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【平川雄一朗監督インタビュー】映画『耳をすませば』松坂桃李がチェロケースを背負っている姿が設定変更のきっかけ

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『耳をすませば』は2022年10月14日ロードショー

映画『耳をすませば』は1995年にスタジオジブリによるアニメ映画も大ヒットを記録した柊あおいの名作コミック「耳をすませば」を原作にした中学生時代の物語と、それから10年後の物語の二重構造で描いた完全オリジナルストーリーです。


(C)ほりきみき

清野菜名と松坂桃李をW主演に迎え、演出を『ツナグ』(2012)、『僕だけがいない街』(2016)、『約束のネバーランド』(2020)などで知られる平川雄一朗監督が務めます。

このたび、『耳をすませば』の劇場公開にあたり平川雄一朗監督にインタビューを敢行。アニメ版にあたるジブリ作品との違い、また松坂桃李演じる配役の中学生時代を演じた中川翼さんへの思いについて、語っていただきました。

清野菜名と松坂桃李だから成立した映画


(C)柊あおい/集英社 (C)2022『耳をすませば』製作委員会

──本作は『記憶屋 あなたを忘れない』でご一緒された西麻美プロデューサーからの監督オファーと伺いました。

平川雄一朗監督(以下、平川):とてつもないプレッシャーはありましたが、自分に与えられた大きなチャンスだと思い、プレッシャーを上回るくらいやりたいという気持ちも強かったです。

本作でダブル主演を務めた清野さんは「今日から俺は!!」(2018)を見て、かわいい方だなと思っていましたが、すごく努力をされる方だと知りました。図書館に勤務する父親が忘れたお弁当を届けに行ったとき、雫が父親に「図書館司書さま」と呼びかけますが、これは原作にもアニメにもある有名なシーンです。清野さんは「どう言ったらいいか、家でものすごく練習したんです」と言っていて「この子はひとつひとつのセリフを動きから考えて、何度も練習して、現場に持ってきているんだな」と感じました。

また、松坂桃李さんとは縁があって映画は『ツナグ』(2012)、『約束のネバーランド』(2020)に続き、3回目ですが、縁を繋げられたことがうれしい。松坂さんも負けないくらい努力の人です。今回、チェロを弾くという大難題がありましたから、それはもう大変だったと思います。練習には全部付き添っていましたが、上達具合から家でも練習しているのがわかる。上達が恐ろしく早い。俳優さんってすごいんだなと改めて感じさせてもらいました。最終的に本物の演奏家の方で音楽録りをするのですが、松坂さんが演奏している映像をご覧になって、「松坂さんは本当に弾いてるの?」とおっしゃったくらいです。

撮影している時は僕も迷いながらやっていましたが、初号試写を見たときに「清野菜名と松坂桃李だったから、この作品は成立した」と思いました。西麻美プロデューサーのナイスキャスティングでしたね。

──原作では画家志望だった天沢聖司がジブリのアニメではヴァイオリン職人を、本作ではチェリストを目指します。設定を変更されたのはどうしてでしょうか。

平川:原作は柊あおい先生のコミックですが、ジブリの『耳をすませば』が有名過ぎて、ジブリのアニメの10年後だと思って映画館に来る人もいると思います。そこを度外視できません。また、原作に倣って聖司の職業を絵描きにするよりも演奏家にした方が、映画館で見る映画の良さを音として体感できるのではないかと思ったのです。

ジブリのアニメはピュアなお話を素朴な風景描写の中で描いているのも魅力の1つです。それに負けないようにするにはどうしたらいいか。当初はイタリアでロケをする予定でしたから、実写映画でイタリアの画の強さが必要で、そのときに松坂さんがイタリアでチェロケースを背負っている後ろ姿が思い浮かんだのです。彼は背が高いので、ヴァイオリンよりもチェロが様になるはず。これが一番の決め手です。『おくりびと』(2008)で本木雅弘さんはチェリストでしたし、名作は何気にチェロ奏者が多い気がします(笑)。松坂さんは何度も音楽ものをやっていて、ピアノもヴァイオリンもすでに経験している。だから、他の作品とイメージが重ならない楽器がよかったということもありました。

ピュアなだけでない安原琉那の魅力


(C)柊あおい/集英社 (C)2022『耳をすませば』製作委員会
──中学生の雫はオーディションをされたとのこと。安原琉那さんを選んだ決め手はどんなところだったのでしょうか。

平川:実はかなり迷いました。最終的に2人残り、どちらが雫になれるか、リハーサルを何回かやっていく中で安原琉那さんが雫の役を獲得しました。雫はピュアなだけでなく、どれだけ見る人の心を動かせるかが大事です。

