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Entry 2022/09/25
Update

地下鉄(メトロ)に乗って|あらすじネタバレ結末と感想評価の解説。感動映画おすすめ!浅田次郎原作のタイムトラベルよる断絶した“父子の和解”

  • Writer :
  • 谷川裕美子

若き日の父と出会うタイムスリップの旅

『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)の堤真一が主演を務める感動のヒューマンドラマ。

浅田次郎の出世作を原作に、『花戦さ』(2017)の篠原哲雄監督が映画化しました。

大沢たかお、岡本綾、常盤貴子が共演し、人と人の縁の物語を紡ぎます。

父と仲違いしていた主人公がタイムスリップして出会ったのは過去の若き父でした。その出会いによってふたりの心はどんな変化を迎えたのでしょうか。

心揺さぶられる名作の魅力についてご紹介します。

映画『地下鉄(メトロ)に乗って』の作品情報


(C) 2006 METRO ASSOCIATES

【公開】
2006年(日本映画)

【原作】
浅田次郎

【脚本】
石黒尚美

【監督】
篠原哲雄

【編集】
キム・サンミン

【出演】
堤真一、岡本綾、常盤貴子、大沢たかお、田中泯、笹野高史、北条隆博、吉行和子

【作品概要】
『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)の堤真一演じる主人公・真次が地下鉄に乗ってタイムスリップし、若き日の父親と出会って本当の父の姿を知る姿を描く感動のヒューマンドラマ。

原作は『鉄道員』で直木賞を受賞した浅田次郎の同名小説。『花戦さ』(2017)の篠原哲雄監督が監督を務めます。

真次の父・佐吉に大沢たかおが扮し、若き頃から晩年までを見事に演じ分けています。共演は岡本綾、常盤貴子、吉行和子ほか。

東京メトロの全面協力のもと、博物館にしか残っていない車両や本物の駅で撮影されました。

映画『地下鉄(メトロ)に乗って』のあらすじとネタバレ


(C) 2006 METRO ASSOCIATES

衣料品営業マンの長谷部真次は、仕事帰りの地下鉄の永田町駅で父が倒れたと弟から連絡を受けます。

その後、真次は偶然中学時代の恩師の野平と永田町のホームで再会します。その日は若くして亡くなった兄の昭一の命日でした。

野平は東京オリンピックの開かれた39年のあの日を忘れられないと話します。兄が亡くなったあの日。気難しく威圧的な父が兄の眠る霊安室にやって来た時、兄の死は父のせいだと真次は責め、野平の目の前で父に殴られました。

ホームで野平と別れた後、亡き兄によく似た人が通り過ぎ、真次は思わず後を追って地上へ出ます。

すると、そこは兄が死んだ昭和39年の東京・新中野の街でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『地下鉄(メトロ)に乗って』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『地下鉄(メトロ)に乗って』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

真次は、パチンコ屋で兄の昭一を見つけました。兄は東京帝大に行くよう強要する父親とケンカして家を出ていました。真次は自宅まで昭一を送り、何があっても自宅を出ないよう言い含めて立ち去ります。

元の世界に戻った真次は、会社の岡村とみち子にだけその体験を話しました。岡村は真次に父・佐吉の見舞いに行くように言います。佐吉は大手の小沼産業の社長で病に倒れていました。

同僚のみち子は真次の愛人でした。真次は父が金ばかり頭にある横暴な男だと非難しますが、みち子は薄情なところが佐吉に似ていると言います。

今度は闇市のある戦後の世界に迷い込んだ真次は、アムールと名乗る若き父に出会いました。目の前で連行されるみち子を助けられませんでしたが、アムールが救ってくれると聞いて真次は酔いつぶれてしまいます。

目を覚ますと真次はみち子の家にいました。すると、彼女も一緒にタイムトリップしていたことがわかります。

またアムールの時代に戻った真次は、当時高価だった砂糖の取引現場に連れて行かれます。アメリカ兵と共に美しい日本人女を相手に取引が成立しますが、それは罠でした。アムールは騙されて警察に摘発され、逮捕されます。

しかし、それらはすべてアムールが仕組んだことでした。警察役の男はアムールのグルで、彼らは砂糖を見事手に入れます。

その後、先ほどの女・お時もアムールの仲間だったことがわかります。彼女はアムールには妊娠中の妻がいることを真次に教えます。

今度は地下鉄の中で、真次は「祝出征 小沼佐吉」というたすきをかけた父に出会いました。思わず真次は声をかけ、不安がっている佐吉に、「満州に行って必ず無事に帰って来れる」と伝えます。

本当に戻れたら結婚して子供をつくり、家族と暮らすのだと夢を語る佐吉。彼は休みのたびに地下鉄に乗っていると自慢しており、仲間から「メトロ」と呼ばれていましたが、実は乗るのはこれが初めてでした。先に降りたホームで敬礼する父に向かって、真次は万歳と叫びました。

