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Entry 2021/07/13
Update

韓国映画『記憶の夜』ネタバレ結末感想と最後まであらすじ解説。怖いサスペンスに描かれた“家族にまつわる2つの行動”

  • Writer :
  • 鈴木めい

チャン・ハンジュン監督による韓国サイコスリラー映画『記憶の夜』。

1997年のある春の日、一家4人は新しい家に引っ越してきます。引っ越し先の家に見覚えのある違和感を抱く弟。新しい家で温かい家族生活が始まると思っていたのもつかの間、尊敬する兄が雨降るなか何者かに拉致されてしまいます。

19日後無事に戻ってきた兄は、その間の記憶を無くしていました。家に感じる違和感を拭えないまま、兄の様子がこれまでと異なることに気づく弟は・・・。

信じていたものが壊れゆくとき、真実が炙り出される人間の哀情。「記憶」を鍵に繰り広げられるサイコミステリー。

『ミッドナイトランナー』のカン・ハヌルが主役の弟を演じ、『悪人伝』のキム・ムヨルと共演。そのほか『ソウル・コンパニオン/肉体の虜』のナ・ヨンヒ、『教授とわたし、そして映画』のムン・ソングンらが脇を固めます。

そして演出と脚本は『吹けよ春風』『最後まで行く』などのチャン・ハンジュン監督が務めています。

映画『記憶の夜』の作品情報


Netflix映画『記憶の夜』

【公開】
2017年(韓国映画)

【原題】
NIGHT OF MEMORY/FORGOTTEN

【脚本・監督】
チャン・ハンジュン

【キャスト】
カン・ハヌル、キム・ムヨル、ナ・ヨンヒ、ムン・ソングン、イ・ウヌ

【作品概要】
ミッドナイトランナー』で活躍のカン・ハヌルと『悪人伝』出演のキム・ムヨルがダブル主演でタッグを組み、繰り広げられるサイコミステリー映画。

引っ越し先に向かう車の中で悪夢から目覚めるソン・ジンソク(カン・ハヌル)は、新居に着いた途端にその家に身見覚えがあるような錯覚を覚えます。

尊敬する兄と両親とで新しい家での暮らしを迎えた夜、前住人の荷物があるという開かずの部屋から聞こえる物音が気になりますが、「絶対に見てはいけない」と父親に諭されます。ジンソクの気を紛らわそうと散歩に連れ出す兄ユソク(キム・ムヨル)ですが、その帰りみち兄が 何者かに拉致され・・・。

映画『記憶の夜』のあらすじとネタバレ


Netflix映画『記憶の夜』

1997年5月、引っ越し先に向かう車の中で4人家族の弟ソン・ジンソクは悪夢から目が覚めます。

安堵するように穏やかな母、運転する父、そして尊敬する優等生の兄の存在を確認するも、新居先へ着くや否やソン・ジンソクはその家に見覚えがあることに違和感を覚えるのでした。

引っ越し作業中、ジンソクは兄ソン・ユソクと同じ部屋となることを知ります。ジンソクの部屋になるべき一室は、以前の住人の荷物で占拠されていることから使えず、またその住人にお願いされていることから決して中は見てはいけないと父親に諭されるのでした。

転居初日、家族4人で食卓を囲んでいると上の開かずの部屋から物音が聞こえ、ジンソクは訝しく思います。

自室に戻った後も聞こえる音に、ジンソクは部屋を開けようとしますが、扉を開けようとする寸前で兄に声を掛けられ実行できません。兄はジンソクに気分転換をしようと雨降る中散歩に連れ出します。

雨降る公園で夜景を眺めていると、兄の携帯に父親から電話がかかり兄は父の依頼を片付けるために一足先に家に戻りますが、その途中で何者かに拉致されてしまいます。

後を追うように家に戻ろうとしたジンソクは拉致現場を目撃しますが、状況を家族や駆け付けた警官に伝えても取り合ってもらえません。

日がな兄の帰りを待つジンソクは悪夢をたびたび見るようになります。また家の中の開かずの部屋からの物音や気配も感じるようになっていました。

その後、行方知れずとなっていた兄は、拉致された日から19日が経った朝に家に戻ってきます。無事に戻ってきた兄でしたが、行方不明となっていた19日間の記憶を無くしていました。

そんな兄の様子が以前とは異なることにジンソクは気づきます。兄が夜中に家を出たり、寝ているジンソクの目を刺そうとしていたりと。ジンソクが問いただしても、ジンソクの神経症による妄想だと兄に交わされてしまいます。

