Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2023/03/20
Update

【ネタバレ】シン仮面ライダー|あらすじ感想解説とラスト結末評価。2号/一文字と本郷が見出す“幸せ”ד人が宿命と戦う意味”という変えたくないモノ【仮面の男の名はシン3】

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『仮面の男の名はシン』第3回

シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』に続く新たな“シン”映画『シン・仮面ライダー』。

原作・石ノ森章太郎の特撮テレビドラマ『仮面ライダー』(1971〜1973)及び関連作品群を基に、庵野秀明が監督・脚本を手がけた作品です。

本記事では、ついに2023年3月に劇場公開を迎えた『シン・仮面ライダー』の内容をネタバレ有りあらすじとともにご紹介

様々な“原作”を基に形作られた本作のストーリー、映画ラストにて「仮面ライダー」本郷猛・一文字隼人が見出した“幸せ”の真意について解説いたします。

【連載コラム】『仮面の男の名はシン』記事一覧はこちら

映画『シン・仮面ライダー』の作品情報


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
石ノ森章太郎

【脚本・監督】
庵野秀明

【キャスト】
池松壮亮、浜辺美波、柄本佑、西野七瀬、塚本晋也、手塚とおる、松尾スズキ、森山未來

【作品概要】
1971年4月に第1作目『仮面ライダー』の放送が開始され、今年2021年で50周年を迎える「仮面ライダー」シリーズの生誕50周年作品として企画された映画作品。

脚本・監督は『シン・ゴジラ』(2016)と『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)にて総監督を、『シン・ウルトラマン』にて脚本・総監修を務めた庵野秀明。

主人公の本郷猛/仮面ライダーを池松壮亮、ヒロイン・緑川ルリ子を浜辺美波、一文字隼人/仮面ライダー第2号を柄本佑が演じる。

映画『シン・仮面ライダー』のあらすじとネタバレ

バイク「サイクロン号」を駆る青年・本郷猛は、自身を謎の組織から逃がしたルリ子を後ろに乗せ、2台のトレーラートラックからの逃走している最中でした。

山道を走り続けた果てに、トラックもサイクロン号も谷へ転落。ルリ子はかろうじて無事でしたが、二人を追っていた組織の上級構成員にして「人外融合型オーグメント」ことクモオーグとその手下たちに捕らえられます。

そこに同じく無事であった本郷が現れ「第1バッタオーグ」へと変身。人間離れした恐るべき身体能力でクモオーグの手下たちを惨殺したのちにルリ子を救出し、彼女とともに山中のセーフハウスへと向かいました。

ためらいなく手下たちを殺めることができてしまった自身に動揺する本郷の前に、ルリ子の父であり本郷の恩師・緑川弘博士が姿を見せます。そして、本郷が“変身”できるようになった経緯を明かしました。

本郷は秘密結社「SHOCKER」で緑川が進めていた「昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクト」の最高傑作である第1バッタオーグへと改造されたこと。

本郷の第1バッタオーグへの“変身”は、「プラーナ」という“生命のエネルギー”そのものといえる未知のエネルギーを利用した制御システムによって行われていること。

とある過去から“強い力”を欲していた本郷を、緑川自らが実験体として組織に推薦したこと。そして、プラーナシステムによる人間のオーグメントへの“アップデート”を個人のエゴの達成に利用するSHOCKERの壊滅に協力させるために、組織から本郷を逃したこと……。

説明を聞き終えた本郷に、ルリ子はバイク乗りにとっての必需品であり、“ヒーロー”を象徴する色を宿した赤いマフラーを彼の首へと巻きました。

そこに、セーフハウスを見つけ出したクモオーグが急襲。“裏切り者”の一人である緑川博士を殺害後、気絶させたルリ子を拉致しました。

「ルリ子を頼む」という緑川博士に託された願いを守るべく、サイクロン号でたちまちクモオーグたちに追いつく本郷。そして自らを「仮面ライダー」と名乗り、オーグメントとなった者として人間を殺めることを自らの幸福と謳うクモオーグを打ち倒しました。

