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映画『ゲットイン』感想考察と評価。実話事件を基に“後味悪い系”で知られるオリヴィエ・アブー監督が描く|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録5

  • Writer :
  • 増田健

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第5回

ポスト・コロナの時代に挑む、佳作から珍作・問題作まで、世界の様々な映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第5回で紹介するのは、人間の残虐性に焦点を当てたバイオレンス映画『ゲット・イン』。

平凡に暮らす一家が、ある日他人に住居を奪われる。法制度に不備もあり、彼らは家を取り戻す事ができません。人間の営みの根源的となる物を奪われた時、どう振る舞えばよいのでしょうか。

そんな軋轢が、人の中に眠る暴力性を目覚めさせ、事態はそれを残酷な形で表面化させる。そんなテーマを描いた衝撃の作品の登場です。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら

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映画『ゲット・イン』の作品情報


(C)2019 22H22 APC CHAOCORP CINE@ ALL RIGHTS RESERVED

【日本公開】
2020年(フランス・ベルギー映画)

【原題】
Furie / GET IN

【監督・脚本】
オリヴィエ・アブー

【キャスト】
アダマ・ニアン、ポール・アミ、ステファーヌ・カイラール、ユベール・デュラットル

【作品概要】
実際に起きた事件を元にして描かれた、現代社会や人間性の中に潜む問題を鋭くあぶり出す社会派バイオレンス映画。監督は監禁や暴力などをテーマにした作品『プリズン・ルーム』(2016)や『テリトリーズ』(2010)を発表したオリヴィエ・アブー。

主演は『シリアルキラーNo.1』(2015)など映画・ドラマで幅広く活躍するアダマ・ニアン。TVドラマ『La vie devant elles』(2015~)に主演し人気となり、BBCドラマ『宇宙戦争(The War of the Worlds )』(2019~)に出演のステファーヌ・カイラール、「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品、『ジェシカ』(2018)のポール・アミが共演しています。

映画『ゲット・イン』のあらすじとネタバレ


(C)2019 22H22 APC CHAOCORP CINE@ ALL RIGHTS RESERVED

夏の休暇をキャンピングカーで楽しく過ごした、黒人の夫ポール(アダマ・ニアン)と白人の妻クロエ(ステファーヌ・カイラール)、1人息子ルイのディアロ一家。

8月30日の夜。バカンスを満喫した一家は、雨の中自宅へ戻ります。しかし一家の使用人でルイが懐いているサブリナと、その夫のエリック(ユベール・デュラットル)にも連絡がとれません。

家の門の前に到着しますが、リモコンを操作しても門は開きません。しかし自宅には電気が付いており、誰かがいることは確かです。

一家は住む場所が無く困っていたサブリナとエリックに、バカンスで留守にしている間、自宅を貸していました。クロエは自宅に電話をかけますが、応答はありません。

そこでポールは塀を乗り越え、敷地に入ると自宅に向かいサブリナとエリックに呼びかけます。ところがそこにパトカーが現れました。

クロエが通報者でないと確認した警官は、塀を乗り越えて入ったポールを、不法侵入者として取り扱います。警官はクロエの抗議にとり合わず、雨の中家族の前で逮捕されるポール。

夫婦は警察署で事情を説明し、ポールは警察の対応には、黒人に対する偏見があったのではないか、と激しく抗議します。しかし警察は住人からの通報に従い対処しただけと説明します。

警察は家の現在の住人は、エリックとサブリナ夫婦になっていると説明します。ポールとクロエは家を留守にして貸す間、光熱費などの費用は支払うように契約を交わしていました。

その結果、住居の維持管理に必要な費用を払ったエリックが、法律上新たな住人に認められたのです。これを正して家を取り戻すには、法律上の手続きを踏む必要があります。

警察も事情は理解しましたが、事態は民事上の当事者の争いであり、もしポールが力ずくで家を取り戻そうとすれば、禁固3年の刑になると説明し軽率な行動を戒めました。

事態はディアロ一家が納得できるものではありません。まずはエリックとサブリナに面会し、大人しく家を引き渡すよう説得を試みます。

キャンピングカーで自宅に向かうと、サブリナがゴミを出していました。急いて敷地に入り門を閉めたサブリナに、困っていたあなたを助けたのに、この仕打ちは酷いと訴えるクロエ。

硬い表情のサブリナは、何も話せないと答えます。現れたエリックは彼女を家に戻らせ、大人しく家を明け渡す意志は無いと示し、ディアロ家宛ての郵便物を渡して去りました。

ポールたちはとりあえず落ち着ける場所を探すしかありません。彼らは車を走らせると、近くにあるキャンプ場に向かいます。

そこの管理人が現れます。彼はクロエの顔を見ると親し気に声をかけます。管理人は彼女の高校時代の同級生、ミカエル(ポール・アミ)でした。

クロエから紹介され、ポールはミカエルと握手します。料金は一晩20ユーロになりますが、他に行く当ても無くキャンプ場内に車を進めるポール。

彼は車を停めると、電話をかけ状況を訴えます。しかし家に住み着いたエリックたちは光熱費など家の管理に必要な経費を支払い、手続き上は完璧な借家人として振る舞っていました。

怒りに満ちた表情のポールに近寄り、煙草を吸いつつ軽くキスをするクロエ。

こうなっては法的な手続きを踏み、家を取り戻すしかありません。夫婦が弁護士の元を訪れ相談すると、彼女は契約書を交わしたのは不利だが、数日中に取り戻せると約束します。

9月5日。ディアロ一家はまだキャンプ場に停めたキャンピングカーで生活していました。教師であるポールは、ここから職場の高校に通っていました。

ポールは授業で、イギリスの哲学者ジョン・ロックが唱えた、人間の基本的な権利である自然権について講義します。

それは全ての人間は、自分の生命と自由、そして所有する3つの権利、すなわち自然権を有しており、それを守ってもらうことを社会に委ねる、社会契約説に関する授業でした。

ところが黒人生徒の1人が、先生が怒らないと約束するなら言わせてくれ、と自説を語ります。そうは言っても、結局強い者が弱い者から奪い取るのが世の習いと語ります。

だからゲイより暴力男が世間で幅をきかせる。その言いぐさに怒り、罰を与えるポール。

反抗した生徒は、先生はココナッツ入りのチョコバー、つまり表面は黒いが、中身は白人かぶれの男だと言い棄てると出て行き、教室は気まずい雰囲気に包まれます。

様々な出来事に怒りを覚えたのか、不機嫌な顔で帰宅した彼を、家族と友人たちがサプライズパーティーで出迎えます。今日はポールの誕生日でした。

友人たちはディアロ夫婦に境遇に同情的でした。ポールは数日中には家に戻れると説明します。妻のクロエが友人の男と踊りに興じても、彼は黙って見つめるだけです。

友人たちが帰った後、夫がセラピーを受けていないと指摘するクロエ。夫婦は問題を抱えていました。ポールは妻の体に触れますが、それ以上の行為を拒みキスをして去るクロエ。

9月15日。判事はディアロ夫妻の訴えは認められないとの裁定します。夫婦の弁護士は、判事が法律を杓子定規に解釈した結果と説明しますが、ポールは納得できません。

窮状を訴えようとポールは役所を訪れますが、結局たらい回しにされただけで、何ら打開策は得られず、怒りだけが募ります。

夜も更けた頃、ポールはキャンプ場に帰ってきます。イライラしていたのか、置いてあった黒人農夫の大きな陶製人形を池に投げ込むポール。

それを管理人のミカエルが見ていました。気まずい表情で詫びるポールに、気持ちは判ると告げ、こっちに来いとミカエルは呼びかけます。

ポールにビールを進めるミカエル。彼は妻に浮気され離婚したが、今はここの管理人として気楽にやっていると告げ、ポールの職業を尋ねました。

自分は歴史の教師だと答えたポールに、歴史上人類最悪の年はいつだと彼は尋ねます。ポールは7万2千年前、スマトラ島の火山が噴火した時だと答えます(トバ事変と呼ばれる学説)。

