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Entry 2020/12/28
Update

映画『哀愁しんでれら』あらすじ感想と内容評価。キャストの演技力が怖すぎる不穏なおとぎ話

  • Writer :
  • 石井夏子

映画『哀愁しんでれら』は2021年2月5日(金)より全国ロードショー。

「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016」でグランプリを獲得した企画をもとに、『かしこい狗は、吠えずに笑う』の渡部亮平監督がオリジナル脚本で映画化した『哀愁しんでれら』。

土屋太鳳が、清楚な雰囲気を残したまま、少しずつ狂気に蝕まれていく主人公を好演。

彼女の夫となる開業医には田中圭、彼の娘役は本作がスクリーンデビューとなるインスタグラマーのCOCOが演じました。

キャストの演技力と監督の構成力により、ユーモアとペーソスに溢れた珠玉の不穏映画となっています。

2021年2月5日(金)より全国ロードショーとなる映画『哀愁しんでれら』の魅力と見どころをご紹介しましょう。

映画『哀愁しんでれら』の作品情報

(C)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

【日本公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本】
渡部亮平

【キャスト】
土屋太鳳、田中圭、COCO、山田杏奈、ティーチャ、安藤輪子、金澤美穂、中村靖日、正名僕蔵、銀粉蝶、石橋凌

【作品概要】
「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016」でグランプリを獲得した企画をもとに、『かしこい狗は、吠えずに笑う』(2012)の渡部亮平監督がオリジナル脚本で映画化。

主人公の小春を演じるのは、数々の青春映画のヒロインを演じてきた土屋太鳳。

彼女の夫となる大悟に扮するのは、「おっさんずラブ」で大ブレイク以降、最も忙しい俳優として走り続けている田中圭。

娘のヒカリ役でスクリーンデビューを飾るのは、8歳で63万人以上のフォロワーをもち、国内外から注目を集めるファッションインスタグラマーのCOCO。

小春の妹を山田杏奈が、父を石橋凌が演じ、大悟の母に銀粉蝶が扮しています。

映画『哀愁しんでれら』のあらすじ


(C)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

児童相談所で働く福浦⼩春は、自転車屋を営む⽗と、高校生の妹、介護が必要な祖⽗の4⼈で暮らしています。母は幼い頃に家を出て行ったきりです。

自転車屋の経営は厳しく、小春の給料と合わせても、妹の大学進学費用を出せないほど。お金の心配はあるものの、小春は穏やかな日々を過ごしていました。

ある夜、祖父が風呂場で転倒。祖父を病院まで連れて行こうと、慌てて父が車を出しますが、自転車を避けようとして自損事故を起こしてしまいます。

父は晩酌でビールを飲んでいたため、飲酒運転で捕まりました。小春と妹は、祖父を乗せた救急車に同乗。そこで聞こえてきたのは「福浦サイクルが火災」という無線でした。

祖父を妹に任せ、小春は家へ戻ります。火の不始末から、自宅の1階部分にある自転車屋の店舗が燃えていました。

小春は恋人のアパートへ向かいますが、そこでは恋人と、児相相談所の先輩職員が裸で抱き合っている最中。

満身創痍の小春は夜道を彷徨い歩きます。そこへ、泥酔した男性が通りかかり、踏切を超えて線路の真ん中で寝転んでしまいました。

小春は彼を助け、介抱します。男性は小春に名刺を渡して「お礼をさせて欲しい」と伝えて去っていきました。

名刺には「泉澤クリニック 院長 泉澤大悟」と書かれています。友人たちから焚き付けられ、大悟と会うことした小春。

⼤悟は結婚歴があり、8歳の娘・ヒカリを男手ひとつで育てていました。ヒカリは小春にすぐに懐き、小春もヒカリを愛おしみます。

自分をお姫様のように扱い、さらには自分の家族のためにも尽力してくれる大悟に、どんどん惹かれる小春。そしてついに、彼女は、大悟とヒカリの家族になることを決心し…。

映画『哀愁しんでれら』の感想と評価


(C)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

心情を表すファッション

渡部亮平監督は、自主制作で撮影した映画『かしこい狗は、吠えずに笑う』(2012)では、孤独な少女たちの歪んだ友情を描きました。

『かしこい狗は、吠えずに笑う』は、友人がいない者同士、惹かれあった二人の少女が友情を育んでいきます。前半は、友情と恋愛感情の狭間を、甘酸っぱく艶やかに描き出しました。

