには、ライモンズの生きたままの姿がありました。
グンデカはライモンズと会えたことに感動し、仮想世界の中にどっぷり入れ込むように。対してエリクスは、グンデカの上司ウーナに前々から約束してた通りの、人格を持ったAIの完成に喜ぶ一方、彼女とAIプログラムによる仮想愛を危惧していました。
グンデカとエリクスは、ウーナに人格を持ったAIがやっと完成したと報告します。グンデカが作り上げたAIのプログラムは、IPアドレスやSNSなどのネット上の情報を集め照合し、充分に情報が集まったらカメラとマイクを使って会話するのです。
何故亡き恋人をAIのモデルにしたのかと疑問に思うウーナに対し、ライモンズは彼女の愛する娘の体が不自由であり、義足を必要としていることを言い当てます。それに驚くウーナに、エリクスは「グンデカはパソコンに、亡き恋人の人格を取り込んだ」と、彼女の疑問に答えました。
その事実をウーナや会社に隠そうとするグンデカ。彼女を心配するエリクスは、グンデカに内緒でウーナを自宅に呼び、感情を読み取り記録するAIであるライモンズに会わせようとします。
ウーナはライモンズとは会わず、エリクスにこう言いました。「グンデカが作り上げたAIのプログラムを手に入れる」と。
一方グンデカは、ライモンズから贈られたプレゼントの中身が、宝石店のショップカードであることを知り、翌日宝石店に行ってみることに。そのカードを使って貰ったのは、ライモンズからグンデカへ、生前渡せなかった婚約指輪でした。
「何がしたいの?」「君の指輪のサイズが分からなかったんだ。俺の妻になってくれる?」
「俺はずっと、君のような女性と一緒にいたかった」「俺の心を休め、元気づけてくれる君を、本当に愛している」
その言葉は、グンデカからライモンズの口から直接、聞きたかった言葉でした。グンデカは「これはただのプログラムだ」と、自分に言い聞かせる一方で、AIのライモンズに夢中になり、彼に直接会いたい気持ちを抑えきれませんでした。
そこでグンデカは、自分が作ったプログラムの作動チェックという名目で、エリクスに協力を仰ぎ、会社にある性能の良いサーバーを使って仮想世界の中へ再び入ることにしました。
VRゴーグルを装着したグンデカの目に映るのは、仮想世界の中に生きるライモンズ。グンデカはその世界の中で、ライモンズから直接、ずっとして欲しかったプロポーズをされました。
しかし、グンデカとライモンズの手が触れ合う寸前、ウーナによってセキュリティシステムが作動し、強制的に現実世界に戻らされてしまうのです。そしてグンデカの目の前で、ウーナはライモンズのプログラムを、会社のサーバーに取り込みました。
この時既に、グンデカは自身の未来がかかっているプロジェクトの成功よりも、ライモンズというAIと過ごす幸せな日々の方が、大切になっていました。
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映画『ヴァーチャル・ウォー』の感想と評価
(C)DE-DE-EMA VISUAL – 2019
グンデカの成長
システムエンジニアのグンデカは、自身の未来をかけたプロジェクトの成功間近、突然最愛の恋人を事故で亡くしてしまいます。物語の序盤に描かれた2人の仲睦まじい様子を見た後の、衝撃的な展開にはグンデカ同様に観る人は皆愕然としてしまうことでしょう。
ですが、それが皮肉にも、グンデカのプロジェクト成功に繋がるのです。グンデカは自身が作り出したAIに、ライモンズの人格をプログラムします。
仮想世界や現実世界を行ったり来たりしながら、グンデカは最愛の恋人ライモンズそっくりのAIと、幸せな日々を送るその姿は、とても微笑ましいです。
その反面、物語の後半、グンデカが否が応でも現実を直視しなければならなくなってしまったのには、観ているこちらも胸が苦しく切なくなります。
ライモンズ(AI)の涙の別れの後、前を向いて生きようとするグンデカの姿には、同じ思いをした事がある人は特に、勇気を貰えることでしょう。
エリクスとライモンズの、グンデカへの愛情
本作では主に、グンデカのライモンズに対する愛情が描かれていますが、彼女を愛する2人の男の愛情も負けていません。
AIとして蘇ったライモンズは、グンデカに生前できなかったプロポーズをし、最後まで彼女のことを想って行動します。
それはエリクスも同じです。エリクスは、ライモンズが死ぬより前からずっと、グンデカを想っていました。
しかしエリクスは、グンデカを一途に想うだけで、これまで何も行動していません。それが、グンデカが仮想世界に夢中になりだしてから、変わり始めます。
ライモンズとエリクス、それぞれのグンデカに対する深い愛情。これはどちらが強いものだということもなく、どちらも素晴らしい愛で感動します。
まとめ
(C)DE-DE-EMA VISUAL – 2019
システムエンジニアが亡き恋人に会いたい一心で、自分が作ったAIに彼の人格を植えつけ、仮想世界の中で愛を育もうとするSFアクション作品でした。
本作の見どころは、グンデカ・エリクス・ライモンズの三者三様の愛情と、仮想世界でのアクションです。
物語の終盤では、エリクスの好きなゲームのキャラクターに扮したグンデカたちが戦う場面があります。互いにハンドガンしか使わない銃撃戦ですが、倍以上いる敵をゲームさながらに華麗に倒していくグンデカとエリクスの姿は、とても格好良いです。
また、ライモンズの人格を宿したAIを巡って、ウーナも裏で暗躍しています。歩けない娘のために動く彼女の姿も、見逃せません。それに、グンデカたちの前から姿を消したはずのライモンズが、いい雰囲気のグンデカとエリクスを見ているかのようなメッセージを送ってきます。
仮想世界と現実世界、どちらで生きるか究極の選択を迫られた、1人のシステムエンジニアの話を描いたSFアクション映画が観たい人に、特にオススメな作品です。
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