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Entry 2022/08/13
Update

『容疑者Xの献身』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。本格ミステリに福山雅治x堤真一が挑み“天才同士の激しい攻防”で魅せる

  • Writer :
  • 谷川裕美子

仰天のトリックで観る者を唸らせる名作

直木賞を受賞した東野圭吾の人気ミステリー「探偵ガリレオ」シリーズ第3作『容疑者Xの献身』を映画化。

テレビドラマ『ガリレオ』主演の福山雅治、柴咲コウをはじめスタッフ・キャストが続投しています。監督は西谷弘。

天才物理学者のガリレオこと湯川と新人刑事の内海のバディが、残忍な殺人事件の真相に迫ります。

孤独な男の抱いた熱い恋心はどこにたどり着くのでしょうか。無償の愛に心打たれる秀作の魅力をご紹介します。

映画『容疑者Xの献身』の作品情報


(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

【公開】
2008年(日本映画)

【原作】
東野圭吾

【脚本】
福田靖

【監督】
西谷弘

【編集】
山本正明

【出演】
福山雅治、柴咲コウ、北村一輝、松雪泰子、堤真一

【作品概要】
天才物理学者と女性刑事のコンビが難事件を解決する、人気テレビドラマ『ガリレオ』の劇場版。

そして父になる』(2013)の福山雅治演じる主人公の湯川教授が、友人である天才数学者の仕掛けた謎に挑みます。

湯川とタッグを組む内海刑事役の柴咲コウをはじめ、堤真一、松雪泰子、北村一輝ら豪華キャストが出演。

監督は『県庁の星』(2006)の西谷弘が務めます。

映画『容疑者Xの献身』のあらすじとネタバレ


(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

冴えない中年男性の石神哲哉は美しい花岡靖子が営む弁当屋の常連客でした。

ある日、靖子の家に別れた夫の富樫慎二が無理やり押し入ります。一生お前は自分から逃れられないからあきらめろと靖子に言い捨てて出ていこうとした慎二の頭を、怒った美里が後ろから鈍器で殴りつけます。

男のうめき声は隣室の石神に聞こえていました。

起き上がった慎二が美里に殴りかかります。娘を助けようとした靖子は、思わずコタツのケーブルで慎二の首を絞めて殺してしまいました。

物音を隣室で聞いていた石神は靖子宅を訪ねます。

その後、川岸で指紋を焼かれ、顔を潰された全裸死体が発見されました。毛髪と付近にあった自転車の指紋から死体が慎二であることが判明します。

草薙刑事と内海刑事は元ホステスだった靖子を疑い訪問しますが、彼女には犯行時に映画を観に行っていたというアリバイがありました。草薙たちは隣室の石神にも話を聞きますが、何も情報を得られません。

その後、石神は公衆電話から靖子に連絡をとり、刑事が来たのは想定内だから心配いらないと言い、自分にまかせるようにと話します。

湯川を訪ね、捜査協力を依頼する草薙と内海。容疑者が美人だと聞いた湯川は話に乗り気になります。容疑者の隣室に住んでいるのが昔学友だった天才数学者・石神と聞いて彼は驚きます。

靖子から礼を言われ幸せに浸っていた石神が帰宅すると、部屋のドアの前に湯川が来ていました。

17年ぶりの再会に盃を交わす二人。石神は親の病気のために大学院進学をあきらめ、高校教師となっていました。石神は湯川が持ってきた数学の難題に夢中で取り組みます。翌朝までに難問を解いた石神の能力に改めて湯川は驚きます。

朝、一緒にホームレスが暮らす界隈の前を通りながら、湯川の若々しい姿を羨ましいとこぼす石神。湯川は彼らしくない言葉を聞いて驚きます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『容疑者Xの献身』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『容疑者Xの献身』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

湯川は内海を遺体発見現場に呼び出して事件の経緯を聞き、自転車に被害者の指紋がついていたことを不審がります。

湯川は仕事終わりの石神をつかまえ、靖子の弁当屋に連れて行ってもらいました。帰りがけに湯川が「誰にも解けない問題を作るのとその問題を解くのとではどちらが難しいか」と石神に問い、彼は考えておくと答えます。

石神は靖子に電話し、湯川に気をつけるようにと話してから美里に次の指示を出しました。

突然捜査に協力しなくなった湯川を不審に思った内海。湯川が石神をかばおうとしていることに気づいた彼女に、慎二を殺したのは靖子で、石神がアリバイ工作をしたという推理を湯川は話します。