青春ストーリーで穏やかな気持ちになった観客を、一気にどん底に叩きつける後半の展開に鳥肌が立つとともに、渡部亮平監督の容赦のなさに、役者や観客への信頼を感じました。

本作『哀愁しんでれら』では、渡部監督の脚本、構成力、演出力がさらに研ぎ澄まされています。

土屋太鳳が演じた小春が全てを失う導入部、幸せを手に入れる中盤、そして予想もつかない着地点に導くクライマックスと、観客の想像力をかき乱していきます。

そしてどれもが不自然なセリフで説明することなく、画で見せ、伝えているんです。

例えば、小春が身に纏う服やメイクにしても、心情や展開に合わせ、色合いやスタイルが変化していきます。冒頭では淡いナチュラルな色の、生活感あふれるパンツスタイルだった小春。

田中圭演じる大悟から、水色のドレスをプレゼントされたことがきっかけとなり、少しずつ華やかな色味を身につけていき、パンツスタイルからスカートを履くことが増えていきます。

そして、小春が結婚式で纏ったウェディングドレスは、純白ではなく、真紅。幸せの真っ只中である結婚式の場面ですが、この真紅のドレスを添えたことで、違和感のほんの一雫が滴り落ちます。

その後も小春のファッションは変化していき、それに伴い土屋太鳳の佇まいも変化を遂げていきます。

役者たちの覚悟を感じる演技

(C)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

明るく爽やかなイメージの強かった土屋太鳳。『累 -かさね-』(2018)でも、心根の歪んだ女優役を好演していましたが、本作ではそこからさらに踏み込み、純粋で真っ直ぐだからこそ、追い詰められて歪んでいく小春という難役で魅せてくれました。

母に捨てられたという過去から、「母親であること」についての思いが強い小春は、ヒカリの母親になったことで、その信念と現実の壁にぶつかります。ここから、表面だけではない、土屋太鳳の内なる色気と美しさが全面に滲み出て、観るものを虜にします。

土屋太鳳は、本作の脚本を読み「覚悟できないまま取り組む物語ではない」と、オファーを三度断っています。

そんな土屋太鳳が出演する決め手となったのが、過去二度の共演歴がある田中圭が大悟役にキャスティングされたことです。

田中圭は、ルックス、学歴、職業、財力など、全てを兼ね備えた王子様のような大悟役を嫌味なく演じます。そして、感情の放出をミリ単位で調整しているんじゃないかと感じるほどの微細な演技の振り幅

本作は、リアリティがあってあざとくなく、不穏ながらコミカルさが散りばめられているんですが、田中圭が大悟を演じたことが大きな要素となっています。

そして、特筆すべきはヒカリ役のCOCO。10歳にして63万人以上のフォロワーをもつファッションインスタグラマーである彼女は、本作がスクリーンデビューで、初めて演技をするにも関わらず、クルクルと変わる愛くるしい表情で魅了してくれます。

土屋太鳳と田中圭と、オフの時間も仲睦まじく過ごしていたというCOCOは、その安心感も相まって、想像もつかないほどの「女の子」の内面を体現。彼女の凄まじさに、ぜひ翻弄されてください。

まとめ


(C)2021「哀愁しんでれら」製作委員会

不幸の連続だった主人公が、幸せへの階段を登っていく前半だけでも存分に見応えがあり、ラブストーリーとして成立させられるほど。

しかし渡部監督はそれだけでは飽き足らず、シンデレラストーリーのその後を徹底的に抉り出します。

清々しいほどの不穏な展開に、ただただ圧倒されてください。

映画『哀愁しんでれら』は2021年2月5日(金)より全国ロードショーです。
















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