映画『星に願いを』は2019年8月23日(金)より、キネカ大森ほかで開催される「第6回夏のホラー秘宝まつり2019」にて上映!
第6回目となる、日本映画界夏恒例のホラー作品上映イベント、「夏のホラー秘宝まつり」。
その上映作品として、オムニバスホラー映画『ゆがみ。 呪われた閉鎖空間』の中の一編、相楽樹主演のエピソード「ツナガル」を手がけた、佐々木勝己監督の待望の作品が登場!
それが映画祭で上映された際、バイオレンスとカオスな描写で注目を集めた映画『星に願いを』です。
ヒロインを演じるのは兼田いぶき。彼女を軸に展開される、最低な人間たちの群像劇は、パワフルかつ驚愕のラストへと突き進む…。
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CONTENTS
映画『星に願いを』の作品情報
【公開】
2019年8月23日(金)(日本映画)
【監督】
佐々木勝己
【出演】
兼田いぶき、正田貴美佳、尾関俊和、畠山勇樹
【作品概要】
いきなりヒロインに“クソ”と呼ばれる登場人物たち。彼女と、彼女を取り巻く人々の人生を、容赦ない描写でテンポ良く描写で描く、奇抜な展開で見る者を圧倒するバイオレンス群像劇。
監督は俳優、そして特殊メイクなど様々な形で映画製作に関わる佐々木勝己。彼の特殊効果を駆使した演出は劇中のスプラッター、そしてホラー描写に大いに生かされています。
「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019」コアファンタ部門正式招待作品。その際は上映時間90分の「ゆうばりバージョン」で上映されました。今回は新たなシーンを加えた、118分版での上映です。
映画『星に願いを』のあらすじ
彼女は周囲の人間を“クソ”と蔑んでいた。“クソ”つまんない芸人。“クソ”カウンセラー。アタシをヤった“クソ”教師。親の金で遊び呆けている“クソ”学生。“クソ”まみれのアタシの人生を、更に“クソ”まみれにした“クソ”野郎。
そう言って自分の人生を、同時に周囲の人間を嫌悪し、常に挑発的に振る舞う少女イヴ(兼田いぶき)。風俗嬢として働く彼女は、身も心もすり減らす荒んだ生活をしていました。
ある日男たちに絡まれていた、家出少女のキミ(正田貴美佳)を助けたイヴ。行くあての無い彼女を、イヴは自分の部屋に同居させます。
イヴの差し伸べた手を掴み、冷たいと呟いたキミ。彼女は手の冷たい人は心は温かい、と言葉を続けます。キミが自分と似た境遇にいると感じたイヴは、彼女に心を開いていきます。
しかしいつしかイヴとキミの生活は、普通ではありえない常軌を逸したものに変貌します。それはイヴに接するカウンセラーには、全く理解し難いものでした。
一方イヴに“クソ”と呼ばれた人々も、それぞれに不満と閉塞感を抱えた人生を送っていました。やがて彼らとイヴの人生は交差して行きます。
イヴと彼らの人生が結び付いた時、衝撃のクライマックスが訪れます。イヴと彼らは、“クソ”まみれの人生の果てに、何を目撃するのか…。
映画『星に願いを』の感想と評価
スプラッター描写の果てにあったもの
ホラー映像の演出や、自身のOVA作品『骸 -MUKURO-』の中の短編映画『APARTMENT INFERNO』などでの、凄惨なスプラッター描写に定評のある佐々木勝己監督。
参考映像:短編映画『APARTMENT INFERNO』予告編
今回の『星に願いを』もファンの期待に違わぬ、バイオレンスとゴア描写に満ちた作品になっています。ところが本作は、それに止まらない仕掛けを持つ異色の作品になっています。
凄惨な暴力描写に周囲の人々を口汚く罵る主人公、こう紹介されて身構えてしまう方もいるかもしれません。ところがこの映画は、登場する人物をリアルに描きながらも、イマジネーションに満ちた世界を描いています。
イヴとキミが繰り広げる残酷かつ奇妙な関係、そして2人を結びつけるあるアイテム。これらは残酷な物語に、ファンタジー的な要素を加えました。
スプラッター描写もリアルな残酷さを、粘着質に追求せず、映画のリズムを削ぐ事のない、軽快なリズムで描いています。ホラーや残酷描写が苦手な方でも、この程度なら大丈夫という感じる方もいるのではないでしょうか。
荒んだ暴力に満ち溢れた映画に見えて、実は残酷な、そして心優しいファンタジー映画。それが『星に願いを』を紹介するに相応しい言葉かもしれません。
