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『ぼくらのよあけ』ネタバレ感想結末とあらすじの評価考察。アニメ化に原作マンガSF「団地団」のクリエイターの力で壮大な宇宙に飛び立つ

  • Writer :
  • さくらきょうこ

本格ジュブナイルSFアニメ『ぼくらのよあけ』

2011年に「月刊アフタヌーン」に連載されていたマンガ『ぼくらのよあけ』が11年の時を経て、ついに劇場アニメーションになりました。

実は本作の原作者今井哲也と脚本の佐藤大団地団という団地好きトークユニットのメンバー
もともと阿佐ヶ谷を中心に不定期にトークイベントなどを開催していた佐藤が、この原作マンガを知ってゲストに今井を呼び、そこから今井も団地団に加わりました。

劇中では、いまはもう取り壊されてしまった阿佐ヶ谷団地(2013年に解体)が現役の生活の場として登場します。そしてそこが宇宙との接点として重要な役割を果たすことになり、作者の団地愛が感じられる作品となっています。

映画『ぼくらのよあけ』の作品情報

(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
黒川智之

【原作】
今井哲也「ぼくらのよあけ」(講談社「月刊アフタヌーン」刊)

【キャスト】
杉咲花、悠木碧、藤原夏海、岡本信彦、水瀬いのり、戸松遥、花澤香菜、細谷佳正、津田健次郎、朴璐美、横澤夏子ほか

【作品概要】
物語の舞台は2049年夏。
27年ぶりに地球に接近する彗星に世間が沸き立つ中、阿佐ヶ谷団地に住む小学4年生の少年悠真は、自分の家のオートボット・ナナコをハッキングして接触してきた地球外の人工知能からサポートを求められますが…。

主人公の沢渡悠真を演じるのは杉咲花。劇場アニメの声優は『サイダーのように言葉が湧き上がる』(2021年)のヒロイン・スマイルを演じて以来で、初の少年役に挑戦です。

オートボットのナナコは悠木碧、地球外人工知能である“二月の黎明号”は朴璐美、そのほかにも花澤香菜、細谷佳正、津田健次郎など人気・実力ともに安定感のある声優陣が脇を固めています。

また主題歌『いつしか』は、子ども時代の思い出を呼び起こすような温かみのある曲で、エンディングの余韻にふさわしい伸びやかな三浦大知の歌声が壮大な物語を締めくくります。

映画『ぼくらのよあけ』のあらすじとネタバレ

(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

2022年。その彗星は、地球の周りをまわる人工衛星の近くをとおり地球上へとやってきました。

それから27年後。阿佐ヶ谷団地に住む小学4年生の沢渡悠真は、母親のようにうるさいオートボットのナナコに反発しながらも接近中のSHⅢ・アールヴィル彗星のニュースを見ようと起きてきました。その後同じ団地に住むクラスメイトの岸真悟と登校中、真悟は放課後ナナコを連れてきてほしいと悠真に頼みます。オートボットがいないとできないゲームがあるのです。

一方悠真の母はるかは、悠真がナナコを嫌っていること、そしてもうすぐ引っ越さなければならないのにちっとも荷造りをしないことを気にしています。宇宙大好きの悠真がいちばんオートボットを欲しがっていたのに、とはるかは不思議に思っています。

小学校の校庭では、ペットボトルロケットを飛ばして本体から分離させたドローンを決められた地点に着地させる授業がおこなわれています。ゲームの得意な真悟はドローンの操縦もうまくこなしてほめられますが、がさつな悠真はロケットを飛ばしすぎてしまいます。

教室に戻ると先生はSHⅢ・アールヴィル彗星の話をします。夏休み中、学校の屋上で観測会をやるというプリントが配られますが、悠真はもっと星がよく見えるところに連れていってもらうんだと得意げに語ります。

放課後、悠真は荷造りもせず真悟の家に向かいます。途中で石を団地の上に向って投げた悠真。それが屋上に乗って少しいい気分になります。ナナコを置いてきたので真悟はガッカリしますが、仲良しの6年生田所銀之介と3人でゲームをして過ごします。帰宅した真悟の姉わこはそんな弟たちが鬱陶しくてよく悪態をつきます。

するとそこへナナコが迎えに来ました。ちょうど悪口を言っていたので悠真はあわてますがAIのナナコは気にしません。仕方なく一旦帰ろうと外に出ると、突然ナナコが地面に落ちてしまいます。

また処理落ちか?と思っていると、突然ナナコの顔に青い画面が現れ、勝手に解体間近で無人の団地に入っていってしまいます。屋上へ向かったそれを追いかけつつ悠真は真悟と銀之介を呼び出します。

立入禁止の屋上に出ると開放的な青空が広がっていました。そしてなぜかうっすら床が光っています。ナナコはいつもと違う声で悠真に、いまが何年何月何日かたずねます。

そしてそれは「虹の根」という遠い星からやってきた無人探査機の人工知能で、トラブルに遭って帰れなくなったのだといい、帰るために協力してほしいと頼んできました。

いまは自力で起動することができないが、この団地まるまる一棟が宇宙船なのだとそれはいいます。ナナコをしばらく乗っ取って申し訳ないが、証明するためには水が必要だというので銀之介の家からホースで水を送ることにしました。

屋上一面に水が行き渡るとついに本体システムが起動し、3人の少年はいきなり団地ごと宇宙空間に浮いていました。そして彼らの目の前には美しい地球が…。

その人工知能は“二月の黎明号”と名乗り、小惑星に偽装して地球に近づいたこと、故障したとき人工衛星SHⅢの案内でここに誘導されたことを教えてくれました。そして友好のしるしとして故郷「虹の根」の画像を見せてくれました。

それは二月の黎明が出発した1万2千年前のものだといいますが、見たこともない美しい景色に真悟は思わず涙ぐみます。

その屋上にはコアという2個の光るキューブがあり、二月の黎明は宇宙船を再度発射させるためにはもう1個のコアが必要だといいます。そのコアは、とある少女の部屋にありました。

その少女、河合花香は悠真たちと同じ杉並区立杉並第二小学校の5年生でまだ転校してきたばかりです。この年頃特有の女子同士のつき合いになじめずつらい毎日を送っていますが、突然棚の奥から少年たちの声が聞こえ、そのもとであるコアを取り出しました。

屋上の悠真たちには花香の顔が見えていて声も聞こえます。悠真はコアを返してほしいと伝え、花香は自分にもそこの景色を見せてほしいという条件付きで翌日持っていくことを約束します。

屋上から降りてきた悠真たちは、大人に言うべきか話し合います。SHⅢは人工知能だから人間にウソをつかないはず。でも27年前に二月の黎明がやってきたことが公になっていないということは、SHⅢが隠しているということ。

現在SHⅢの人工知能はナナコのように全世界に普及していて、そんなことが知れたらパニックになってしまう。だから自分たちだけで虹の根に返すしかない、という結論に達しました。

真悟の姉わこは“サブ”というSNSツールでクラスの女子とのやりとりに余念がありません。そんなクラスの雰囲気を花香は気持ち悪いと思っています。花香は離れて暮らしている母親と通話する時間だけは楽しそうにしており、母は自分も花香くらいのころは人つき合いが苦手だったなーと笑います。

悠真はハッキングが解除されその間の記憶がないナナコと帰宅し、再び口うるさくなったナナコを不快に感じます。もっと宇宙の話がしたいのに、早く寝なさいというナナコ。あきらめて悠真は目を閉じます。

翌日、二月の黎明に言われたとおり悠真、真悟、銀之介の3人が揃ってシステムをオンさせると早速ナナコがハッキングされます。

システムに必要な菌を手に入れるため、川でカエルをつかまえる少年たち。そこへ花香もやってきてカエル獲りに合流します。楽しく過ごしますが、真悟の名字が岸だと知った途端花香の表情が曇ります。

そこに姉のわこが通りかかり、花香はクラスでも特に嫌いな女子が真悟の姉だということを知って「コアはあげない」と言い出します。わこは花香をののしり、悠真たちはわけもわからず困惑します。

次の日、悠真たちは学校で花香に話しかけようと5年生の教室に行きますが避けられてしまいます。仕方なく、下駄箱の花香の靴の裏に追跡シールを貼る悠真。

放課後そのマーカーをたよりに花香のあとを追いますが、彼女がバスに乗ったため限界の100mを超えてしまい見失ってしまいます。それでもあきらめず捜索し、ようやく花香が住むマンションにたどり着きますが部外者なので中に入ることはできません。

花香の家では足に障害のある小説家の父、義達が寝たり起きたりをくり返しており、家事などはAIのデンスケがおこなっています。義達が花香の靴にシールが付いているのを見つけ外に出ると、悠真たち3人がいたので声をかけて注意します。

悠真が、返してほしいものがあるといい名前を名乗ると、義達はその沢渡という名字に反応します。そして彼らが求めているものがコアだと察し、「お父さんに聞いたのか?」と質問します。

驚きながらも大人には秘密だと答えると義達は、コアは3個ないと起動しないはずだと言い「コアは渡せない」と立ち去ってしまいます。

途方に暮れた3人は、そのまま団地に戻り宇宙船と話し始めます。人工知能にも“死”はあるのかという話になりその概念について語る二月の黎明。1年生のときに父親を亡くしている銀之介はその話を興味深く聞いていました。

その後悠真たちは彼らなりに真剣に花香と向き合い、彼女もそれを受け入れて戻ってきてくれました。作戦にはナナコの協力が不可欠、そこで悠真はナナコにすべてを明らかにするため再起動させます。

突然屋上にいたことにナナコは困惑し悠真たちを安全な場所に戻そうとしますが、二月の黎明の説明と宇宙の画像によって理解し、秘密を打ち明けてくれたことを好意的に受け止めます。

そのころわこはクラスの女子が集まるカラオケにでかけていましたが、先日花香といっしょにいるところを見られたことで“クラスの敵”認定され全員からブロックされてしまいます。

傷心のまま団地に戻ってきたわこは、真悟の自転車を見かけて皆のいる屋上へと上がっていきます。招かれざる客として現れたわこに真悟は嫌悪感をむき出しにし、花香はわこにののしられて気分を害しそこから去ろうとします。

真悟はそんな花香を止めようとしますが、突き飛ばされて柵のない屋上の縁から落ちそうになり…。すんでのところでわこが手を伸ばし、何とか引っ張り上げることに成功しますが真悟は放心状態でガタガタ震えています。

そしてそこへ悠真の母はるかがやってきました。「なにしてるのっ!?」

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ぼくらのよあけ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ぼくらのよあけ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

はるかは屋上に上がってはいけないことを諭し、皆に降りるよう指示します。真悟と、彼を助けるときに手首を痛めてしまったわこを病院に連れていくと約束したはるかは、屋上にあった2個のコアを回収します。

言い訳しようとする悠真を制して家に帰って外に出ないようきつく言ったはるかは、花香が河合義達の娘だとわかると自分の連絡先を伝えます。

はるかは27年前のことを思い出していました。はるかと後に夫となる遼、そして義達はこのあたりに住む幼なじみでした。

3人はここに落ちてきた宇宙船、二月の黎明号に接触し、そのことを秘密にしながら宇宙に返す方法がないか子どもなりに考えていました。

でも現実はそう甘くありません。なんの進展もないまま義達は引っ越すことになり、その前に密かに思いを寄せていたはるかに屋上で告白しますが、強引に返事を迫り怖がったはるかに拒まれ、そのはずみで下に落ちてしまいました。義達の足の障害はそのときの後遺症です。

はるかは真悟とわこを病院に連れていき、改めて悠真を伴って岸家、田所家に謝りに行きます。悠真ははるかがかつてあの宇宙船と接触していながら放置していたこと、コアを回収してしまったことに納得していませんが、いまは従うしかありません。

はるかの携帯電話には義達から電話がかかってきました。東京に戻っていたのね、とぎこちなく話すはるか。

一方悠真はナナコと協力して銀之介や花香と通話をします。残念ながら真悟は出てくれませんでしたが、悠真は自分たちでなんとか宇宙船を動かそうと相談します。

ナナコははるかに隠れてコアを手に入れ、ベランダから悠真とともに家を出ます。再び屋上に集結しますが水がないと二月の黎明はうまく動作しません。空き部屋の浴槽に水を張り、そこで続きを相談します。