組織の情報漏洩防止技術により泡と化し消えたクモオーグの末期を後にし、別のセーフハウスへと向かう本郷とルリ子。そこで二人は、政府の男、情報機関の男の二人組と接触します。

ルリ子と男たちの会話から、本郷はSHOCKERの創設経緯を知られます。

組織を創設したのは日本のとある大富豪であり、創設者は自身が用意した莫大な資金のもと、世界最高の人工知能「アイ」の創造を立案。アイは「外世界観測用自律型人工知能」として人型ロボット「ジェイ」、そのバージョンアップ版「ケイ」を生み出し、さらなる世界の情報収集を開始しました。

のちに創設者は「人類を幸福に導け」という命令をアイとケイに託して自殺。そしてアイは、「いわゆる“最大多数の最大幸福”は人類の幸福ではない」「最も深く絶望した人間を救済する活動の継続こそが、人類の幸福へとつながる」と演算の果てに見出し、その結果を基に生み出されたのがSHOCKERだったのです。

ルリ子や緑川博士同様にSHOCKER壊滅のため暗躍していた男たちは、情報提供と本郷とルリ子の警護と引き換えに、オーグメントたちの討伐をはじめとするSHOCKERの排除を依頼。二人もその契約に応じました。

男たちの情報提供により、組織の生化学主幹研究者でもあるコウモリオーグの拠点を知ったルリ子は、マスクを装着し戦うことに覚悟を決めかねていた本郷をセーフハウスに残し、たった一人で拠点へと侵入します。

コウモリオーグに降伏勧告をするも、感染者の心身を意のままに操る「バットヴィルース」によってコウモリオーグの支配下に置かれてしまうルリ子。一方、警察官として他者を助けようとした果てに、その命を奪われ殉職した父を目の当たりにした過去の記憶と向き合った本郷は、彼女の元へと向かいます。

バットヴィルースにより、命令一つでルリ子を死なせることもできると脅すコウモリオーグ。しかし、ヴィルースの感染を防ぐようプラーナシステムのプログラムを事前に書き換えていたことで、本郷同様にプラーナシステムで生かされているルリ子は感染した“フリ”をしていただけでした。

自慢のバットヴィルースが効かないと分かるや否や、仮面ライダーの跳躍力ですら届かない空中へと逃亡するコウモリオーグ。しかし、変形したサイクロン号に乗ることでコウモリオーグよりはるか上空へと飛ぶことのできた本郷は、必殺の一撃を放ちました。

コウモリオーグの戦闘後、政府の男と情報機関の男が指揮する特殊部隊が、猛毒の化学兵器を能力とするオーグメント・サソリオーグの討伐に成功。その上で、本郷とルリ子にハチオーグの討伐を新たに依頼しました。

“他者の支配”という自己の幸福を実現すべく、新たな奴隷制度に基づく世界支配システムの構築を計画していたハチオーグは、そのテストモデルとして一つの街の全住民を洗脳し、自らの支配下に置いていました。

かつては“ヒロミ”というコードネームを持ち、ルリ子とは友だちに近い関係性にあったというハチオーグ。ルリ子は本郷とともにハチオーグの拠点に真正面から乗り込み説得を試みますが、ハチオーグは自身の洗脳下にある街の住民たちに二人を襲わせようとしたため、本郷は急ぎルリ子と撤退しました。

一時の休息、そして再戦の準備の中で、ルリ子は自身が人工子宮によって生み出された生体電算機であること、組織に残り「チョウオーグ」へと改造された異母兄・イチローを止めるのも組織壊滅の目的の一つであることを本郷に明かします。

また、「この体では腹が減らないらしい」と口にした本郷。それに対してルリ子は、父・緑川博士が開発したプラーナシステムの本質を明かします。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『シン・仮面ライダー』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『シン・仮面ライダー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

プラーナシステムは、大気中に存在する他の生命のプラーナを自らの生命力として取り込む機能を持つ装置であり、装置を身に付けた者は他の生命を意志に関係なく食らい続けているため、食事を摂る必要もなくなり、回復力も向上し、“不老不死”の実現も夢ではない技術でした。

しかし、もし全人類がプラーナシステムを装着すれば、人類以外の全ての生命はプラーナを食われ続けた末に絶滅し、最終的には人類間でのプラーナの“共食い”が発生するのは自明の理。自身の過ちを悟った緑川博士は、そのためにシステム開発を断念し組織を裏切ったのです。

やがて、洗脳された街の住民たちに発見される本郷とルリ子。「住民の洗脳を解くためには、ハチオーグが拠点に構築した洗脳システムの管理サーバーを破壊するしかない」とルリ子から聞かされた本郷は、自身が思いついた“あるプラン”を伝えました。

プランではなく本郷自身のことを信じたルリ子は、一人でハチオーグと再面会します。その隙を突いた本郷は、政府の男たちに手配させた飛行機からハチオーグの拠点に目がけて降下し、一撃でサーバーを急襲・破壊しました。

住民たちの洗脳が解ける中、手下の戦闘員たちのプラーナを吸収し終えたハチオーグと本郷の直接対決に。ハチオーグは強靭なライダーのスーツすら貫通する特製の日本刀、そして超高速移動の能力によって本郷を翻弄しますが、最後には敗北を喫します。

しかし、“ハチオーグ”でない友だちの“ヒロミ”を今でも思うルリ子の心情を尊重した本郷が、トドメの一撃を放つことはありませんでした。ルリ子は再度説得を試みますが、対してハチオーグ……ヒロミは、ルリ子への複雑な思いを吐露しました。

そこに政府の男と情報機関の男が乗り込んでくると、ヒロミに発砲。サソリオーグの猛毒の化学兵器を転用した特殊弾によってヒロミは斃れ、泡となり消えてゆきました。悲しみを抑えることのできないルリ子に、本郷は黙って胸を貸しました……。

ハチオーグ戦後、ルリ子は兄・イチローが“サナギ”の状態から羽化しチョウオーグとして覚醒したことを知ります。また、政府の男たちの指揮下にない別の部隊がチョウオーグの拠点に突入した結果、壊滅の憂き目に遭ったことも判明します。

遺体に損壊の後はなく、皆一様に微笑みを浮かべている……その奇妙な死について、ルリ子は全てチョウオーグが持つ能力によるものだと指摘します。

生命の全プラーナ、いわゆる“魂”の強奪を可能とするチョウオーグへと改造されたイチローは、人類の全ての魂を現実とは異なる別空間……全ての心が共有され嘘偽りが存在し得ない、故に“天国”とも“地獄”ともいえる「ハビタット世界」へと転移させることを計画していました。

計画を阻止するためのプログラムを完成させるには、チョウオーグであるイチロー自身のデータを入手しなくてはならないルリ子は本郷とともに、兄が待つ拠点へと向かいます。

再会した兄に接触しデータを読み取ろうとするも、イチローの圧倒的な力によって気絶してしまうルリ子。そしてイチローは、父の緑川博士が開発した昆虫合成型オーグメントの強化型にあたる「第2バッタオーグ」こと一文字隼人に本郷の始末を命じます。

ルリ子とともに拠点から撤退したのち、追跡してきた一文字と対決する本郷。しかし激闘の果てに左足を折られ、窮地に陥ります。

トドメを刺そうとする一文字に対し、ルリ子はイチローとの接触時に入手したデータの一部を基に作成したプログラムによって、一文字の洗脳を解こうとします。

悲しみの記憶のを封印し、代わりに幸福感を植え付けるSHOCKERの洗脳プログラム。洗脳からの解放とともに“悲しみの洪水”に襲われ涙を流す一文字に、ルリ子は「あなたもライダーになって」と赤いマフラーを巻きました。

