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Entry 2021/05/21
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映画『サムジンカンパニー1995』感想評価とレビュー解説。コアソン×イソム×パクヘスの女優陣が演じたシリアスなテーマを社会派エンタメコメディにした快作|コリアンムービーおすすめ指南22

  • Writer :
  • 西川ちょり

映画『サムジンカンパニー1995』は2021年7月09日(金)よりシネマート新宿他にて全国順次公開予定!

経済が右肩あがりの成長を遂げ、グローバル化を叫んでいた1990年代の韓国を舞台に、大企業に勤める3人の高卒女性社員たちが、偶然知った会社の不正に立ち向かっていく様をコミカルなタッチで描いた映画『サムジンカンパニー1995』。

監督を務めたのは、『花、香る歌』(2015)などのイ・ジョンピル。韓国ではコロナ禍にもかかわらず、公開13日目に観客100万人を突破する大ヒットとなりました。

韓国のゴールデングローブ賞と称される第57回百想芸術大賞では、5部門にノミネートされ見事作品賞に輝きました。

主演の3人には、ホン・サンスの『正しい日 間違えた日』(2015)や、ポン・ジュノの『グエムル 漢江の怪物』(2006)などで知られるコ・アソン、『代立軍 ウォリアーズ・オブ・ドーン』(2017)のイ・ソム、『スウィング・キッズ』(2018)のパク・ヘスが扮し、息のあった演技を見せています

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映画『サムジンカンパニー1995』の作品情報


(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

【日本公開】
2021年(韓国映画)

【原題】
삼진그룹 영어토익반(英題: Samjin Company English Class)

【監督】
イ・ジョンピル

【キャスト】
コ・アソン、イ・ソム、パク・ヘス、チョ・ヒョンチョル、キム・ジョンス、ペク・ヒョンジン、デヴィッド・リー・マッキニス、イ・ジュヨン

【作品概要】
1995年の韓国を舞台に、自分たちが勤める企業の汚染水流出を偶然知ってしまった女性社員たちが、会社の不正に立ち向かう姿を軽快なタッチで描いた社会派コメディ。コロナ禍に劇場公開され、100万人を突破する異例の大ヒットとなりました。

興行的成功だけにとどまらず、第41回青龍映画賞で助演女優賞(イ・ソム)、最優秀美術賞、最優秀音楽賞を受賞。第57回百想芸術大賞で作品賞を受賞するなど高い評価を得ています。

映画『サムジンカンパニー1995』のあらすじ


(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

1995年、金泳三大統領によってグローバル元年と位置付けられた韓国。ソウルでは英語力を身に付けようと語学学校に通う人々が急増していました。

ソウル・乙支路(ウルチロ)。サムジン電子に勤める生産管理3部のイ・ジャヨン、マーケティング部のチョン・ユナ、会計部のシム・ボラムの3人はいずれも高卒の女性ヒラ社員。

実務能力は高いのに、学歴と性別のせいで正当な評価を得られず、主な仕事はお茶くみや書類整理など雑用ばかりです。

そんな中、会社の方針でTOEICが600点を超えたら、「代理」に昇進できるチャンスが到来!

ステップアップを夢みて英語を学ぶ彼女たちでしたが、ある日、イ・ジャヨンは偶然、自社工場が有害物質を川に排出している現場を目撃してしまいます。

上司に報告したところ、会社は早速実態を調査。有害物質を排出していたのは確かですが、僅かな量だから周辺住民の健康被害に問題はないという調査結果が出ました。

ほっとしたのもつかの間、ジャヨン、ユナ、ボラムの3人はその調査書が虚偽のものであることに気づいてしまいます。

真相解明に向けて奔走する3人の前に、意外な事実が浮かび上がってきました。

財閥企業という巨大組織に立ち向かう彼女たちに、果たして勝機はあるのでしょうか?

映画『サムジンカンパニー1995』感想と評価

(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

高卒女性社員のヒロイン3人組

韓国は1996年にOECD(経済協力開発機構)に加盟し、先進国の仲間入りを果たしますが、本作は、その一年前の1995年を舞台にしています。1987年に軍事独裁政権が終焉し、以降、民主化が推し進められ、著しい経済成長を遂げた時代です。

冒頭から威勢の良い音楽と共に、当時のニュース映像が流れ、活気に溢れた韓国、ソウルの街並みが映し出されます。グローバル化が叫ばれた時代、英会話教室で勉強する人々の姿も登場しています。

本作の監督イ・ジョンピルは、まずこの「英会話」に注目しました。当時、高卒社員向けの英会話教室を設けた大企業があったということが、本作を着想する上での一つのヒントとなったそうです。

