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Entry 2020/11/27
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映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』あらすじと感想レビュー。キャスト清原果耶の才覚を活かした藤井道人監督の意欲作|2020広島国際映画祭リポート1

  • Writer :
  • 桂伸也

広島国際映画祭2020 特別招待作品『宇宙でいちばんあかるい屋根』

作家・野中ともその人気小説が原作の藤井道人監督の映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』

家族のさまざまな境遇にまつわる変化や将来に迷う思春期の少女が、ある建物の屋根で出会った不思議な老婆とのやり取りを通して、成長していく様を描きます。

第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞『新聞記者』を手掛けた藤井道人監督が映画化した本作。メインキャストを2021年度春季NHK連続テレビ小説のヒロイン決定で話題を呼んでいる清原果耶と、ベテランの桃井かおりが務めます。

また本作は11月21日に広島で行われた『広島国際映画祭2020』で招待上映され、上映終了後には作品を手掛けた藤井道人監督と、主演を務めた清原果耶が登壇、作品にまつわる思いなどを語りました。

【連載コラム】「2020広島国際映画祭リポート」記事一覧はこちら

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映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の作品情報


(C)2020「宇宙でいちばんあかるい屋根」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【原作】
野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」(光文社文庫刊)

【監督】
藤井道人

【キャスト】
清原果耶、桃井かおり、伊藤健太郎、水野美紀、山中 崇、醍醐虎汰朗、坂井真紀、吉岡秀隆

【作品概要】
作家・野中ともその人気小説「宇宙でいちばんあかるい屋根」(光文社文庫刊)を、第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞『新聞記者』を手掛けた藤井道人監督が映画化。思春期に入り、家族の変化や将来に迷い始めた少女が不思議な出会いを経て成長していく様を描きます。

14歳の少女にして主人公・つばめを演じるのは、本作が映画初主演となる清原果耶。また共演には伊藤健太郎、吉岡秀隆、坂井真紀、水野美紀、山中崇、醍醐虎汰朗などベテランから注目の若手に至るまで幅広い実力派キャストが集結した他、つばめが出会う老婆・星ばあ役を、数々の映画賞に輝き世界的に活躍する名女優・桃井かおりが演じています。

藤井道人監督のプロフィール

1986年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。

大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014)でデビュー。以降『青の帰り道』(2018)、『デイアンドナイト』(2019)など精力的に作品を発表。2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門を含む6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞した。また2021年には『ヤクザと家族 The Family』の劇場公開が控えています。

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映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』のあらすじ


(C)2020「宇宙でいちばんあかるい屋根」製作委員会

隣人の大学生・亨(伊藤健太郎)にひそかに恋心を抱く14歳のつばめ(清原果耶)。両親と3人で幸せな生活を送っているように見えますが、実父・敏雄(吉岡秀隆)と育ての母・麻子(坂井真紀)との間に子どもが生まれることを知り、どこか疎外感を感じていました。

学校も元カレのマコト(醍醐虎汰朗)との悪い噂のせいで居心地が悪く、誰にも話せない思いを抱える彼女にとって、一人で過ごせる書道教室の屋上は唯一の憩いの場だったのです。

ある晩、いつものように屋上を訪れたつばめの前に、ド派手な装いをした見知らぬ老婆・星ばあ(桃井かおり)が現れます。

突然の登場に驚きながらも、つばめは自身に寄り添ってくれる彼女に次第に心を開き、悩みを相談するようになりますが……。

映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の感想と評価


(C)2020「宇宙でいちばんあかるい屋根」製作委員会

藤井監督が手掛ける作品ジャンルは多岐に渡る一方で、人物の描き方には強い特徴があります。

本作は主人公と謎の老婆とのやり取り、そして思春期の女の子の淡い恋心といった、ある意味ポップなイメージです。特に主人公と老婆の出会いには一部ファンタジックな表現を用いられています。

