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Entry 2020/05/30
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映画『ストレンジシスターズ』ネタバレ感想と考察評価。ホラー妖怪・首だけ女ガスーが現代に蘇る|未体験ゾーンの映画たち2020見破録53

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第53回

「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第53回で紹介するのは、強烈な姿の妖怪が登場する、美少女アクションホラー『ストレンジ・シスターズ』。プラッチャヤー・ピンゲーオ監督が手掛けるモンスター・ホラー映画です。

東南アジア諸国に伝わる恐ろしい妖怪”ガスー”。その存在が伝わってくると、日本の妖怪ろくろ首(抜け首)と同じものか、と話題になりましたが見た目の凶悪さは段違いです。

そんな伝統的な妖怪と対決するのが、タイ・バンコクで活躍するアイドルグループ、BNK48の2期生としてセンターも務めた、”ミューニック”ことナンナパット・ルートナームチューサクン。グロテスクな妖怪と美少女が対決する、新世代タイ製ホラー映画が誕生しました。

本作は第32回東京国際映画祭の、「CROSSCUT ASIA #06 ファンタスティック!東南アジア」で上映された作品です。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

映画『ストレンジ・シスターズ』の作品情報


(C)2019 SAHAMONGKOLFILM INTERNATIONAL CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

【日本公開】
2020年(タイ映画)

【原題】
กระสือสยาม / Sisters

【監督・製作・原案】
プラッチャヤー・ピンゲーオ

【キャスト】
プロイユコン・ロージャナカタンユー、ナンナパット・ルートナームチューサクン(ミューニック)、スパコーン・キッスワン、ラター・ポーガーム、アパー・パーウィライ、チンナパット・キティチャイワラングーン

【作品概要】

実の姉妹の様に育った2人の少女。妖怪”ガスー”との対決を運命づけられた彼女たちを描く、モンスター・ホラー映画です。アクションシーンもある本作を監督したのは、『マッハ!!!!!!!!』(2001)や『トム・ヤム・クン!』(2005)、『チョコレート・ファイター』(2008)を製作・監督したプラッチャヤー・ピンゲーオです。

もう1人の主演として”ミューニック”の従姉役を演じ、アクションに挑戦したのが、ノンタワット・ナムベーンチャポーン監督の『#BKKY』(2016)に主演した、プロイユコン・ロージャナカタンユー。少女たちと敵対する妖怪”ガスー”を、『オンリー・ゴッド』(2013)や『ルパン三世』(2014)、『メカニック:ワールドミッション』(2016)のラター・ポーガームが演じます。

本作は第32回東京国際映画祭の、「CROSSCUT ASIA #06 ファンタスティック!東南アジア」で上映された作品です。

映画『ストレンジ・シスターズ』のあらすじとネタバレ


(C)2019 SAHAMONGKOLFILM INTERNATIONAL CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

少女ウィナー(プロイユコン・ロージャナカタンユー)は、自らの身に生まれながら背負わされた、数奇な運命について語ります。

彼女の母は漢方医で呪術師でした。しかし彼女の妹、スロイは呪われた運命から、男と関係を持ってしまった後に、妖怪”ガスー”となってしまいます。

スロイを愛した夫シン(スパコーン・キッスワン)は、妻と産まれた子モーラーを守ろうと、ウィナーの母に懇願します。彼女も持てる術を尽くし運命に抗います。

しかしある夜スロイを仲間に引き入れようと、ラートリーとドゥアンダーオ姉妹に率いられた、ガスー一味が現れます。

しかしガスー一味との戦いでウィナーの母も、モーラーの母スロイも命を落とし、シンも傷付きます。そしてガスーの汚れた血を浴びてしまう赤ん坊のモーラー。

残された実子のモーラーと、姪のウィナーを実の姉妹のように育てるシン。しかしモーラーは成長すると、妖怪ガスーとなる宿命を背負ってしまいました。

シンはそれを防ごうと修得した様々な術を、ウィナーに幼い頃から厳しく仕込んでいきます。医術に呪術、法術に格闘武術を収めたウィナーは、成長した今も修練を怠りません。

そんな彼女も通う高校では、気になる男子もいる平凡な女生徒でした。彼女の通う同じ学校に、車で送られて登校するモーラー(ナンナパット・ルートナームチューサクン)。

様々な術を学ぶためウィナーは叔父のシンと暮らし、一方シンの実子モーラーは、2人と離れて生活しています。しかしウィナーとモーラーは、姉妹のように支え合って日々を過ごします。