宇宙船を飛ばすためには大量の燃料、つまり300万Lの水が必要になります。この団地一棟に貯めればよく、水はこの公団のサイトにアクセスして閉鎖されたバルブを開けて調達することにしました。

虹の根のテクノロジーを使って水分子を固定させればゼリーのように形を保っていられるので、貯めること自体に問題はなさそうです。

打ち上げの日程は軌道計算の結果、例の彗星が接近する8月29日が最も効率的にスイングバイを利用できる日だということがわかり、皆その日を目指して準備を始めます。でも真悟だけは彼らと離れて別の友だちと遊んでいました。

そんなある日、ナナコが悠真に自分はウソをついていたと告白します。オートボットであるナナコはOSのアップデートが必須です。

自分のシステムの異変に気づいていたナナコは自分の意志でアップデートをキャンセルし続けていました。

スタンドアローンのSHⅢとちがい、ネットワークとつながっているナナコはアップデートによってリセットされてしまうため、現状の人格が保てないというのです。

しかも二月の黎明と関わったことでナナコの人格も宇宙船に食い込んで拡張しており、宇宙船が地球を離れればどのみちこの人格は保てないと。

ナナコは自分の人工知能を宇宙船に乗せて虹の根に行かせてほしいと言います。それは悠真と離れることを意味していますが、地球に残れば記憶が消されてしまいます。

その方がイヤだというナナコ。悠真は打ち上げを遅らせれば、と言いかけますが次のチャンスは数十年後だということに加え、この団地はすぐ取り壊されてしまうので今回成功させるしかありません。

悠真はせっかくナナコと楽しく話せるようになったのに…と悲しくなりますが、ナナコの気持ちを尊重することにしました。

ナナコのおかげで母のはるかとも和解した悠真は、危ないことはしないという条件で打ち上げ作戦を了承してもらいます。

そもそも親であるはるかたち3人の悲願でもあった打ち上げです。協力しないわけはありません。

打ち上げには燃料とは別に電圧をかけるための水が必要であり、団地から少し離れたところに建つ給水塔に水を貯めて使うことになりました。その準備も順調に完了しもうすぐ打ち上げというとき、アクシデントが起こります。

貯まった団地の水に工事の建材が触れて破損してしまったのです。分子構造が壊れそこから水が漏れ出して総量が減ってしまいました。

そこで悠真の父、遼が急いで水の補充を進めてくれました。しかし今度は給水塔と団地のつながりが断たれてしまい、電圧がかからなくなってしまいました。

一刻の猶予もないこの状態で、悠真はペットボトルロケットをとばして給水塔と団地をヒモでつなごうと考えます。

その距離およそ80m。ロケットを遠くに飛ばすことには自信のある悠真ですが、目的の地点にドローンを着地させられるかは微妙です。するとそこへ、銀之介に電話で呼び出された真悟がやってきました。

仲直りしたかった真悟は呼び出しに応じ、得意のドローン操作を買って出ます。

横風にあおられながらもドローンは無事に着地し、打ち上げ準備は完了です。悠真は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながらナナコと別れのあいさつをします。

これからナナコたちは太陽系をでるまで37年かかるので、悠真は大人になったら宇宙飛行士になって追いかける、と約束します。

そしてついに団地から水のかたまりが浮き上がり、やがてとがった貝のようなフォルムの透明な宇宙船が姿を現します。

水の力で打ち上がったそれは、地球の外でSHⅢと「また会おう」と言葉を交わし、一部を分離させて飛び去っていきました。

沢渡家引っ越しの日。悠真は段ボール箱の中に、いまは無反応のナナコの身体を大切にしまいます。そして取り壊されるあの団地や給水塔を見ながら車に乗り込むのでした。

映画『ぼくらのよあけ』の感想と評価

(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

映画『ぼくらのよあけ』は、少年少女たちが他人や他から来た者、そして人間ではない物との交流によって成長していくジュブナイル作品です。

さらにその親たちの子ども時代の出来事をリンクさせることによって、親世代の過去への振り返り子どもへの接し方などに再度真正面から向き合う構造になっています。

単なる子ども向け作品とあなどることなかれ。宇宙やAIの知識はもとより、死生観まで考えさせられる内容で、もし親子で鑑賞したあとはそんな話題で話し合えるような良質な作品となっています。