そんな中、靖子母子が映画館にいたという確かな証言がとれたことがわかり、湯川は激しく動揺します。

恩義のある男性・工藤と食事して帰宅した靖子を、石神がじっとみつめていました。

その後、慎二が賭博で借金して逃走中だったことがわかり、彼を狙う複数組織へ捜査の目が向けられます。

あきらめきれない内海は石神を高校まで訪ね、犯行当日とその翌日に午前半休をとっていたことを問いただしますが、石神はうまくかわします。

工藤と会っている靖子の写真を隠し撮りする石神。工藤と食事した靖子は、工藤宛に送られてきた脅迫状と隠し撮り写真を見せられて激しく動揺し、苦悩します。

内海たちから石神がテストの引っかけ問題について話した内容を聞いた湯川は、何かに気づいたように石神の勤務表をじっとみつめました。

湯川は石神を呼び出そうとして断られましたが、石神の方から週末一緒に山に登ろうと湯川を誘います。

湯川と石神は雪山の山小屋に到着し、盲点をつくテスト作りについて話をします。やっとの思いで山頂にたどり着いた二人。石神は、あの問題を解いても誰も幸せになれないから忘れてくれと言います。

石神は靖子に電話をかけ、封筒二通をポストに入れたこと、そしてこれが連絡をとりあう最後であることを告げます。

その後、石神は慎二を殺害したと自首しました。その後もストーカーを装います。

靖子は石神の指示通り、草薙と内海に石神から送られてきた脅迫状と隠し撮り写真を見せました。

刑事たちが帰った後、靖子はもう一通の石神からの手紙を取り出しました。そこには、靖子たちへの今後の行動の指示、そして靖子への感謝の思いが書き記されていました。

石神が何をしたのか聞いた内海に、湯川はこれを解いても誰も幸せになれないといって拒みます。自分を思いやる彼女に、湯川は刑事ではなく友人として聞いてくれるかと問い、頷く内海にこの事件の結論をすべて自分に任せてくれるようにと言いました。

湯川は靖子を呼び出し、なぜ何も嘘をつかずに済んでいるのか、そしてなぜ12月2日のことばかり聞かれるのか不思議に思っていただろうと話しかけます。なぜなら、靖子が慎二を殺したのはその前日の12月1日だったからです。

湯川は石神が靖子と娘を助けるために、とてつもない犠牲を払ったことを教えます。

石神が連れて行かれた取調室に待っていたのは湯川でした。湯川はたどり着いた真実を石神に話し始めます。

慎二を殺した母子のもとにかけつけた石神は、アリバイを作り彼女たちを守るために、まったく関係ないホームレスの男の命を奪っていました。

綿密な計画のもと、ホームレスを慎二が泊まっていた部屋で過ごさせて毛髪などの証拠を残させ、慎二の服を着て戻ってきた男を盗んだ自転車に乗らせて大森に移動させた石神。そして男を殺し遺体をすり替えました。

彼は殺人の罪を背負うことで、自分の逃げ場をなくして靖子を確実に守ろうとしていました。別れ際、湯川はすべてを靖子に話したことを告げます。

人生に絶望して自宅で首を吊ろうとしていた石神は、隣に越してきた靖子母子が挨拶にきたのをきっかけに思いとどまり、彼女たちと交わす他愛無い会話が彼の生きる喜びとなっていました。2人の幸せこそが石神の幸せそのものでした。

警察を出ようとした石神を、靖子が泣きながら呼び止めました。彼女は必死で謝り、石神と一緒に罰を受けると言って膝まづきます。そんな靖子の姿を見て、石神は吠えるように泣き出しました。その声は取調室にいる湯川のもとにも届いていました。

その後、靖子は罪を認めますが、石神は事実を認めませんでした。

湯川は石神と初めて出会った大学構内のベンチで、内海に石神との思い出を語り始めます。

石神はそこまで深く人を愛せたのだと呟く湯川。石神は靖子に生かされていたのですね、と言う内海の声が響きます。

映画『容疑者Xの献身』の感想と評価


(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

悲しき無償の愛が生み出した非情なトリック

大人気ドラマ「ガリレオ」シリーズの劇場版となる本作は、ベストセラー作家・東野圭吾が直木賞を受賞した秀作です。無償の愛が引き起こした、とんでもないトリックが大きな話題となりました