兄の様子に不審を抱くジンソクは、ある夜家から出る兄を尾行します。本来なら過去の負傷で左足を引きずり兄は普通に歩き、また怪しい連中とつるんでいる様子を目撃します。

不信になるジンソクは、母親に兄の不審な行動を伝えます。一見、ジンソクの話を信じたかのように見せた母親でしたが、その後ジンソクは母親が電話で誰かと話しジンソクが何かに気づき始めたと伝えているのを聞いてしまいます。

信じていた家族が本当の家族ではないと気づき、真実がわからなくなったジンソクは雨の中必至に逃げようとします。一味に追いかけられながらも、目の前に見えた交番に駆け込もうとしたところで衝突しそうになったパトカーに助けを求めます。

以下、『記憶の夜』ネタバレ・結末の記載がございます。『記憶の夜』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
駆け込んだ交番で警察に家族が偽物であり、自身が拉致されていた状況を説明するも、真剣に取り合ってくれません。なぜなら、身分照会の結果、ジンソクは41歳であり、1997年だと思っていた時は実際には2017年だったのです。

警察署のテレビから流れるニュースで事実を認識するジンソク。鏡をのぞき込むと、そこには40代のジンソクがいました。

状況がわからず家に戻るジンソク。開かずの部屋から流れる音楽につられて部屋を覗くと、部屋中に広がる真っ赤な鮮血と血まみれのマネキンが転がっていました。

そこに登場する兄、母、父役の偽の家族。何者なのかとジンソクは聞きます。そこで20年前の12月に起きた一家惨殺事件について聞かされます。そして、その犯人がジンソクであることも。

偽の兄は、事件の真相を解明するために一家惨殺事件の遺族に頼まれて犯人捜しを行っていました。

そして、やっと見つけた犯人ジンソクが心因性ショックにより事件の記憶を失っていたことから、催眠捜査が専門だった元警察官のパク・ソンデ協力のもと記憶を戻すために、疑似家族を構成しジンソクの記憶を事件前に戻すことで、事件の記憶を呼び戻そうとします。

そしてパク・ソンデが父親役であり、元女優経験のある水商売の女が母親役を務める疑似家族が構成されていたことを知りました。

引っ越し先で見覚えのあった家はジンソクが過去に殺人を行った場所であり、ジンソクが不審に思った部屋の物音は、殺害現場を再現する作業の際に発生した音だったことも判明します。

事件当時と同じ雨降る夜に再現現場に誘うことでジンソクの記憶を呼び戻す算段でしたが、公園の帰り道に警察に偽の兄が逮捕されことは想定外でした。

そのため計画はいったん頓挫しかけますが、19日後に偽の兄が警察から釈放され再度遂行しようとしたものの、雨の降らない天気が続き、その間にジンソクにかけていた暗示が解け始め、現在に至ることを知らされます。

ジンソクは人殺しをしてないと偽の兄に伝え、追及から必死に逃げますが車に轢かれてしまいます。一命をとりとめたジンソクは病院で事件までの記憶を取り戻します。

それは、引っ越し先へ向かう幸せな4人家族が交通事故にあい、奇跡的に助かったジンソクと本当の兄。兄は病院で手術を要する身となりますが、くしくも韓国の通貨危機が陥り経済破綻が生じます。

高卒で就職先のないジンソクは個人ローンも組めず、兄の手術費の工面に困り果てます。切迫感に駆られるなか、ジンソクは殺人を行うことと引き換えに対価を提案してくるインターネットの掲示板の誘いに乗ってしまいます。

殺人依頼はある家族の母親を一人殺すものでした。しかし、娘に目撃され声をあげられたことからジンソクは母親と娘を勢いで殺してしまいます。幼い息子もいましたが、ジンソクは100数えて隠れていることを命令し、息子は生き長らえさせます。

殺害現場の家族写真を見て、その家族が兄の担当医であることを知り、医者のもとへ向かいます。なぜ自分にこのようなことを課したのか、なぜ妻を殺そうと命令したのか。ジンソクは問いただしますが、担当医は担当医で現状の生活を維持するために妻の保険金を狙っていたのです。

そして担当医は娘も殺されたことを知りジンソクを殺そうとしますが、担当医は屋上から落ちそうになります。ジンソクが助けようとするものの落下して死亡してしまい、罪のない人たちを殺したことでジンソクは精神的ショックを受けます。

記憶を取り戻したジンソクのもとへ偽の兄がやってきます。ジンソクは彼に遺族がどこにいるのかを聞き、「死んでわびると必ずそう伝えてほしい」といいます。偽の兄は、ジンソクが記憶を取り戻したことを知り、殺害の真相を問いただします。

