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『異人たち』あらすじ感想と評価解説。山田太一小説をリメイクした監督アンドリュー・ヘイ監督の描く“あの別れ”はいかようになったか|映画という星空を知るひとよ192

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第192回

脚本家・山田太一の長編小説『異人たちとの夏』を、『荒野にて』(2017)『さざなみ』(2016)のアンドリュー・ヘイ監督が『異人たち』の邦題で映画化。

1988年に大林宣彦監督が風間杜夫主演で映画化した『異人たちとの夏』がありますが、今回は現代のイギリスに舞台を移し、一人の男性の愛と喪失を描き出しました。

映画『異人たち』は、2024年4月19日(金)より公開

12歳の時事故で両親を失って以来、脚本家として仕事をしながらずっと一人で生きてきた青年アダム。ある日同じマンションに住む青年ハリーと知り合い、恋に落ちます。一方、幼少期を過ごした家を訪れてみると、そこには30年前に亡くなった両親が当時のままの姿で住んでいました。

孤独だったアダムに、ほぼ同時に訪れた亡き両親への愛と同性の恋人の存在。ふたつの愛の行方はどうなるのでしょうか?

映画『異人たち』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『異人たち』の作品情報


(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

【日本公開】
2024年(イギリス映画)

【原題】
ALL OF US STRANGERS

【原作】
『異人たちとの夏』山田太一著(新潮文庫刊)

【監督】
アンドリュー・ヘイ

【キャスト】
アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイ

【作品概要】
映画『異人たち』は、『岸辺のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』など数々の傑作ドラマを手がけた名脚本家・山田太一の長編小説『異人たちとの夏』を、アンドリュー・ヘイ監督が映画化した作品。

山田太一のユニークな幻想譚に魅了された監督が、自らのプライベートな要素を織り交ぜて脚色を施し、愛と孤独、喪失と再生、家族の絆といった根源的なテーマを探求して作り上げました。

『SHERLOCK シャーロック』(2012)『否定と肯定』(2017)のアンドリュー・スコットが主人公のアダム、『aftersun アフターサン』(2023)のポール・メスカルがハリー、『リトル・ダンサー』(2000)のジェイミー・ベルと『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(2023)のクレア・フォイがアダムの両親を演じています。

映画『異人たち』のあらすじ


(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ロンドンのタワーマンションで暮らすアダムは40代の脚本家。

12歳の時に両親を交通事故で亡くした彼は、それ以来、ずっとひとりぼっちで生きてきました。

両親との思い出に基づく脚本の執筆に取り組もうとしているアダムは、ある夜、同じマンションの6階に住む謎めいた青年ハリーとめぐり合います。

そして幼少期を過ごした郊外の家を久しぶりに訪ねると、そこには30年前にこの世を去ったはずの父と母が、当時のままの姿で住んでいました。

両親との心満たされるひとときに浸ったアダムは、その後も実家に足繁く通いはじめます。

その一方、自分と同じように孤独の影をまとうハリーとの情熱的な恋に落ちていきました。

しかし、その夢のような愛おしい日々は永遠には続かないのです……。

映画『異人たち』の感想と評価


(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

原作小説との違い

本作の原作は、TVドラマの『ふぞろいの林檎たち』などを手がけた脚本家の山田太一の小説『異人たちとの夏』です。

1988年に大林宜彦監督が映画化しましたが、今回は『荒野にて』(2017)『さざなみ』(2016)のアンドリュー・ヘイ監督が小説のユニークな幻想譚に魅了されて再映画化しました。

孤独な脚本家・アダムが、懐かしい故郷を訪ねてみると、亡くなったはずの両親がいました。待っていたのは、まるでタイムスリップしたかのような家族の温かな語らい。そして、時を同じくして、同じマンションに住む男性との狂おしい恋にも出会います。

子どもの頃に死別した両親との団らんで癒されるアダムですが、彼らはもちろん人間ではありません。異次元の世界とアダムのいる現代が繋がっているかのように物語が展開します。

原作小説との大きな違いは、主人公を同性愛者にしていることです。原作の主人公は妻子と別れた脚本家で、新しい恋人は同じマンションに住む美人の女性です。

本作では、主人公のアダムは独身で、恋に落ちる相手は男性でした。アダムは、ゲイとして育ったことで傷つき、壊れやすくなった自己意識と向き合わねばなりません

アダムをゲイとすることで、監督自身が一貫して関心を抱いてきたセクシュアリティという主題を盛り込み、アダムが体験する心休まる家族愛と崩れ落ちるような喪失感をより一層エモーショナルに描きました

2つの舞台で描く異次元の世界


(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

また、見どころのひとつに、舞台設定があります。過去と現代を象徴するかのように、田舎の実家と都会のマンションという2つの対比する生活空間の舞台を用意し、アダムが体験する不思議な世界が美しく演出されました。

アダムの両親が住む実家は、1980年代を彷彿させるノスタルジーな雰囲気をまとっています。監督は自分の生まれ育った家でロケを行ったそうですから、そのリアル感は納得のいくものでした。

その一方、アダムが現在生活しているスタイリッシュなタワーマンションは、ライトアップされた夜景を上手く利用して、大都会に生きる寂寥感を映し出しています。センチメンタルな気分を伴う不思議な異次元の世界がスクリーンいっぱいに広がります。

子ども時代の懐かしい記憶と現実の激しい恋に揺れるアダム。演じるアンドリュー・スコットの繊細な演技が光る作品です。

まとめ


(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

アンドリュー・ヘイ監督が手がけた、映画『異人たち』をご紹介しました。

原作者山田太一の幻想の中の両親をセンチメンタルに現実の恋にファンタジーを加えた小説を、監督自身のプライベートな要素を脚色して映画化された作品です。

過去と現代を繋ぐ美しい映像美の本作、両親、恋人への愛と喪失の物語をぜひご覧ください。

映画『異人たち』は、2024年4月19日(金)より公開

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。




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