コ・アソン扮するイ・ジャヨン、イ・ソム扮するチョン・ユナ、パク・ヘス扮するシム・ボラムという主人公3人組は、皆、高校を卒業後、大企業サムジン電子に就職した社員。

高校時代、優秀な成績を収めていた彼女たちは、社員としても高い能力があるにもかかわらず、男性社員のためのお茶くみ、掃除など、雑用係としてしか扱われません。

彼女たちは8年も勤務していますが、昇進することはなく、後輩である大学出の男性新入社員は早々に「代理」職についています。

先輩女性社員は、妊娠したことを上司に報告した途端、叱責され退職を余儀なくされたという逸話も登場します。

そんな中、サムジン電子はTOEICで600点以上取れば、高卒でも「代理」になれると謳い、社内に「TOEIC教室」を設けます。

昇進する唯一のチャンスということで、ジャヨンたち3人組はもちろん、大勢の高卒女性社員が教室で英語を学び始めます。

こうした風景は、世界に追いつけ追い越せと懸命に働き、より良い未来を夢見ていた当時の人々の姿の象徴でもあるでしょう。

しかし、ユナは、「TOEICクラスは、結局600点なんて無理と諦めさせて会社を辞めさせるための手段かもしれない」と発言し、夢見る仲間を我に返らせます。

「いつもそうやって水を差す」とジャヨンは言い、「水を差す」会話は劇中、度々登場しますが、ジャヨン、ユナ、ボラムの会話は明るく軽快で、信頼と思いやりで結びついた3人の関係は非常に交感が持てるものです。

夢と現実の間でもがきながらも懸命に働き学ぶ彼女たちを、映画は生き生きとユーモラスに描き出しています。

スリリングな社会派コメディ


(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

映画の着想となったもうひとつの出来事は、1991年に財閥企業が実際に大邱市で起こしたフェノール排出事件です。

学歴や性別差別の中で、高卒女性社員が奮闘努力するお仕事映画だけでもそれなりに面白い作品に仕上がっていただろうと想像できますが、そこに企業による環境汚染問題とそれに対する内部告発という主題が加えられました。

テーマとしては非常にシリアスなものなのに、社会派コメディーとも呼ぶべき、ユーモラスなエンターテインメントとして成立していることにまず驚かされます。

それらはイ・ジョンピル監督自身の演出スタイルと持ち味によるところが大きいのでしょうが、どんなシリアスな内容でも、また、恐ろしいサイコホラーでも、「笑い」の要素がしばしば盛り込まれる、韓国映画が育んできた長年の伝統がなせる技なのかもしれません。

小さなヒントから、次第に核心にせまっていく展開はちょっとしたスパイ映画のようにスリリングで、高卒女性社員たちが連帯する姿には厚い共感を覚えます。

そしてなにより、危険を犯してまでなぜ内部告発を行うのか、ジャヨンが語る言葉は韓国のみならず、現代の社会にはびこる不誠実さへのメッセージのようにも聞こえます。

3人の主役以外にも大勢の重要な人物が登場しますが、イ・ジョンピル監督は、それぞれに個性を与え、一人ひとりを魅力的に、リズムよく描き出しています。

会社の朝の体操風景がまるでミュージカル映画のように楽しく展開し、俯瞰でマスゲームのように撮っているショットなど、イ・ジョンピル監督の独特の個性が光ります。

人々が横並びになってこちらに真っ直ぐ歩いて来るという映像は自ずと高揚感をもたらすものですが、本作でもそれらが嫌味なく使われ、まさに堂々とした光景が展開されます。

まとめ


(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

第41回青龍映画賞で、最優秀美術賞を獲っただけあり、90年代の髪型やファッション、メイクなどがキャラクターの性格を反映しながら、見事にスタイリングされています。

オフィスも、部署ごとに特徴を持たせながら、時代を反映した風景が再現されています。

そのようなレトロな雰囲気で楽しませつつ、作品のテーマは現代にも強く響く内容となっていて、それが多くの人の心を動かし、韓国国内での大ヒットへとつながったのでしょう。

ちなみに、高卒の女性社員といえば、チョン・ジェウン監督の『子猫をお願い』(2001)でイ・ヨウォンが演じたヘジュというキャラクターを思い出す方も多いことでしょう。

彼女は商業高校時代の仲良し5人組の中で、他の4人が就職していない中、唯一財閥企業に就職して得意満面ですが、本作と同様、雑用に追われるだけで重用されず、次第に疎外感を覚えるようになっていきます。

イ・ジョンピル監督も、『子猫をお願い』を念頭に本作を製作したと語っています。

映画『サムジンカンパニー1995』は2021年7月09日(金)よりシネマート新宿他にて全国順次公開!

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