この大噴火が地球にもたらした気候変動の結果、人類は1万人程度に減ったと説明し、我々は皆、それを生き残った者の子孫だと告げるポール。

ミカエルは人類は進歩したと言われるが、我々は本当に古代の狩猟採集民より幸せか、と尋ねます。その上でそろそろ話せよ、と彼はポールに促します。

ミカエルもポールが不当な手段で家を奪われ、取り戻せずにいるとを知っていました。ポールは争いは法に委ねられ、それを決めるのは判事だと告げました。

するとミカエルは取り戻す方法があると言い出します。ポールがその方法を教えてくれ、と言うと忘れてくれ、他人事だと告げたミカエル。

家を奪った者に沈黙するポールの態度は、実は被害者ぶっているだけだと言うミカエルに、ポールは何も語らず出て行きます。

10月2日。今だ自宅はディアロ夫妻に返ってきません。しかも11月9日に入り冬期を迎えると、法は現在賃借人扱いのエリック夫婦に有利に働き、更に退去させるのが難しくなります。

制度上の不備を付かれたと弁護士は説明しますが、ポールは怒って出て行きます。弁護士の仕事ぶりや、奪われた家のローンを支払う現状の不満を叫ぶ彼を、冷たい目で見つめるクロエ。

翌日ポールが勤め先の高校に出勤すると、生徒たちが喧嘩騒ぎを起こしていました。騒ぎを立ち尽して見つめる彼を、突き飛ばすように駆け付けた他の教師が割って入り仲裁します。

動かず何もしなかった彼を、生徒が黙って見つめます。心の中に沸き起こる思いを発散させるかのように、トラックを1人走るポール。

キャンプ場に戻ってきたポールに、車に乗った管理人のミカエルが声をかけます。車にはミカエルの友人、フランクも乗っていました。

ミカエルはフランクと共に憂さ晴らしに行こうと、ポールを誘います。車に乗り込んだ彼は、そこに銃が積んであることに驚きます。

陽気なフランクに誘われビールを渡されたポールは、妻の電話を無視し彼らと出かけました。

そこはミカエルの仲間の男女たちが集まって酒を飲み、乱痴気騒ぎを繰り広げる廃墟でした。その雰囲気に呑まれるポール。

ミカエルはポールに酒を勧め、仲間の一員として迎え入れます。ミカエルの仲間たちも、ポールが不当に家を奪われたことを知っていました。

彼らは家を取り戻すのに協力する、と言ってきます。無理だというポールに、あんたの家だとけしかけるミカエルたち。

皆にはやし立てられ、その気になり水を満たした電話ボックスに飛び込み、水中でビールを一気飲みし喝采を浴びるポール。大人しい彼も雄叫びを上げました。

騒ぎが落ち着くと男たちは、銃を持ち廃墟で待ち構えます。やがて夜の闇の中に豚が現れると、彼らは面白がってそれを撃ちます。

ミカエルはポールも豚を撃てと誘いますが、それに応じず騒ぎを傍観するポール。

夜が明けると、廃墟の外には撃たれた豚が転がっています。ポールは死にきれず金切り声を上げる豚の前に立ち尽していました。

そこにミカエルが現れ、この廃墟となった工場は、元はフランクの父のものだと説明します。

閉鎖され廃墟となった工場に、逃げてきた豚が棲みつき繁殖していました。だがそれがいい、全ての物事は時間が解決すると言うミカエル。

ポールはミカエルの手から銃を取り、目の前でうめく豚に発砲します。

キャンプ場に帰ると、ここを引き払うので清算を求めたポールに、ダチからは金を取らないと告げるミカエル。親密に別れを告げる2人を、クロエが見つめていました。

ディアロ一家のキャンピングカーは、キャンプ場を後にして自宅へと向かいます。車は敷地を囲む柵を突き破り、家の前の庭に停車します。

息子のルイに車にいるよう告げ、ポールとクロエは家から現れたエリックと対決します。直ぐ出ていけと迫る夫婦に、追い出したいなら提訴しろと居直るエリック。

ルイは事情を知ってか知らずか、家の中に駆け込みます。慌てて夫婦も追いますが、エリックは彼らを家に入れません。

ルイはかつて親しかった、元使用人のサブリナと共に出てきます。息子は中にあったゲーム機を取りに戻っただけでした。

それ以上は何も、ディアロ一家が飼っていたオウムすら、エリックは渡す意志を示しません。サブリナと共に家に入り、窓を閉めた彼はポールに中指を立てます。

ポールは家族と共に庭で暮らし始めます。エリック夫婦は家の「正当な」賃借人であっても、この物件の所有者ディアロ一家を、敷地から追い出すことは出来ません。

クロエは夫に、今は家を諦めて現状を受け入れようと訴えます。いつか家は取り戻せるので、それまでは力になってくれる友人の世話になろうと提案します。

俺は逃げないと答えるポール。彼は今や、自分の家を取り戻すことを頑なに望んでいました…。

以下、『ゲット・イン』のネタバレ・結末の記載がございます。『ゲット・イン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)2019 22H22 APC CHAOCORP CINE@ ALL RIGHTS RESERVED

クロエは1人で、高校時代の同級生で今はキャンプ場の管理人、ミカエルを訪ねます。夫ポールの態度は、親しくなった彼から何か吹き込まれたと考えたのです。

彼女が管理人小屋の扉を開けると、ミカエルは連れ込んだ女と行為に及んでいました。

ミカエルは女を帰してクロエを招き入れます。夫に悪い影響を与えたと責める彼女に、本当は君も、ポールに他人と争う荒々しさを求めているんだ、と告げるミカエル。

あの件は夫に話したのか、とミカエルは迫ります。2人はかつて関係を持っていました。強引に体を弄ばれたクロエは、隙をみて彼を攻撃して逃れ出て行きました。

10月25日。黙々とランニングしていたポールは、ミカエルの小屋を訪ねます。

2人はジャグジーにつかりながらビールを飲んで語ります。ミカエルが自分の離婚について語ると、かつてクロエは浮気したが、それを許し今も夫婦でいると話すポール。

ミカエルはそんなポールの姿勢を、あんたは被害者でいる方が良いんだと指摘し、現実を直視して行動しろと告げます。

家を奪われた件で皆がポールを応援していると励まし、行動をそそのかすミカエル。

帰宅したポールは、息子のルイに無理やり泣き顔の表情を作らせ写真に撮ります。

その写真を使ってビラを作り、街中で配り自宅を奪われた窮状と、エリック夫婦の不当な占拠を街の人々に訴えるポールとミカエルたち。

10月31日。自宅の庭に停めたキャンピングカーの中にいたポールを、エリックが強引に引き出すと、門に連れていきます。

門に豚の首や内臓が掛けられ死骸が転がり、塀にエリックとサブリナを非難する言葉が落書きされていました。これはポールの仕業だと責めるエリック。

ポールは行ってはいませんが、ミカエルかその仲間の嫌がらせでしょう。その光景を見て、妊娠しお腹が大きくなったサブリナはショックを受けます。

ミカエルに対し今や街中の人間が、お前の行為を知っていると告げるポール。

ポールの前に夫婦の友人が現れ、こんな抗議はやり過ぎだと説得します。しかし父親から引き継いだ家を、諦めさせるのかとポールは激しく反発します。

クロエも夫のやり方を批判し、息子のルイと共に友人の家に行き、落ち着いた生活を取り戻すと告げますが、かつて浮気したお前がそれを言うのか、とポールは叫びます。

中年の危機にさしかかったクロエは、一方的に家を出て浮気に走りましたが、ポールは戻ってきた彼女を許し、ルイのためにも夫婦関係を続けていました。

それが夫婦の絆を傷つけ、今の2人は肉体関係を持てない間柄になっていたのです。過去にこだわり、その話を今待ち出すのかと逆に非難したクロエ。

不満があっても行動せず、口だけの男だと夫を責めるクロエに、感情のままに今夜こそ片を付けてやると、ポールは宣言します。

その夜ポールは、バンドが演奏し客が集うクラブに向かいミカエルと会います。そこで彼から酒とクスリを勧められたポール。

彼の元に女が寄ってきます。彼女とキスを交わしている間、ミカエルとその友人のフランクが起こした喧嘩騒ぎを目撃するポール。彼の理性は壊れつつありました。

ポールはそのまま女と関係を結びます。しかしクスリの見せた幻覚か、女の顔を見て我に返ったポールは、クラブの外に出ます。

外で座り込んでいたポールは、駐車場で起きた騒ぎに気付きそちらに向かいます。するとミカエルと仲間たちが、若い男女とトラブルになっていました。

意識を失い倒れた男と、捕まった女が自分の生徒だと気付くポール。女もポールに気付き助けを求めますが、彼が暴行を止めるのを阻止したフランク。

ミカエルたちは男に激しい暴行を加え、その光景をポールは見つめました。

歩いて帰るポールに、ミカエルたちが乗った車が近づきます。彼らはポールに、今からあんたの家を取返しに行こうと誘います。

ミカエルたちの暴力行為を目撃し、嫌悪したポールはその言葉に乗りません。

ミカエルは自分は高校時代にクロエと深い関係となり、互いに激しく求め合った間柄だと打ち明けます。