そして、自分に母親を連れてくると約束しただろと、自分があの時の幼い男の子チェ・ソンウクであったことを告白します。彼もまたあの事件の後、施設に入り苦労した人生を送ったことから必ず犯人を突き止めることを心に誓いました。

ジンソクは泣きながら謝ります。チェ・ソンウクは、真相を探るうちに父親が母親に多額の保険金をかけていたことを突き止め、殺害が父親の指令であったのかをジンソクに執拗に問いただします。けれども、ジンソクは「すべて一人でやった」と一人で罪を背負うことにしました。

「達者でな」と別れ文句を放ち、病室を出るチェ・ソンウク。彼は病院の窓から飛び降り自死を遂げます。

そして、一方のソン・ジンソクも病室で薬を打ち、命を終わらせます。同じときに命を終えた二人。振り返ればふたりは、1997年5月、引っ越し先に向かう途中の公園で、当時21歳だったソン・ジンソクと当時5歳だったチェ・ソンウクとして偶然にも出会っていたのです。

映画『記憶の夜』の感想と評価


Netflix映画『記憶の夜』

実は不幸の連鎖によって成り立っていることが判明する本作『記憶の夜』

カン・ハヌル演じる主人公ソン・ジンソクが抱える悲しみと喪失感によって、世知辛い情勢の中で生きるために間違った選択をした結果、つらい現実の記憶が忘れ去られてしまいます。

そして、主人公が「解離性健忘」で失くした記憶を取り戻させるために仕組まれた疑似家族。その疑似家族も紐解けば、失くした「記憶の夜」に起きた事件の加害者と被害者の立場でそれぞれに苦しんでいた過去を背負っていることがわかります。

兄も弟もその「記憶」を取り戻し本来の自分で相手と対峙する時、自ら死を選び終わりを迎えるのですが、なんとも救いのない現実を描いている本作はサスペンスタッチで描かれるサイコミステリーながらも、実際に韓国経済が破綻した1997年に人々が経済的苦境に立たされた時代背景に端を発しています。

生きていくためのお金を得ようとするとき、背に腹は代えられない状況において、人は目の前の誘惑にすがるのかもしれません。

家族とは、そして経済的困窮が家族に及ぼすものとは? 国家の経済破綻が個人に及ぼす影響が不幸の始まりだとして、その中で連鎖する負の決断、行いの因果に言いようのない思いを抱きます。

その連鎖を断ち切るように一つ救いがあるとすれば、記憶を取り戻したソン・ジンソクが自分の兄のふりをしていたユソクが実は殺害した家族の息子チェ・ソンウクであり自分が助けた男子だったと分かった際に、実際は殺害命令がチェ・ソンウクの父親からのものであったにも関わらず、自分ひとりが罪を背負うことで彼の家族を守ったことといえます。

家族を大事に思っていたからこそ取ってしまった行動の、一方で家族に愛され家族を愛していたからこそとれる行為の姿がそこには垣間見えるのでした。

まとめ


Netflix映画『記憶の夜』

ミッドナイトランナー』ではつらつとした警察学校生を演じたカン・ハヌルが、本作では神経症を患うナイーブな弟役を好演し、青年期と壮年期の二つの時代を演じ分けています。

そして、いい人そうに見えて一癖二癖ある役作りをしたらこの人というほどのキム・ムヨルもまた、爽やかな中にもミステリアスな雰囲気を醸し出すことで映画全体の緊張感を醸成しています。

カン・ハヌルの切羽詰まった演技にも目を離せない一方、キム・ムヨルが抱えていた哀しみに最後は涙を誘うものがあり、男性二人の重厚な演技バトルを楽しめる映画となっています。

カン・ハヌル演じる弟の神経症に基づく被害妄想が繰り広げられるサスペンスかと思える前半から、からくりが判明する後半、そして事実とそこに至る経緯が自明になる展開に、この映画の根底に流れる悲しみが伝わります。

家族を殺された側と殺した側の立場、犯人に責任を問いたくても真相を解明したくても殺害の記憶を喪失してしまっている事実。

そして記憶を取り戻させ真相を解明した後でもぬぐえない悲しみと見いだせない希望に命を閉じてしまう結末は、何が正解であったのか答えのない疑問を投げかけます。

韓国の学歴社会や当時の情勢、様々な要素が複雑に織り込まれており、それら一つ一つに理解を馳せることで人間の悲しみが映し出される作品となっています。

人と人が人生でどう交差し、その後の人生に関わっていくのか、その不思議な縁を是非見届けてください

また劇中でも描かれる韓国の人々が苦境に立たされた1997年当時の経済破綻については、チェ・クッキ監督の韓国映画『国家が破産する日』をご覧いただくと、より一層に本作の根底に流れる背景を深く理解できます。

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