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Entry 2020/01/27
Update

映画『フューリーズ 復讐の女神』あらすじネタバレと感想。ガチ怖ホラーとスラッシャーの“トニー節”が炸裂|未体験ゾーンの映画たち2020見破録13

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第13回

世界各地の映画が大集合の「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田でも実施、一部作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。

前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。

今回も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第13回で紹介するのは、オーストラリアのホラー映画『フューリーズ 復讐の女神』

殺人鬼が登場し犠牲者を殺害するスラッシャー映画。70~80年代の特殊メイク技術が発達する中、ビデオ市場の拡大と共に、世界中で刺激的なホラー映画が求められた時代に、続々と作られ一大ブームを巻き起こしました。

そういった映画に多大な影響を受け、そしてオマージュを捧げる作品が、オーストラリアで誕生しました。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

映画『フューリーズ 復讐の女神』の作品情報


A Tony D’Aquino film, (C) 2019 Killer Instinct The Movie Pty Ltd, All Rights Reserved

【日本公開】
2020年(オーストラリア映画)

【原題】
The Furies

【監督・脚本】
トニー・ダキノ

【キャスト】
エアリー・ドッズ、リンダ・ゴー、テイラー・ファーグソン

【作品概要】
驚きのシチュエーションで繰り広げられる殺人ゲームを描いた、スラッシャー・ホラー映画。ミュージックビデオやCM、TVドラマを手がけて来たトニー・ダキノ初の長編映画である本作は、シッチェス映画祭”Midnight X-Treme”部門で最優秀作品賞にノミネートされるなど、世界各国のファンタステック映画祭で上映され、好評を得ています。

主演は「未体験ゾーンの映画たち2018」で上映された『キリング・グラウンド』のエアリー・ドッズ。特殊効果には『ハクソー・リッジ』に加わった、ラリー・ヴァン・ディンホーフェンらが参加、見ごたえある残虐シーンを生み出しています。

ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。

映画『フューリーズ 復讐の女神』のあらすじとネタバレ


A Tony D’Aquino film, (C) 2019 Killer Instinct The Movie Pty Ltd, All Rights Reserved

林の中を逃げまどう女。彼女をマスクを付けた大鎌を持つ男が追います。足に怪我した女はもう逃げる事が出来ません。彼女が襲われようとしたその時、もう1人仮面を付けた男が現れます。

恐怖に震える女の前で、2人に仮面の男は格闘します。後から現れた男は大鎌を奪うと、相手を惨殺します。生き残った男は、震える彼女を抱きかかえ、どこかに去って行きます…。

場面は変わり夜の街で、ケイラ(エアリー・ドッズ)は友人のマディと、スプレーで壁に落書きをしていました。ケイラは意識障害(突然体が動かなくなり、外部からの刺激に反応できなくなる症状)の持病を抱えていましたが、今までマディに助けられていました。

しかしマディもこれからずっと、彼女の面倒を見ている訳にはいきません。ケイラ自身も積極的になるべきだと訴えると、2人は言い争いになり、マディが先にこの場を離れます。

ところが叫び声と共に、マディの姿が消えます。彼女の名を呼んでも返事はありません。不安に襲われたもケイラも突然襲われ、拉致され意識を失います。ぼんやりとした意識の中で、彼女は手術台の上にいたようです。

彼女は突然鳴り響くノイズ音で目を覚まします。目の前のライトが赤く光っています。ケイラは荒れた林の中に置かれた、黒い箱の中にいました。

嫌な音から逃れるべく、黒い箱から出たケイラ。周囲には誰も居ません。自分の手に血が付いていますが、左目から出血していたようです。我に返りマディを探す彼女は、近くに朽ち果てた遺体があることに気付きます。

突然2人の女が現われ、声を上げようとしたケイラの口を塞ぎます。追手に居場所を知られると言う2人は、アリスとシーナ(テイラー・ファーグソン)と名乗りました。

2人は危険な何者かに追われており、すぐ移動するべきだと訴えます。尋ねると2人共、マディの姿を見ていませんでした。そして何かを思い出し、突然走り出すケイラ。

ケイラは自分が入れられていた箱に戻り、中を探りますが意識障害の薬はありませんでした。パニックが引き起こしたのか、発作を襲われるケイラ。意識障害の症状で彼女の視覚は働いていますが、体は倒れ動かす事ができません。