しかし、そこにK.K(カマキリ・カメレオン)オーグが出現。初の3種合成型オーグメントであり光学迷彩の能力を持つK.Kオーグは、不意打ちによってルリ子に刃を突き立てました。

地面に倒れるルリ子の息の根を止めようとするK.Kオーグ。しかし「SHCOKERの敵」にして「人類の味方」となることを宣言した一文字によって打ち倒されました。

一文字の制止も虚しく、致命傷を負ってしまっていたルリ子は命を落とし、泡となり消えてゆきました。

本郷がマスクを被ると、そこにはルリ子が完成させたハビタットシステムの阻止プログラムと、彼女が生前撮影していた本郷宛ての“遺言”の映像が遺されていました。

元々は社会の悪と戦うジャーナリストであった一文字は手にした“強い力”を受け入れるも、政府の男たちに利用されるのを嫌ったことで本郷の元を去ることに。

しかし、一人チョウオーグの拠点へ向かう本郷の姿、そしてルリ子から託された赤いマフラーに、一文字の心は動かされました。

拠点で本郷を待ち受けていたのは、「大量発生相型変異バッタオーグ」計11体。第1・第2バッタオーグの“孤独相”以上の凶暴性を持つ変異バッタオーグたちに本郷は苦戦を強いられますが、そこに一文字がサイクロン号で駆けつけ加勢します。

「仮面ライダー第2号」を名乗った一文字との“ダブルライダー”によって全ての変異バッタオーグを打ち倒した本郷。そしてイチローの前に立ちはだかると、サイクロン号2台の自爆攻撃によってハビタットシステムを制御していた“玉座”を破壊しました。

“玉座”の破壊により計画は当面停滞するものの、完全に阻止するためには、ルリ子の遺したプログラムでシステムそのものを止めなくてはならない。ルリ子に託された願いを守るためにも、本郷は一文字とともにイチローとの決戦に挑みます。

チョウオーグへと“変身”し、白いマフラーを首に巻いたイチロー。自らを「仮面ライダー第0号」と名乗った上で「仮面ライダー」本郷と「仮面ライダー第2号」一文字と対峙します。

膨大な量のプラーナを操り、もはや超能力じみた攻撃で本郷と一文字を圧倒するイチロー。

しかし、本郷と一文字はボロボロになりながらも彼に立ち向かい続け、ついには一文字の自らのマスクが割れるほどの渾身の頭突きによって、イチローのマスクを打ち砕きました。

マスクが破壊され素顔が露わになったイチローに、本郷は自らのマスクを被せます。ハビタットシステムの阻止プログラムが読み込まれる中、イチローはマスクに残留していたプラーナを介して、ルリ子の魂と再会しました。

かつて母を通り魔殺人によって理不尽にも失い、絶望の果てに父・緑川博士とともにSHOCKERと出会ったことで、自らが望む幸福な世界を目指そうとしたイチロー。しかし、異母妹であるルリ子との対話の中で悲しみの記憶と向き合い、自らの過ちを悟りました。

イチローが「仮面ライダー」のマスクを外した時、本郷は自らのプラーナを使い尽くしたことで限界を迎えようとしていました。ルリ子と自身を救うために自らの命を賭した本郷の行動に、イチローは「ルリ子が信じた人間を信じることにする」と告げました。

一文字に「後は頼む」と伝えた本郷は、イチローとともに泡へと還りました。

その後、一文字は組織の男と情報機関の男……「立花」「滝」とそれぞれ名乗った彼らから、生前の本郷から受けた依頼のもと、拠点から回収し修理していた仮面ライダーのマスクを託されます。