藤井監督が手掛けた『新聞記者』を見た後に、この部分だけを見ると大いに驚かされることでしょう。

しかし本作の特徴は、そういったポップさ、ファンタジックなイメージを振り切らず、むしろ悲劇的なエピソードから受けた心の傷のような、生々しいイメージにあります。

本作の主人公も当初は一人の「生意気になり始めた女子高生」といういでたちのごく普通の女子学生ですが、物語が進み彼女のバックグラウンドが明かされるにつれて、リアルな人物像が現れてきます。

そしてその心に負った傷を何か特別なことで癒そうとするでもなく、自らの一部として受け入れ、生きていこうとするポジティブな意思が展開とともに見えてきます。

このような展開は、藤井監督作品の『青の帰り道』に描かれた主人公とその周りにいた友人たちの生き様を髣髴するものであり、藤井監督が青年期の人物を描く上では強く意識するポイントとしているようです。

その意味では藤井監督作品の特徴の一つを感じさせる作品と見ることもでき、作品全体として藤井監督の「らしさ」「らしくなさ」の両方を浮き彫りにしていきます。

そしてこの人物を演じるにあたり、清原の存在はまさしくピッタリです。撮影当時まだ学生だった彼女ですが、2018年のドラマ『透明なゆりかご』(NHK)では、産婦人科医院での看護師見習いという経験を通して、産婦人科の残酷な実情や母性というものを目の当たりにしながらも、現実と向き合いポジティブに生きていく主人公を演じ、作品とともに高い評価を得ました。

両作品の主人公の境遇は違えど、芯に共通するものがあるようにも見え、その点において清原のキャスティングは正解だったともいえるでしょう。

こうした点を踏まえると、軽い気持ちで見られる作品ではありませんが、同時にエンディングでは非常に気持ちを前向きにさせてくれる作品でもあります。

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「広島国際映画祭2020」 藤井道人監督、清原果耶 舞台挨拶


(C)Cinemarche

本作は「広島国際映画祭2020」の初日となった11月21日に上映され、上映後には特別ゲストとして藤井道人監督と、主演を務めた清原果耶が登壇し、舞台挨拶とともに撮影当時を振り返るトークショーを行いました。

清原は少し緊張した面持ちでステージに登場し「責任重大でプレッシャーです。今日もエンドロールの時にバックステージで(映像に込めた思いが)“ちゃんと伝わっているかな“とヒヤヒヤでした」と明かすも大きな拍手で迎えられたことで、時にホッとした笑顔を見せていました。


(C)Cinemarche

また藤井監督作への出演は『デイアンドナイト』以来で、しかも初主演。「自分の中では大切な作品です。公開していただける尊さを体感する機会の多い中、今日ここに来ることができて嬉しく思います」とコロナ禍という状況の中でも挨拶登壇を果たせた喜びを語ります。

藤井監督に対して、清原の顔を見る表情がすっかり“父の顔”となっていると司会者にはやされ、藤井監督は、少し照れたような表情を見せました。

『デイアンドナイト』のオーディションで初めて対面した際に、その演技に主演の山田孝之とともに衝撃を受けたことを振り返りながら、「受賞した次回作という大事な作品で、清原さんの初主演というチャンスをいただいて、自分にとってご褒美的な作品になりました。(撮影では)役にしっかり向き合ってもらい、全てテイク1で完了させるので“集中力のある女優さんだな”と思いました。自分はもちろんカメラマンも、他のスタッフもただただ感心していました」と感慨深く撮影時の思いを明かします。


(C)Cinemarche

一方、主人公つばめを導く老女、星ばあ役として強烈なイメージを残す桃井に対して、当初藤井監督は「怖い人かと思った。(プロデューサーから起用を聞かされ)現場が大変そうだな」と不安になったと明かし笑いを誘うも、実際に対面し撮影を進めていく上で桃井のやさしさに触れたと回想します。

また清原は桃井との共演について「エネルギーと愛にあふれた方。膨大な引き出しがあって、その引き出しがすごいスピードで開くので、それについて行くのに必死でしたが、本当に楽しい毎日でした」と振り返ります。