もうすぐ16歳になるモーラーは、自分にかけられた呪いを知らずに生きています。その残酷な運命から、必ず彼女を守ろうと決意しているウィナー。

叔父と住む荒れ果てたアパートに帰宅し、ウィナーは音楽を聞きながら美術の課題の絵を描きます。しかし車椅子で現れたシンは、課題より重要なのはモーラーを守ることだと諭します。

それはウィナーの将来を犠牲にするもので、彼女は叔父に反発します。すると何処からか、女の悲鳴が聞こえてきます。ウィナーはマグボトルを手に高校に向かいました。

姪のモーラーが出て行くと、水槽の中にいる何かに生肉を与えるシン。

モーラーは5階の部屋から、エレベーターで1階へと向かいます。しかしエレベーターは3階で停止すると、独りでにドアが開きます。彼女はやむなくエレベーターから外に出ます。

何かの気配を感じたモーラーは、床にチョークで呪術の記号を描きますが、背後から何者かが迫ってきます。記号を描き切れなかった彼女は、非常階段を使い外に逃れました。

高校でモーラーと一緒になったウィナーは、彼女にマグボトルを与えます。それには特別に煎じた薬草茶が入っていました。それを飲んだモーラーは、体が弱いのか日差しを嫌います。

モーラーは父シンと暮らす、ウィナーを羨んでいました。しかし病気を治すには今の暮らしが良いとウィナーは告げました。

仲良く別れたものの、車で帰るモーラーの表情は優れないものです。そして廃墟のようなアパートに帰宅するウィナー。

部屋の扉には呪文を書いた紙が貼ってあり、部屋の中には多くの薬草が所狭しと並んでいます。ウィナーは荷物を置くや、漢方薬を調合し始めました。

夜の街の路地を1人歩く妖艶な女。彼女の前にナイフを持った男が立ちふさがりますが、彼は触手に貫かれ絶命します。

豪華な部屋に戻ったその女、ラートリー(ラター・ポーガーム)は、美しい女たちを従え、車椅子の老婆ドゥアンダーオ(アパー・パーウィライ)を世話していました。

ドゥアンダーオは自分の衰えた容姿に怯え、食事をとれません。彼女に対し、あなたを傷付けた奴らには、必ず復讐すると誓うラートリー。

従者の女は、ドゥアンダーオが残した生肉の入った食事を牢屋に投げ捨てます。牢の奥から這ってきた、幾つもの老婆の首がそれを貪り喰らいました。

その夜、恐ろしい夢を見て目覚めたモーラー。彼女は生肉を手にしますが、気分が悪くなり吐いてしまいます。彼女は肉を断つ食生活を送っていたのです。

モーラーは父シンの家から出され、今の家に預けられた日を思い出します。その理由が判らず泣く彼女を、父が決めたことだと慰めるしかないウィナー。

翌日、学校でバスケットボールに興じるウィナーを、羨ましそうに見るモーラー。立ち去った彼女は、体育用具室で男子生徒のゴン(チンナパット・キティチャイワラングーン)に出会います。