2人は不安そうにケイラを見ていました。やがて彼女は意識を取り戻しますが、数分ほど発作に襲われていました。彼女はアリスに、意識障害の発作を起こすと、意識を失ったり幻覚を見たりすると説明し、その薬が今手元には無いと打ち明けます。

彼女は発作で倒れた時、斧を持ち歩いている男の視点の幻覚を見ていたようでした。改めて箱を見ると、そこには“美女6”と記されていました。

シーナは助けを求めに、既に移動していました。アリスは彼女にシーナの後を追おうと言います。2人は歩き出し、ケイラはアリスにここに来る前の事を、何か覚えているかと尋ねます。

アリスは駐車場で盗みを働いていて、いきなり拉致されました。目に何か処置をされ、同じように黒い箱の中で目覚めます。もう一度尋ねても、やはりマディを見ていないと答えるアリス。

マディの名を叫ぶケイラを、追手に気付かれると言ってアリスが止めます。マディ探しに協力しない彼女に、ケイラはなぜ行動を共にするのか尋ねますが、2頭いる豚を追う時、猟犬は足の遅い豚を追うとアリスはケイラに告げました。

2人は新たな黒い箱を見つけますが、それは“野獣6”と記されており、中には何もありませんでした。すると斧を持った、異様なホッケーマスクのような仮面を付けた男が現れ、2人はとっさに箱の影に身を隠します。

男が迫ってくるとアリスは枝を投げ、注意をそらします。その隙に逃げようとケイラを促すアリスですが、彼女は発作に襲われていました。その時ケイラはまたしても、追跡者の視点になって眺めていると感じていました。

やむなく動きの取れないケイラを残し、アリスは全力で駆けだしますが男に追われます。男の投げた斧が木にめりこみ、それを抜こうとするアリスは男に捕らわれます。アリスの頬に斧をめり込ませてゆく男。

ようやく意識を取り戻したケイラが、アリスの元に駆け付けると、彼女は無惨な姿で殺されていました。ケイラが走ると林が途切れ、荒野が果てまで見渡せる場所に出ます。何もありませんが見通しが良く、いきなり襲われる可能性はありません。意を決し荒野に駆け出すケイラ。

ところが荒野の先に、何本もの杭が並んで立っています。彼女が近づくと杭の先に付いたライトが赤く光りだし、箱の中で聞かされたノイズ音が響き渡ります。不快な音に苦しめられ、ケイラは先に進むことが出来ません。

そこに悲鳴を上げ1人の女が駆けてきます。彼女は先程の斧を持った男に追われていました。ケイラは彼女に手を振りますが、男の投げた斧が彼女の背中に命中します。

男はなぜかケイラに手を振ります。唖然としたまま、思わず男に手を振るケイラ。傷付いた女に止めを刺そうとする男ですが、醜い人面のマスクをした、手鎌を持つ男が現れます。

斧の男はケイラに目をやると、手鎌の男に向かいます。2人の殺人者が争い始めた隙に、ケイラは傷付いた女を助けに向かいます。サリーと名乗る女に肩を貸して逃げ出すケイラ。背後では手鎌の男が、斧の男を倒していました。

深手のサリーは寒気を訴え、これは私たちに与えられた罰だと呟きます。血の跡を伝って手鎌の男が追ってくると、サリーの身を枯れ枝で隠し、助けを求めて走り去るケイラ。

しかしサリーは手鎌の男に見つかります。男は彼女の顔を眺めてから、サリーの両腕を引きちぎります。一方ケイラは現れた豚のマスクをつけた、ナタを持った男に襲われます。必死に抵抗するケイラですが、突然彼女の目前で、男は頭を破裂させて倒れます。

何が起きたか理解できないケイラですが、我に返りサリーの元に急ぎますが、彼女は死んでいました。気を取り直しナタを手にして進むケイラは、廃屋が並ぶ集落を見つけます。地図看板を見ると、ここは廃鉱山近くの集落のようです。

小屋の1つに入ったケイラは、背後に忍び寄る人物にナタを振るいます。それは同じ殺人者から逃げる女の1人でした。彼女の首に深い傷を負わせたケイラは、動揺しながら謝ります。そこにもう1人の女を連れたシーナが入ってきます。

シーナに事故だったと訴えるケイラ。しかし傷を負わせた女は死に、ショックで発作を起こすケイラ。その時彼女はまた何者かの視点で幻覚を見ていました。それは視点となった人物の手で、廃坑近くに隠されるマディの姿でした。