美しくも残酷に描かれた美少女たち
同時に佐々木監督は作品がホラーという傾向によるものか、アイドルなど若手女優を起用し演出する事でも定評があります。
主人公イヴを演じた兼田いぶきは、文字通り体を張った熱演を見せます。汚れる事を厭わぬ姿と、単身様々な“敵”に対して、暴力的に立ち向かう戦うヒロインの姿は、強烈な印象を残すでしょう。
何かと攻撃的に振る舞うイヴに対し、正田貴美佳が演じるキミは、無垢な存在として登場します。ちなみに「夏のホラー秘宝まつり2019」の山口幸彦プロデューサーは、彼女の事を“血みどろの作品の中に咲く、百合の花”であると語ったそうです。
対となる2人の存在が映画にファンタジー性を与え、そして劇中に登場したアイテムやセリフと共に、クライマックスに深い意味を与えているのです。
3年ががりで完成した意欲作
佐々木監督にとって『星に願いを』は、苦難を経て完成させた作品となりました。
この映画の製作は2015年、映画祭出品と劇場公開を目標にした、ワークショップによる製作作品として始動しました。
ところが様々な経緯を経た結果ワークショップは崩壊し、映画製作は中断の危機に晒されます。そこで監督が製作を引き継ぐことになりました。
ワークショップの受講生たちを集めた監督は、3年間かけてこの映画を完成させ「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019」に出品、さらにシーンを加えて「夏のホラー秘宝まつり2019」で上映する事となりました。
登場人物1人1人のエピソードで、1つの作品が生まれそうな群像劇である『星に願いを』。その背景には長い期間を置いて、1つ1つのシークエンスを撮影したという事情があるのです。
それらをクライマックスで結び付け、一つのファンタジー的な作品に昇華した監督の手腕に注目してください。
佐々木監督はジョージ・A・ロメロの大ファン
「夏のホラー秘宝まつり2019」では、ジョージ・A・ロメロ監督の名作、元祖感染症パニック・ホラー映画の1つである、『ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖』がリバイバル上映されます。
ジョージ・A・ロメロの大ファン、自分が本格的に映画を見始めるきっかけになった作品は『ランド・オブ・ザ・デッド』である、と佐々木監督はかつて語っています。
それ以降ロメロ作品は次々と見た、と話す佐々木監督。エンターテインメントであるホラー作品に、何らかの風刺や社会的メッセージを含ませるのは、ジョージ・A・ロメロの影響でしょうか。
と同時に自分が好きなだけに、ゾンビ映画を撮るのはまだ怖い、とも語っていた佐々木監督。このやり取りの後に『星に願いを』を製作する、ワークショツプが開始されています。
『星に願いを』はゾンビ映画ではありません。しかしビル内の狭い通路での対決や、エレベーターを使用した脱出シーン、そしてヒロインが単身“敵”の群れに立ち向かう姿などに、ロメロのゾンビ映画の影響が感じ取れます。
佐々木監督はいずれゾンビ映画を、またはメッセージ性のあるホラー映画を作るのでしょうか。
まとめ
佐々木勝己監督が苦難を経て完成させた映画『星に願いを』。
佐々木監督の過去の作品を知る方は、凄惨なスプラッター描写を待ち望んでいると思います。確かにそういった期待に応える場面があり、ファンは満足されるでしょう。
しかし同時に登場人物を通して、現代社会を生きる人々の孤独・閉塞感を描き、しかもホラー映画的なストーリーは、イマジネーションに満ちた捻りのある物語として描かれています。
周囲の人間に“クソ”という言葉を連呼するヒロイン。過激で挑発的な作品をイメージされるでしょうが、圧倒的なクライマックスの果てにある光景は、意外にも穏やかで美しい光景です。
スプラッター映画を見るつもりで見ました。すると確かに、期待通りの描写はあるけど、最後にはイイものを見せてもらったなぁ、そんな思いが味わえる作品です。
映画『星に願いを』は2019年8月23日(金)より、キネカ大森ほかで開催される「夏のホラー秘宝まつり2019」にて上映!
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