真次は現実の母から、父が満州に行っていたこと、ふたりは工場で出会ったこと、そして母が東京帝大の学生を好きだったことを聞かされます。

次に真次がタイムスリップしたのは戦時中でした。みち子も一緒にワープします。佐吉は最後まで開拓団を見捨てず、自決しようとした教師に向かって、命とられるまで生きるんだということを子どもに教えろと叫びます。

爆撃を受け、みち子がいなくなったところで真次は目を覚ましました。彼は慌ててみち子の部屋へ向かい、彼女の無事を確認して強く抱きしめます。

また過去に戻った真次は、電話ボックスに父とケンカして家を飛び出した昭一をみつけました。その電話の相手は母で、本当の昭一の父は佐吉ではなく、東京帝大の学生だと昭一に告げます。

涙をこぼす兄から受話器を受けった真次も真実を知りました。その瞬間、目の前で昭一が車にはねられてしまいます。

みち子に手を引かれ、真次は雨の中を歩き始めました。やがてふたりは固く抱き合いますが、「忘れない」と言いながらみち子は指輪を外しました。

ふたりがアムールのバーを訪れると、身重のお時が迎えました。実は彼女はみち子の母の若き姿でした。思い出の母の味のオムライスをみち子は嬉しそうに食べます。

帰って来た佐吉は、昭一を失って苦しんでいました。彼は真次に子どもはいるかと尋ねてから、自分の息子たちのことを話し始めます。長男は東京帝大に行かせて学者にするんだと言ってから、自分はなんてことをしてしまったんだと言って泣き崩れました。

真次はそんな父に、「あなたのような父親を持って、小沼昭一は幸せでした」と思わず口にします。

佐吉はお時の大きな腹をなでて、お腹の子にみち子と名付けました。それを聞いた真次は呆然とします。両親が自分が生まれてくることを喜んでいたことを知ったみち子は、嬉しそうにオムライスを頬張りながら涙を流します。

帰り際、みち子はお時に、お母さんの幸せと、自分の愛した人の幸せを選べといわれたらどうしたらいいかと聞きます。お時は「親は自分の幸せを子どもに求めたりしないものだ」と言って笑いました。

みち子はお時を抱きしめて謝ってから、そのまま階段を転げ落ちます。お時は流産し、みち子は真次の腕の中で消えていなくなりました。真次は悲しみに絶叫します。

現実世界に戻った真次は、眠ったままの父を見舞いました。

その後、永田町のホームで再び野村に出会います。彼は真次が父に会ったと聞き、うなずきます。またも野村はホームに残り、真次だけが電車に乗りました。野村は教え子をじっと見送ります。

父と兄の墓参りに行った真次は、父が会社を作ったきっかけが戦後シルクの下着を入れたスーツケースを持った男と出会ったことだったと弟から聞かされます。作り話だと言って笑う真次。

真次は会社に戻る弟に礼を言い、母とふたりで歩きながら昔の新中野の家にまた行ってみようと話します。

御茶の水の駅で、ポケットにみち子の指輪をみつけた真次。真次は指輪をギュッと握りしめながら、窓から外をずっとみつめていました。

映画『地下鉄(メトロ)に乗って』の感想と評価


(C) 2006 METRO ASSOCIATES

横暴な父の胸の内にあった真実

熱いヒューマンドラマで知られる浅田次郎の同名小説を映画化した『地下鉄(メトロ)に乗って』

真次の父・佐吉は大きな会社を経営するやり手で、家族に対して抑圧的で横暴な父親でした。若き頃の兄はそんな父とケンカして家を飛び出し、交通事故で亡くなってしまいます。その日を境に、真次と佐吉の断絶は決定的なものとなってしまいました。

何年もたってから、真次は地下鉄に乗るたびにタイムスリップするという不思議な体験を繰り返すようになります。それは若き日の父と出会う旅でもありました。

特に印象的なのは、初めて電車に乗ったという出征直前の父との出会いのシーンです。出征祝のたすきをかけたまだあどけなさを残す佐吉は、どこに送られるのか、生きて帰れるのかと抱えきれない不安に押しつぶされそうになっていました。

真次は若き父に、「無事に必ず帰って来れる」と力強く語り掛けます。心を開いた佐吉は、千人針をくれた母への愛情と、彼女と家庭を作り子どもを育てる夢を語りました。

これから命を失うかもしれないという時に、まだ見ぬ未来の家族との幸せな生活を夢見ながら戦地へと向かう父。その姿を見た真次の胸の内は想像して余りあります。自分の存在こそが父の夢そのものだったと知った真次の心は大きく揺れ動きます

その後、死んだ兄・昭一の父は佐吉ではなく、母が当時恋していた東京帝大の学生だったことがわかります。おそらくその学生は命を落としたのでしょう。母を愛していた佐吉は、すべてを知った上で彼女も昭一も受け入れていたのでした。

母が愛していた帝大生への消しきれない嫉妬心、そして自分とは違って優秀だった彼への引け目もあって、素直に家族への愛情を表せない佐吉。それでも、賢い昭一の能力を活かしてやりたいという思いは真実でした。しかし威圧的に帝大に進学するように強制したことで昭一の心は離れ、悲劇を招いてしまいます。

すべての真実を知った真次は、初めて父の深い愛情を知ります。真次が病室を訪れたとき、もう父は目を覚ましませんでした。父と子は目を見て分かり合うことは叶いませんでしたが、真次の心は救われます

親に愛されているという実感が子どもにとっていかに大切なものなのか痛いほど伝わってくる一作です。

ラストになって、佐吉が商売を始めたきっかけが絹の上等な下着を入れたトランクを持ったスーツ姿の男、すなわち真次に出会ったことだったことが明かされます。

実は息子が父を導いていたというそんな不思議なエピソードが最後に心を温めてくれます。

ふたりの人物の無償の愛

本作には真次と佐吉という断絶していた父と子を結び付ける人物がふたり登場します。

ひとりは、真次を過去の世界に導く中学時代の恩師の野平です。永田町の駅で野平と数年ぶりに再会した真次は、その後何度もタイムスリップを経験します。

若い昭一が亡くなった日、父の佐吉と真次の悲しい仲違いを目の前で目撃した野村は、おそらくはずっと胸を痛めたまま亡くなったのでしょう。死んだ後も教え子の心が救われずにいるのを見て、たまらず駅で待っていたに違いありません。

最後、真次が佐吉を見舞ったと聞いた野平はやっと役目を終えました。もう決して真次の前に現れることはないでしょう。

「地下鉄はいいよ。思った場所に自在に連れて行ってくれる。」という野平の言葉が胸に沁みます。真次はいくつもの過去を訪れることが叶い、野平もまた地下鉄に乗って真次のもとにやって来ることができたのです。

もうひとり真次に無償の愛を捧げる人物は、真次の愛人のみち子です。

彼女は芯が強く、真次に佐吉と似ていると面と向かっていいます。そう言われて憤慨して、「俺は家族を捨てていない」と反論する真次は確かに佐吉そっくりと言えます。今ならいろいろな意味で問題有りの言葉ですね。時代を感じさせるセリフです。

その後、なぜかみち子は真次と一緒にタイムスリップするようになります。そこには衝撃の理由がありました。みち子の父は佐吉だったのです。真次とみち子は腹違いの兄妹でした。

佐吉は真次たちの母を心から愛していましたが、それ故にほかの男を愛していた妻を前に苦悩していたに違いありません。自分だけを愛してくれる利発でかわいいお時に安らぎを覚えたのも無理もないことでした。

みち子が自分の父が佐吉であることをもともと知っていたのかどうかははっきり描かれません。真実を知ったみち子は、両親が自分の生まれてくることを心から喜んでいる姿を見て確かな幸福を実感します。

しかし、彼女が選んだのは真次の幸せでした。みち子は自分をお腹に身ごもっている母を抱きしめたまま一緒に階段を転げ落ちます。母を流産させることで、みち子は自身の存在をこの世からを消したのです。

真次もみち子も、兄妹同士と知ったからといって簡単に思いを消せるはずもありません。さらに苦悩は深まったことでしょう。みち子はこれ以上互いを苦しめることがない確実な方法を選びました。

野村の温かな思いやり、そして真次の幸せだけを願い自らの命を封じ込めたみち子の深い愛によって、真次は新たな人生へと踏み出すことができたのです。

まとめ

父と子の和解と再生を描くヒューマンドラマ『地下鉄(メトロ)に乗って』。父への憎しみを強く抱いていた主人公・真次は、現代と戦中戦後の世界を何度もタイムスリップしてさまざまな時代の父と出会い、必死に全力で愛に生きてきた父の真実の姿を知ります。

父を嫌っていた真次が誰より父にそっくりな性格であることも涙を誘います。彼は実はそのことをずっと知っていたからこそ、深く苦悩していたのかもしれません。

父を許すことは、彼自身を許すことでもありました。自分が父としたかったキャッチボールを自分の息子とするようになり、母や弟に優しくできるようになった姿を見ると、真次が重い鎧を下ろして解放されたことが伝わって来て胸打たれます。

両親のこれまでの人生についてあまり深く聞いたことがない人の方がきっと多いのではないでしょうか。この作品を観終えたら、両親から昔の話をじっくり聞いてみたくなるかもしれません。





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