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Entry 2021/07/20
Update

竜とそばかすの姫 ネタバレ解説|サマーウォーズと似てる点と違い?キャラの繋がりや関係性から見るインターネットの変遷

  • Writer :
  • 糸魚川悟

細田守監督によって描かれる「インターネットの変遷」

2009年の公開時に大ヒットを記録し、「夏映画」の定番として広く認知されるまでになった、細田守監督による長編アニメ映画『サマーウォーズ』。

そして2021年、『サマーウォーズ』から10年以上の月日を経て製作された同監督による映画『竜とそばかすの姫』(2021)は、楽曲や映像が高い評価を受ける一方で『サマーウォーズ』との共通点も多く見つかる作品でした。

本記事では、同じ「インターネット上の仮想空間」を題材とした映画である『竜とそばかすの姫』と『サマーウォーズ』の共通点と相違点を解説・考察。

そこから、細田監督が『サマーウォーズ“>サマーウォーズ』から10年以上の月日を経て再び「インターネット上の仮想空間」を描こうとした理由を紐解いていきます。

映画『竜とそばかすの姫』の作品情報


(C)2021 スタジオ地図

【公開】
2021年(日本映画)

【原作・脚本・監督】
細田守

【企画】
スタジオ地図

【メインテーマ】
millennium parade × Belle「U」

【キャスト】
中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世、森川智之、宮野真守、島本須美、役所広司、石黒賢、ermhoi、HANA、津田健次郎、小山茉美、佐藤健

【作品概要】
母親の死という心の傷を抱えた主人公が、“もう一つの現実”と化したインターネット上の広大な仮想世界を通じて、悩み葛藤しながらも懸命に未来へ歩いていこうとする姿を描いた長編オリジナルアニメーション映画。『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『未来のミライ』などを手がけてきた細田守監督の“集大成”ともいえる作品。

主人公すず/ベル役をミュージシャンとして活動する中村佳穂が務め、劇中歌の歌唱や一部作詞なども担当。また「King Gnu」の常田大希が率いる気鋭の音楽集団「millennium parade」が本作のメインテーマ「U」を制作した。

映画『竜とそばかすの姫』のあらすじ

自然豊かな、高知県のとある村。17歳の女子高生すず(中村佳穂)は幼い頃に母を事故で亡くし、父と2人で暮らしている。

母と一緒に歌うことが大好きだった彼女は、母の死をきっかけに歌うことができなくなり、現実の世界に心を閉ざすようになっていた。

ある日、すずは仮想世界《U(ユー)》と出会う。《U》では《As(アズ)》と呼ばれる自分の分身によって全く別の人生を送ることができ、今や全世界で50億人以上が集う空間と化していた。

現実世界では歌えないはずだったすずは、自身の《As》として生み出したアバター「ベル」としては自然に歌うことができた。やがてベルは仮想世界内で瞬く間に話題となり、絶世の歌姫として世界的スターへとなっていった。

数億の《As》が集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、仮想世界で恐れられている謎の存在「竜」だった……。

『サマーウォーズ』『竜とそばかすの姫』を比較解説・考察!


(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

サマーウォーズ』(2009)は、細田守監督が2000年に監督した短編映画『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』のストーリーラインが原型となっているとされています。

実際にこの2作は「独自進化したAIがインターネット上を跋扈し世界を混乱させてゆく」という物語をともに描いていますが、『サマーウォーズ』は『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』の公開から約10年の時を経て大きく変わることとなった「インターネット」の特性をより意識した内容となっていました。

そんな『サマーウォーズ』からさらに10年以上の時を経て製作された『竜とそばかすの姫』では、細田守監督は近年より顕著となったインターネット社会の「闇」の部分に踏み込んでいました。

インターネット社会と「光」と「闇」の変容


(C)2021 スタジオ地図

サマーウォーズ』では、インターネット上の仮想空間である「OZ」内のユーザーは興味や熱狂の対象が移ろいがちではあるものの、世界の危機に団結することの出来る「善性」が強調され描かれていました。

一方で『竜とそばかすの姫』の仮想空間「U」のユーザーは、興味や熱狂の対象の移ろいを同じく描く一方で、自分たちの行動規範や常識から外れた人間を「安全圏内」から批難する行為が目立つ描かれ方をしています。

