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Entry 2022/08/18
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日活ロマンポルノ『手』あらすじ感想と評価解説。金子大地と福永朱梨で松居大悟監督が描くリアルな20代の男女の恋愛|映画という星空を知るひとよ111

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第111回

1971年に製作を開始した「日活ロマンポルノ」。

2021年11月20日で生誕50周年を迎え、記念のプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」で50周年イヤーに相応しい作品を制作しました。

第一弾『手』(監督:松居大悟)、第二弾『愛してる!』(監督:白石晃士)、第三弾『百合の天音』(監督:金子修介)という3作品。

日活は、多彩なジャンルで女性の強さや美しさを描き、愛され続けてきました。そのスピリットがしっかりと受け継がれている作品たちです。

現代のさまざまな生き方や個性を応援する、時代の「今」を切り取った3作品の中から、第一弾の『手』をご紹介します。

映画『手』は、2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『手』の作品情報


(C)2022日活

【公開】
2022年公開(日本映画)

【原作】
山崎ナオコーラ『手』(『お父さん大好き』文春文庫)

【監督】
松居大悟

【脚本】
舘そらみ

【出演】
福永朱梨、金子大地 ほか

【作品概要】
日活ロマンポルノ50周年を記念したプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」で製作された3作品が、9月16日(金)公開の第一弾『手』を始めに、9月30日(金)公開の第二弾『愛してる!』、10月14日(金)公開の第三弾『百合の雨音』と続けて、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開されます。

第一弾の『手』は山崎ナオコーラの小説を原作に、『ちょっと思い出しただけ』(2022)『くれなずめ』(2021)の松居大悟監督が手がけました。

主役の2人を演じる福永朱梨と金子大地が、20代の男女のありのままの姿をリアルに描きだします。

映画『手』のあらすじ


(C)2022日活

どこにでもいるような平凡なOL、25歳のさわ子。

彼女の趣味は、中年男性の写真を撮ってはコレクションすることでした。

父親の年齢に近い男性と食事をしたり、吞みに行ったりと、これまで付き合ってきた男性も年上ばかり。

それなのに、なぜか自分の父親とはうまく話せず、ぎくしゃくとした関係が続いています。

何かというと、高校生の妹に話しかけ可愛がる素振りを見せる父親に対して、父親は自分よりも、高校生の妹の方が可愛いんだと、さわ子は諦めにも似た境地を持っていました。

そんな彼女と同年代の同僚・森との距離が次第に縮まっていきます。

次第に惹かれあう2人。そして、さわ子の心境に変化が訪れます。

映画『手』の感想と評価


(C)2022日活

父親への思慕を秘める

原作小説では主人公のさわ子は、はっきりそれとわかるファザコンです。

妹が生まれるまでは父親に可愛がられたのに、妹が生まれるとあまり注目されなくなりました。知らず知らずのうちに寂しさが募り、大人になってからは、男性の好みがオジサン趣向になったのだと想像されます。

映画『手』でもさわ子の複雑な父親への感情はあちこちで見受けられました。父親に近い年齢のオジサンと食事をしたり、旅行に行ったり、話し相手になるだけで、なんだか自分が癒されているさわ子。

さわ子の趣味は携帯で街を歩くオジサンたちの姿を写真に撮ること。頭の薄くなったオジサン、シミの浮き出た手を組んでいるオジサン、お腹をