Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

『ガール・ピクチャー』ネタバレあらすじ結末と感想評価。フィンランドの女性監督が描く“弱さも受け止める”瑞々しいガールズムービー!

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

ありのままの私たちで、生きる

17歳から18歳へとさしかかる年頃の3人の少女、ミンミ、ロッコ、エマ。

性、恋、将来への漠然とした不安。様々な悩みを抱え、大人になりきれない自分の不完全さを人にぶつけてしまう不器用さもありのままに映し出すみずみずしい青春映画。

カミングアウトに主題を置いたり、シスジェンダーのみで構成されたりせず、それぞれのセクシャルを名前付せず、そうあるものとして描くクィアムービーであり、まさに現代に作られるべきして作られた新たなガールズムービーです。

シニカルだけれど寂しがり屋でつい人を傷つけてしまうミンミと、男の子と一緒にいても何も感じないことに自分は普通と違うのではないかと悩むロッコ。

同じ学校に通う親友同士の2人は、スムージースタンドのアルバイトをしながら互いの悩みや性について話しています。

そんな時、誕生パーティーに誘われたロッコは、理想の相手を求めて気乗りしないミンミを付き添いにパーティーに参加します。

そこでミンミは大事な試合を前にプレッシャーでトリプルルッツが跳べなくなってしまったフィギュアスケーターのエマと運命の出会いを果たします。

それぞれ思い悩みながらもぶつかって、足掻こうとするエネルギッシュな3人の姿にパワーをもらえるエンパワームービーです。

映画『ガール・ピクチャー』の作品情報


(C)2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved

【日本公開】
2023年(フィンランド映画)

【原題】
Tytot tytot tytot

【監督】
アッリ・ハーパサロ

【脚本】
イロナ・アハティ、ダニエラ・ハクリネン

【キャスト】
アーム・ミロノフ、エレオノーラ・カウハネン、リンネア・レイノ

【作品概要】
監督を務めたのはフィンランドの女性監督アッリ・ハーパサロ。

デビュー作『Love and Fury』(2016)で自分の主張を見出していく女性作家の姿を描き、2作目『Force of Habit』(2019)では、7人の脚本家と共にジェンダーバイアスと構造的な権力の誤用について描きました。3作目となる本作においても3人の少女の物語を描き出しました。

ミンミ役を務めたのは、12歳から役者として活動し、『エデン』(2020)に続き本作が主演2作目の長編映画となったアーム・ミロノフ。ロッコ役には、舞台やミュージカルを中心に活動し、本作が映画デビューとなったエレオノーラ・カウハネン。

エマ役のリンネア・レイノは、フィギュアスケーターの役のため3ヶ月の訓練を経てのぞんだといいます。

映画『ガール・ピクチャー』のあらすじとネタバレ


(C)2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved

最初の金曜日

親友同士のミンミ(アーム・ミロノフ)とロッコ(エレオノーラ・カウハネン)。

クールでシニカルなミンミは、高校の体育に積極的に参加しようとせず、クラスメートと衝突し思わず暴力を振るってしまいます。そんなミンミをクラスメートは異常扱いしています。

そんなミンミにロッコは明るく冗談を言います。私に期待するのが間違っている、多々ボールを追いかけてゴールすることに夢中になるなんてわからないとミンミはこぼします。

2人は学校の後スムージースタンドのバイトに向かいます。バイト中も性のことや悩みなどあけすけに話す2人。よく店にやってくる青年がロッコに良かったら今度ご飯でも……と誘いますが、ロッコは曖昧な態度で青年は無理ならいいと去ってしまいます。

そんなロッコの態度をからかい、私なら目線で相手に思っていることを伝えられるというミンミでしたが、スムージーを買いに来た同じ高校のエマ(リンネア・レイノ)に悪ふざけだと思われ、「頭おかしいのではないの、私のことを知らないのに馬鹿にしないで」と怒られてしまいます。

エマと共にいたクラスメートが2人を誕生日パーティーに誘います。ミンミは気乗りしない様子です。

そんなミンミにロッコは、男の子といても何も感じない、もっと深く関わりたいと言います。セックスに夢を見過ぎている、経験をしていないだけだと言います。だからこそパーティーで素敵な出会いを探したいとロッコにいいます。

