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Entry 2020/06/07
Update

【未体験ゾーンの映画たち2020ベスト10】Wiki情報より詳細に内容考察。ラインナップ54本+1本を全て見たシネマダイバー《増田健セレクション》

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第55回

さまざまな理由から日本公開が見送られていた映画を紹介する、恒例となった上映企画”未体験ゾーンの映画たち”。今回の「未体験ゾーンの映画たち 2020」の全54本の上映作品が紹介されました。

さらに今回は、クロージング上映作品として”史上最も愛された駄作”『ザ・ルーム』(2003)が追加上映されました。

さてコロナ禍に翻弄された「未体験ゾーンの映画たち 2020」。全作品を見届けた私が、独断と偏見で選んだベスト10を発表します。今年は深掘りすると興味深い作品ぞろい。順位に関わらず、コラムを参考に見たい作品を選んで頂ければ幸いです。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

『未体験ゾーンの映画たち 2020』より、第10位から第6位まで紹介

第10位『ふたりの映画ができるまで』


(C)2017 The Pretenders, Inc. All rights reserved.

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
The Pretenders

【監督・出演】
ジェームズ・フランコ

【キャスト】
ジャック・キルマー、ジェーン・レヴィ、シャメイク・ムーア、ジュノー・テンプル、ブライアン・コックス、デニス・クエイド、ジェームズ・フランコ

【作品概要】
自ら監督・主演した『ディザスター・アーティスト』(2017)で、2018年ゴールデングローブ賞の、主演男優賞受賞の栄誉に輝いたジェームズ・フランコ。

彼がヌーヴェルヴァーグ期のヨーロッパ映画に、深いリスペクトを捧げた、映画愛に満ちたファンタジー恋愛劇。映画ファンならびに、80年代のアートシーンに興味がある方なら、絶対に見るべき作品です。

ジェームズ・フランコの実績を信じて集まった、優れた俳優陣・スタッフが結集した、極めて高い完成度を持つ作品です。

【鑑賞おすすめポイント】
ところがこの作品、#MeToo運動の後に批判の嵐に晒された、ジェームズ・フランコの作品だと思うと、とんでもない作品にも見えるから大変です。「映画的には素晴らしいが、政治的・道義的に間違った映画」の、新たな1本になるのでしょうか…。

『ディザスター・アーティスト』の製作前、トミー・ウィゾーはネタなのか、身の程知らずの本音だったのか、「俺を演じられるのはジョニー・デップだけだ!」と発言していましたが、最終的にはフランコが自身を演じることを認めました。

今となっては、トミー・ウィゾーの優れた慧眼(?)に従うべきだったのでしょうか。ともかく様々な人物、作品に迷惑をかけたフランコ。それでも『ふたりの映画ができるまで』はイイ映画と紹介できるので…困ったものです。

第9位『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』


(C)2018 MAKESHIFT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
The Man Who Killed Hitler and Then The Bigfoot

【監督・脚本】
ロバート・D・クロサイコウスキー

【キャスト】
サム・エリオット、エイダン・ターナー、ラリー・ミラー、ケイトリン・フィッツジェラルド、ロン・リビングストン

【作品概要】
この凄いタイトル、勝手に付けた邦題ではありません。そのものズバリが原題です。トンデモタイトルに引き寄せられるように集まった観客が、想像したものと全く次元の異なる作品に遭遇し、深い感動と困惑を与えられた問題作です。

古き良きアメリカ男を体現した名優サム・エリオットが、そのイメージに忠実な主人公を演じ、その上で着ぐるみモンスター”ビッグフット”と対決するから大変です。

アメリカに伝わる伝統的な”トール・テール”(ほら話)を、真正面から描いた意欲作。こんな豪華キャストの名作(迷作?)は、2度と現れないかもしれません。

【鑑賞おすすめポイント】
洒落の判る人でないと付いてこれない物語を、洒落の判る人でも戸惑いを覚えてしまう、感動的な展開で、大真面目に描いて見せた力作。なんだこの映画?と思った方、だれもが抱いた感想ですから、ご安心下さい。

こんな特異な作品が、サム・エリオットやエイダン・ターナーの出演で作られた奇跡。ポンコツなトンデモ映画は数あれど、本作のようなジャンル映画の枠を越えた、見応えある珍品映画は希少です。我こそはと思う方は、ご覧になって大いに困惑して下さい。