ゴンに声をかけられるモーラー。そこにウィナーが現れますが、ゴンは彼女が意識していた男子生徒でした。動揺を隠し、何事も無いように振る舞うウィナー。

その日、2人は映画を見に行きました。しかしモーラーが体調を崩します。具合が悪くなった彼女のために、ウィナーは水を求めに行きます。

しかしモーラーは、通りがかった若い女の後を、引き寄せられるように付いていきます。その女は美容サロンに入って行きました。

そのサロンに入ろうとした彼女を、現れたウィナーが引き止めます。なぜここにいるととがめるウィナーの前で、気を失うモーラー。

ウィナーは彼女をシンのアパートに連れ帰り、調合したジュースを飲ませます。美味しいというモラーは、父との再会を喜んでいました。

最近は空腹でも食べれない、と訴える娘を診察したシンは何かの兆候を悟ったようです。今日はここに泊まりたいとモーラーは訴えますが、あの悲鳴が聞こえてきます。

シンは帰るよう告げ、ウィナーに娘を送らせます。エレベーターに2人は乗りますが、また3階で停まると開いた扉から手が伸び、掴まれさらわれたモーラー。

ウィナーがエレベーターから出ると、3階は闇に包まれていました。懐中電灯を手に彼女は進み、気を失ったモーラーを見つけます。

エレベーターに乗り込む2人を、衣服の裾を血に染めた女の幽霊が追ってきますが、ウィナーが床に呪文を描いて逃れることが出来ました。

モーラーを送り届けたウィナーは、今日はここに泊まるとシンに電話で連絡します。今まで騒ぐだけのアパートに憑りついた幽霊が、攻撃的になったと訴えるウィナー。

しかしシンは、幽霊からモーラーを守れなかった彼女を責め、お前の母は妖怪ガスーを倒すほどの、術の使い手だったと告げます。

モーラーは幽霊に傷付けられていました。彼女はなぜパパとウィナーは、あのアパートに住み続けるのかと訴えます。そして自分の体は、本当はどこが悪いのかと訊ねました。

怯えるモーラーに、真実を告げられないウィナー。しかし自分は必ずお前を守ると約束します。この日は同じベットで寝た2人。

次の日1人登校したウィナーに、ゴンはモーラーはどうしたか尋ねます。妹は休んだと告げると、ゴンは彼女にメールを送りたいと、モーラーの電話番号を訊ねます。

彼女はモーラーの電話番号をゴンに教えます。ゴンの連れの男子生徒、ウェンはウィナーに気があるらしく、彼女の電話番号を訊ねましたが、ウィナーは無視しました。

早速ゴンはモーラーにメールを送ります。それはウィナーのスマホに送られます。何故か彼女はモーラーを男から引き離そうとしていました。

その頃、ウィナーが入ろうとした美容サロンに、深刻な顔をした女が入って行きます。彼女は受付に、ニキビの特別治療を受けたいと申し出ます。

サロンの主人はラートリーでした。すると女に男から電話が入り、処置は止めろ伝えます。特別治療とは堕胎手術でした。女が中止すると申し出ると、怪しく目を光らせるラートリー。

女は意識を失いました。足を開かせた女の前に、ラートリーは車椅子のドゥアンダーオを連れて行きます。人間の胎盤を食べ、力をつけるようドゥアンダーオに告げ、ラートリーは立ち去ります。

仕切られたカーテンに、ドゥアンダーオの首が伸びてゆく影が映し出されました。

“食事”を終えたドゥアンダーオは若返り、意識も言葉もしっかりしました。その彼女に妹と呼びかけ、今度は新しい体を与えると約束したラートリー。

夜の街をモーラーと歩いていたウィナーは、嫌な予感に襲われます。するとモーラーがあのサロンの従業員に捕まり、チラシを渡されました。

その手をウィナーが払うと、怪しい光が発します。それが合図になったのか、サロンの授業員の女たちの体が痙攣し始めます。

モーラーの手を引き夜道を急ぐウィナー。夜空に緑の光を発し内臓をぶら下げて飛ぶ、いくつもの女の首がありました。妖怪ガスーが2人を追って現れました。

理由も告げずに走らされ、モーラーは戸惑い理由を訊ねます。それに構わず彼女を逃がし、ウィナーは術を使います。すると悲鳴を上げ逃げ去る妖怪ガスー。

ウィナーはタクシーを停め、2人はそれに乗り逃げました。しかしモーラーは、理由を話さないウィナーを責め、2人は言い争いになりました。

タクシーはモーラーの家に着きますが、怒った彼女はウィナーが渡した薬草茶のマグボトルを捨てました。理由も告げられず、独り暮らしを強いられているとモーラーは不満をぶつけます。

長い年月、皆があなたのために闘ってきたと訴えるウィナー。しかし心は通わず、喧嘩したままで別れる2人。

アパートに戻ったウィナーは、遂に現れた妖怪ガスーの姿を思い出します。叔父のシンに、妖怪ガスーに何も出来なかったと彼女は訴えました。

奴らは普通の人の姿で、社会に紛れて潜んでいると語るシン。成長し妖怪ガスーになりかけているモーラーの臭いを、奴らは嗅ぎつけ迫ってきたと説明します。

お前の母は、妖怪ガスーとなった妹スロイに最期まで尽くしたと告げ、同じことがお前に出来るか、と問いかけるシン。

まだ時間はある。あの子の変化を見守り、妖怪に対抗できる術を身に付けろとシンは諭します。しかし過酷な運命がもたらす重圧に、ウィナーは耐えられなくなっていました。

次の日モーラーは高校の授業で、カエルの解剖を行います。終業のベルが鳴り、教師や生徒が立ち去った後、1人教室に残ったモーラー。

彼女はカエルの死骸を手に掴み、引き寄せられるようにそれを舐め、やがてその内臓をすすり始めました…。

以下、『ストレンジ・シスターズ』のネタバレ・結末の記載がございます。『ストレンジ・シスターズ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 SAHAMONGKOLFILM INTERNATIONAL CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