サマーウォーズ』の構想が始まった2000年代から『竜とそばかすの姫』の構想が進められ始めた2010年代後半までの間に、人とインターネットの関係性は大きく変容しました。

「詳しい人しか触ることの出来なかったもの」から「誰でも簡単に出来るもの」への変容の影響は特に大きく、現実社会におけるモラルやマナーに対する厳しい目線がインターネット上にも向けられるようになりました。

その結果、「正しい」とされる行為から逸脱した人間は現実にまで及ぶ激しい「ネットリンチ」を受けることになり、近年では世界的な社会問題になっています。

竜とそばかすの姫』では、常識に縛られない生き方に対し妬み嫉みをぶつけるインターネットの「闇」の部分と、離れた相手と繋がることの出来るインターネットだからこそ救える命と言う「光」の部分を同時に描写。両作の違いから「インターネット」そのものが、より身近な存在になったのだと再認識させられます。

ふたりのチャンピオン:キングカズマと竜


(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

サマーウォーズ』に登場する「キングカズマ」と『竜とそばかすの姫』の「竜」は設定が類似しており、どちらも仮想空間の中で格闘チャンピオンの座を獲得しています。

しかし、キングカズマが「仮想空間『OZ』を代表するチャンピオン/ヒーロー」として世界的人気を集める一方で、竜は一部のファンを除き、仮想空間「U」内で世界中の人々から嫌われる存在として描かれています。

またキングカズマの「オリジン(アバター所持者)」にあたる佳主馬は、自身の受けたいじめを克服するために祖父から拳法を教わったことで現実でも仮想空間でも力を付けましたが、竜のオリジンである恵は日常的に振るわれる父からの暴力のはけ口とするため、そして共に過酷な現実を生きる弟に希望を見せるために、ゲーム内で自らの秘めた暴力性を発揮します。

そして佳主馬のように「見守られる側」ではなく、自身が「守る側」であるが故のなりふり構わない恵の態度=竜のファイトスタイルが、「U」内の評判へと繋がってしまいます。

両作の間には、このようにキャラクター描写における「守る側」と「見守られる側」の立場の入れ替わりが多く見られ、『サマーウォーズ』では主人公はヒロインの夏希を「守る側」の立場でしたが、『竜とそばかすの姫』では主人公がさまざまな登場人物に「見守られる側」の立場となっています。

「家族の繋がり」を前面に出した『サマーウォーズ』に対し、『竜とそばかすの姫』では思っているよりも人は他人を気にしないと言われるこの世界で、思っていたよりも親しい人は自分のことをしっかりと見ていることが分かる作品となっていました。

「喪失と再生の物語」のさらなる発展


(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

類似しながらも全く異なる様々な要素について述べてきましたが、その中でも両作において最も明確な共通点は、共に「喪失と再生の物語」を描いている点です。

サマーウォーズ』では、ヒロインの夏希が祖母の死と言う「喪失」を経験しながらも「再生」していく様を描くと同時に、「家族の絆」を捨てた夏希の叔父の侘助が祖母の死を契機に「家族の絆」を取り戻していく様も描かれていました。

そして10年以上の時を経て、その人間描写の手腕はますます上がり、『竜とそばかすの姫』では「母の死」と言う同じ「喪失」を経験するすずと恵が連鎖的に「再生」していくまでの物語を描き出した細田守監督。

さらに本作では「再生」のきっかけが「家族」ではなく「血の繋がらない他人」であり、血の繋がりがあっても他者の絶望となることもあれば血の繋がりがなくても誰かの「再生」のきっかけになれると言うメッセージが込められていました。

まとめ


(C)2021 スタジオ地図

細田守監督は、3度目となる「インターネット上の仮想空間」を題材とした映画の製作に対する質問に「インターネットそのものが変わってきている今、肯定的な未来に通じるような映画ができないかと考えていました」と回答しています。

10年ごとに同じ題材を使うことで、時代の様相がどのように変わったのかがはっきりと分かる時代を追った細田守監督によるSF映画トリロジーとも言える3作。

『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』『サマーウォーズ』『竜とそばかすの姫』、3作を鑑賞しそれぞれの時代の「インターネット」の様相を懐かしみながら、次なる10年後の作品を想像して見てはいかがでしょうか。




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