第8位『プライス 戦慄の報酬』


(C)Firefly Films

【日本公開】
2020年(カナダ・ニュージーランド・アイルランド・アメリカ合作映画)

【原題】
Come to Daddy

【監督】
アント・ティンプソン

【キャスト】
イライジャ・ウッド、スティーブン・マクハティ、マーティン・ドノヴァン、マイケル・スマイリー

【作品概要】
長年疎遠だった父に招かれ、その家を訪ねたイライジャ・ウッド。しかし父の態度にどこか違和感を覚えます。その父が突然急死すると、彼は思わぬトラブルに直面し、やがて人生最大の危機に遭遇してしまう、巻き込まれ型のサスペンス映画。

熱演・怪演が大好きで、奇妙な役柄は大歓迎のイライジャ・ウッドが、実に満足したであろう怪作。共演者もクセ者俳優ばかり、感動の親子対面がもたらしたドタバタ劇が楽しめます。

サスペンス要素と、感動の親子モノの要素がある作品ですが、想像の斜め上を行く展開が笑いを誘います。ブラックユーモアが好きな方に必見の映画。

【鑑賞おすすめポイント】
全編困惑した表情のイライジャ・ウッドが、いつの間にやら下ネタだらけの修羅場の当事者になる姿は、不条理な笑いをもたらす将にコントです。ここに至るまでに物語は右往左往、こんな展開になるとは誰も予想できないでしょう。

本作はドタバタ喜劇ではありません。日常に潜む残酷性を、シュールかつナンセンスな展開と、ヒネた笑いで見せる奇妙な作品、これまた希少価値のある珍作です。

第7位『FREAKSフリークス 能力者たち』


(C)2018 ABNORMAL DEFENSE FORCE INC. 2018 RELIANCE ENTERTAINMENT PRODUCTIONS 12 LIMITED

【日本公開】
2020年(カナダ・アメリカ合作映画)

【原題】
Freaks

【監督・製作・脚本】
ザック・リポフスキー、アダム・B・スタイン

【キャスト】
エミール・ハーシュ、ブルース・ダーン、レクシー・コルカー、グレイス・パーク、アマンダ・クルー

【作品概要】
超能力者を弾圧するデストピア社会で、密かに隠れ暮らしていた一家。しかし幼い娘が能力に目覚めたことで、彼らは自分たちを抑圧する組織との対決を決断する、サイキックSF映画。

『X-メン』(2000)シリーズなどでお馴染みの、ミュータントVS人間社会を描いた、お馴染みのジャンルを描く作品ですが、ストーリーや能力の見せ方に工夫を凝らしています。

若手映像クリエイター発掘リアリティショー番組が生んだ、スティーブン・スピルバーグらが推した若き才能が完成させた、注目の一本です。

【鑑賞おすすめポイント】
ある日突然超能力に目覚める、その原因は!?UFOに遭遇したり、隕石に触ったり…まるでトラックに跳ねられて異世界に転生する設定のように、適当なご都合主義で処理されがちですが、本作は思わぬ形で発動した能力を、緻密に表現しています。

今までにない形の超能力描写も含め、お約束のジャンルとなった超能力映画に、更に新たな工夫が出来ないかと徹底的に追求した作品です。SFファンなら必見です。

第6位『スキンウォーカー』


【日本公開】
2020年(カナダ映画)

【原題】
Lifechanger

【監督・脚本】
ジャスティン・マクコーネル

【キャスト】
ローラ・バーク、ジャック・フォーリー、レイチェル・バンダザー、スティーブ・カザン、エリツァ・バコ、サム・ホワイト

【作品概要】
人間の生命だけでなく、その姿や記憶まで奪う謎の生命体。その生態を人間社会に潜んで暮らす、生命体側の視点で描いた大胆な設定のSFホラー映画。

低予算映画ならではの制約を、逆手に取ったかのような、先の読めない展開で物語は進みます。特殊効果にこだわりを見せながらも、最後はB級ホラーの枠に収まらない、余韻のある詩的なラストを観客に提示します。

北米に伝わる”シェイプシフター”など、人に化ける能力を持つ伝説のモンスターに、新たな設定と生態を与えた、現代的怪談映画としてお楽しみ下さい。

【鑑賞おすすめポイント】
このホラー映画は、B級映画にありがちなラストを採用していません。そこに戸惑いを覚える方もいるでしょう。しかしあえてこのようなオチを選んだジャスティン・マクコーネル監督。その結果抒情的で、寓話のような物語になりました。

コラムではこの映画が生まれた背景に、監督の辛い個人的体験があったことを紹介しました。映画は作り手の背景を知らずとも楽しめますが、それを知ると更に意味深く感じられる場合もあります。B級ホラー映画と侮るなかれ、心に突き刺さる作品です。

第5位『フューリーズ 復讐の女神』

スラッシャー描写が凄すぎる、トンデモ設定バイオレンスホラー!


