藤井道人監督が台湾の人気俳優シュー・グァンハン、清原果耶主演に日台共同で手がける恋愛映画おすすめ作
『新聞記者』(2019)、『余命10年』(2022)の藤井道人監督が、ジミー・ライの紀行エッセイ『青春18×2 日本漫車流浪記』を映画化。
人生につまずいた36歳のジミーは、ふとかつて恋をした日本人の女性・アミから届いた絵葉書を手に取ります。
旅をして台湾にやってきたアミとの記憶を思い出し、日本への旅を決めます。鎌倉、長野、新潟……アミとの思い出とともに辿る旅の行き着く先にあるものとは……。
ジミー役を演じたのは、台湾で爆発的ヒットを記録した『僕と幽霊が家族になった件』(2023)に出演している台湾の人気俳優シュー・グァンハン。
アミを演じたのは、『デイアンドナイト』(2019)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)に続き、藤井道人監督とは3度目のタッグとなる清原果耶が務めました。
また、日本の人気バンドMr.Childrenが映画の世界観にマッチした主題歌「記憶の旅人」を歌い上げます。
映画『青春18×2 君へと続く道』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本・台湾合作映画)
【監督・脚本】
藤井道人
【原作】
ジミー・ライ『青春18×2 日本漫車流浪記』
【エグゼクティブプロデューサー】
チャン・チェン
【主題歌】
Mr.Children
【キャスト】
シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳
【作品概要】
『新聞記者』(2019)、『余命10年』(2022)の藤井道人監督がジミー・ライの紀行エッセイ『青春18×2 日本漫車流浪記』を元に映画化した本作は、監督初の台湾との共同制作となりました。
『牯嶺街少年殺人事件』(1991)で映画デビューし、『ブエノスアイレス』(1997)、『グリーン・デスティニー』(2002)から近年では『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021)など国内外問わず活躍する俳優のチャン・チェンが、本作で初めてエグゼクティブプロデューサーを務めました。
『僕と幽霊が家族になった件』(2023)のシュー・グァンハン、『1秒先の彼』(2023)の清原果耶がW主演を務めるほか、『今夜、世界からこの恋が消えても』(2022)の道枝駿佑、『余命10年』(2022)、『ヴィレッジ』(2023)に引き続き藤井道人監督作出演となった黒木華らが顔をそろえます。
映画『青春18×2 君へと続く道』のあらすじとネタバレ
36歳のジミー(シュー・グァンハン)は、多数決で会社の経営から身を引くことに決まりました。友人たちと立ち上げた会社を奪われショックを受けたジミーは、「俺の会社だ」と怒鳴って暴れてしまいます。
その様子を動画に撮られ拡散されてしまいます。全てを失ったジミーは、会社のある台北から台南の実家に帰ってきます。
父は、「今まで走り続けてきたから少し休んでもいいのではないか、一休みはより長い旅のためと言うだろう」と言います。
ジミーは自分の部屋を眺め、一つの箱に手をかけます。そこに入っていた一枚の絵葉書を手に取ります。
雪の風景が彩られた絵葉書の裏に書かれたメッセージを読んだジミーは、東京への出張に同行した後、旅に出ることを決めます。
全ての始まりは18年前でした。
大学受験を終え、結果を待つジミーは、友人に連れられ近所のカラオケ屋でアルバイトを始めます。ある日そこに日本からやってきたアミ(清原果耶)と出会います。
バックパックの旅をしていたアミでしたが、財布を失くし、旅の資金を集めるためここで働かせて欲しいというのです。
神戸から台南に渡ってきたという店長は「若い頃の自分を見ているようだ」と言って快くアミを雇い、空いているカラオケ部屋で寝泊まりしていいと言います。
そして、「ジミーは日本語少しできるから、色々教えてやって」とジミーがアミの面倒を見るように言います。
4歳年上の日本からやってきたアミにどきどきしながらも、ジミーはアミを案内します。
「どうして日本語できるの?」とアミが尋ねるとジミーは「アニメが好きで勉強した」と答えます。「たとえば?」とさらに聞くアミに、ジミーは漫画『スラムダンク』のキャラクターの待受画面を見せます。
旅の目的地をジミーが聞くと、「目的地がないから旅は楽しい」とアミは笑います。
ジミーに言葉を教えてもらいながらアミが働き始めると、瞬く間に噂が広がり街の人がアミを見に列をなしてカラオケ屋にやってくるようになり、暇だった店は大忙しになります。
ジミーはアミが気になりつつも、シャイでなかなか気持ちを伝えられずにいました。そんなジミーをアミは揶揄います。
「アミはどんな人がタイプなの?」と聞かれると「アクティブで4歳上の人、ジミーとは真逆だね」と言ったりします。
アミの歓迎会をし、ジミーはアミを送り届けることになります。するとアミは「台湾にきてやってみたかったことがあるの」とバイクの2人乗りをしたいと言います。
「ジミーの一番好きなところに連れて行って」そう言うアミを後ろに乗せ、ジミーは台南の街を見下ろせる場所に連れて行きます。
