Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ホラー映画

Entry 2021/08/20
Update

【黄龍の村 考察】どんでん返し映画としてホラージャンルを覆す。あらすじ展開の“伏線”を見逃すな!

  • Writer :
  • 糸魚川悟

ジャンルごと物語が変わる驚異のジェットコースタームービー

物語の半ばで大きく様相が変わり、視聴者の予想を裏切る展開のことを「どんでん返し」と呼びます。

ミステリを始めサスペンスや果てには恋愛映画まで、ジャンルを問わず今や「どんでん返し」を主体とした映画は多く、映画製作者たちはその「どんでん返し」に特色を持たせさらなる驚きを提供しようと日々奮闘しています。

そして2021年、若手映画監督として注目を集めている阪元裕吾監督が「どんでん返し」へと殴り込みをかけます。

そんな訳で、今回は物語の途中で映画そのもののジャンルが大きく変わる映画『黄龍の村』(2021)の魅力をご紹介させていただきます。

映画『黄龍の村』の作品情報


(C)2021「黄龍の村」製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本】
阪元裕吾

【キャスト】
水石亜飛夢、松本卓也、鈴木麻由、秋乃ゆに、ウメモトジンギ、石塚汐花(アイドルカレッジ)、大坂健太、上のしおり、藤井愛稀、中村龍介、小玉百夏、安田ユウ、陸野銀次郎、海道力也、一ノ瀬ワタル、伊能昌幸

【作品概要】
過激な社会風刺で話題となった『ファミリー☆ウォーズ』(2018)で商業映画デビューを果たし、『ベイビーわるきゅーれ』(2021)で注目を集める阪元裕吾が監督を務めた最新ホラー映画。

ミュージカル「テニスの王子様 2nd Season」での俳優デビュー後、『鋼の錬金術師』(2017)や『青夏 きみに恋した30日』(2018)など話題作に多く出演する水石亜飛夢が主人公の北村優希を熱演。

助演として単身タイに渡りムエタイの修業をした元格闘家でありながらも『宮本から君へ』(2019)や「HiGH&LOW」シリーズに出演する俳優一ノ瀬ワタルが出演することでも話題を集めています。

映画『黄龍の村』のあらすじ

同窓の生徒たち7人と共に思い出づくりのキャンプへと向かう大学生の北村優希(水石亜飛夢)。

旅の途中、宿泊先へと向かう道中の山道で車がパンクしてしまい、助けを求めた一行は山奥の辺境で「龍切村」を発見します。

しかし、村を訪れた一行を出迎えたのは頭部に包丁の刺さった案山子や話しかけても反応しない村民でした。

徐々に気味の悪さを覚える優希たちでしたが、親切な村民である新次郎(陸野銀次郎)に出会い温かく迎え入れられます。

優希は旅行者を歓迎する新次郎の過剰な接待に違和感を覚えながらも、彼に勧められるがままに「龍切村」で一晩を過ごすことにしますが……。

「村ホラー」に隠された衝撃の展開


(C)2021「黄龍の村」製作委員会

本作は8人の大学生が「とある風習」を持つ村に迷い込み、村の真実を知ったことで大きな恐怖に取り込まれていく物語が展開されます。

序盤の展開は村人全員が恐怖の対象となる「村ホラー」映画としての定番を兼ねそろえたものとなっており、日本の田舎が持つ独特の雰囲気と「村ホラー」がマッチし恐怖感と閉鎖感が増幅されていました。

しかし、本作『黄龍の村』は単なる「村ホラー」としての完成度高さだけでは終わることはなく、展開される物語の先に衝撃の展開を用意していました。

「ホラー」+「???」


(C)2021「黄龍の村」製作委員会

「ホラー」映画の裏に別のジャンルを隠した「どんでん返し」映画は近年では珍しくありません。

衝撃の展開が話題となり、小規模上映が瞬く間に全国上映へと切り替わり大ヒットを記録した『カメラを止めるな!』(2017)もその映画の1つであり、「ホラー」を「コメディ」に突然切り換えることで「ホッ」とした雰囲気を作り出し、鑑賞者をコメディの世界に引きずり込むことに成功していました。

他にも「ホラー」が「人情サスペンス」へと切り替わり善悪を考えさせられる物語へと急変する『<a href="https://cinemarche.net/vod/tallman-vod/"トールマン』(2012)や、「ホラー」に「SF」の要素を追加しカルト的人気を持ち続ける『<a href="https://cinemarche.net/vod/cabin-vod/"キャビン』(2013)など、別のジャンルへと唐突な切り替えが衝撃を生みやすい「ホラー」はさまざまなジャンルとの融合が試されてきたと言えます。

そして最新映画『黄龍の村』では「村ホラー」映画が突如ファンの多い「とあるジャンル」への切り替わることとなり、鑑賞者だけでなく登場人物さえも驚愕する「どんでん返し」の真髄を味わうこととなります。

阪元裕吾監督は本作を「ごった煮」と評し、原作のないオリジナル脚本だからこそ描くことの出来る衝撃を生み出していました。

張られた伏線を一瞬たりとも見逃すな!


(C)2021「黄龍の村」製作委員会

ミステリや「どんでん返し」を主軸とした作品では、明らかになる真相に対し伏線を張ることを求められます。

伏線の有無は作品の隙の無さに繋がるだけでなく、「このシーンはあのシーンに繋がるんだ」と言う再鑑賞の楽しさを与えてくれる要素にもなります。

その一方で衝撃度を高めるために伏線を張らずひた隠しにするケースも多く、製作陣は隙の無さを取るか衝撃度を取るかと言う苦渋の決断を取らされるこことなります。

しかし、『黄龍の村』では劇中だけでなく作品情報の発表方法にも拘ったことで、隙の無さと衝撃度のどちらも譲ることなく両立させることに成功しており、物語の導入部分からしっかりと伏線を張った上で予想もしない方向へと鑑賞者を導いていきます。

伏線をしっかりと張ることで再鑑賞に対するモチベーションをあげながらも、「想像を裏切り鑑賞者を驚かせたい」と言う一心をも強く感じる作品でした。

まとめ


(C)2021「黄龍の村」製作委員会

風習や概念、そしてお金に縛られる人間を真正面から描き、世の中の汚さや闇を嫌と言うほど見せつけながらも、その一方でどこか穏やかな気持ちになるような気の抜けたシーンも描く阪元裕吾監督の作風。

緩急を織り交ぜるその作風や登場人物同士の掛け合いは本作でも炸裂しており、監督のファンならばニヤリとしてしまう要素も盛りだくさん。

「ホラー」の一歩先を進んだ映画を観たい人、阪元裕吾監督の作風に触れたい人、衝撃の展開をその身に浴びたい人。

俳優の秀逸な演技があってこそ光る「どんでん返し」が鑑賞者を襲う最新映画『黄龍の村』をぜひとも劇場でご覧になってください。



関連記事

ホラー映画

映画『ホテルレイク』あらすじ感想と評価解説レビュー。韓国のホラー最新作は“情念の修羅場”を寓話的な世界観の恐怖で描く

韓国ホラー映画『ホテルレイク』は、2021年8月13日(金)よりシネマート新宿とシネマート心斎橋にて公開! 謎に潜んだホテルレイクには、3つの奇妙なルールがあった。ひとつ「絶対に上を見上げてはいけない …

ホラー映画

映画『NY心霊捜査官』ネタバレ感想と結末評価解説。実話ホラー事件に潜む悪霊オカルト作品を考察!

悪魔と刑事が端正に向き合った恐怖の根源『NY心霊捜査官』 エクソシズムという心霊恐怖の犯罪捜査というスリラー的要素の『NY心霊捜査官』は、実際にニューヨークで発生した事件を基にしています。 原作は、こ …

ホラー映画

映画『ヒメアノ〜ル』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も【森田剛が殺人犯シリアルキラーを怪演】

森田剛の演技力が新たに開花した殺人鬼映画『ヒメアノ〜ル』 『行け!稲中卓球部』や『ヒミズ』で知られる古谷実による、同名コミックを実写化した映画『ヒメアノ〜ル』。 ジャニーズのアイドルグループ「V6」の …

ホラー映画

映画『残穢(ざんえ)』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。ラスト終えて尚も怖さを感じさせるJホラーの後味

中村義洋監督×作家小野不由美 身近でおこる怪奇現象を鮮烈に描くJホラー映画 映画『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』は、作家・小野不由美の第26回山本周五郎賞受賞の同名同名ホラー小説を、『予告犯 …

ホラー映画

映画『ザ・ライト エクソシストの真実』ネタバレ感想と考察。ルーカス神父をアンソニーホプキンスが怪演

事実に基づく「悪魔祓い」の儀式、エクソシストの存在に迫る! 今もなお行われている「悪魔祓い」と呼ばれるバチカンの正式な職業「エクソシスト」をあなたはご存知でしょうか? これまでも悪魔祓いといわれる「エ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学