そして最後に藤井監督は「中学生からおばあちゃんまでのストーリーを描く作品。幅広い世代の方々に観ていただきたい」と作品をアピール。

本作ではシンガーソングライター・Coccoが作詞、作曲、プロデュースを手掛けた主題歌『今とあの頃の僕ら』の歌唱も担当した清原も「今18歳ですが、これから人生を辿る中でも、忘れたくない、ずっと思い出せるものにしたい作品となりました。見ていただいた方にも同じような思いになっていただきたいです」と、作品に込めた思いを語りトークショーを締めくくりました。

「広島国際映画祭2020」 藤井道人監督ワークショップ


(C)Cinemarche

「広島国際映画祭2020」で藤井監督はワークショップにも登場。このワークショップのメインテーマは「映画製作のためのチーム作り」。

映画作りの現場で助監督の経験がないという藤井監督ですが、それだけに自分たちなりにやりやすい形の組織構成を形成しており、いい意味で通常のよくある現場とは違う部署構成を取っており「よく現場を見て驚かれることがあります」などと語ります。

一方、藤井監督の通称は「魔王」。これは現場で限られた時間内で辛抱強く粘り、何度も撮り直しをすることからつけられた名であるといいます。このことに関して藤井監督は、この姿勢が身についたのは、かつてキャストの問題で頓挫しかけた『青の帰り道』を完成まで持っていったことがきっかけであり、「その場面は一生に一度だけしか撮れない。そう考えると“ここでこだわりを捨てたら、誰も得しない”と思ったんです」と今につながる当時の思いを振り返ります。

チームを作る上で重要に考えていることについて藤井監督は「大事にしているのはお互いの敬意を持っているかどうか。リスペクトがあるかないかは大きくて、これがないとそれぞれに腕があってもうまくいかない。スタッフが同じところを向けるかどうかが、いい映画になるかに関わってくる」と自身の持論を語ります。


(C)Cinemarche

特に藤井監督作品では、映像監督を務めることの多い今村圭佑監督に照明などの分担も含めて「映像に関しては任せていることも多い」と、強い信頼を寄せている様子を見せています。

一方、映画を作る姿勢として出演者の他の作品における演技の研究は「するもんじゃない」と、まったく見ない状態で撮影に入るとコメント。

これまで『向かいのバズる家族』『宇宙でいちばんあかるい屋根』『ヤクザと家族 The Family』(2021年公開予定)と、わりと家族をテーマにした作品が多い点に関して「自分の作りたい作品のテーマであるかと問われると、(実は)自分がやりたいテーマと思うものほど、企画が通らないんです」などとコメント、笑いを誘います。

他方でそういった傾向になる状況もある程度自身で理解していると明かしながら、家族というテーマに関しては『ヤクザと家族 The Family』で一度区切りになるだろうと自身の見通しを語りながら、来年以降の制作については、「謎のラインナップなんですよね。今まで撮ったことのないジャンルなのですが、新しい自分を見せられるように頑張ります」と意気込みを語りました。

まとめ


(C)Cinemarche

物語のエンディング近くでは、清原と桃井の印象的なやり取りが見られます。これはある意味役者同士のコミュニケーションが図られているようにも見える場面ですが、ベテランの桃井が堂々とした動作を見せるのに対して、清原は臆することなくそれに反応しています。

この場面に対して藤井監督の演出がどのくらい図られたのかは不明ですが、穏やかでありながら役者としての力量が発揮されている、非常に価値の高い映像でした。清原にとっても今後の役者人生に向けて大きな意味を表す作品となったともいえるでしょう。

そんな清原、桃井をはじめ優れた役者陣を擁し、しっかりと作られた作品には、ワークショップで語られた藤井監督の「妥協のなさ」も感じられるところでもあり、表面的な軽快さの奥に重厚な人間像を構築した様が見えてくる作品であります。

【連載コラム】「広島国際映画祭2020」記事一覧はこちら





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