彼女の芝居を見ていると「自分にもあんな風にピュアな頃があったのに、何で自分はこんなに薄汚れてしまったんだろう」と思いつつ、またきれいになれるんじゃないかという気持ちにもなる。雫のピュアさは本来、誰の心にもあるもので、きっと感情移入できるはず。今日のジャパンプレミアでも、安原さんの挨拶や返答は見事でした。どれだけ自分が薄汚いのか、まざまざと感じさせられましたね(笑)。

──先ほど、中学生時代の聖司を演じた中川翼さんにもインタビューしたのですが、地球屋のセットでの撮影の際、安原さんだけ監督と助監督と3人でギリギリまでリハーサルをされていたとうかがいました。

平川:安原さんはこの作品が初めての映画でした。撮影に入ったばかりの頃は撮影に慣れておらず、緊張から現場の空気に飲まれてしまい、自分が思っているものを出しにくい状況でした。それで何度もリハーサルを繰り返し、最終的にはポンと背中を叩けば雫になって、何も言わなくても変な顔するし、ハハハッと笑うし、コイツ面白い子だなと思いました。

中川翼くんもそうやって彼女だけ呼ばれてリハーサルしているのを見ると、彼は彼でちゃんとやらなきゃという気持ちになる。2人とも本気で取り組んでいたからこそ、そういう相互作用が生まれて、切磋琢磨した結果、いいお芝居が撮れたと思います。

中川翼は平川雄一朗監督の秘蔵っ子


(C)柊あおい/集英社 (C)2022『耳をすませば』製作委員会

──中川さんは『僕だけがいない街』(2016)で藤原竜也さんが演じた主人公の子ども時代を演じ、監督とは本作で3作目とのことですが、 監督のことを“父親みたいな存在”とおっしゃっていました。

平川:『僕だけがいない街』の後に、連続ドラマの『わたしを離さないで』(2016)があって、この作品は3作目。中川くんは僕の秘蔵っ子みたいな子なんですよ。実は4作目も撮り終わっています。事務所を移籍するときもお母さんから相談がありましたが、「きっと大丈夫ですよ」と話したことを覚えています。もう、この世界のお父さんみたいなものですね。

──中川さんは「監督は追い込んで、追い込んで、いいものを引き出してくれる」ともおっしゃっていました。

平川:ライオンは子供を崖から落とすっていうじゃないですか、それと同じですよ。出来なければ出来るまで厳しく接する。今回、徹底的に芝居を付けたのは安原さんと中学時代の杉村を演じた荒木くんですね。彼らは言えば跳ねる人たちでしたから。

他の人には大きな演出を何もしていません。基本的な動きと位置だけ決めて、リハーサルして、おかしいなと思ったことがあれば伝えるくらい。中川翼くんは作品をいくつもやってきているから、もう何も言わなくてもわかるし、プレッシャーも感じている。中学生時代の夕子を演じた住友さんはオーディションで決まりましたが、元々お芝居がうまいし、演技に情緒がありますよね。杉村に対する思いを切ないくらいに見せてくれました。

僕は清野さんや松坂さんに対しても撮影中は褒めていません。もちろんいい演技だと思っています。OKを出しているわけですからね。だけど、最後の最後まで「これで大丈夫か?」と、自分の中でどこか疑っている。できあがるまでわからないと常に思っていたい。初号が終わったところで感謝を伝えました。

エンターテインメントで必要なもの


(C)柊あおい/集英社 (C)2022『耳をすませば』製作委員会

──雫と聖司が「翼をください」をセッションするシーンがありましたが、演奏しているときに聖司が雫を見つめる表情は松坂さんと中川さんが瓜二つというくらい似ていました。演出で互いに寄せるようにしていたのでしょうか。

平川:あれは僕の演出ではありません。中川くんが真似したようですね。『僕だけがいない街』は中川くんが10歳のときでしたが、地方ロケの空き時間に一緒に露天風呂に入って、「藤原竜也の映画を見まくれよ」といったのです。その時から“なり切るためにはしっかり見て、真似をしなくてはダメだ”と伝えていたので、何も言わなくても松坂さんの真似をしていたんじゃないでしょうか。

松坂さんがチェロ奏者としての表現力に卓越したものがあったことも大きかったですね。それを見てしまうと、どうしても中川くんがぎこちなくなる。中川くんは中学生時代の聖司で、プロのチェリストではありませんから、それでもいいのですが、大切なのはチェロを弾く力量ではなく、表現力です。そこでは負けてほしくないので、「松坂さんはここまでできているよ、翼はそれでいいの?」と伝えると、中川くんは必死にやってくれました。