クロエが浮気したのは、あんたをひ弱だと思っているからだ、と嘲笑するミカエル。

彼はポールが自分たちと同様に、気の向くまま暴力的に振る舞うことを望んでいました。しかしそれを拒絶したポールに、ミカエルはもう仲間じゃないと告げます。

ミカエルと豚の仮面を付けたフランクは、彼を嘲り去って行きました。

残されたポールは夜道を走り、そして1人絶叫します。そして妻クロエに電話します。

キャンピングカーに帰ったポールの前に、クロエが現れました。

彼が妻とミカエルの関係を問いただすと、子供だった頃の愚かな出来事だと説明するクロエ。彼女はDVで妻と別れた粗暴な男・ミカエルを今は嫌っていました。

その気になれば家は取り戻せるが、ミカエルのように正面から対決するのではなく、自分のやり方でやるしかないと語るポール。

問題の解決に時間をかけるしかないと認め、いったん引き下がり家族と共に平穏に暮らそうと告げるポール。夫が結論に達するまで苦しんだとクロエも理解しました。

夫婦がキスを交わそうとした時、車のクラクションの音が聞こえました。それはミカエルたちだと悟り、家に向かって駆け出すポール。

ポールは窓ガラスを叩き、中のエリックとサブリナに危険を警告します。クラクションの音で目覚めた2人はポールに気付かず、窓から外の様子を伺います。

門を突き破って、ミカエルたちが乗る車が現れます。彼らは庭の芝生に油を撒きました。

ポールが正面に向かうと、そこに豚の仮面を付けたミカエルの仲間たちがいます。芝生に火を付け、炎を背にバットを持ち騒ぐ男たち。

ポールの前に立つとキャンプ場も飽きた、この家を頂くと宣言するミカエル。クロエも止めろと説得しますが、狂乱に酔った男たちは耳を貸しません。

心配するサブリナを残し、家からエリックが現れミカエルを殴りますが、男たちを興奮させただけでした。仲間にはやし立てられ、エリックを殴り倒すミカエル。

ポールとクロエは家に入り、泣き叫ぶサブリナを2階へ逃がします。外では芝生と車が燃え、エリックは横たわったままでした。

男たちの姿が消え、エリックを助け出そうと外に出るポール。しかし屋根の上に男がいると気付き、エリックを残し慌てて家に戻ります。

クロエと共に身構えるポール。しかし窓ガラスが割れる音がします。2階に男が侵入しサブリナが悲鳴を上げました。

ポールは2階に向かおうとしますが、階段付近のガラスを破りエリックの体が投げ込まれます。それに続き家に入ってくるミカエル。

次から次へと侵入する暴漢に追い詰められ、ポールとクロエは室内工事のため吊されていたビニールに倒れこみ、それに包まれてしまいます。

その2人を文字通り袋叩きにした男たち。彼らが去るとポールは身を起しますが、クロエは息も絶え絶えの状態でした。

暴力に酔いしれた男たちは家の家財道具を破壊し始めます。ディアロ一家が飼っていた、オウムに火が放たれる光景を、ポールは見つめるしかありません。

起き上がろうとしたポールを足蹴にして倒し、その脇でクロエの服を引き破るミカエル。

暴漢はエリックに続き、泣き叫ぶサブリナを圧縮袋に入れ、掃除機で空気を抜き始めます。身重のサブリナの体はビニールに圧迫されていきます。

男たちが凶行に夢中になった隙に、ポールは立ち上がるとクロエを支えて別室に逃れます。しかしそれにミカエルは気付きました。

クロエを安全な場所に隠したポールは、外に出てキャンピングカーに乗り込みます。それを運転して家に突っ込ませ、3人の暴漢を跳ね飛ばしたポール。

彼は車を後退させますが、キャンピングカーは動かなくなりました。炎があがった邸宅から、豚の仮面を付けたミカエルとフランクが現れます。

フランクがキャンピングカーを調べに来た時、ポールはその下に潜んでいました。彼はフランクの足に切りつけて倒すと、動かなくなるまで殴りました。

