連載コラム『光の国からシンは来る?』第18回
1966年に放送され、2021年現在まで人々に愛され続けてきた特撮テレビドラマ『空想特撮シリーズ ウルトラマン』(以下『ウルトラマン』)をリブートした「空想特撮映画」こと『シン・ウルトラマン』。
2022年5月13日に劇場公開を迎えた本作ですが、ついに同年の11月18日、Amazon Prime Videoでの独占配信を迎えました。
今回は、映画『シン・ウルトラマン』に登場した禍威獣たちの「元ネタ」となったウルトラ怪獣たちを総解説。
映画オープニングに登場した禍威獣たち、ネロンガとガボラ、そして「兵器」として登場したものの元ネタ自体は「怪獣」であるゼットンなど、「元ネタ」のウルトラ怪獣たちを『シン・ウルトラマン』がどのように作中で描いたのかを紹介していきます。
CONTENTS
巨大不明生物「ゴメス」
前身となった特撮ドラマ『ウルトラQ』の名を突き破ってそのタイトルが映し出される、特撮ドラマ『ウルトラマン』アバンタイトルのオマージュから始まる映画『シン・ウルトラマン』。
そしてウルトラマンが地球に訪れる以前に出現した初の禍威獣「ゴメス」の元ネタも、その作品がなくては『ウルトラマン』が作られることもなかったといえる特撮ドラマ『ウルトラQ』の第1話「ゴメスを倒せ!」に登場する「古代怪獣ゴメス」です。
設定上では「新生代第三紀ごろに生息していた、肉食性の獰猛な原始哺乳類」である『ウルトラQ』のゴメスは、地中温度の上昇で長い眠りから覚醒。東海弾丸道路のトンネル工事現場に出現したものの、同地に出現した原始怪鳥リトラとの格闘に破れ死に至りました。
なお、『ウルトラQ』第1話の撮影で使用されたゴメスの着ぐるみは、『モスラ対ゴジラ』で制作されたゴジラの着ぐるみを流用したもの。そんなゴメスの着ぐるみを撮影で着たのも、初代作品『ゴジラ』(1954)をはじめ「ゴジラ役」で知られるスーツアクターの中島春雄でした。
そうしたゴジラとの深い縁が、『シン・ウルトラマン』に登場したゴメスが『シン・ゴジラ』で描かれたゴジラと酷似した姿であったことにつながっているのです。
巨大不明生物第2号「マンモスフラワー」
初の巨大不明生物ゴメスが自衛隊の総力戦により駆除された後、東京駅に出現した巨大不明生物第2号「マンモスフラワー」。その元ネタは『ウルトラQ』第4話「マンモスフラワー」に登場した「巨大植物ジュラン」です。
第4話「マンモスフラワー」作中のジュランは、皇居の堀やビル地下に尋常ではないサイズの根を張り、突然変異により急激に巨大化。毒性のある花粉を放つ、触手のように動く根で人間を捕らえ、トゲからその血を吸うなどの恐ろしい生態を持っていましたが、火炎放射器による根の焼却、炭酸ガス固定剤の散布での枯死促進によって駆除されました。
そうしたジュランの駆除方法は『シン・ウルトラマン』でも同様であり、同作内に登場したマンモスフラワーは官民学の総力戦によって弱点を発見され、炭酸ガスと火炎放射の両面攻撃で駆除されたと説明されています。
ちなみに、映画作中のマンモスフラワーが東京駅に出現した理由ですが、庵野秀明は『シン・ウルトラマン デザインワークス』の手記にて「制作費削減からの(『シン・ゴジラ』制作した映像の)データ流用を考えてのこと」だったと語っています。
巨大不明生物第3号「ペギラ」
冷凍ガスを放出し、「東京氷河期」と表されるまでに都市機能をマヒさせた巨大不明生物第3号「ペギラ」。元ネタである『ウルトラQ』第5話「ペギラが来た!」に登場した「冷凍怪獣ペギラ」は、南極に生息し、各国の核実験の放射能の影響でペンギンが突然変異を起こしたとされる怪獣です。
『ウルトラQ』で使用された着ぐるみはその後、『ウルトラマン』第8話「怪獣無法地帯」に登場した「有翼怪獣チャンドラー」の着ぐるみへと改造されたという経緯も持つペギラ。
「ペギラが来た!」では冷凍光線を武器に南極基地越冬隊へ襲いかかるものの、南極に生育するコケの成分から抽出された物質「ペギミンH」が弱点だと知った人々に、物質を詰め込んだ気象観測用ロケットを撃たれたことで退散します。