渋々パーティーに向かったロッコは会場の隅で一人でいるエマを見つけ話しかけます。「あなたのことが一番気になる」とミンミはいい、2人は急接近していきます。パーティ会場を抜け出し2人でクラブに向かい2人はキスを交わします。

一方ロッコは男子とうまく話そうとして性的な話をしてしまい、相手に引かれてしまいます。落ち込んでバスルームに隠れていると男女が入ってきて性行為に及ぼうとするも男子の失言で女子は怒り出ていってしまいます。

ロッコはぎこちなく私でよければ…といいますが結局うまくいかないままその日を終えます。


(C)2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved

2回目の金曜日

恋人同士になったミンミとエマ。ミンミはロッコに「深く関わるってこういうことだと思う」と惚気るほど親密になっていった2人でしたが、エマは大会を前にトリプルルッツを跳べなくなりスランプに陥っていました。

ミンミと共にいたい気持ちと練習へのプレッシャーを前に葛藤するエマは14年間で初めて練習を遅刻してしまいます。

ミンミは離れて暮らす母のもとへ義理の弟の誕生会に参加するため向かいますが、母親が約束を忘れ家には誰もいません。母に対する寂しさをうまく伝えられず傷ついていました。

ロッコは先週の失敗をミンミに話すと、自分のしてほしいことを相手に伝えなきゃとアドバイスされます。遊び人のシピのパーティーに参加したロッコは、シピとベッドインし、その際にアドバイス通りに自分の要望を伝えます。

すると、「マニュアルに従わされて気持ちが萎えた」と言われてしまいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ガール・ピクチャー』ネタバレ・結末の記載がございます。『ガール・ピクチャー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved

3回目の金曜日

試合を翌日に控えてもトリプル・ルッツが跳べないエマは、ミンミのバイト先にやってきます。

「運命の出会いってわかる?私たちよ。運命の相手だと分かっているのにどうして避けるの。こんなに好きにさせておいて」とミンミに愛の告白をします。ミンミは飛び出してエマを抱きしめます。

エマは大会のために泊まっているホテルにエマを呼び、練習場にも連れていきます。スケート場でミンミに向けてふざけてみせるエマにコーチは怒ります。するとエマは「もう嫌、スケートをやめる」と言いスケート場を飛び出してしまいます。

スケートをやめたからもうなんでもできるというエマに、ミンミは複雑そうな表情を浮かべます。その後、クラブに行った2人ですが、ミンミはドリンクを買ってくるといいそのまま男性2人の客と楽しそうに話し始めます。

ミンミの姿が見えず探していたエマは男性と話すエマを見つけて戸惑います。ミンミはエマを未来のヨーロッパ選手権の選手だと紹介します。何のアスリートだと男性に聞かれたエマはレスリングとこたえます。

「女性なのに筋肉系を目指すなんてすごい。男性が近づかないんじゃない」という男性に「そんなことを聞くなんてフェミニストなのね」とエマは言います。

もう一人の男性が「許してやって女性アスリートに尊敬しているんだ」と言うと、エマは「女性ってつける必要ない」と言います。

空気が微妙になるとミンミは二次会の話をし始め、片方の男性の家に行くことになります。怒っているエマをよそにミンミは男性を口説き始めます。ミンミは自身の性格について今を生きていると話すと、エマは2人の会話を遮って「ご都合主義で周りのことは気にしていない」と指摘します。

するとミンミも「私は自分の反抗期に他人を巻き込まない」とエマニついて言います。気まずい雰囲気を壊すかのようにミンミは男性を連れてロフトの上に向かい、性行為を始めようとします。

エマは怒りにまかせて植木鉢を床に叩きつけ叫び、家から飛び出します。驚いたミンミがエマの後を追うと「私に近寄らないで」と言われてしまいます。

ロッコは以前誘ってくれた男の子を食事に誘います。お互い緊張していた2人でしたが、お酒も進んで男の子の家で性行為を始めようとした途端吐き気を催し、あろうことか男の子めがけて吐いてしまいます。