A Tony D’Aquino film, (C) 2019 Killer Instinct The Movie Pty Ltd, All Rights Reserved

【日本公開】
2020年(オーストラリア映画)

【原題】
The Furies

【監督・脚本】
トニー・ダキノ

【キャスト】
エアリー・ドッズ、リンダ・ゴー、テイラー・ファーグソン

【作品概要】
突然さらわれ、目覚めた8人の女。彼女たちは8人の殺人鬼に襲われる。それは仕組まれた、恐るべき殺人ゲームだった…というスラッシャー・ホラー映画。

この殺人ゲームの規模、仕切っている連中の正体。考え出すと無茶が多く実にB級映画感が漂う、愛おしくなってくる困った映画です。しかし製作者が様々な殺人鬼と、その凶行を描くことに全力投入している様が、ひしひしと伝わる作品です。

趣味の悪い映画だと言われば、それは否定できません。しかし徹底した残酷描写、それも特殊メイクを駆使した描写にこだわる姿は、スプラッター映画と呼ばれるジャンルを愛する人を、間違いなく満足させるでしょう。

【鑑賞おすすめポイント】
70~80年代の、ホラー映画ファンだと自認するトニー・ダキノ監督。彼が何を望んで、この映画を作ったのかは明白です。監督の友人でもある特殊効果マンが、その狙いを叶えるべく実にイイ仕事をしています。

その成果は監督をして、「やり過ぎだったかも…」と言わせた出来栄え。あえて明るい場面ではっきり見せる、特殊メイクや造形が生む残酷描写の数々が登場します。

映画のストーリーは脇に置いてでも、ファンは注目すべき描写の数々が出現。残酷描写は苦手な人は?それはもう、見たら大変なことになること必至です。

第4位『ストレンジ・シスターズ』

妖怪”首なし女”ガスー、美少女ホラー映画として復活!


(C)2019 SAHAMONGKOLFILM INTERNATIONAL CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

【日本公開】
2020年(タイ映画)

【原題】
กระสือสยาม / Sisters

【監督・製作・原案】
プラッチャヤー・ピンゲーオ

【キャスト】
プロイユコン・ロージャナカタンユー、ナンナパット・ルートナームチューサクン(ミューニック)、スパコーン・キッスワン、ラター・ポーガーム、アパー・パーウィライ、チンナパット・キティチャイワラングーン

【作品概要】
かつてビデオバブルだった頃の、日本のホラー映画マニアの間で話題になった、インドネシア映画『首だけ女の恐怖』(1981)。あの作品に登場した恐るべき、見た目が余りに怖すぎる女妖怪”ガスー”が帰ってきた!

しかも監督は、トニー・ジャー主演映画で有名な、プラッチャヤー・ピンゲーオ監督。彼の手によって、タイ製のアイドルホラー映画として蘇りました。

CGを使いグロテスクに登場する”ガスー”、犠牲者も凄惨な姿を晒しますが、映画のトーンはアイドル映画らしい美しさで、ヒロインたちは実に健気。完成度の高い青春ホラー映画として、大いに楽しめる作品です。

【鑑賞おすすめポイント】
実は本作のアイデアは、様々なアクション映画を手がける以前からあった、と語っているピンゲーオ監督。しかし当時のCG技術では、費用的にも視覚効果的にも問題が多く、諦めざるを得なかったと話しています。

後にCG技術が発達した結果、本作の製作がスタートしました。それでも撮影後のポスプロ作業に時間がかかり、その間に出演したナンナパット・ルートナームチューサクンは、アイドルグループBNK48に入り愛称”ミューニック”として活躍、映画ヒットの立役者となりました。

第3位『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』

北欧ノルウェーを舞台に、ブラック過ぎるゾンビ大戦勃発!


