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Entry 2023/03/31
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【ネタバレ】シン仮面ライダー|ハチオーグ(蜂女)/ヒロミ(西野七瀬)はなぜルリ子に執着?ショッカーという“巣”が育んだ劣等感ד巣立ち”への絶望|仮面の男の名はシン13

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『仮面の男の名はシン』第13回

シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』に続く新たな“シン”映画『シン・仮面ライダー』。

原作・石ノ森章太郎の特撮テレビドラマ『仮面ライダー』(1971〜1973)及び関連作品群を基に、庵野秀明が監督・脚本を手がけた作品です。

本記事では、コウモリオーグに続き立花・滝から“排除”を依頼されたSHOCKERオーグメントにして、ルリ子にとって“友だちに最も近い存在”であったヒロミ/ハチオーグ(演:西野七瀬)にクローズアップ。

ヒロミ/ハチオーグの“元ネタ”解説はもちろん、映画作中のセリフや描写、スピンオフ漫画の設定から想像できるヒロミがルリ子に抱いていた劣等感、そしてルリ子の“巣立ち”によりヒロミが知った“絶望”などを考察していきます。

【連載コラム】『仮面の男の名はシン』記事一覧はこちら

映画『シン・仮面ライダー』の作品情報


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
石ノ森章太郎

【脚本・監督】
庵野秀明

【キャスト】
池松壮亮、浜辺美波、柄本佑、西野七瀬、本郷奏多、塚本晋也、手塚とおる、松尾スズキ、仲村トオル、安田顕、市川実日子、松坂桃李、大森南朋、竹野内豊、斎藤工、森山未來

【作品概要】
1971年4月に第1作目『仮面ライダー』の放送が開始され、今年2021年で50周年を迎える「仮面ライダー」シリーズの生誕50周年作品として企画された映画作品。

脚本・監督は『シン・ゴジラ』(2016)と『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)にて総監督を、『シン・ウルトラマン』(2022)にて脚本・総監修を務めた庵野秀明。

主人公の本郷猛/仮面ライダーを池松壮亮、ヒロイン・緑川ルリ子を浜辺美波、一文字隼人/仮面ライダー第2号を柄本佑が演じる。


「“支配”に囚われた者」ヒロミ/ハチオーグを考察・解説!

『シン・仮面ライダー』追告

「友だち」も「日本刀」も元ネタが!

“他者の支配”という自己の幸福を実現すべく「新たな奴隷制度に基づく世界支配システムの構築」を計画し、そのテストモデルとして一つの街の全住民を洗脳し、自らの支配下に置いた上でSHOCKERの構成員人員として拉致を続けていたヒロミ/ハチオーグ。

ハチオーグの“元ネタ”は言わずもがな、テレビドラマ『仮面ライダー』の第8話「怪異!蜂女」に登場したショッカー怪人・蜂女

毒を仕込んだ“剣”で仮面ライダーと戦う」という戦闘スタイルはもちろん、「自身の催眠音波の能力を有効活用し、大勢の人間を自身が管轄する毒ガス工場の作業人員として強制労働をさせていた」という設定は、ハチオーグにもオマージュとして反映されています。

また「ヒロミ」というハチオーグへと改造される以前のコードネームも、テレビドラマ『仮面ライダー』でのルリ子の城北大学文学部での級友・野原ひろみ石ノ森漫画版でのルリ子から由来。

そうした野原ひろみ/ヒロミの設定もまた、『シン・仮面ライダー』におけるヒロミ/ハチオーグの「SHOCKERに在籍していた頃のルリ子にとって、“友だちに最も近い存在”であった者」という設定に盛り込まれています。

“友だちに最も近い存在”以上になれなかった理由


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

本郷/仮面ライダーの上空からの急襲により、自身の計画の要であった洗脳システムも破壊されてしまい窮地に立たされ、「ルリ子さんのためにも投降してほしい」という“優し過ぎる男”本郷の言葉をかけられても「私はルリ子を泣かせたいの」と答え、仮面ライダーとの決闘を選択したヒロミ/ハチオーグ。

そもそも、彼女はなぜそこまで、ルリ子に対して強い執着心を抱き続けていたのでしょうか

組織を離れた者・残った者として袂は分かったものの、ヒロミに対し「私に友だちはいない」と語りつつ「でも、殺せない」とも口にしたルリ子彼女にとってヒロミは、スピンオフ漫画作中のイチローにとってのサソリたちのように、組織内での「学友」だったのではないでしょうか。