──音楽だけではなく、細やかな音響効果が印象に残りました。『耳をすませば』というタイトル通り、耳をすませて観て見てほしいシークエンスはありますか。

平川:音楽担当の髙見優さんが主題歌の「翼をください」をアレンジしていますが、打ち合わせのときに「世の中みんな疲れているから、癒されたいと思っている。岩盤浴にいくと聞こえてくる水のせせらぎのような感じがいい」という話になり、ヒーリング的な音楽にしてくれました。

ところがダビングしてみると、映画全体としてまだ何か足りない。何が足りないのだろうと考えていたら、ロケ地に流れていた小川の音が拾えていないことに気がつき、足してもらったりしました。雫が地球屋の前に行ったときには野鳩の鳴き声が聞こえます。見てくれた人の心を安らげたい。心を癒して帰ってほしい。そういう思いでいろいろな音を付けています。

とはいえ、映画館で観る良さって身体で感じられるところ。耳をすますのは自分の内面ですればいい。この作品は浴びるようにリラックスして楽しみながら、ご覧いただければと思います。

以前は「エンターテインメントは究極的状況で生きていく上で必要ない」と思っていたのですが、コロナ禍になって、エンターテインメントは生きていく上ですごく必要なものだと身に染みてわかったのです。そこからは映画を作る意義が自分の中で変わってきました。

インタビュー/ほりきみき

平川雄一朗プロフィール

1972年生まれ、大分県出身。テレビドラマ「白夜行」(2006)、「ROOKIES」(2008)「JIN-仁-」(2009・2011)、「天皇の料理番」(2015)、「義母と娘のブルース」(2018)『天国と地獄〜サイコな2人〜』(2021)などを演出。2007年に『そのときは彼によろしく』で映画監督デビュー。その他の映画作品に『陰日向に咲く』(2008)、『ROOKIES-卒業-』(2009)、脚本も手がけた『ツナグ』(2012)、『僕だけがいない街』(2016)、『春待つ僕ら』(2018)、『記憶屋 あなたを忘れない』(2020)、『約束のネバーランド』(2020)など。

映画『耳をすませば』の作品情報


【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
柊あおい「耳をすませば」(集英社文庫<コミック版>刊)

【監督】
平川雄一朗

【脚本】
平川雄一朗

【出演】
清野菜名、松坂桃李、山田裕貴、内田理央 / 安原琉那、中川翼、荒木飛羽、住友沙来、音尾琢真、松本まりか、中田圭祐、小林隆、森口瑤子 / 田中圭、近藤正臣

【作品概要】
原作は柊あおいが少女まんが雑誌「りぼん」(集英社)で発表した同名コミック。1995年にスタジオジブリがアニメ映画化し、大ヒットを記録した。本作では原作やアニメ映画で描かれた中学生時代と、その10年後をオリジナルストーリーで描く。

大人になった月島雫を清野菜名、天沢聖司を松坂桃李が演じ、中学生時代の2人には安原琉那、中川翼が抜擢された。

監督は平川雄一朗。主題歌は「翼をください」で杏が歌う。

映画『耳をすませば』のあらすじ


(C)柊あおい/集英社 (C)2022『耳をすませば』製作委員会
月島雫は読書が大好きで元気いっぱいな中学生の女の子。図書貸出カードに自分より先に書かれている天沢聖司という名前が頭から離れなかった。

あるきっかけで2人は“最悪の出会い”を果たすものの、聖司の優しい一面を知り、雫は次第に惹かれていく。大きな夢がある聖司に背中を押され、雫も自分の夢を胸に抱くようになる。
ある日聖司から夢を叶えるためイタリアに渡ると打ち明けられ、離れ離れになってもそれぞれの夢を追いかけ、また必ず会おうと誓い合う。

それから10年の時が流れ、雫は児童書の編集者として出版社で働きながら、作家になる夢を追い続けていたが、思うようにいかずもがいていた。もう駄目なのかも知れないという気持ちが大きくなる度に、遠く離れたイタリアで奮闘する聖司を想い、自分を奮い立たせていた。

一方の聖司も順風満帆ではなかった。戸惑い、もどかしい日々を送っていたが、聖司にとっての支えも同じく雫だった。

ある日、雫は仕事で大きなミスをしてしまい、仕事か夢のどちらを取るか選択を迫られる。答えを見つけに向かった先は―――。

堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。

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