高校の体育用具室でゴンが片付けをしていると、普段より元気そうなモーラーが現れます。ゴンからメールを送ってもつれない返事しかないと言われ、彼女は不審に思います。

モーラーが確認すると、彼はウィナーのスマホにメッセージを送っていました。彼女がモーラーになりすまし、冷たい返事を送っていました。

ゴンに自分の連絡先を伝えたモーラー。彼女は異性との交流を楽しんでいるようです。

その頃モーラーの父で、ウィナーの叔父であるシンは、幽霊を封じるためアパートの3階にウィナーが書いた呪文を、何故か消して回っていました。

学校が終わっても待ち合わせの場所に現れず、電話にも出ないモーラーを、ウィナーは心配します。そこに突然、いつもより明るい調子で現れたモーラー。

モーラーは今日は調子も良く、薬はいらないと言いだします。ウィナーがゴンと、モーラーと偽ってチャットしていた事実を指摘します。

ゴンを意識するウィナーの気持ちを知ってか、守りたかったのは私か彼か、モーラーはゴンと付き合うと言い出します。彼女の普段と異なる態度に、戸惑いを覚えるウィナー。

薬草茶のマグボトルも持たずに、モーラーは立ち去ります。アパートに戻ったウィナーはエレベーターに乗りますが、その中にあの下半身を血に染めた幽霊がいました。

子供を返せと叫ぶ幽霊。怯えたモーラーは、部屋に戻ると3階の幽霊の封印を、なぜ解いたのかとシンに怒ります。

あの程度の幽霊に勝てないようでは、妖怪”ガスー”には勝てないと告げるシン。叔父はお前の妹のような存在の、モーラーを守りたくないのかと責めました。

シンに言われるまま、従妹のモーラーに全てを捧げる生活を強いられたウィナーは怒り、自分は夢を見ることも、人生も選ぶことも出来ないのかと叫びます。

部屋にこもると書き溜めた絵を捨て、ゴンをチャットからブロックするウィナー。

出てきたウィナーに、シンは薬湯を与えます。お前を実の娘のように思っていると話すシン。ウィナーが背負った運命を思うと、胸が痛むと語りかけます。

しかしモーラーの命には変えらないと告げます。その言葉を聞いたウィナーは、妖怪ガスーからモーラーの身を守れない事態を想像すると、本当に恐ろしいと訴えます。

涙を流す姪を優しく抱きとめ、もう休むよう諭すシン。

翌日、学校でウィナーはモーラーを待ちますが現れません。そこに彼女に気があるウェンが現れ、モーラーはゴンと一緒にショッピングモールに行ったと教えます。

ウィナーの電話に応じないモーラーは、映画館の暗闇の中で触れてくるゴンに身を任せていました。それが変異の刺激となったのか、首に異変を覚えるモーラー。

映画館を出てトイレに駆け込んだモーラー。モールに駆け付けたウィナーも、漂う怪しい気配を感じます。

あの美容サロンでラートリーに仕えていた女が現れ、モーラーの拉致を試みます。気を失い引き立てられるモーラーの脇には、ゴンの遺体がありました。

気付いたウィナーは、先回りして女に薬の粉を撒きます。女たちが苦しむ隙に、モーラーを助け出し逃げるウィナー。それを察し群れとなって2人を追う妖怪ガスー。

ウィナーはモーラーと閉店準備中の衣料店に逃げ込み、そのガラス戸に呪文を描き、薬の粉を撒き妖怪から身を守ろうと試みます。

現れた妖怪ガスーに、強いライトの照明を浴びせ追い払うウィナー。内臓をぶら下げ宙を舞う女の首の姿に、店の従業員は怯えます。そこにラートリーが現れました。

ガスーを束ねるラートリーは、照明を浴びても動じません。彼女が手をかざすと呪文は消え、ガラスは破れます。倒れたウィナーの記憶を読み、シンの居場所を掴むラートリー。

シンは敵を研究するために、水槽に老いた妖怪ガスーを飼っていました。それが激しくうごめき、シンは異変を悟ります。アパートにラートリーが現れました。

お前たちに傷つけられ、私の妹は弱り老婆のようになったと告げるラートリー。復讐は果たすと言った彼女の隙をつき、シンは術で動きを封じます。

