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Entry 2023/05/19
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『ウーマン・トーキング 私たちの選択』あらすじ感想と評価解説。ボリビアで起きた実際の事件を基にルーニー・マーラらで描く女性たちの対話劇|山田あゆみのあしたも映画日和11

  • Writer :
  • 山田あゆみ

連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第11回

今回ご紹介するのは映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』です。

本作は『ノマドランド』(2020)のフランシス・マクドーマンドが原作にほれ込み、ブラッド・ピット率いるプランBと共同で製作したヒューマンドラマ映画です。

監督は『死ぬまでにしたい10のこと』(2003)などで俳優としても活躍ほか、エッセイ出版等しているサラ・ポーリー。

第95回アカデミー賞で作品賞、脚色賞にノミネートし、脚色賞を受賞した注目作品です。 

それでは、その感想と見どころを紹介していきます。

連載コラム『山田あゆみのあしたも映画日和』記事一覧はこちら

映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』の作品概要


(C)2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

【日本公開】
2023年(アメリカ映画)

【監督・脚本】
サラ・ポーリー

【原作】
「WOMAN TALKING」ミリアム・トウズ著

【キャスト】
ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー、ジュディス・アイヴィ、シーラ・マッカーシー、ミシェル・マクラウド、ケイト・ハレット、リヴ・マクニール、オーガスト・ウィンター、ベン・ウィショー、フランシス・マクドーマンド

【作品情報】
ベストセラー小説をサラ・ポーリーが映画化。原作は 2018 年に出版されたミリアム・トウズによる同名ベストセラー小説『WOMEN TALKING』。2005 年から 2009 年にボリビアで起きた実際の事件を元に描かれています。

監督は『死ぬまでにしたい 10 のこと』(2003)などで女優として活躍しながら、2006 年『アウェイ・フロム・ハー君を想う』で監督、脚本家としてデビューし、数々の賞を受賞したサラ・ポーリー。すでにオスカー前哨戦では脚色賞を数多く受賞、第95回アカデミー賞では脚色賞を受賞しました。

映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』のあらすじ

赦すか、闘うか、それとも去るか――。

2010 年、自給自足で生活するキリスト教一派の村で連続レイプ事件が起きます。

これまで女性たちはそれを「悪魔の仕業」「作り話」であると男性たちによって否定されていましたが、ある日それが実際に犯罪だったことが明らかになります。

タイムリミットは男性たちが街へと出かけている 2 日間。

緊迫感のなか、尊厳を奪われた彼女たちは自らの未来を懸けた話し合いを行います。

映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』感想と評価


(C)2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

本作はシリアスなテーマでありながら、現実を憂うような皮肉や未来への可能性を感じさせる表情豊かな一作となっています。

納屋で意見を交わすシーンを中心に展開されるものの、自然豊かな村の風景や小動物や駆け回る子どもたちの姿からは閉塞感だけでなく、奥行きのある印象も受けることができます。

対話劇の極地

たったの2日間で、村を去るか否か決断を迫られる極限の状況に置かれた女性たち。加害者の男性に対して怒りを露わにする者もいれば、諦めに近い冷静さを見せる者もいました。

「赦しは信仰。赦さないと村を追われる」「今まで動物のように扱われてきたのだから、同じように男たちに反抗すべき」「自分の身だけでなく、子どもたちの安全を守るために出ていく」

タイムリミットが迫る中、様々な意見が交わされます。

次第に話し合いは白熱し、「3世代にも及ぶ苦しみを断ち切れなかった責任は女にもあるのではないか」「社会における女性への偏見が男性を駆り立ててしまったのではないか」など、議論はさらに発展していきます。

徐々に深まりを見せる対話劇の面白みは純粋に好奇心をくすぐり、話し合いが進むほどに、彼女たちの最後の決断が気になって見入ってしまいます。

彼女たちが出した「赦しとは何なのか?」という問いの答えはあまりに勇敢で、ある意味優しいものでした。

「赦し」の本当の意味を込めたその決断の理由に、個人的には、腑に落ちたとも言え、暴力への苛立ちからくる悲観的な感情を消化することができました。

寓話のようでありながら、暴力やそれへの無干渉など、現実社会の抱える問題と切り離して見ることはできない一作となっています。

男性の存在


(C)2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

本作はタイトルの通り女性主体の物語ですが、ベン・ウィショー演じるオーガストの存在が不可欠となっています。

オーガストは、一度村を出て大学で学び帰郷した教師で、文字を書けない女性たちの代わりに書記官として話し合いに参加します。

彼は、ルーニー・マーラ演じるオーナと恋仲で、妊娠中のオーナを気遣いつつ、女性らの話し合いに真摯に向き合います。また、男性目線で有害な男性性に対する憤りにも触れます。

彼の存在によって、男性=全員悪ではないこと。良き理解者そして人生のパートナーとしての男女の形を描いていました。

本来女性にとって男性は、脅威でもなく、憎しみを抱く相手でもないはずです。

そして、話し合いの場に男性がいるということで、女性たちが一方的に議論しているわけではない公平性が、本作の意義深さのひとつではないでしょうか。

まとめ


(C)2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

本作で音楽を担当したのは、ホアキン・フェニックスの『ジョーカー』(2019)やトッド・フィールド監督の『TAR/ター』(2023)の音楽担当ヒドゥル・グドナドッティルです。

本作の音楽においては、キリスト教の教えを遵守する田舎の雰囲気や、登場人物の気持ちの微細な動きをドラマティックに演出しすぎない塩梅が見事

また最近では、エンドクレジット後におまけ映像があることが定番の映画シリーズもありますが、本作にも最後まで楽しめる演出がなされています。

もはやその仕掛け込みでこの映画は幕を下ろすと言ってもいいかもしれません。

どうか、エンドクレジットも席に座ったままお楽しみください。

※本作は、性暴力・性的被害を扱った作品です。日本の映倫審査ではG(全年齢)となっていますが、北米ではPG-13で公開されています。作中に直接的な性暴力描写はありませんが、フラッシュバック等の恐れがある方はご注意ください。

『ウーマン・トーキング私たちの選択』は6月2日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開

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山田あゆみのプロフィール

1988年長崎県出身。2011年関西大学政策創造学部卒業。2018年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを計14回開催中。『カランコエの花』『フランシス・ハ』などを上映。

好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を観る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中(@AyumiSand)。


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