一気に酔いが覚めて動揺したロッコはトイレに駆け込み、すぐ帰ると言いますが、泊まっていっていいと言われます。翌朝ロッコを送り届けた男の子はキスをしようとしますがロッコは顔を逸らします。

「てっきり僕たち…」と言いかけた男の子にロッコは「ごめん」と謝ります。

土曜日


(C)2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved

試合当日。スケート場に現れたエマはショートプログラムにのぞみますが、トリプル・ルッツは成功せず転んでしまいます。

その姿をミンミはスマホでチェックしています。自分から遠ざけたくせにSNSまでチェックして気にしていることをロッコに指摘されてしまいます。

痛いところをつかれたミンミは男の子とうまくいかなかったからって八つ当たりしないでと言い返し、片付けていた食器をぶちまけてしまいます。

ロッコは駆け出してミンミを抱きしめ、2人はかたく抱き合います。

その後、ミンミは警備員と揉め警察に呼び出されます。警察が母親に連絡すると母親は迎えに来れないと言います。ショックを受けたミンミは迎えにくるまで帰らないともう一度電話をするよう頼みます。

迎えにやってきた母にミンミは、「忙しくて私との約束忘れちゃうのもわかる、リオネルとママの生活の邪魔もしたくない。でもママと2人だった頃が恋しくなるの、私だけのママだった頃が…」そう言って泣き出すミンミを母は、「ごめんね、私の可愛い子」と抱きしめます。

ショートプログラムでトリプル・ルッツが跳べなかったエマにコーチは、子供の頃のあなたはスケートが大好きで何でも吸収したがった、でも他に好きなことができればそれでいい。あなたはスケートを続けたいの、と問いかけます。

そしてエマは決意の表情でフリープログラムに挑み、見事トリプル・ルッツを成功させ、ヨーロッパ選手権への道を手に入れます。

エマのお祝いパーティーに参加したロッコは、退屈して一人隅の方で座っています。すると、数週間前にムーミンマグのネタを話して引かれてしまった少年が話しかけてきます。

テーブルサッカーの試合をすることになった2人は熱中して試合をします。結果ロッコが勝ちます。ぜひまた試合をしたいという少年にロッコは「キスもセックスもしたくないかも、この先もどうかはわからないけれど」と言います。

会場には恐る恐るやってきたミンミの姿もありました。ミンミはエマに近づき耳元で何かを囁きます。

仲直りをしたエマとミンミの元にロッコもやってきて3人は笑い合うのでした。

映画『ガール・ピクチャー』の感想と評価


(C)2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved

等身大の3人の女の子を描いた映画『ガール・ピクチャー』。

原題の『Tytot tytot tytot』は直訳すると“女の子 女の子 女の子”という意味で、フィンランドで女の子が何かしたときに嗜めたり、恥ずかしい思いをさせるときに使う言い回しだといいます。

こらこら女の子たち…というようなニュアンスです。アッリ・ハーパサロ監督はそのようなマイナスイメージのある言葉に新たなポジティブなニュアンスを与えたいと思って、本作のタイトルに選んだそうです。

本作は女の子たちの物語であり、カミングアウトに主題を置いたりはせず、同性が好きだと自認しているミンミや、自身のセクシャリティが定まっていなくて葛藤するロッコなど、レズビアンやAセクシャルなどの単語を使わずにそうあるものとしてありのままに映し出しています

2010年代には、『君の名前で僕を呼んで』(2017)をはじめとしてカミングアウトすることに対する葛藤を描く映画が多く描かれていました。

その背景には、セクシャルマイノリティに対する認知が広まっているとは言えない現状がありました。セクシャルマイノリティに関する認知を広げるためには、まず同性愛者やトランスジェンダーなどLGBTQなど名前を与える必要があったのです。

ハリウッドの#ME TOOをはじめとした運動も、“声を上げること”から始まりました。抑圧されてきた声を世間に突きつけることで問題視されていない問題に目を向けさせる必要があったのです。

しかし、本作はそのような流れから更に進み、カミングアウトを主題におくのではなく当たり前に存在していることを前提に描き出します。また、女の子たちをありのままに描くと同時に男の子に対しても、殊更にクズな存在として描くこともなくありのままに描き出します。