また「SHOCKERに生まれし者は、SHOCKERに還る」というヒロミのセリフからも、彼女も人工子宮により“生体電算機”として組織に生み出されたルリ子と同じく“SHOCKER生まれ”の人間であった可能性が高く、その出自を通じて二人は交流を深めていったのかもしれません

しかし映画作中での“用意周到”ぶりからも、組織に在籍していた頃のルリ子は“優秀な構成員”として活躍していたこと、似た出自を持ち「学友」であった彼女とヒロミが比較される機会は少なくなかったことも、決して想像に難くありません

ルリ子に対し、いわゆる「劣等感」を否が応でも持たざるを得なかったであろうヒロミ二人が“友だちに最も近い存在”以上の関係性を育めなかった理由は、そこにあるのかもしれません。

ルリ子の“巣立ち”が生んだ“支配欲の絶望”


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

ヒロミ/ハチオーグのデザインモチーフとなっているスズメバチは、ハチ目・スズメバチ科に属する昆虫の中でもスズメバチ亜科に属する種の総称です。

ハチの中でも大型の、それも攻撃性の高い種が多いとされているスズメバチ亜科ですが、その攻撃性はあくまでも「巣を守り、存続させるため」という最大の目的に基づくものであることは、種が持つ高い攻撃性が人間に広く知られているが故に見落とされがちです。

巣を守り、存続させるための攻撃性」……それは、ヒロミ/ハチオーグのファッションや拠点内のインテリアにも若干偏った認識の元反映されていた“ヤクザの世界”の社会性、ひいては「頂点に立つ自身の下に、全ての者を従属させる」という他者への攻撃性に基づいて構築されたヒロミ/ハチオーグの“巣”の在り方そのものといえます。

また一方で、男女問わずに支配欲の強い人間の特徴には「『自身の認識が正しいことを他者に認めさせたい』と考えている」、そして「自己評価が極端に低く『自分には、他者との関わりを保てるような魅力などない』と考えている」といったものが存在します。


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

「自分たちが生まれ、ともに育ってきた住処であるにも関わらず、自分よりも優秀な構成員だったはずのルリ子は『組織が目指す“人類の幸福”は間違っている』と結論づけ、SHOCKERという“巣”を離れた」

じゃあ、今まで私が感じてきた劣等感は何だったの?」「じゃあ、どうして私は、ルリ子の“友だち”になれなかったの?」……。

SHOCKERでともに暮らしてきたルリ子の“巣立ち”へのショックは、いつしか「『“巣立ち”は間違った選択だった』とルリ子に分からせる」=「彼女を泣かせたい」へと変化していったのではないでしょうか。

そして、ヒロミ/ハチオーグが「支配」に自らの幸福を見出してしまったのも、SHOCKERルリ子と交流を深める中で育まれた劣等感と、“巣立ち”というルリ子との関係性の途絶により確信してしまった“絶望”……「自分には、他者との関わりを保てるような魅力などない」「自分は支配でしか、他者をつなぎ止められない」という“絶望”が原因なのではないでしょうか。

まとめ/SHOCKERの巣の中で

SHOCKERでの“幸福”の追求の果てに、むしろオーグたちは“絶望”をより深めている」……コラム第5回のイチロー/チョウオーグコラム第9回のサソリオーグなど、オーグたちの秘めたる想いを想像する度に、その仮説は真実味を帯び続けています。

そしてヒロミ/ハチオーグからも、SHOCKERに生まれし者」故にルリ子と出会い、彼女と組織内でともに成長したが故に“幸福”という仮面を被った“絶望”を知ってしまったという想像を見出すことができました。

なお、スズメバチ亜科のハチにおいて、女王ハチとなる卵と働きハチとなる卵に違い自体はなく、幼虫期に食べさせられたエサによってその地位が決定されると言われています。

SHOCKERという巣で育てられなければ、彼女は“女王バチ”にならずに済んだのではないか」「そして支配という手段を選ぶこともなく、ルリ子とも“友だち”になれたのではないか」「だが、SHOCKERという巣がなければ、二人は出会うこともできなかったのではないか」……。

今さら考えてもしょうがない二人の関係の“もしも”は、「ルリルリに殺してほしかった」というヒロミの末期の言葉とともに、泡のように消えてしまうのです。

【連載コラム】『仮面の男の名はシン』記事一覧はこちら

ライター:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介











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