その後ペギラは、『ウルトラQ』第14話「東京氷河期」に再登場。南極が原発事故による南極の温暖化が原因で北極への移動しようとしたものの、その途中経路上にあった東京に到着してしまったとされるペギラは、東京の都市機能を凍結。しかし、元零戦パイロットの男が爆薬とペギミンHを搭載したセスナでの決死の攻撃を敢行。攻撃を受けたペギラは再び北極に向けて飛び去っていきました。
禍威獣第4号・飛翔禍威獣「ラルゲユウス」
「超自然発生巨大不明生物」という呼称が廃止され、「敵性大型生物」……通称「禍威獣」が使用されるようになった後に出現したラルゲユウス。
巨大な鳥のような姿をしたラルゲユウスはただ飛翔するだけで周囲に暴風を起こるため、それが通り過ぎた経路は嵐が過ぎたかのような大被害が発生。ところが巨大であるはずのラルゲユウスは取り逃がされ、消息不明に。「ステルス機能を有するのでは」という仮説も立てられたラルゲユウスは、「作中で唯一駆除されなかった禍威獣」でもあります。
その元ネタは『ウルトラQ』第12話「鳥を見た」に登場した「古代怪鳥ラルゲユウス」。「第三氷河期以前に生息した鳥の祖先の一種」とされ、通常は文鳥ほどの小型サイズであるものの、空腹の状態になると巨大化するという特異な生態を有しています。
孤児の少年と仲睦まじく暮らしていたラルゲユウスでしたが、空腹時には動物園の動物たち、少年が住む港町の家畜たちを捕食し全滅させるなどの被害をもたらしたため、警察によって捕獲されます。しかし籠の中に入れられていた留置所内で再び巨大化し、少年をひとり残しどこかへと飛び去っていきました。
ちなみに「ラルゲユウス」というネーミングは、カモメのラテン語名である「Larus canus」に由来しているとされています。
禍威獣第5号・溶解禍威獣「カイゲル」
新たに創設された禍威獣対策の専門組織「禍特対」が初出動時に駆除された禍威獣カイゲル。元ネタは『ウルトラQ』の第24話「ゴーガの像」に登場した「貝獣ゴーガ」です。
サザエとカタツムリが混ざったような姿で、眼から放つ「溶解液」で人間を溶かしてしまうゴーガは、美術品密輸団がアーブ国から密輸入した「ゴーガの像」に幼体の姿で封印されていたものの、内部構造のX線調査にて浴びた放射線の影響により成長。巨大化の果てに都市を破壊し始めますが、自衛隊火器部隊の一斉攻撃で倒されます。
また「カイゲル」という名は、第24話「ゴーガの像」で描かれた「太古から甦った貝の怪獣」というアイディア元であるNG脚本「化石の城」……のさらに原型にあたるサンプルストーリー「生きている化石」に登場する怪獣の名から引用されています。
ちなみに「生きている化石」に登場する怪獣カイゲルは、「中生代ジュラ紀の、トゲ付きの貝殻を持つザリガニの怪物」という姿で描かれています。
禍威獣第6号・放射性物質捕食禍威獣「パゴス」
当初は「地底禍威獣」として対策が進められていたものの、のちに放射性物質を捕食することが判明したことで「放射性物質捕食禍威獣」へと改称。禍特対の指揮により駆除自体には成功しましたが、放射性物質を含んだ光線を発する能力も有していたその被害は甚大であったことが作中の会話でも描写されているパゴス。
その元ネタである「地底怪獣パゴス」は、『ウルトラQ』第18話「虹の卵」に登場。ウランを常食する原始動物であり、かつて中国・北京市の郊外にあったウラン貯蔵庫を襲撃した記録が残っているパゴスは、地底を移動し続けた果てに日本へと到着し、ウラン入りのカプセルを新産業都市へ運んでいた輸送車を襲撃しました。
人間の眼には「金色の虹」に映って見えるという分子構造破壊光線を放つ能力を有し、ついには「食料」が大量に存在する原発を襲おうとしますが、ネオニュートロン液(パゴスの体細胞を風化させる作用を持つ特殊な薬剤)を搭載したミサイルを撃ち込まれ死に至りました。
なおパゴスの着ぐるみは、映画『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965)の地底怪獣バラゴンの着ぐるみを改造したもの。
その後、パゴスの着ぐるみは『ウルトラマン』にて第3話「科特隊出撃せよ」の透明怪獣ネロンガ、第8話「怪獣無法地帯」の地底怪獣マグラー、第9話「電光石火作戦」のウラン怪獣ガボラ、アトラクション用のネロンガの各着ぐるみへと流用・改造され続け、ゴジラシリーズ第9作『怪獣総進撃』(1968)に登場したバラゴンの着ぐるみに再び使用されました。