「ジミーには夢があるの?バスケ選手?」と言うアミにジミーは怪我をした膝を見せ、「今は新しい夢を探している」と答えます。
「見つかったら教えてね」とアミは言い、「私たちどんな大人になるのかな」と言って遠くを見つめます。
そんなアミとの思い出を噛み締めながらジミーがまず向かったのは鎌倉でした。大好きな漫画である『スラムダンク』の聖地と言われる江ノ島電鉄の「鎌倉高校前駅」に行くためでした。
その後ジミーは松本に向かいます。父がジミーに言った“一休みはより長い旅のため”と書いている看板を見つけたジミーは導かれるようにその居酒屋に入っていきます。
何とその店主は、台湾から日本にやってきた方だったのです。異国の地で思わぬ同郷の人との出会いがあったジミーは、店主が店を閉めた後、他のお店でお酒を飲みながら旅のこと、アミとの思い出などを語り、店主に松本の街を案内してもらいます。
映画『青春18×2 君へと続く道』の感想と評価
藤井道人監督がおくる日本と台湾、国を超え、時を超えた珠玉のラブストーリー。
本作は忘れない初恋の人との思い出をたどるという王道のラブストーリーながら、王道の展開では終わらない絶妙なズラしを入れていること、36歳のジミーが過去を振り返りしっかり前に進むという成長譚でもあるということが興味深い点でしょう。
忘れない初恋の相手を描いた映画といえば、岩井俊二監督の『ラストレター』(2020)があります。
『ラストレター』は手紙を通して初恋の相手との思い出をたどりながら、実は2つの初恋であること、その先にある切ない真実が描かれていました。
本作においても、アミとジミーがデートに行った映画が岩井俊二監督の『love letter』であったり、その景色を求めてジミーが新潟に行ったりと、岩井俊二監督作品の関連性もうかがえます。
『ラストレター』の中で、鏡史郎の初恋相手である美咲は亡くなっており、アミと重なるところがあります。
しかし、『ラストレター』では、鏡史郎が美咲の死を知ることが一つのクライマックスでしたが、本作は違います。
恐らく本作を見ていた観客はジミーが、アミに会いに日本に行ったと思ったでしょう。
その予想は良い意味で裏切られます。ジミーは、すでにアミがこの世にいないことを知っていたのです。
観客の予想、王道の展開に対して絶妙なズラしを入れることによって、ジミーがアミときちんとお別れする、アミの死を受け入れるために旅に出たのだなと理解することができます。
がむしゃらに夢を追いかけて仕事に没頭してきたジミーが、会社を追われることによって全てを失います。
そんなジミーがアミとの思い出をたどり、アミとお別れをすることで次に進んでいく……。
まさに次の長い旅のための一休みであり、旅は続いていくことをこの映画は象徴しているのです。
あの時想いを伝えていたらと、ifの可能性に思いをはせるというよりも、自分の歩んできた道を確認するような、そんな旅だったのではないでしょうか。
人生というのは選択の連続で、選択をするほどに選ばなかった道というのは増えていきます。
がむしゃらに突き進んできたからこそ、その道を失ってみてはじめて足元がぐらついた、そんなジミーだからこそ立ち止まって振り返ることが必要だったのです。
まとめ
W主演を務めた清原果耶は、10歳近く年上のシュー・グァンハン相手に年上の役を演じます。
モデルとして芸能活動をはじめ、朝の連続テレビ小説『あさが来た』(2015)で女優デビューを果たした清原果耶。
藤井道人監督とは、『デイアンドナイト』(2019)ではじめて共演し、善と悪の境目で揺らぐ役を見事に体現します。
東日本大震災のその後の社会問題を描いた瀬々敬久監督の『護られなかった者たちへ』(2021)では、弱者の怒り故に境界線を越えてしまった役柄を同年の日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞を受賞しました。
一方で台湾映画をリメイクした『1秒先の彼』(2023)では爽やかなヒロインを演じ、『まともじゃないのは君も一緒』(2021)では、クセのある役を演じました。
幅広い役を演じてきた清原果耶が演じるアミは、年下のジミーに自分の辛さを見せず明るく振る舞う芯のある女性です。
ジミーは自信がなく不安にもなりますが、ジミーがアミを見ているようにアミもいつもジミーを見つめていました。
ふとした時に見せるジミーへの思いも清原果耶が繊細に演じます。
一方、シュー・グァンハンは18歳と36歳のジミーを見事に演じ分けています。
18歳のピュアなジミーの恋は甘酸っぱくどこかもどかしくてつい応援したくなります。
そんなジミーでも、些細なアミの表情を見ていたり、アミがカラオケの客に絡まれていたら咄嗟に助けようとする勇気もあります。
36歳のジミーは年相応の落ち着きを感じ、本当に同一人物が演じているのかと驚くほどです。
それでも、大好きな漫画の聖地である鎌倉高校前駅に降り立って嬉しそうにしていたり、旅の途中で出会った幸次と雪合戦をする姿はあの頃と変わらないジミーの姿を感じさせます。
2人の恋を彩る日本と台湾の美しい風景も見どころの一つでしょう。
目的地を決めずに旅に出てみたい、そんな気持ちにさせてくれます。