TAPPELUFT PICTURES (C) 2014

【日本公開】
2020年(ノルウェー・アイスランド合作映画)

【原題】
Dead Snow: Red vs. Dead / Død snø 2

【監督・脚本・製作総指揮】
トミー・ウィルコラ

【キャスト】
ヴェガール・ホール、マーティン・スター、オルヤン・ガムスト、ジョスリン・デボアー、イングリッド・ハース、スティッグ・フローデ・ヘンリクセン、ハルバルド・ホルメン

【作品概要】
ノルウェーの雪山を訪れた若い男女が、呪われた財宝を手にしたことで。ナチス兵部隊のゾンビに襲われる映画『処刑山 デッド卍スノウ』(2007)。過激な暴力描写で話題を呼んだ前作の、待望された続編です。

前作のラストから続く、実に正統派のスタイルで本作は始まります。予算もスケールもアップ、スプラッター描写はパワーアップ、それ以上にブラックユーモア溢れる、痛快ゾンビコメディ映画となりました。

様々な映画のパロディを小ネタに盛り込みながら、ノンストップで暴走する惨劇と笑いの嵐。トミー・ウィルコラ監督が愛する、『バタリアン』(1985)や『ブレインデッド』(1992)のファンなら必見です。

【鑑賞おすすめポイント】
本作に最も影響を与えたのは、サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(1981)。それも前作が『死霊のはらわた』なら、本作は『死霊のはらわたⅡ』(1987)といったノリで作られました。

両作の主人公マーティンは、まさに『死霊のはらわた』の主人公アッシュのような成長を遂げ、同時にアッシュのようにドタバタ劇を展開します。

何故か大暴れするタイガー戦車、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980)のロケ地として有名なノルウェー…この言葉にピンと来た方も、見逃せないコメディ映画です。

第2位『リトル・モンスターズ』

豪華キャストで贈る、バチあたりゾンビコメディ映画


(C)2019 Little Monsters Holdings Pty Ltd,Create NSW and Screen Australia

【日本公開】
2020年(イギリス・オーストラリア・アメリカ合作映画)

【原題】
Little Monsters

【監督・脚本】
エイブ・フォーサイス

【キャスト】
ルピタ・ニョンゴ、ジョシュ・ギャッド、アレクサンダー・イングランド、キャット・スチュワート

【作品概要】
幼稚園の遠足が、何故かソンビの群れに遭遇!ちびっこたちを守るのは、ルピタ・ニョンゴ先生にボンクラ男、子供番組ホストのパリピなゲス男、というお騒がせゾンビコメディ映画。

園児たちが肉食系の、ノロノロ動くゾンビに遭遇、という時点で不謹慎感が漂い始めますが、本作はFワード溢れる、お子様の目にも耳にも相応しくない、大人の笑いが詰まった作品です。

凄惨なシーンとお下劣な言葉が飛び交うブラック・コメディですが、同時に主人公の成長を描き全編に歌が登場する、何とも明るく楽しいゾンビ映画でもあります。

【鑑賞おすすめポイント】
「人が笑うべきではないと敬遠する題材で、笑いが取れる事ほど嬉しい事はない」と語る、エイブ・フォーサイス監督の姿勢を体現した本作。笑いを得るための、本物志向も忘れていません。

出演のジョシュ・ギャッドは、『アナと雪の女王』(2013)シリーズのオラフの声役で有名な、『美女と野獣』(2017)にも出演し歌を披露した人物です。

そんなディズニー映画の顔役が、本作ではゲスの極みな男を歌と踊り付きで熱演。くだらない人物を本物が演じる素晴らしさが、本作の悪ノリ精神を高めているのです。

第1位『ナンシー』

SNS時代を反映した、心にしみる”なりすまし”サスペンス


(C)2017 Nancy the Film, LLC

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
Nancy

【監督・脚本】
クリスティーナ・チョー

【キャスト】
アンドレア・ライズボロー、スティーブ・ブシェミ、ジョン・レグイザモ、アン・ダウド、J・スミス=キャメロン

【作品概要】
自分を偽わった上で、他人と交流する人間を姿を描いたサスペンス・スリラー。同時に心に空虚や悲しみを抱えた人間が、触れ合いを通じ変化する様を描くヒューマンドラマ。サンダンス映画祭で脚本賞を受賞した作品です。

著名な俳優が出演していますが、本作はワークショップ形式で作られたインディペンデント映画。低予算かつ長い製作期間…撮影と撮影の間が空いた結果…という環境で作られました。