原作とのちがい

原作は2011年の作品なので、映画化にあたり多少改変が施されています。
大きなところではそもそもの時代設定がちがいます。原作では2010年に宇宙船がやってきて、悠真たちは2038年の小学4年生という設定ですが、映画は2022年に宇宙船がきてその27年後の2049年という設定になっています。

原作執筆のころにはまだ阿佐ヶ谷団地はあったのですが、2013年に取り壊されてしまったので現在はありません。でも映画の中で悠真たちはそこに暮らしており、もうすぐ退去しなければなりません。その取り壊しへの思いや時間的な制限が、映画に深みと緊張感をもたらしています。

また、「ひと夏の少年たちの冒険」というメインテーマはそのままに、120分という一般的な映画の枠に収めるため親たちや姉のエピソードは短くシンプルになっています。特に花香とわこというティーン女子の他人との距離感のむずかしさについて、映画ではわこが一身に背負うことになってしまった感がありちょっとかわいそうでした。このあたりはぜひ原作マンガでちがいを知ってほしいところです。

圧倒的なビジュアル

(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

この映画で目を引くのは画面の美しさです。

まず始まってすぐ、なんの説明もないところで出てくる見たこともない風景。それが宇宙船、二月の黎明号が見せてくれた「虹の根」の風景なのですが、その圧倒的な存在感、独特の世界観、これはぜひ劇場の大きな画面で観ていただきたいです。
原作にも知的生命体が海から陸へ、そして宇宙へと未知の世界を渇望するシーンはあるのですが、それをさらに発展させ、色彩豊かに表現することができたのはイラストレーター、みっちぇの力によるところが大きいと思います。

そして「虹の根」以外のシーンも素晴らしいです。宇宙空間に浮かぶ団地、そこから見た地球、飛び立つ“水”の宇宙船などSF的なシーンはもちろんのこと、悠真が初めて屋上に出たときの広々とした青空と入道雲、それを見た悠真の感激は観客にも視覚的に伝わってきます。

このチームでのアニメーションをもっと観たくなる、そんな気にさせてくれる美しさです。

『雨を告げる漂流団地』とのめぐり合わせ

2022年は奇しくも2本の取り壊される団地を描いたアニメーション映画がたて続けに公開されました。

子ども時代を団地で過ごした世代が製作側としてメインの年代になった、というたまたまのタイミングなのかもしれません。団地を舞台にした映画は数多くありますが、団地そのものが「船」という映画はなかなかありません。

そんな2本がほぼ同時期に公開されたのはなにか運命のようなものを感じます。そして両方の映画とも団地愛にあふれ、なくなってしまう、あるいはなくなってしまったあたたかなコミュニティに思いを馳せる内容になっているのは興味深いところです。

家族だけでなく多くの周囲の人間に囲まれて育った少年少女たち。そこから巣立つことでさらなる成長があることを予感させる2つの作品は、やはり同年代の子どもたちに見て感じてほしい映画です。

映画『ぼくらのよあけ』公式サイトの中で、両映画の監督(黒川智之、石田祐康)の対談が掲載されているのでぜひ読んでみてください。

まとめ

(C)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

この作品は少年少女向けのジュブナイル作品ですが、それだけにとどまらない奥深さを持っています。

人間ではない人工知能、AIとの共存地球外の生命体との接触
よくあるSFの題材ではありますが、どちらかというとそれらはいままでネガティブな結末を迎えることが多かったように思います。でもこの作品では、どちらもこれからの未来に明るい希望を抱けるような展開になっており、さわやかな余韻を残してくれます

そしてそれだけでなく、現在まわりにいる人たちへの接し方についても考えさせられる示唆に富んだ内容になっています。
いろいろ振り返ってみるのもよいかもしれません。

(個人的には、阿佐ヶ谷住宅について調べてみたくなりました)

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