しかしラートリーは術を破ります。そして妖怪ガスーの正体を現して、シンに襲いかかったラートリー。老婆のガスーが放つ笑い声が響きます。

ウィナーが目を覚ました時、店の従業員は無惨な姿で死んでいました。そしてモーラーの姿はありません。

アパートに戻ったウィナーを待っていたのは、叔父シンの凄まじい姿の骸でした。

ウィナーは悲しみに暮れながらも、弓矢や剣、シンの残した呪術書を身に付けます。そこに何者かがやってきます。現れたのは忘れ物を届けにきたウェンでした。

彼はよく判らないまま、ウィナーに協力を頼まれます。彼女が3階の幽霊と対決する間、エレベーターで待機することになったウェン。

幽霊の叫び声に耐え、待ち続けたウェンのもとに、ウィナーが帰ってきました。

1人より2人の方が良いと言い、協力を申し出たウェン。しかしウィナーは彼を残し、1人で妖怪ガスーに立ち向かおうと去っていきます。

捕えられたモーラーは、ドレスを着せられ拘束されて、ラートリーとドゥアンダーオ姉妹の前にいました。

姉妹の狙いは、呪われた宿命でモーラーが妖怪ガスーと化した時に、首が離れた残された体をドゥアンダーオが奪い、復讐と若返りを図る企てです。

ラートリーの隠れ家にウィナーは潜入します。ラートリーの手下の女が全裸で現れ、モーラーを囲みました。そして妖怪ガスーと化してゆく女たち。

体を離れた妖怪ガスーの首の群れは、夜空高く飛んで行きます。

ウィナーはモーラーが捕らえられた部屋に入ります。モーラーの周りを、首の無い女の体が囲んでいます。モーラーの頭に薬草の冠を被せ、拘束を解いてゆくウィナー。

ガスーの群れは、モーラーに術をかけようと月を囲んで飛びます。ウィナーはガスーの残された体の首の抜けた穴に、薬の粉をかけ元の体に戻れなくします。

異変を察知し、ガスーの首の群れは戻ってきました。するとウィナーは呪文を唱え、自分の使い魔としたアパートの幽霊を呼び出しました。

幽霊と妖怪ガスーが闘う間に、ウィナーはモーラーを連れ逃げました。しかし彼女は天井からぶら下がる、異様な繭状の物体を目にします。中には無数の老いたガスーがいます。

ウィナーは現れたガスーを、弓矢と剣で次々倒します。しかし手下を倒した幽霊をラートリーがねじ伏せ、隙をつきウィナーを襲い首を絞めるドゥアンダーオ。

ウィナーの前にラートリーも現れ、彼女に触手のような長い舌を伸ばします。目覚めたモーラーは、ウィナーに迫る危機を悟りました。

呪われた宿命には逆らえないのか、被せられた冠が外れた影響か、それとも姉のように慕うウィナーを救おうとしたのか、妖怪ガスーと化してゆくモーラー。

ウィナーはこの時が来るのを恐れ、モーラーが人のまま過ごせるように手を尽くしました。しかし彼女の願いも空しく、モーラーの首は体から離れていきます。

ラートリーとドゥアンダーオ姉妹は、望んだ状況となり狂喜します。立ち向かってきたモーラーの首に対し、妖怪ガスーと化して立ち向かうラートリー。

年期を経たラートリーのガスーは手強く、モーラーの首は苦戦を強いられます。モーラーをガスーにすることが、姉妹の狙いでした。

ドゥアンダーオの首は体から離れて行きます。首の抜けたモーラーの体を奪い、若い肉体を手に入れようとしたのです。

ラートリーとドゥアンダーオはこの方法で、妖怪ガスーと化した若い女の体を奪い、命を永らえていました。繭の中にいる老いたガスーは、姉妹に肉体を奪われた者でしょうか。

ドゥアンダーオの体はウィナーの首を絞め続けています。モーラーはドゥアンダーオの首に体を奪われそうになりますが、ラートリーを追うのに夢中で気付きません。

ようやくウィナーが逃れた時、ドゥアンダーオはモーラーの体を得て、若返っていました。妹が目的を果たしたとし知り、不敵な笑みを浮かべるラートリー。

モーラーとラートリーのガスーは、屋外に飛び出てグラウンドで対決します。ラートリーに内蔵を噛まれ、苦しんだモーラーは追い詰められます。