キャンピングカーに入るとポールは火炎瓶を用意し、キッチン用のボンベからガスを出して車内に充満させ、油を撒き火を放つ準備をします。

一方家を全焼させようと、周囲に油を撒いていたミカエルはキャンピングカーの脇に、様子を見に行ったフランクが倒れていると気付きました。

彼がやって来ると、ポールは天井から外に逃れます。ミカエルがキャンピングカーに入ると閉じ込め、火炎瓶で火を放ったポール。

爆発した車から火だるまのミカエルが飛び出します。彼は絶叫しながら火を消そうと、プールに飛び込みました。

ポールの見つめる前で、プールの中央に浮かんだミカエルが姿を現します。

その場を離れるポールの前に、プールから出たミカエルが彼を殴り倒します。何度も殴り、バットで止めを刺そうとするミカエルを、背後から襲うクロエ。

ミカエルはクロエを殴ると、立ち上がったポールがバットで彼を殴ります。クロエの目前で、力任せに何度もバットを振り下ろすポール。

動かなくなった体から、彼は豚の仮面を外します。一瞬現れた顔が自分のものに見えて驚くポール。しかし目の前にいるのは、間違いなくミカエルでした。

突然体を起こし、ようやく家を取り戻したな、とポールに告げて倒れるミカエル。ポールとクロエは抱き合って泣き、そしてエリックとサブリナを助け出します。

惨劇の舞台となった現場から引き上げる警察の姿を、ルイが家の窓から見つめていました。そこに現れたポールは、もう遅い時間だと言い、息子を寝かしつけます。

寝室に入ったポールの前で、トイレで全裸で小用を済ませたクロエが現れます。もう長い間体を交わすことの無かった夫婦は、激しく愛し合いました……。

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映画『ゲット・イン』の感想と評価

参考映像:『わらの犬』(1971)

家族や財産を保有し、社会のルールに従って平穏に日々を暮らす人々。しかしそれが暴力で打ち破られると、人は野生に目覚めて争うことになる。

様々な映画や、それ以前には文学でも描かれたテーマです。そんな映画の代表格と言えばサム・ペキンパー監督作品『わらの犬』、文学の代表と言えば映画化もされた小説『蝿の王』でしょうか。

作品のテーマだけでなく、『ゲット・イン』のラストの襲撃シーンの状況は『わらの犬』、豚の使い方は『蝿の王』にオマージュを捧げている、と見て良い作品です。

実際に多くの人から現代版の『わらの犬』と評されている本作。実際の事件をモチーフにしたとされる本作を、まずその背景を探ってみましょう。

法の不備が悪用された事件


(C)2019 22H22 APC CHAOCORP CINE@ ALL RIGHTS RESERVED

建物を不法占拠して住む、というのは日本ではあまり一般的ではない行為ですが、ヨーロツパ諸国では歴史的背景もあって、住む人の権利がより手厚く保護されています。

戦災や社会的貧困から、人々が生活を営む場所を守ろうとの考えが根底にあり、放棄された家にやむなく住んだ人を、追い出すには様々な手続きが必要とされる国が多いのです。

当然ながら、これを政治運動的に利用する者もいれば、中には犯罪的に所有者がいる住居を占拠し、住めるだけ住むと破壊して出て行く輩も現れます。このような占拠者を英語ではスコッターと呼び、イギリスでは社会問題化して法改正が行われました。

屋根の下で暮らす権利が、国民の基本的権利とされるフランスでも、不動産を賃借して住む者が不当に追い出されないよう、居住者を保護する様々な法律が整備されています。

ところが本作のように、この法制度を悪用して賃貸物件を占拠する者も現れます。主人公たちが彼らを追い出そうにも、簡単に解決できない背景にこのような事情がありました。

日本では、廃墟でも所有者がいれば住居・建造物侵入罪に問われ、所有者はいない場合も軽犯罪法に問われる可能性があります。考え無しに心霊スポットの廃墟に行ってはいけません。

