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Entry 2024/03/26
Update

【ネタバレ】デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章|あらすじ感想と結末の評価解説。SFアニメで非日常の世界で過ごす日常を描く

  • Writer :
  • 糸魚川悟

壊れた日常の中で今を生きる少女たちの物語

人間の負の感情や、どん底から微かに見える希望の感情の描き方のリアルさに根強い人気を持つ漫画家の浅野いにお。

その作風は『ソラニン』(2010)や『うみべの女の子』(2021)や『零落』(2023)など特に実写映画との相性が良く、日本の実写映画にとっても重要な漫画家のひとりと言えます。

しかし、そんな「実写映画」のような作風の浅野いにおが2014年に連載したのは、これまでの作風とは異なる完全な「SF」作品。

今回は浅野いにおによる同名漫画を前後編で「アニメ映画」化した映画の前編、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』(2024)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』の作品情報


(C)浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee

【日本公開】
2024年(日本映画)

【原作】
浅野いにお

【アニメーションディレクター】
黒川智之

【脚本】
吉田玲子

【キャスト】
幾田りら、あの、種﨑敦美、島袋美由利、大木咲絵子、和氣あず未、白石涼子、入野自由、内山昂輝、坂泰斗、諏訪部順一、津田健次郎、杉田智和、TARAKO

【作品概要】
小学館による連載誌『ビッグコミックスピリッツ』において2014年から2022年まで連載された、浅野いにおによる漫画を前後編に分けて映像化した作品。

ぼくらのよあけ』(2022)の監督を務めた黒川智之がアニメーションディレクターを務め、『猫の恩返し』(2002)や『リズと青い鳥』(2018)など多くのアニメ映画で脚本を務める吉田玲子が本作の脚本を担当しました。

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』のあらすじとネタバレ


(C)浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee

【3年前】

8月31日、千葉県沖に突如現れた未確認の飛行物体は、巨大な円盤型の飛行物体・通称「母艦」を生み出します。

「母艦」は東京上空を飛行中に米軍による新型爆弾「A」を投下され、東京は甚大な被害を受けることになりました。

【現代】

「A」の投下による被害者は5000人を超える甚大なものとなりながらも、あの日以降「母艦」は時速5キロの速度で東京上空を回遊するに留まり、都民は「母艦」の下で日常を取り戻していました。

高校3年生で担任の渡良瀬に恋する小山門出は、親友の中川凰蘭を始めとした仲良しグループの4人と過ごしながらも、「A」による健康被害を訴える市民活動に傾倒する母親の存在に苦悩していました。

仲良しグループの栗原キホは同級生の小比類巻と付き合い始め、凰蘭は色恋沙汰に呆れながらも5人の日常は流れ、年末が近づき始めます。

ある日の夜、「母艦」から発進した小型船が東京に落下。

門出が渡良瀬の家に押しかけ恋心を伝える一方で、凰蘭は小型船の落下現場を野次馬根性で確認に行くと、近くの茂みから宇宙船の一部と思われるパーツを発見し、凰蘭はこのパーツを「物体T」と名付け持ち帰ることにします。

ニュースでは小型船は無人と報道されていましたが、市ヶ谷駐屯地では小型船に乗っていた「侵略者」を米軍が秘密裏に回収している情報を掴んでいました。

ロボットの開発を主とするS.E.S社は小型船を自動で迎撃する戦闘兵器「歩仁」を開発、その成果はニュースで報道され注目を集めます。

12月24日、キホはSNSに流れる情報を鵜吞みにし、東京脱出を執拗に迫る小比類巻と破局し、門出や凰蘭たち仲良しグループたちと過ごしていました。

全員が大学への進学を決めていましたが、門出や凰蘭はキホたちとは大学が分かれることになり、来年のクリスマスも疎遠にならずに5人で過ごすことを約束。

その頃、「母艦」から発進した巨大な中型船を総理の命令によって「歩仁」が迎撃することが決まり、都民への被害が不透明ながらも「歩仁」の発射準備に移っていました。

クリスマスパーティがお開きになり、門出たちがそれぞれの岐路につく中、「歩仁」によって破壊された中型船は井の頭公園付近に落下しました。

翌日、ニュースで中型船の落下について知った門出は、落下に巻き込まれ死亡した犠牲者の名前に栗原キホの名前を見つけます。

キホが死んだにも拘らず日常は何事もなく流れ、いつもよりわざとハイテンションに振舞う凰蘭もキホの死に強いショックを受けていました。

自衛隊によって落下した中型船に搭乗していた「侵略者」の掃討作戦が開始され、隊員は遭遇した「侵略者」を射殺しますが、彼らが言語を喋るだけでなく仲間の死に嘆き悲しむ様子を目撃します。

時は流れ卒業式となり、無事に卒業と進学を迎えた4人。門出は渡良瀬の連絡先を手に入れ、凰蘭はキホのことを想いながら学校での日々を思い返していました。

学校の屋上で「物体T」を手に「母艦」に語りかける凰蘭の前に、同じく「物体T」を手にした大葉圭太が現れます。

圭太は「侵略者」の言語を話す不思議な青年であり、どこから来たのかを訪ねる凰蘭に同じ質問を仕返しました。

すると凰蘭は自身の中にある「不思議な記憶」を思い出すことになります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』のネタバレ・結末の記載がございます。『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee

【過去】

小学校時代、引っ込み思案な凰蘭は同じクラスの中でも浮いた存在である門出と塾の夏合宿で仲を深めます。

合宿の夜、宇宙船を目撃した2人は子供たちに襲われている宇宙人を助け、門出の家へと連れ帰り匿うことに決めました。

宇宙人は高い技術力を持ち合わせており、独自の言語の翻訳装置を門出と凰蘭に渡しコミュニケーションを可能にすると、自分は調査員の1人にすぎないとした上で「侵略者でもあり幸福をもたらすものでもある」と2人に語ります。

その言葉に不安を覚えた門出は宇宙人が乗っていた宇宙船の故障が治るまでの期間に、できるだけ人助けをする様子を彼に見せ、地球の評価を改めてもらうこと決心。

しかし、子供が出来る善行には限界があり、門出は宇宙人から借りた空間を捻じ曲げ物体を操作する棒を使って善行を成そうと必死になり、妊婦を助けようとした行動が電車の脱線事故を生み出し死傷者を出してしまいます。

人を死なせてしまったことで自身の持つ強く歪んだ「正義心」に歯止めが効かなくなった門出は、汚職をした経済大臣を襲撃しただけでなく、いじめをする学生や悪事に手を染めた大人を次々と襲撃。

やがてその行動は凰蘭に気づかれることになり、門出は全人類を殺害することになったとしても凰蘭だけは「特別」だから見逃すと語りますが、凰蘭は門出を殴りつけ、2人は喧嘩別れすることになりました。

その日以降門出は学校に現れなくなり、心配した凰蘭が門出の家を訪ねると、門出は自身が行った殺人の罪にショックを受けており、凰蘭との日々を思い返しながらマンションの屋上から飛び降ります。

凰蘭は門出を掴もうと必死に駆け寄りますが、落ちる彼女には手が届きませんでした。

【現代】

「不思議な記憶」に困惑する凰蘭は目の前から圭太が消えていることに驚き、その様子を遠目に見ていた圭太は凰蘭を「シフター」と呼びます。

制服での日々が終わったことから凰蘭たちと私服を買いに行くことにした門出は、電車の中で雰囲気の変わった小比類巻と出会い、彼がキホの死によってよりSNSでの陰謀論に傾倒している様子を見て恐怖を覚えました、

一方、石川県の高校から東京の大学への進学が決まり、東京着の飛行機に乗る竹本ふたばと田井沼マコト。

ふたばは不審な情報にあふれる現代で自分の目で見たものを信じて生きたいと思い東京に向かい、マコトは男でありながら可愛い恰好をしたいと言う自身の志向を理解してくれる東京に憧れを抱き東京へと向かっていました。

フライトの最中、「母艦」から中型船と大量の小型船が発信し、自衛隊は新たに開発された戦闘兵器「直仁」での迎撃を実行し、ふたばとマコトは飛行機の窓から撃ち落とされた中型船から大量の「侵略者」が落ちていく姿を目撃。

その様子はニュースでも報道され、小比類巻は武器を持って市街へと向かい、門出や凰蘭は街頭テレビでその様子を眺めていました。

―――人類終了まであと半年。

映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』の感想と評価


(C)浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee

非日常が日常と化した世界

宇宙船の飛来によって大きな犠牲が出てから3年の月日が経ち、きっかけとなった宇宙船が頭上を飛び回る景色が日常となった世界を描いた本作。

本作では「死」を予感させる宇宙船が目の前にありながらも、人々はその事実を頭の片隅に置きつつ他愛のないことに時間を浪費する、普通の日常を過ごしています。

色恋沙汰に一喜一憂し新作ゲームの発売に胸躍らせる、なんてことのない「日常」の描写が上手な浅野いにお作品であるからこそ、劇場版となり大迫力で描かれる「破壊」のシーンがより強烈に観るものの心を揺さぶってきます

危機的状況下の日常に違和感を覚えながらも、この様子は東日本大震災、能登半島地震など日常をあっさりと崩壊させる震災が突然訪れることが身に染みて分かっていながらも今の日常を大事に生きる現代の人々に通じるものがあると感じさせてくれました。

アニメ映画「デデデデ」の主軸となる2人の声優


(C)浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee

本作では音楽ユニット「YOASOBI」のボーカルを務めることで有名な幾田りらが主人公の門出の声優を担当し、もう一人の主人公となる門出の親友・凰蘭の声をタレントとしてもシンガーソングライターとしても活躍するあのが担当しました。

2人は2023年の第74回NHK紅白歌合戦に出場した日本を代表する歌手であり、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』ではそれぞれが前章と後章で主題歌を務めています。

前章での主題歌となる「絶絶絶絶対聖域」はあののオファーによって、バンド「凛として時雨」のボーカル・TKによって作曲が行われた異例の楽曲。

「絶絶絶絶対聖域」は、綺麗な歌声から披露されるシャウトによって作品の世界観である「日常の崩壊」を感じさせる、本作を象徴するような楽曲となっていました。

まとめ


(C)浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee

人間は多くの事柄に順応することの出来る生物であり、非日常も続くことで日常に変えていくことが出来ます。

しかし、明日も今と同じ家族や仲間とその日常を過ごすことが出来るとは限らず、今この瞬間の日常は思い返せば尊いものなのかもしれません。

そんな大事なことを再認識させてくれる映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』は、日常というエモさもありつつしっかりと「SF」を感じさせてくれる作品。

5月24日に公開される『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』(2024)と合わせて、ぜひとも劇場で鑑賞してほしい作品です。



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