常に真実を追求してきた天才物理学者の湯川は、若手女性刑事の内海から殺人事件の捜査協力を依頼されます。顔を潰され、指紋を消すために両手両足を焼かれた残酷な死体を前に、捜査は行きづまっていました。

被害者の元妻・靖子の犯行が疑われましたが、彼女には強いアリバイがありました。

靖子は実際は元夫を殺害していましたが、壁越しに聞こえてきた物音から事態に気づいた隣室の石神がアリバイ工作に奔走したのです。

孤独な石神は、自分に光を与えてくれた靖子とその娘の彼女とその娘の幸せを守るためにすべてを投げ打ちます。

天才的頭脳を持つ彼が選んだのは、消えても気にされることのないホームレス男性を殺害して死体をすり替え、殺害時刻を偽装するという大胆な方法でした。

彼は靖子が警察に問い詰められても困らないよう、ホームレス殺人について彼女に隠し通し、すべての罪を背負って出頭します。

ホームレスを残酷な方法で殺害するというトリックは、道義上に問題があるのではないかと論争を巻き起こしました。その末にラストを感動的ととらえることにも異論が出たといいます

しかし、無償の愛というのは本来こういうものではないでしょうか。例えば、愛する我が子を守ろうとする母親なら、非情な行為でもためらわず行うに違いありません

無償の愛とは、特定の誰かを守るためであれば罪を犯すこともためらわないという性質を持つといえるかもしれません

石神の愛は捨て身のものでもありました。真実が明かされた後も、石神は決して事実を認めようとはしません。もし、証拠が目の前に突きつけられても、彼はしらをきり通したことでしょう。

石神にとっては、靖子母子を守ること以外に「正義」は存在しなかったに違いありません。

互いを天才と認める男たちの篤き友情


(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

本作でもうひとつ丁寧に描かれているのは、主人公の湯川と数学者・石神の切ない友情です。学生時代からの友人だったふたりは互いに世間から「天才」と呼ばれる存在で、お互いをこの上ない「天才」だと認め合う仲でした。

友の高い能力を知っているからこそ、湯川は石神の隠している罪に気づいてしまい、石神もまた湯川に真実を知られていることに気づきます。

きっかけになったのはあまりにも悲しい些末な出来事でした。湯川の若々しい姿を羨ましいと言った石神のひとことで、湯川は石神が恋をしていることに気づきます。石神は本来自分の容姿を気にするような男ではなかったからです。

また、恐ろしく頭の良い人間がおこなった犯行だと気づいたからこそ、湯川は天才脳の持ち主である石神を疑わないわけにはいきませんでした

調べるほどに事件の緻密な論理が明らかとなっていき、石神にしか成し得ない犯行だと湯川は認めざるを得なくなります

湯川は友人の石神との悲しい友情ゆえに苦しみ、これまで感情に流されることなく真実を追求してきた彼は真相を闇に葬ろうかと悩むほど追い詰められます。

彼を引っぱり上げてくれたのは、側で支えてくれるもう一人の友人・内海刑事でした。

最後に石神と一対一で対峙した湯川は、石神の決心を変えられないことに苦悶します。この素晴らしい頭脳をこんなことに使わなければならなかったのは残念だと言って泣く湯川に、石神はそう言ってくれるのは君だけだと応える石神。

魂の応酬も、強い恋心に勝つことはできませんでした。その後、遠くから聞こえてきた靖子の叫びと石神の咆哮に湯川は涙します。

石神が本当に心の底から人を愛したという事実が、湯川の心を慰めるラストに胸打たれます。

まとめ


(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

愛ゆえに道を踏み外す男の哀しみを描き出した見ごたえあるミステリー『容疑者Xの献身』。「ガリレオ」シリーズから好演を続ける福山雅治と、オーラを消して冴えない孤独な男を演じる堤真一の演技の応酬から目が離せない秀作です

人を愛することの美しさと醜さ、残酷さが余すことなく映し出されます

自分の幸せを投げ打って愛する人を守ろうとした天才数学者の石神。しかし、そうすることこそが彼の幸せそのものだったというパラドックス。

いつの間にか、そこまで人を愛することのできた彼をどこかで羨んでいる自分に気づかされます。

元夫をやむを得ずに殺してしまい、結果としてその罪を償う道を選んだ靖子も、石神の深すぎる愛を受け止めたことで幸福に包まれていたに違いありません。

事件トリックの見事さに唸らされるとともに、人間の幸福は常識では計れないことを教えられる一作です。





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