そこからは、『シン・ウルトラマン』にてパゴス・ネロンガ・ガボラがセットで登場した理由が見えてきます。
禍威獣第7号・透明禍威獣「ネロンガ」
『シン・ウルトラマン』作中、地球に降り立ったウルトラマンが初めて倒した禍威獣ネロンガ。『ウルトラマン』の第3話「科特隊出撃せよ」に登場した「透明怪獣ネロンガ」同様、「通常は透明化させて過ごし、電撃も発射可能な頭部の三本角で電気を吸収した時のみ、その姿を露わにする」という生態を有しています。
第3話「科特隊出撃せよ」に登場した「元ネタ」怪獣のネロンガは、300年前に掘られた古井戸に通じる抜け穴に潜んでいましたが、付近にあった水力発電所を破壊。その後も第三火力発電所から電気を吸収しようとしますが、その存在を発見したことで退治を試みた防衛隊火器部隊の攻撃を受け、やがて現れたウルトラマンによって倒されました。
第3話で使用されたネロンガの着ぐるみは前述の通り、映画『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965)の地底怪獣バラゴンの着ぐるみを改造した『ウルトラQ』パゴスの着ぐるみを流用・改造したもの。またその鳴き声も、バラゴンのそれを流用していることで知られています。
禍威獣第8号・地底禍威獣「ガボラ」
禍威獣第6号「パゴス」と同族の禍威獣とされ、地下核廃棄物貯蔵施設を襲うべく出現した地底禍威獣ガボラ。一時はウルトラマンが放つ光波熱線と、ガボラ体内の放射性物質との核融合が起こす可能性が危惧されましたが、ウルトラマンがガボラの光線に含まれた放射性物質を除去し、光波熱戦を使わずにガボラを倒したことで、最悪の事態は避けられました。
元ネタである『ウルトラマン』第9話「電光石火作戦」に登場した「ウラン怪獣ガボラ」は、ウラン鉱山がある町で進む台風の復旧工事中、地盤沈下とともに出現。ウラン貯蔵庫を襲撃しようとしますが、『ウルトラマン』主人公の科学特捜隊員ハヤタの命がけの作戦によって山間部へと誘導され、その後ウルトラマンの格闘攻撃で絶命しました。
実は当初「電光石火作戦」には、『ウルトラQ』の地底怪獣パゴスが再登場する予定だったとのこと。ところが肝心のパゴスの着ぐるみが『ウルトラマン』のネロンガ、マグラーへと流用・改造されていたため、着ぐるみ自体はそのまま流用・改造した上で、「新たな怪獣」としてガボラの名が与えられたのだそうです。
天体制圧用最終兵器「ゼットン」
『シン・ウルトラマン』終盤、光の星の新たな使者ゾーフィが地球および人類の「廃棄」処分のために起動させた「天体制圧用最終兵器」ことゼットン。「ゼットンは『禍威獣』ではないのでは?」とも感じてしまうものの、その元ネタは前述のネロンガ、ガボラ同様に『ウルトラマン』に登場する「怪獣」であるのは違いありません。
『ウルトラマン』の最終回にあたる第39話「さらばウルトラマン」作中にて、ゼットン星人が地球侵略用の生物兵器として出現させた「宇宙恐竜」ことゼットン。ウルトラマンは数々の技で対抗するも歯が立たず、ついにはウルトラマンを倒してしまった実力から、「ウルトラマンを倒した初の怪獣」としても知られています。
「『あのウルトラマンが勝てない』という絶望をもたらした存在」としての『ウルトラマン』ゼットンの姿は『シン・ウルトラマン』にも継承されており、デザイン自体は大胆に変更されたものの、ウルトラマンよりもはるかに巨大な姿で天空に浮かぶ光景には誰もが「絶望」を意識させられるはずです。
まとめ/「知恵の結晶」としての怪獣を継承
『シン・ウルトラマン』作中に登場した禍威獣たちの「元ネタ怪獣」を改めて知っていく中で、多くの方は「流用」という言葉に目がとまったのではないでしょうか。
決められた予算の中で、「でき得る限りの面白い作品」を作るための怪獣着ぐるみの流用。それは「節約」であると同時に、作り手たちの「知恵」がもたらしたものでもあります。
そして、作り手たちの知恵によって生まれた怪獣たちの「舞台裏」の物語を、ウルトラマンの物語そのものに組み込んでしまった『シン・ウルトラマン』もまた、先人の知恵を「流用」……言い換えれば「継承」し、その知恵の価値を現代の観客に伝えようとしたのかもしれません。