Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2021/04/02
Update

映画『ノマドランド』あらすじネタバレと感想評価。ラスト結末も【ロードムービーとして路上生活者の生き方を描く】

  • Writer :
  • もりのちこ

ノマド(放浪の民)という生き方に学ぶ、
人生の選択の仕方。

ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション『ノマド:漂流する高齢労働者たち』を原作に、アメリカ西部の路上で暮らす車上生活者の生き方を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。

主人公のファーンは60代にして、夫に先立たれ、住む家も失い、ヴァンでの路上生活を送ることに。

喪失感を抱えながら、季節雇用の労働を転々とし、放浪し続けるファーン。同じ境遇のノマド(放浪の民)たちとの出会いと別れを通して、ファーンは自分の生き方を選択していきます。

映画の出演者たちには、主演のフランシス・マクドーマンドと、デイブ役のデビッド・ストラザーンを除き、実際のノマドたちを起用。彼らが語るリアルな胸中は、フィクションとドキュメンタリーの境界を融合させました。

第93回アカデミー賞にて、作品、監督、主演女優など6部門にノミネートされた話題作『ノマドランド』を紹介します。

スポンサーリンク

映画『ノマドランド』の作品情報


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

【日本公開】
2021年(アメリカ)

【原作】
ジェシカ・ブルーダー

【監督】
クロエ・ジャオ

【キャスト】
フランシス・マクドーマンド、デビッド・ストラザーン、リンダ・メイ、スワンキー、ボブ・ウェルズ

【作品概要】
アメリカ西部のノマド(放浪の民)の生活を描いたロードムービー。監督は、『ザ・ライダー』で高い評価を受け、注目が集まる新鋭クロエ・ジャオ監督。

オスカー女優フランシス・マクドーマンドが、実際にノマド生活を体験しノマドたちと交流を深め、撮影に挑みました。

本作は、2020年ベネチア国際映画祭にて金獅子賞、トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞、ゴールデングローブ賞では作品賞、監督賞を受賞。第93回アカデミー賞では、作品、監督、主演女優など6部門にノミネートされた話題作です。


映画『ノマドランド』のあらすじとネタバレ


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

2011年アメリカ・ネバタ州、ファーンは1台のヴァンに必要なものを詰めこみ旅立ちの準備をしています。その旅は、二度と戻ることのない旅でした。

長年住み慣れた家は、企業の倒産で立ち退きに合いました。夫に先立たれ、60代にして独り身のファーンは、ノマド(放浪の民)として車上生活をスタートさせます。

広大な荒野をひたすら走る車。季節雇用の仕事を転々としながら、その日暮らしの生活は、決して自由なだけではありませんでした。

とある店で再会した元教え子に「先生はホームレスになったの?」と聞かれたファーンは、複雑な表情でこう答えます。「ホームレスじゃなくハウスレスよ」と。

新年を迎えた町は賑わっていました。ファーンは車中でひとり、新年を祝います。次の仕事を探さなければなりません。

ファーンは、ノマド生活で知り合ったリンダの誘いで「RTR」と呼ばれる、ヴァンライフを実践する人々が集まるキャンプに参加することにしました。

各地から大勢のノマドたちが、それぞれの家(車)で集合してきます。ほとんどが、60歳以上で破産した人々でした。

ベトナム戦争からの帰国兵は、PTSDを患い社会復帰に悩んでいました。一気に両親を亡くしたという女性は、喪失感に押しつぶされそうです。

主催者のボブは、彼らと一緒にご飯を食べ話に耳を傾けます。彼自身もまたヴァン生活を余儀なくされたひとりでした。

集会では、路上での車上生活の注意点や故障時の対応、汚物処理の方法まで情報を共有し、同じ境遇の人々が絆を深めていきます。

ファーンは初めて、夫・ボーのことを話します。苦しい闘病生活の末、亡くなった夫。苦しむ姿を目の当たりにしたファーンは、彼を早く逝かせてあげたいと思うように。

でも自分の手では出来なかったと涙するファーンに、ボブは言います。「彼は君と少しでも長く一緒にいたかったのかもしれないよ」。

心を閉ざし他人との交流を拒んでいたファーンは、少しづつ人との繋がりを持つようになっていきます。

出会いがあれば別れもあります。また、それぞれの旅に戻っていくノマドたち。ファーンは、キャンプ場で知り合ったデイブの誘いで、新しい季節雇用の仕事に就きます。

デイブとファーンは、協力しながら仕事を続けるうちに、プライベートも一緒に楽しむ仲になっていきます。

そんなある日、職場にデイブの息子がやってきます。「孫が産まれるから、そろそろ一緒に住まないか」と父親を迎えにきたのです。

妻を亡くしてから、子供たちと距離を置いてきたデイブは戸惑います。「父親のやり方をもう忘れたよ」と言うデイブに、ファーンは「考えすぎず、おじいちゃんをやったらいいわ」と戻ることを勧めます。

ノマド生活を止め息子の所へ行くことを決めたデイブは、ファーンに「一緒に行かないか」と誘います。

ファーンは「今度、寄るわ」と答えを濁し、次の旅へとひとり出発するのでした。

以下、『ノマドランド』ネタバレ・結末の記載がございます。『ノマドランド』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

スポンサーリンク


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

ある日、ファーンの車が動かなくなりました。古いヴァンはいつ壊れてもおかしくない状態でしたが、暮らしやすいように手を加えて愛着もあります。

修理代が必要になったファーンは、お金の工面のため姉の家を訪ねることに。姉家族は、ファーンを温かく迎えてくれますが、定住しないノマドの暮らしを身軽なものと思っているようでした。

ファーンは、「ここに住んだら」という姉の誘いも断り、再び車上生活に戻ります。

巨木が立ち並ぶ森の中を歩き、透き通る水が流れる川に、裸で浮かぶファーン。偉大なる大自然を体全体で味わいます。

次にファーンは、約束通りデイブの家に立ち寄ることにしました。デイブは、すっかり腰を落ち着かせ、孫の世話を焼く良いおじいちゃんになっていました。

家族で一緒に食卓を囲み、ふかふかのベッドで眠る。心地よい生活がここには確かにありました。デイブもここで一緒に暮らそうと言ってくれます。

しかし、上手く眠ることができないファーンは、結局ヴァンに戻って寝ます。ファーンはここを去ることを決めました。

激しさを増す雨の中、海沿いにヴァンを止め、荒れる海が見渡せる崖に立ち、両手を広げます。雨が彼女の涙を洗い流してくれました。

季節は変わり、また新しい年の始まりです。今年も「RTR」キャンプに参加したファーンは、ノマド仲間のスワンキーの死を知ります。

キャンプファイヤーの中に、スワンキーとの思い出の品を投げ入れて行く仲間たち。癌を患いながらも、最後まで旅を続けることを選んだスワンキー。ファーンも別れを告げました。

主催者のボブは、「ノマドの良い所は、サヨナラがないということ。またどこかで会えると信じていられることだ」と言います。

思い出を引きずり過ぎていたことに気付いたファーンは、夫との思い出の場所、以前暮らしていた家を訪ねます。

家は埃をかぶり、朽ち果てていました。ファーンは涙を流し、静かにお別れをします。また、新たな旅立ちの時です。

スポンサーリンク

映画『ノマドランド』の感想と評価


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

近年の日本で「ノマド」と言えば、時間と場所にとらわれず働く人たちやその働き方を指して言われますが、本来の意味は「遊牧民」「放浪者」を意味します。

映画『ノマドランド』では、アメリカ西部の路上で暮らす車上生活者、「ノマド」の生き方を追ったロードムービーです。

はじめ、脱社会的思想のヒッピー文化の流れなのか、貧困からの孤独なホームレスの話なのかと想像していましたが、実際にアメリカの「ノマド」という生き方が存在することにまず驚かされました。

映画の中で主人公のファーンが「ホームレスではなく、ハウスレスよ」と言うシーンがあります。

炭鉱の町などでは、企業が倒産すると町自体が無くなり、社宅からは立ち退きが強いられます。経済的困窮から、住む家が持てない「ハウスレス」。

ファーンは、古いヴァン一台に、夫との思い出と大事な品々を詰め込み、ノマド生活をスタートさせます。

生活は決して楽ではありません。初めての経験に戸惑い、思わぬハプニングに遭遇しながら、孤独の旅は続きます。

旅の途中、ファーンは幾度か定住の選択に迫られますが、迷いながらもノマド生活へと戻っていきます。家族の食卓、ふかふかのベッド、温かいシャワー。定住することの魅力も知っています。

ではなぜファーンは、ノマドの道を選び続けるのか。抱えた悲しみを整理する時間が、彼女には必要でした。そして、広大な自然の中に身を置くことは、自分の抱える悲しみ、自分の存在さえも小さく感じさせてくれました