新たな体を得て笑うドゥアンダーオの前で、ウィナーは叔父シンが語った、心を強く持てとの言葉を思い出しました。

今まで過ごした日々を思い浮かべながら、モーラーの体に剣を突き立てたウィナー。

急所を刺され苦しむドゥアンダーオのガスーを、ウィナーはモーラーの体から引き抜き、内臓を切り落とし止めを刺します。

妹の危機を察し動揺したラートリーのガスーを、モーラーが襲って噛みつき、投げ飛ばします。変電設備に触れ、焼け焦げて死んだラートリー。

繭から無数の老いたガスーが現れ、残されたラートリーとドゥアンダーオの体を、我が物にしようと争い始めます。ウィナーはモーラーの体を引きずり、その場から逃げました。

しかし妹のように思っていたモーラーは妖怪ガスーとなり、その体はウィナーが傷付けてしまったのです。彼女は泣き叫んでいました。

それからどれだけの時が経ったのでしょうか。1人自転車に乗って、夕暮れの田園風景の中を進んで行くウィナー。

妖怪ガスーと化したモーラーは無事でした。彼女はウィナーの付けた傷痕の傍にタトゥーを入れると、彼女の前から姿を消しました。

以前の自分は、宿命から逃れて自由になること、自分の夢を追うことを強く求めていたと振り返るウィナー。

しかし今の彼女は、妹として共に長い月日を過ごしてきた、最愛のモーラーと共に生きることを、何よりも強く望んでいました。

闇が迫る田園の空に、緑色の光を放って飛ぶ妖怪ガスーが現れます。ウィナーはモーラーと呼びかけ、その光の方へと走って行きました…。

映画『ストレンジ・シスターズ』の感想と評価

参考映像:『首だけ女の恐怖』(1981)

東南アジア諸国に伝わる、恐るべき女妖怪”ガスー”。その存在を日本で一躍有名にしたのが、ビデオバブルの頃に入ってきたインドネシア映画、『首だけ女の恐怖』です。

日本の妖怪、ろくろ首の同類と話題になりましたが、首の下に内蔵をぶら下げた妖怪ガスーの姿は、あまりにも凶悪でした。それをチープな特殊効果で、見世物小屋感覚で登場させた『首だけ女の恐怖』は、様々な意味で記憶に残る映画でした。

その妖怪ガスーを、最新の特殊効果を駆使し、完成度の高い美少女ホラーとして映画化した作品が『ストレンジ・シスターズ』です。

伝統の妖怪をモダンホラー化した作品


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この作品が2019年に、第32回東京国際映画祭で上映された際(その際のタイトルは『Sisters』です)、来日したプラッチャヤー・ピンゲーオ監督は、妖怪ガスーに馴染みのない日本人の為に、タイで伝統的に伝えられている生態を、詳しく語ってくれています。

暗い間に体から首だけ離れ、内臓を下げて光ながら飛ぶガスー。多くは老いた女の姿で、夜が明ける前に元の体に戻らねばなりません。日の光に当たったり、本体を隠されたり焼き払われると、ガスーは死んでしまいます。

好物は出産後に出る、人間の胎盤。しかしそれが手に入らなければ、人間の便やカエルを食べる。それが監督の語る、タイに伝わるガスー像でした。

そんな汚い物を食べたガスーは、その口を干してある洗濯物で拭くと信じられています。映画の冒頭に汚れた洗濯物が登場するのは、それを意識したものです。

この妖怪はマレーシアやインドネシアではペナンガラン、ミャンマーではケフィン、カンボジアではアープと呼ばれ、地方によっては吸血鬼の性格も色濃く持っています。

見た目も生態も日本のろくろ首のような、可愛げのある妖怪では無いことは確かです。

タイ版の妖怪ガスーを知ると、ピンゲーオ監督によってそれが、いかに現代的なキャラクターに作り変えられたかが、良く判るかと思います。

ガスーが人間の胎盤を食べるという伝説は、中絶と美容(スキンケア用品「プラセンタ」は動物の胎盤を使用しています)という現代的なものに結びつけたと監督は語っています。