本作はクィアムービーであると同時に等身大の十代の不完全さを全てを包み込むような優しさをもって映し出します。

エマとミンミの恋愛に対しても同性愛であることの障壁を描くのではなく、家族との関係により怒りをうまくコントロールできない姿や、スランプに陥った姿など思春期らしい悩みと恋愛関係をもって描きます。

まさに現代を象徴するような“新しさ”がある映画ですが、王道の青春映画らしさも随所に散りばめられています。新しさと普遍的なものが融合し、思春期真っ只中の世代にも、かつてそのような経験をした世代にも刺さるエモーショナルで愛おしい映画です。

まとめ


(C)2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved

性、恋愛の悩みや将来への不安をエモーショナルな映像と音楽で彩る王道の青春映画の要素が盛り込まれた本作は、3つの金曜日を描き、最後の翌日を描くという点も注目です。

何かが起こる予感のする10代の金曜日。出会い、葛藤、最後の金曜日で大きな衝突を経て次の土曜日でとても大きな変化はないけれど、少しの勇気と優しさが観客の背中をも押してくれるようなエンディングへと向かっていきます。

特に印象的なのは、「キスもセックスもしたくないかも」というロッコのセリフです。ロッコは自分が男の子といても何も感じないことに普通とは違うのではないかと悩んでいます。

それは性行為において快楽を得られないことでもあり、そもそもその行為を自分がしたいと思っているのかというところにも繋がっているのかもしれません。

ミンミのアドバイスを経て数人の男の子と経験してみるも、なかなかうまくいきません。そんなロッコが、今はしなくてもいいんだというところに辿り着くのです。ロッコは性的欲求や恋愛感情を持たないAセクなのかもしれませんが、そのことを劇中で明確にはしません

必ずしも焦って答えを出そうとする必要はないと、ロッコが間違えたりうまくいかなかった経験も肯定し、そのままでいいと伝えてくれる本作の姿勢に救われる人もいるのではないでしょうか。

そのような姿勢は『ミューズは溺れない』(2022)にも通ずるところがあります。少しずつ認知が広がり、ありのままの日常を映し出すクィアムービーが今後作られていくのかもしれません。


関連記事

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】ソウルに帰る|あらすじ結末感想と評価考察。パク・ジミンが主人公“フレディの複雑な内面”を見事に演じる

ひょんなことから始まる自分のルーツを探す旅 映画『ソウルに帰る』では、自分の原点である韓国で自分の居場所を探し始めるフレディの25歳から33歳までを映し出します。 韓国で生まれ、養子としてフランスで育 …

ヒューマンドラマ映画

映画『30年後の同窓会』あらすじとキャスト。上映する劇場情報も

映画『30年後の同窓会』は、6月8日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー! 主人公を演じる3人は、いずれもオスカー賞にノミネートされた実力派俳優である、スティーブ・カレル、ブライ …

ヒューマンドラマ映画

赤毛のアン映画あらすじ!2017夏の舞台主役は元国民的子役女優!

カナダの小説家ルーシー・モード・モンゴメリの『赤毛のアン』。これまで映画やテレビ、アニメで映像化されれ、現代に引き継がれてきた古典の名作。 今回は、エラ・バレンタインが主演する日本公開2017年5月6 …

ヒューマンドラマ映画

実写映画『リバーズエッジ』二階堂ふみ・吉沢亮らの演技力の評価は

岡崎京子の原作漫画が行定勲監督の手によって映画化! 二階堂ふみ、吉沢亮、森川葵ら若手実力派が岡崎ワールドを体現。 主題歌を担当するのは岡崎京子の盟友である小沢健二。 二階堂ふみ主演の映画『リバーズ・エ …

ヒューマンドラマ映画

映画『空母いぶき』キャストの秋津竜太役は西島秀俊。演技力とプロフィール紹介

累計400万部を突破する人気コミック作品・かわぐちかいじ原作の『空母いぶき』を実写化した映画が、2019年5月24日より公開されます。 監督は、『ホワイトアウト』『沈まぬ太陽』などで知られる若松節朗。 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学