マディ、と叫び意識を取り戻したケイラに、シーナと共に現れた女が、誰の名前か訊ねます。友人のマディだとケイラが説明すると、彼女はローズ(リンダ・ゴー)と名乗り、シーナはナタを手に外の様子を伺いに出ており、ケイラに殺された女はジャッキーだと説明します。

ローズは親戚が意識障害を患っていたので、彼女の症状を理解していましたが、シーナに取り残されて怯えており、自分も殺すのかとケイラに訊ねます。あれは事故だったと説明し、2人は友人となって離れずに、今後は助け合おうと告げるケイラ。

ケイラはローズに何を体験したか尋ねます。彼女はフクロウのマスクを付けた殺人者を目撃していました。そしてシーナと出会い、2人で行動していました。

発作を起こした時、自分が見た光景はただの幻覚ではない、と感じていたケイラはある事に気付きます。そして小屋の中を探し、スプーンを見つけます。

ローズが叫ぶ中、ケイラはジャッキーの遺体の左目をえぐり出します…。

以下、『フューリーズ 復讐の女神』ネタバレ・結末の記載がございます。『フューリーズ 復讐の女神』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


A Tony D’Aquino film, (C) 2019 Killer Instinct The Movie Pty Ltd, All Rights Reserved

ケイラがえぐり出した目玉には、何か装置が埋め込まれていました。何者かが彼女らの目に装置を埋め込み、その視界を通じて監視していたのです。ローズの目を通して、監視者に対して呼びかけるケイラ。

彼女が呼びかけた何者かは、8組のモニターに流れる映像を通して、彼女たちを監視していました。モニターには映像ではなく、ドクロが表示されているものもあります。

集落に赤ん坊のようなマスクをつけた、ナイフを持つ男が現れます。2人のいる小屋にシーナが戻ってきました。シーナは外の男は自分を見て立ち去った、と語ります。

ケイラは2人に装置を仕込まれた目玉を見せ、同じものが自分たちにも埋め込まれ、これを通じ監視されていると説明します。2人も拉致された後、手術台にいた記憶がありました。

小屋の外に男が現れます。それは斧を持った男を倒し、サリーを殺害した手鎌を持つ男でした。3人は身を潜めますが、男は小屋に入ってきます。そしてローズを捕まえると、その顔を眺めます。

その隙にシーナが男を襲い、ケイラと共に小屋の外に追い出しました。男がローズをいきなり殺さず、顔を見たこと不思議に思いますが、これでケイラは確信しました。

ケイラの入っていた箱には“美女6”と、シーナとローズの箱にも異なる数字で同様に書かれていました。他に“野獣6”と書かれた箱もありました。何者かによって用意された犠牲者の女と殺人者の男は、ペアを組まされていたのです。

殺人者は自分のペアの女を守りながら、他の女とそして殺人者を殺します。女が死ぬと、ペアの殺人者はケイラが見たように、頭を爆破され死んでしまいます。彼女らは何者かが仕組んだ、特殊な殺人ゲームの参加者だったのです。

殺人者は言葉を発することが出来ず、教えられた顔を確認してペアの女を探すしかありません。一方女は誰がペアの殺人者か判らず、ただ逃げ回るしかないのです。

ケイラは皆で力を合わせ、マディを探し脱出しようと訴えます。おそらく廃坑こそ、この殺人ゲームから逃れられる、唯一の脱出口だと彼女は考えていました。

しかしジャッキーを誤って殺した時、ペアの殺人者が死んだと考えると…。殺人者より用意に殺せる、自分以外の女を殺して、襲ってくる殺人者を始末する方法もあります。

そしてケイラが発作中に見た、装置の混信か何かで起きた光景は、恐らくマディはペアの殺人者に匿われている姿でしょう。ゲームのルールに従うなら生き残るのは勝者、最後まで残った男女ペアです。ペアが互いを確認できれば有利な展開になります。

3人は疑心暗鬼に捕らわれます。ナタを手にしたシーナから、ケイラとローズは逃げ出します。外にはナイフを持った男が現れます。別の小屋に逃げ込んだ2人は、互いに殺さないと誓い合い、マディを救出し脱出するため廃坑に向かうと確認します。