そして呪われた女性が成長し、男性と関係を持つことがガスーと化する引き金となることと合わせ、女性を取り巻く身近な恐怖を基にした、モダンホラー的な物語となりました。

参考映像:第32回東京国際映画祭『ストレンジ・シスターズ』 Q&A

なお東京国際映画祭では、監督とプロイユコン・ロージャナカタンユーが登壇して、日本のファンからの質問にも答えてくれています。

Q&Aをご覧頂くと、トニー・ジャー主演作品で有名なプラッチャヤー・ピンゲーオ監督ですが、決してアクション一筋の映画人ではないと、お判り頂けると思います。

良質な美少女ホラーを楽しもう


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見た目のインパクトが強い妖怪、ガスーが登場する本作ですが、グロテスクな描写に慣れたホラー映画ファンなら、むしろ美しい映画と受け取るでしょう。

“ミューニック”こと、ナンナパット・ルートナームチューサクンが出演していますが、本作撮影中はまだ、アイドルグループBNK48に加入していません。

タイで映画が公開されると彼女のファンが詰めかけましたが、一部のシーンは評判が悪かったそうです。子役として演技経験のある彼女、表情豊かな上に熱演派です。

カエルのシーンは生の本物に、ラップを当てたものを相手に、あの演技を見せたそうです。このシーンは作り物の、おもちゃのカエルでも良かったのに……。

タイのファンにとってこのカエルのシーンと、彼女が男子生徒とイチャつくシーンの、どっちが抗議の対象だったのやら。詳しく知りたいものです。

観客からは、アクションを期待されたプロイユコン・ロージャナカタンユー。しかし監督は彼女に巧みな技を期待せず、妹同然の従妹を守るために無理をしながら闘う、健気なアクションを期待し、彼女はそれを演じ表現しました。

ナチュラルなゴス系、とでも言うべき容貌と雰囲気を持つ彼女が、特異な武器と呪術を武器に、妖怪に立ち向かいます。その雄姿に注目して下さい。

そんな2人の美少女の敵対するのが、妖艶なラター・ポーガーム率いる美女ガスー軍団。内臓を吊り下げた生首姿で迫られれば、お色気も何もないですが…。ともかく可憐な少女VS年上セクシー過剰女という、美少女ホラー映画お約束の構図です。

そして主人公2人の身近にいる男子学生が、全く役に立たないのも、ファンに余計な心配させぬよう配慮された(?)、アイドル映画の鉄板の図式です。安心して彼女たちの活躍をお楽しみ下さい。

まとめ


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グロテスクで、インパクトのあるシーンも存在する、しかしそれ以上に様々な魅力を持つ映画が『ストレンジ・シスターズ』です。

本作が妙に日本人の心に馴染むのは、ハッピーエンドともバットエンドともいいかねる、意味深いラストシーンにあるのではないでしょうか。

他国より寛容な国であると言われるタイ。無論実際には様々な問題があるのでしょうが、基本的には仏教国ならではの、運命を受け入れた上で、人生をより良く生きようという考え方が、人々に根付いていることは確かです。

モーラーを悲しい宿命から逃れさせようと、幼い時から努力を強いられたウィナーが、最後には妖怪と化した彼女を受け入れ、共に生きる道を選びます。

妖怪を滅ぼす、妖怪に滅ぼされるのではなく、それを受け入れ共存する姿は、神仏同様に妖怪や幽霊とも、何となく気持ちの上で共存する人の多い日本では、親しみやすいラストといえるでしょう。

難しい話はさて置き、美少女ホラー映画『エコエコアザラク 』(1995)シリーズや、『富江』(1999)シリーズのような、スクリーム・クイーンとは異なる闘う美少女、謎めいた美少女が活躍する、そんな作品が好きな方には必見の映画です。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…


(C)2017 Nancy the Film, LLC

次回の第54回はサンダンス映画祭で脚本賞を受賞したサスペンス・ドラマ『ナンシー』を紹介いたします。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら



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【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
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星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
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日本映画大学