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Entry 2021/09/26
Update

映画『白痴』あらすじ感想評価と考察解説。浅野忠信が坂口安吾の原作小説を実写化で演じる|インディーズ映画発見伝20

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第20回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」

コラム第20回目では、手塚治虫の長男・手塚眞監督が坂口安吾の代表作を映画化した『白痴』をご紹介いたします。

日本映画では当時まだあまり使われていなかったCGIや実写との合成など先鋭的な映像を使い、クライマックスの空襲の場面では、実際のオープンセットが特殊効果によって爆破されたりと大掛かりな撮影を行い製作に10年も費やしました。

ダイナミックで先鋭的な映像が評価され、ヴェネチア国際映画祭 1999年 プリモ・フューチャーフィルムフェスティバル・デジタルアワード受賞されたほか、カメリマージュ国際映画祭 1999年 シルバーフロッグ受賞など海外の映画祭でも評価されました。

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

映画『白痴』の作品情報


(C)手塚プロダクション

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
手塚眞

【原作】
坂口安吾

【キャスト】
浅野忠信、甲田益也子、橋本麗香、草刈正雄、藤村俊二、江波杏子、松岡俊介、あんじ、岡田眞澄、小野みゆき、原田芳雄、荒井紀人、川村かおり、泉谷しげる、筒井康隆、伊武雅刀

【作品概要】
漫画家・手塚治虫の長男である手塚眞監督は、高校生の頃から映像制作を始め、大島渚監督をはじめとする映画人の高い評価を得て多数の映画コンテストに入賞します。

商業映画監督デビューは、25歳のときに制作した映画『星くず兄弟の伝説』(1985年)でした。その後、『白痴』(1999年)がヴェネチア国際映画祭で上映されデジタル・アワード受賞。最新作は『ばるぼら』(2020)。

主演の伊沢役には1988年、TVドラマで俳優デビューし、モデルやミュージシャンなど多岐にわたって活動する浅野忠信。ハリウッド進出し、海外作品にも多く出演しており、近年の作品は『MINAMATA ミナマタ』(2021)、『モータルコンバット』(2021)など。

モデルや音楽ユニット「dip in the pool」などで活動しているサヨ役の甲田益也子や草刈正雄、橋本麗香、原田芳雄、江波杏子、藤村俊二、岡田真澄ら名俳優が顔をそろえています。

映画『白痴』のあらすじ


(C)手塚プロダクション

過去とも未来とも思える終末戦争下の荒んだ日本。

映画制作を志している伊沢(浅野忠信)は長屋が立ち並び、娼婦やスリ、大陸浪人たちが自堕落な生活を送る場末の路地裏の小屋に間借りしています。

テレビ局「メディアステーション」に勤めている伊沢をはじめとした職員は、粗暴なディレクターの落合(原田芳雄)に毎日のように怒鳴られ、視聴率70%を誇るカリスマ的アイドル銀河(橋本麗香)のわがままな言動に振り回されていました。

ある日、隣人の木枯(草刈正雄)の妻・サヨ(甲田益也子)が、伊沢の部屋の押し入れに隠れ潜んでいるのを見つけます。その日から伊沢とサヨの不思議な同居生活が始まります。

日に日に激しくなる空襲、焼け落ちた街で荒んでいく人間。伊沢の住む路地の上空にも爆撃機の影が現れ、街は激しい爆撃と焼夷弾によって炎に包まれていくます。サヨの手を取り逃げ出す伊沢でしたが……

映画『白痴』の感想と評価


(C)手塚プロダクション

冒頭、焼け落ちた街の中に奇抜な衣装を着たモデルらしき人々を撮影する場面が描かれます。近未来のような衣装と焼け落ちた街のアンバランスさが、現在とも未来ともいえるようなこの映画の不思議な世界観を醸し出します。

圧倒的な映像美が印象的な本作において、存在感のあるキャラクターはやはりカリスマ的アイドル銀河でしょう。

銀河は原作には登場しない映画オリジナルのキャラクターです。仏教などのオリエンタリズムを感じさせる映像美、CGIを駆使した圧巻の映像に息を呑まれ、その中心に君臨する銀河はまるで戦いの女神かのようです。

戦意高揚を意図した低俗な番組に伊沢は辟易しており、他の制作者も番組制作に対して意欲を持っている様子は伺えます。銀河に踊らされ、職員に対して連日怒鳴り、暴力をふるうディレクターの落合は軍国主義の揶揄にもとれるほど露骨に描きます。

銀河は伊沢の冷めた目が気に食わないと伊沢に対して酷くあたります。そして、何が欲しいと問われた銀河は伊沢の首が欲しいと言い、そのセリフは戯曲の「サロメ」を連想させます。

彼女はアイドルとして君臨していますが、所詮作られた虚像の女神であり、彼女自身もそのことに気づいているからこそ、現実を思い起こさせる伊沢の目が気に食わないと言います。

虚像の銀河に相反して、生身のそこに確かに存在している女神のような存在として描かれているのがサヨであると言えます。サヨは白痴であり、まともに会話も出来ず、何も出来ないただそこにいる存在です。しかし伊沢にとっては確かにそこにいる存在であり、温もりであるのです。

街も人間も荒み、虚像のアイドルのためにただ番組を作り続ける、そんな世界に辟易しながらも、伊沢はしっかりとサヨの手を握り、生きる活力を見出していきます。

まとめ


手塚眞監督(C)Cinema Discoveries

無頼派の作家・坂口安吾の代表作『白痴』を手塚眞監督が映画化。

圧倒的な映像美、手塚眞監督ならではのイマジネーションあふれる世界観に魅了されます。当時まだあまり使われていなかったCGIや実写との合成など今もなお色褪せないダイナミックな映像、クライマックスの爆破は壮観です。

虚構の女神としての銀河、そして確かにそこにいる女神のようなサヨ。2人の印象的な女性の存在が荒んだ世界で揺れ動く伊沢の心情に大きく影響を与えていきます。

手塚眞Twitter

次回のインディーズ映画発見伝は…


(C)映像工房NOBU

次回の「インディーズ映画発見伝」第21回は、他愛無い若者の日常を描いた内田伸輝監督の映画『かざあな』を紹介します。

次回もお楽しみに!

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

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