マスクには本郷とルリ子のプラーナ……魂が残されていたため、本郷のプラーナはマスク内に残し、ルリ子のプラーナは別の場所へ転移・保管させたこと。

そして、新たにコブラオーグの拠点を発見し、その討伐を本郷の跡を継いで依頼させてほしいことを伝える立花。

一文字は赤いマフラーを巻き直し、本郷の意志を継いで人々のためにSHOCKERと戦い続けることを決意します。

仮面ライダー第2号へと変身しサイクロン号を駆る一文字。マスクに残されたプラーナを通じて語りかけてくる本郷の魂に、一文字は風とともに応えます。

「俺たちはもう一人じゃない、いつも二人だ」と。


映画『シン・仮面ライダー』の感想と評価


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

テレビドラマ・石ノ森漫画・小説を融合!

映画公開に至るまで、多くの人々が抱き続けていたであろう「『シン・仮面ライダー』は果たしてどのような物語となるのか?」という疑問。

『シン・仮面ライダー』の前日譚にして同作に登場する最大の敵、そしてSHOCKERについて描いたスピンオフ漫画作品として、映画公開に先駆けて連載が開始された『真の安らぎはこの世になく シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE』は、その疑問の答えを考察する上で不可欠だったといえます。

そして公開された映画では、「ベルトの風車ダイナモに風圧を受けることで“変身”ができる」というテレビドラマ『仮面ライダー』における仮面ライダー“旧1号”の設定の基に、生命を構成する未知のエネルギー「プラーナ」による身体強化システムという、“変身”に関する映画オリジナルの設定を導入。

サンスクリット語で「呼吸」「息吹」を意味し、インド哲学では人間を構成する要素の一つである「風」の元素、そして生命力そのものとされるプラーナには、映画を観終えてその語の意味を調べた方の多くがニヤリとしたのではないでしょうか。

そしてストーリーは、テレビドラマ版の設定や初期エピソードをなぞらえつつも、「当初は洗脳状態にあった一文字隼人/仮面ライダー第2号」「11体という大人数で本郷を襲った大量発生相型変異バッタオーグ」などの石ノ森章太郎による漫画版設定をオマージュした展開も登場。

さらにはコラム第2回でも言及した、テレビドラマ版の企画を手がけた平山亨がかつて執筆した短編小説『二人ライダー・秘話』で描かれた「仮面ライダー第0号」も、「本郷猛/仮面ライダーの“if”としての、緑川博士の息子・イチロー/チョウオーグ」として登場。

そして物語のラストは、「本郷は戦いにより肉体を失うも、その意志を継いだ一文字は本郷の心とともに“一人”ではなくなった戦いへと身を投じてゆく」という石ノ森漫画版の設定に基づく結末で締めくくられました。

一文字欠けた“幸せ”を再び見つけ出す

「“辛い”と“幸せ”は近いもの」「“辛い”に一文字足すことで“幸せ”になる」「あなたが辛いことで誰かが幸せになる」……。

映画序盤でのクモオーグ戦後、改造に伴う脳へのプログラム移植により他者にためらいなく暴力を振るい、その命を殺められるようになってしまった自身の変化を改めて実感し、「辛い」と心情を吐露した本郷に対してルリ子が答えたセリフ。

その言葉は同時に、「“幸せ”から1文字が欠ければ、たちまち“辛い”になる」……自身の母というたった一人、自身の人生に欠かすことのできないたった一片を喪失したことで、願っていたはずの本来の幸せを見失ってしまい、人工知能アイが導き出した“幸福の機構”に囚われた彼女の異母兄・イチローの姿とつながります。

また「自身の父を人間の理不尽な暴力により失った」というイチローと似た境遇を持つ本郷が、手にした“強い力”を自身のエゴを貫くためではなく、他者の願いを守ることに用いたのも、他者の大切な一片を奪って自らの欠けた“幸せ”を補完しようとも、結局は他者が自身の身代わりに“辛い”を抱えることになると理解したためなのでしょう。