そのような環境にあって見る者の胸を打つ、心に染みる映画を完成させた、クリスティーナ・チョー監督の力量を示す佳作です。

【鑑賞おすすめポイント】
ドキュメンタリー作品を製作している、チョー監督の人間に対する観察眼が光る作品で、主人公をとりまく人々の描写が、物語の深みを増しています。

また主人公のなりすまし行為についても、監督は断罪せず動機を明確に説明しません。全ては観客に委ねられ、その意味は各々が考えざるを得ないのです。謎解きサスペンスではなく、文学的作品だといえるでしょう。

そしてワークショツプという製作形式を支えた、映画製作支援団体、プロデューサー、そして優れた俳優陣。日本のワークショップ映画とは異なる体制に、アメリカの映画人を育成する姿勢の充実ぶりを感じました。

鋭い視点を持つ、優れた人間ドラマとして楽しめる映画です。ある意味「未体験ゾーンの映画たち」に相応しくない作品です。しかしこんな映画も含んでいるからこそ、油断できない劇場発の映画祭だと、実感させてくれる作品です。

まとめ

シネマダイバーの増田健がセレクトした、【未体験ゾーンの映画たち 2020】ベスト10はいかがでしたか。

紹介した10本を並べただけでも、ジャンルも質も異なるユニークな作品が並んでいると、お判りいただけましたか。特に今回は「珍品」と評すべき、ユニークな作品が並んだと感じました。

今回は既に日本でDVDスルー・有料放送が実施された作品を、改めて劇場公開した作品が多かったのが一つの特徴でした。

優れたユニークな作品に再評価の機会を与える意味でも、このような劇場公開や作品紹介の機会は、増えるべきだと断言しておきます。

ここで紹介出来なかった作品も、深掘りすると様々なセールスポイントが見えてきます。それらは連載コラム形式で紹介してますので、鑑賞の手引きにして頂ければ幸いです。

【オマケ】忘れてはいけない!”怪人”トミー・ウィゾーの『ザ・ルーム』

監督・脚本・製作総指揮そして主演の、トミー・ウィゾーの英語を知らずとも、十二分に理解できる凄まじい演技は序の口です。気持ち悪過ぎる登場人物の不可解な人間関係、前ふりもなく登場するセリフや人物、無駄にインサートされる謎の風景…。

部屋の随所にある謎のスプーン。女優の姿よりも、トミー・ウィゾーの尻の描写に徹したとしか思えないベットシーン。誰でも理解できる映画の壊れっぷりが、全米で大反響とカルト的人気を呼び、観客がツッコミを入れて楽しむ”スプーン上映”が各地で催されました。

参考映像:『ザ・ルーム』:”スプーン上映”の楽しみ方

この映画製作の舞台裏を描いた映画、ジェームズ・フランコの映画『ディザスター・アーティスト』(2017)を通じて、この愛すべき最低映画を知った人も多いでしょう。

「未体験ゾーンの映画たち 2020」の劇場上映では、日本初となる”スプーン上映”の実施が予定され、ファンの間で大きな注目を集めていました。

ところが、残念なことにコロナ禍が世界中に、そして映画館にも余りに大きな影響を与えました。コロナの感染者が増える中、関係者が実施に向け様々な準備を進めていた”スプーン上映”も、涙を呑んで中止することになりました。

映画館という場所に人が集まり、同じ映画を共有して楽しむ、劇場ならではのイベントが、こんな形で中止され誠に残念です。多くの人々や、様々な業種の方々が同じ悔しさを抱えているとはいえ、一映画ファンとして、実に寂しく感じた出来事でした。

関係者は状況が収まれば、日本での”スプーン上映”を実施しようと尽力されています。また映画館で、大画面に映し出された作品を皆で共有し、気兼ねなく楽しめる日が戻ってくると信じています。『ザ・ルーム』”スプーン上映”の実施を心待ちにしています。

来年も従来通りの形式で「未体験ゾーンの映画たち」が行われるか、関係者は今後の状況をにらみつつ、苦慮されているものと思います。しかしユニークな作品を紹介するこの劇場発の映画祭の、存続を強く希望しております。

こういったユニークな映画に興味をお持ちの方に、少しでも面白い情報が提供できるよう、微力ながら応援させて頂きます。映画の公開に関わる方々、映画館の運営に関わる方々にエールを送りつつ、このコラムを終了させて頂きます。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2019見破録』記事一覧はこちら





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