ケイラは手斧を持ち、小屋の壁の隙間から外にでますが、ローズは引っかかって出ることができません。その小屋に手鎌の男が現れます。ローズを引っ張り合う男とケイラ。それを見たナイフの男が迫ってきます。

やむなくローズを一度放し、小屋に駆け戻り手鎌の男に立ち向かうケイラ。ローズも抵抗し、ついに男を殺します。小屋の2人の気迫に押されたのか、ナイフの男は逃げ去ります。

小屋から様子をうかがっていたケイラは、突然シーナが外に出て走り出す姿を目撃します。その意図を図りかね、後を追うケイラとローズ。

シーナは廃坑のマディを殺そうと、地図看板を見ていました。そこにケイラが現れると、あなたは自分と友人を救うため、必ず私とローズを殺すだろうとシーナは告げます。

その時ローズはナイフの男に捕らわれ、小屋の壁に手のひらをナイフで釘づけにされます。そしてケイラと向き合うシーナの背後には、人影が近づきます。

それはアリスを殺し、ケイラに手を振ってきた、斧を持つ男でした。彼はシーナの頭に斧を叩き込みます。それと同時にローズの目前で、ナイフを持つ男の頭が破裂します。彼がシーナとペアの殺人者でした。

そして斧を持つ男が、“美女6”のケイラとペアになる、“野獣6”の殺人者でした。彼はケイラに手を差し伸べますが、ケイラはその胸に斧を打ち込みます。彼女はゲームの勝者になることより、友人と脱出する道を選んでいました。

そこにローズが駆け寄りますが、彼女は自分を1人残して行動したケイラを責め立てます。ローズを抱きしめなだめるケイラ。その2人を見つめる、フクロウの仮面をつけ、干し草用フォークを持つ殺人者の姿がありました。

廃坑に向かうケイラとローズ。ケイラが発作を起こした時に見た通り、マディは隠されていました。再会を喜ぶ2人。マディはケイラが死んだと思い、身動き出来なかったと語ります。

その言葉を聞きローズが叫びます。本当の友人なら、身の危険を犯してでもケイラを救いに動くはずだ。その発言にケイラは怒りますが、自分は臆病な負け犬だと認めるマディ。

しかしローズは、ケイラがマディを救うため、女を殺したと話せと迫ります。そしてケイラが脱出口と信じた廃坑は、崩れて塞がっていました。

3人の前に干し草用フォークを持つ男が現れます。立ち向かおうとするケイラは、意識障害の発作に襲われます。彼女を抱きかかえるマディ。そして、マディの喉をナイフでかき斬るローズ。男の頭は飛び散り、体が崩れ落ちます。

意識を取り戻したケイラは、マディの遺体を抱き嘆き悲しみます。あなたを守るために、彼女を殺したと告げるローズ。そしてどうやってこの殺人ゲームから逃れるのか、ケイラに尋ねます。

たとえゲームの勝者になっても、主催者の思うようにされるだけだと告げるケイラ。私はあなたを救い、あなたは私を脱出させると言った、と呟くローズに、思わずあなたが死ぬべきだったと叫んでしまうケイラ。

その言葉に傷付いたローズは、あなたは私を友人だと言った、と告げると絶叫し走り去ります。1人残され、泣き崩れるケイラ。

ケイラはナイフを手に歩き、杭が立ち並ぶ荒野に現れます。そこで自分の左目をえぐり、埋め込まれた装置と共に捨て去ります。杭に付いたライトは反応せず、彼女はその外へと進んで行きます。

ただ1人生き残った、と監視モニターに表示されたローズが、この殺人ゲームの勝者でした。しかしゲームの主催者は、彼女を次のゲームに参加させる手筈を整えます。

どこかの邸宅で、VRゴーグルでこのゲームを、殺人者の視点で楽しんでいた男がいました。主催者から電話で、次のゲームの案内が連絡されますが、男は家に侵入者がいると気付きます。

侵入してきたサングラスの女は男にスタンガンを使い、拘束するとこの殺人ゲームの創設メンバーが誰か尋ねます。サングラスを取った女の正体は、ゲームの関係者から死んだと信じられている、隻眼となったケイラでした。

男から情報を聞き出すと、ケイラはこの場にいないマディに、この男をどうするか尋ねます。心の中にしか存在しないマディの指示に従って、ケイラは男を殺します。

ゲームを創設したメンバーも、やがて彼女が生きていたと思い知らされるでしょう…。

映画『フューリーズ 復讐の女神』の感想と評価


A Tony D’Aquino film, (C) 2019 Killer Instinct The Movie Pty Ltd, All Rights Reserved