日本で本作と同じような状況の作品といえば、宮部みゆきの小説でドラマ化され、映画版は大林宣彦が監督した『理由』(2004)を思い浮かべるべきでしょう。

実は知的なバイオレンス映画


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そんなフランスの、住居の関する法律事情を背景に起きた争いが、暴力沙汰に発展し、現代人に眠る獣性を目覚めさせた、というバイオレンス映画が本作です。その暴力描写が意外に大人しい、と感じるのは私だけでしょうか。

無論女性を殴って血みどろにし、服を引き破り肌を露わに……という描写を、“大人しい”と表現する私は本当にどうかしてます。B級映画の見過ぎで感覚が歪んでますから、心から反省します。

しかし最初にジョン・ロックの社会契約論に触れ、頭の悪い襲撃者のはずのミカエルが、現代人は狩猟採集民より幸せかと問うなど、何かと知的なアプローチを試み物語は進んでいきます。

社会的なストレスで「不能」であった主人公が、暴力を通じて性を取り戻す姿も、人間の本質を捉えた描写ですが、同時に類型的とも言えます。言うなれば知的に理論武装した上で描いた暴力や獣性、何だか全編にインテリ的な雰囲気を感じました。

同じフランスで数々の問題作を生んだギャスパー・ノエや、『ハイテンション』(2003)で衝撃を与え、今はハリウッドで活躍するアレクサンドル・アジャ、『マーダーズ』(2008)や『ゴーストランドの惨劇 』(2018)のパスカル・ロジェ、こういった監督の作品と同様の、理不尽なまでに圧倒的な暴力描写を期待すると、肩透かしを喰らいます。

これにはフランス映画界の、暴力映画は芸術にあらずと、低く見る風潮があるのが一因だと思われます。こういったテーマに触れる時は、ことさらに芸術性や社会風刺、知的な描写を伴わないと、正当に評価されない結果でしょう。

近年そんな暴力描写に対して、フランス映画界が歴史的に抱いていた偏見も、弱まりつつあるようです。そんな背景を解説しつつ、ニューウェーブ・フレンチ・ホラーを紹介したドキュメンタリー映画『BEYOND BLOOD』(2018)が、こういった事情を教えてくれるのでぜひご覧下さい。

まとめ


(C)HJ PRODUCCIONES 2019 | ALL RIGHTS RESERVED

世間一般にも、大多数の映画ファンにも衝撃的な暴力映画の『ゲット・イン』、覚悟して見て下さい。しかしバイオレンスホラー映画の数々を目撃してきた、B級映画が大好きな猛者には物足りないかもしれません。

なおこの作品のフランス語原題は「Furie」、しかし英語題に「GET IN」を使用しています。

それはNetflixで配信する時、同じタイトルのベトナム製アクション映画があったという、身も蓋もない事情と、アメリカの黒人差別を背景に描き、大ヒットしたホラー映画『ゲット・アウト』(2017)にあやかった上での判断だとされています。

本作が『ゲット・アウト』にあやかった理由はお判りでしょう。フランスで底辺層の白人より成功を収めた黒人、しかも白人を妻にした主人公が体験する不条理と恐怖は、『ゲット・アウト』の後日談と捉えることも出来ます。

主人公が暴力を嫌うだけでなく、妻の不貞に向き合う事もできないという設定など、劇中では彼の存在を「ココナッツ入りのチョコバー」と表現しています。本作が実に多層的に、フランス社会の様々な問題を描いた作品であるかを、ご理解頂けるでしょう。

主人公と最後に対決するミカエルを演じたポール・アミ、彼は『ジェシカ』でも反社会的に生きる凶暴な若者グループの一員を演じています。見るからにごつい顔で適役そのものです。

『ジェシカ』では日本刀を、本作ではバットを振り回す危ない奴を演じていますが、いかつい顔の男優が好きの女性映画ファンに実にアピールする顔立ち。これを機会にご注目下さい。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…


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次回の第6回は、本当に実話!?死体安置所に起きた恐怖を描くホラー映画『モルグ 死霊病棟』を紹介いたします。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら





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【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学