Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2020/05/31
Update

映画『アングスト/不安』ストーリー解説。ガチ怖が評判なのは劇場で観客の目線を釘付けにする多彩なカメラワーク

  • Writer :
  • 松平光冬

異常すぎて長らく“封印”されていた実録スリラー、ついに解禁。

世界各国で上映禁止された常軌を逸した実話がいま、放たれます。ジェラルド・カーグル監督が、1980年にオーストリアで実際に起こった一家惨殺事件を映画化した、83年製作の実録スリラーです。

1983年に製作され、長らく封印状態とされていた映画『アングスト/不安』が、2020年7月3日(金)よりシネマート新宿ほか全国にて公開されます。

さまざまな手法によるカメラワークで描かれる、トラウマ必至の戦慄スリラーです。

映画『アングスト/不安』特集記事はこちら

映画『アングスト/不安』の作品情報

(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

【日本公開】
2020年(オーストリア映画)

【原題】
Angst(英題:Fear)

【監督】
ジェラルド・カーグル

【撮影・編集】
ズビグニェフ・リプチンスキ

【音楽】
クラウス・シュルツ

【キャスト】
アーウィン・レダー、シルビア・ラベンレイター、エディット・ロゼット、ルドルフ・ゲッツ

【作品概要】
1980年にオーストリアで実際に起こった一家惨殺事件を映画化した、83年製作の実録スリラー。

公開当時、そのあまりのショッキングな内容により、本国オーストリアでは1週間で上映が打ち切られ、ヨーロッパ各国で上映禁止に。

イギリスとドイツではビデオ発売もされず、アメリカでは成人指定にあたる「XXX」扱いとなり、配給会社は逃亡。

日本では88年に、『鮮血と絶叫のメロディー 引き裂かれた夜』というタイトルでレンタル用VHSが発売されましたが、観た者がほとんどいないとされる幻の映画となっていました。

映画『アングスト/不安』のあらすじ


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

ある日、オーストリアの刑務所から一人の男が出所します。

「K.」という名のその男は、10年前に理由もなく老女を射殺して服役していましたが、刑期を完全に終える前に3日間の外出許可を得たのです。

しかし、幼少時の複雑な家庭環境から精神をこじらせていたK.は、更生するどころか、その殺人欲求を獄中でより高めていました。

野に放たれることとなったシリアルキラー、K.の狂気が始まります…。

観る者の「アングスト(不安)」を誘う多彩なカメラワーク


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

1983年の公開時、あまりの陰惨な内容から、本国オーストリアでは嘔吐する者や返金を求める者が続出し、わずか1週間で打ち切りになったとされる本作『アングスト/不安』。

この手のジャンルのスリラー映画は、被害者視点からの恐怖を描く事が多いもの。

しかし本作は、主人公であるシリアルキラーのK.を主観におき、彼が狂気に走る過程をじっくりと捉えていきます。

そこで効果的に使われているのが、縦横無尽に動き回る多彩なカメラワークです。

ステディカムやズームによるK.への極端な接写ショットは、時には彼の視界の代わりとなり、時には観る者と彼が一体化したような感覚にさせます。

また同じ接写でも、K.の表情をアップにしたショットからは、これから人を殺せるという喜びから来る落ち着きのなさと、同時に儚さを感じさせます。

特に、飲食店でソーセージをむさぼり食いながら店内を見渡すシーンは、突出して不気味。

一方で、クレーンを使った高所からの俯瞰ショットでは、ターゲットを物色し、辺りをうろつくK.の全身像を捉えており、まるで防犯カメラに映る不審者を見ているよう。

かと思えば、カメラをグルグルと回して周囲を映すショットでは、錯乱したK.の心理を表しているかのようです。

極めつけは、ワンショット長回しの多用です。

K.の犯行を、ショットを切らずにじっくりと長回しで見せることで、観る者に不快感、そして不安(アングスト)を与えます。

観る者を嫌な気分にさせる作品を多く作る監督に、ミヒャエル・ハネケやギャスパー・ノエがいますが、彼らが自作で凝ったカメラワークやワンショット長回しを多用するのは、本作の影響からです。

モノローグで語られる「悪」


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

本作がK.の主観で描かれることは前述しましたが、あらすじを伝える手法もK.によるモノローグ(独白)で進行します。

登場人物が少ないこともあってか、本作で登場人物たちが対話するシーンはごくわずかです。

完全に遮断された刑務所から外の世界に解き放たれたK.の体を動かす動機は、「殺意」しかありません。

そこでジェラルド・カーグル監督は、K.自身に殺害過程を説明させることで、シリアルキラーの深層心理に迫っていきます。

口こそ開かないものの、頭の中は常に饒舌な、純粋悪K.の怖さがより際立ちます。

まとめ


(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

身寄りも友人も恋人もいないK.による殺人は、とにかく惨たらしく、あまりにも哀しく、どこか滑稽です。

これまで映画に登場してきたシリアルキラーの中でも、トップクラスにランクインしてもおかしくないほどの存在感を放っています。

確実に観る人を選ぶ内容なので、「絶対に観てください」とは言えません。

かといって、「絶対に観ないでください」とも言えない作品です。

映画『アングスト/不安』は、2020年7月3日よりシネマート新宿ほか全国順次公開予定。

映画『アングスト/不安』特集記事はこちら







関連記事

サスペンス映画

映画『夜を越える旅』ネタバレ結末あらすじの感想評価。萱野孝幸監督の佐賀を舞台にしたロードムービー

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021の国内コンペティション長編部門にて優秀作品賞、観客賞をW受賞 『夜を越える旅』は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021の国内コンペティション長編部門にノミネ …

サスペンス映画

【ネタバレ感想】十二人の死にたい子どもたちの映画と原作の違いを結末まで解説。犯人キャストは誰なのか⁈

「死にたい」その思いで集まった12人の子どもたち。しかし、集いの場にはすでに1人の少年が横たわっていました。 いるはずのない13人目。この中の誰かが嘘を付いているのでしょうか。 集団安楽死を成し遂げる …

サスペンス映画

映画『影踏み』あらすじと感想レビュー。山崎まさよし×横山秀夫が群馬ロケ地で結んだ縁

映画『影踏み』は2019年11月15日(金)より全国ロードショー公開! 数々の警察小説・犯罪小説で知られるベストセラー作家・横山秀夫の小説『影踏み』を、『花戦さ』の篠原哲雄監督が実写映画化。 「映像化 …

サスペンス映画

『ブラック・ショーマン』映画化原作ネタバレあらすじと感想評価。‟名もなき町の殺人”事件を叔父姪コンビが解き明かす

東野圭吾のミステリー『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』が映画化に! ミステリー小説の人気作家東野圭吾が生み出した、ダークなヒーローが活躍する新シリーズ「ブラック・ショーマン」。 シリーズの第1 …

サスペンス映画

映画『赤い雪 Red Snow』あらすじネタバレと感想。永瀬正敏と菜葉菜が実話を基にしたミステリー作品にダブル主演!

あの雪の日、記憶からも現実からも弟は消えた。人の記憶ほど曖昧なものはない ──。 「記憶はウソをつく」榎本博明著にもありますが、記憶が必ずしも真実ではないということに焦点を置いたミステリーサスペンス映 …

Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学