徹底した残酷描写で見せるスラッシャー映画

見事な悪趣味映画です。妙齢の女性が多数登場するこの作品、自主規制R15+相当と案内されていますが、その自主規制に占める、残酷度とエロ度の比率は10:0。清々しいほど徹底してます。スラッシャー映画ファンは絶対見るべし、苦手な人には劇薬以外の何物でもありません。

かくも徹底した作品なのに、今一つ世界のホラーファンに支持されていない模様です。この殺人ゲーム、どれだけ金と暇を持て余した奴らが開催したの?とツッコミたくなるトンデモ設定と、複雑なルールが理解し辛く、今一つ乗れなかった人が多かった結果でしょう。

しかしトンデモ設定でも面白いホラー映画には、ドリュー・ゴダード監督の『キャビン』があります。『キャビン』がどこかで見た様なモンスターのオンパレードなら、『フューリーズ 復讐の女神』はどこかで見た様な殺人鬼のオンパレード、実に愉快です。

映画の設定のために大きく広げた、嘘の大風呂敷さえ受け入れて鑑賞すれば、映画後半以降の駆け引きはお見事。そしてトム・サビーニが好きな特殊メイクファンは必見の作品です。

監督の70~80年代ホラー映画愛が炸裂!


A Tony D’Aquino film, (C) 2019 Killer Instinct The Movie Pty Ltd, All Rights Reserved

監督・脚本のトニー・ダキノは、インタビューで自身を熱烈な、70~80年代ホラー映画ファンだと紹介しています。当時これらの映画が独立系の映画会社で作られ、その結果生まれたクレイジーな作品が大好きだと語っています。

監督はこの作品を作るにあたり、CGは予算の制約から排除しただけではなく、実際に作られたものが生むリアル感を映画に生かすべく、特殊メイクを中心とする映画作りを選択しました。

メイクやプロップを利用した撮影は、精密なものの製作には時間がかかり、NGが許されない撮影となります。時間と予算の制約に悩ませられますが、監督の友人でもある特殊効果マン、ラリー・ヴァン・ディンホーフェンに助けられたと語っています。

彼はこの映画の特殊効果シーンに対し、情熱的な完璧主義者として素晴らしい仕事をしてくれた、と讃えているトニー・ダキノ。とはいえ最初に撮影した残虐シーンの出来栄えには、これはやり過ぎだったかも…と思ったそうです。

この映画は70~80年代スラッシャー映画へのオマージュに満ちていますが、一方で監督はそれらの映画に登場する、性差別的に女性を描くパターンを破る、新しいスタイルの映画にしたいとも考えていました。

その結果本作に登場する女性は、殺される人物であっても感情があり、知的で、そしてヌードシーンの無い形で描かれています。

オーストラリアで生まれたこの作品は、同様に明るく乾いたテキサスで生まれた映画であり、そして自分のお気に入りでもある『悪魔にいけにえ』を意識していると監督は語っています。

多くのシーンが暗闇とは対極の、明るい中で撮影されましたが、それは特殊効果のスタッフに、大きなプレッシャーを与える環境での作業になったと打ち明けます。
  

まとめ


A Tony D’Aquino film, (C) 2019 Killer Instinct The Movie Pty Ltd, All Rights Reserved

トニー・ダキノ監督のホラー映画愛と、特殊効果へのこだわりが詰まった『フューリーズ 復讐の女神』は、同時にホラー映画に登場する女性像の新たな形を示していました。冗談めかしてエロ度が少ない、と書きましたが監督の意図した狙いだったのです。

自身をゆるぎないホラー映画ファンと認めるトニー・ダキノは、次回作もホラー映画を作りたいと語っています。そしていつか自分が目標とする、『悪魔のいけにえ』のような、良い映画を作りたいとの夢を語っていました。

この映画に登場する殺人鬼は全て、デザイナーと相談し意図して有名なホラー映画のキャラクターを、アレンジしたデザインのマスクを付けています。

なるほど、あいつが『悪魔のいけにえ』の、レザーフェイスをアレンジした殺人鬼ですか。大変よく判りました。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…


(C)Buttonijo Films

次回の第14回は実際の事件を元にテロリストとの攻防を描く映画『22ミニッツ』を紹介いたします。

お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら




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