見渡す限りどこまでも続く荒野、大木が立ち並ぶ深い森、綺麗な水の流れる川、巨大な岩群、海に沈む太陽。旅をしながら出会う自然の壮大さに、ファーンは癒されていきます。

ノマド暮らしに慣れ始めた時、ファーンが大事にしていた皿が割れてしまうシーンがあります。ヴァン生活では使うことがなかった親から貰った綺麗な皿です。

形あるものはいつか壊れるように、執着することを止めた時、次の安らぎへと進むことが出来るのかもしれません。

時代は、「個」の時代です。「独り身」が増えている傾向もあります。生き方を自分で選べる時代だからこそ、ノマドという生き方の選択もあるのだと感じます。

映画では、社会に縛られることのない自由な人生があることを伝えながらも、その暮らしは決して楽しいだけじゃなく、自己責任が問われる過酷な旅でもあると訴えかけます。


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

「なぜ自分は生きるのか」。実際に、ヴァンライフを実践する人々が集まる「RTR」の主催者で、映画にも本人役で出演したボブはこう言っています。

ボブは、息子の死で深い悲しみの底にいました。そんな時、「同じ境遇の人を助けることが、生きる気力になることに気付いた」と。

また、癌を患いながらもノマド生活を最後まで続けたスワンキーは、アラスカのオーロラをもう一度見るために旅を続けていました。

彼女がこれまで経験してきた大自然の話にはロマンがあり、その光景が目に浮かんでくるようでした。

映画の中で語られる、実際のノマドのリアルな言葉は、人生の辛さを乗り越えてきた説得力があり胸に響きます

辛い思いをしても、なぜまだ、生きるのか。彼らの旅には、それぞれの答えがありました。

まとめ


(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

アメリカ西部の路上で暮らす車上生活者・ノマド(放浪の民)の旅を描いたロードムービー『ノマドランド』を紹介しました。

悲しみと向き合いながら旅を続ける主人公ファーン。豊かな大自然の中で、自由な心を取り戻すために、彼女は旅を続けます。ノマドの暮らしは、彼女に何を与えるのか。

ノマド初心者のファーンと一緒に旅を続けるうちに、自分の人生の目的も見えてくるかもしれません。旅を続ける理由は、生きる理由に繋がっていました




関連記事

ヒューマンドラマ映画

『ブリグズビー・ベア』ネタバレ感想レビュー。映画の工作のような手触り感と創意工夫

サンダンス、カンヌ、シドニーほか、世界中の映画祭で話題騒然! ニセ教育番組を25年見続けた青年が主人公という驚くべき設定と映画愛に溢れた作品。 映画『ブリグズビー・ベア』について、あらすじと感想(ネタ …

ヒューマンドラマ映画

映画『海辺の家族たち』あらすじ感想と評価解説レビュー。3人兄妹の絆を描いたゲディギャン監督の集大成的秀作

父との最期の日々を過ごすために集った3人の子どもたちを描くヒューマンドラマ 〈フランスのケン・ローチ〉と称えられる名匠ロベール・ゲディギャン監督の最新作『海辺の家族たち』が、2021年5月14日(金) …

ヒューマンドラマ映画

映画『パティ・ケイク$』キャスト!親友ジェリ役のシッダルタ・ダナンジェイ紹介

サンダンス映画祭史上、かつて類を見ない激しい上映権の争奪戦となった映画『パティ・ケイク$』は、4月27日(金)より、HTC渋谷、新宿シネマカリテほかにてロードショー! “負け犬=ダンボ”と呼ばれ続けた …

ヒューマンドラマ映画

映画『サラバ静寂』吉村界人(ミズト役)演技評価と感想

“音楽が禁止された世界で、音楽に出会ってしまった若者たちはどこへ向かうか” 映画『サラバ静寂』の公開日は、2018年1月27日(土)より、渋谷ユーロスペースほか順次全国公開! 静かなるノイズ映画『サラ …

ヒューマンドラマ映画

柳楽優弥映画『夜明け』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。期待の新人監督が描く若者の苦難

映画『夜明け』は、2019年1月18日(金)より、新宿ピカデリーほか全国順次公開。 この映画を見れば、様々なことに悩んでいる若者に対して「とにかく生きろ!」と容易に叫ぶことはできなくなるでしょう。 監 …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学