幸せが欠けてしまったことを受け入れた上で、他者にとっての幸せの一片を救うために戦い続けた本郷。そして映画の結末にて、イチローとの決戦の果てに肉体を失い、魂のみの存在となった彼の幸せの一片となったのは、他でもない一文字隼人/仮面ライダー第2号でした。

“一文字”の名の通り、本郷の幸せを形作る一片……亡き緑川博士やルリ子など、幸せを願った他者のため、たった一人で“辛い”を背負いながら戦い続けていた本郷の孤独を理解し、ともに戦ってくれる“もう一人”となった一文字。また彼にとっても、自身の幸せを形作る一片が本郷であることは言わずもがなでしょう。

映画を締めくくった「俺たちはもう一人じゃない、いつも二人だ」というセリフ。それは、“ダブルライダー”となった本郷と一文字が決して“辛い”だけではなく、彼らもまた戦いの中で自分たちにとっての“幸せ”を見出すことができたという証なのかもしれません。

まとめ/他者を見失わずに“宿命”と戦う


(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

仮面ライダーというヒーローが抱える孤独と悲しみ、そして仮面ライダーとなった人間・本郷と一文字がそれとどう向き合い、その果てにどんな幸せを見出したのかを、テレビドラマ・石ノ森漫画・小説など様々な“原作”へのリスペクトとともに再考した『シン・仮面ライダー』。

自らが抱える孤独と悲しみを乗り越え、その上で自身にとっての幸せとは何かを見出す……それは、映画作中で本郷の悲しき過去を知った立花が彼に伝えた言葉の通り、「仮面ライダーとなった人間」のみならず、全ての人が背負っている課題でもあります。

そしてその課題は、自己とは存在の異なる他者……「人」という字の二画目を形作る“もう一片”となってくれる者がいなくては成り立たないということも、人でなくなったが故により一層の孤独に襲われたオーグメントたち、或いは魂のみとなっても続く本郷とルリ子ルリ子イチロー、そして本郷と一文字の関係性がそれぞれに見出した“幸せ”が語っているといえます。

1971年から52年もの時が経った現代社会を生きる人々に、仮面ライダーの背中を通じて伝えられる、他者の存在を見失うことなく自らの課題と戦う……言うなれば“宿命”と戦うことの意味。それが、『シン・仮面ライダー』のキャッチコピーが語る「変えたくないモノ」の一つなのかもしれません。

【連載コラム】『仮面の男の名はシン』記事一覧はこちら

ライター:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介












関連記事

連載コラム

スタローン映画『ロッキー』あらすじネタバレと感想。アカデミー賞の評価に輝く出世作にして名作|すべての映画はアクションから始まる14

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第14回 日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はア …

連載コラム

映画『トールマン』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。パスカル・ロジェ監督が放つどんでん返しの魅力とは|SF恐怖映画という名の観覧車60

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile060 鑑賞前と鑑賞後で作品に対するイメージが大きく異なる映画が存在します。 ホラー映画『ゴーストランドの惨劇』(2019)の日本公開が2019 …

連載コラム

『ジャッジメントフライ』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。チャリオット計画と飛行機内の密室で目覚めた7人|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー6

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第6回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信サービス【U-NEXT …

連載コラム

【シンエヴァンゲリオン考察】予告・特報3を解説2:シンジの“紫”の瞳が意味する擬似シン化の“先”|終わりとシンの狭間で2

連載コラム『終わりとシンの狭間で』第2回 1995~96年に放送され社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をリビルド(再構築)し、全4部作に渡って新たな物語と結末を描こうとした新 …

連載コラム

千原ジュニア映画『ごっこ』あらすじと感想レビュー。是非に揺れる家族の物語|銀幕の月光遊戯7

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第7回 こんにちは、西川ちょりです。 今回取り上げる作品は、10月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショーされる日本映画『ごっこ』です。 早世の鬼才・小路啓 …

U-NEXT
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学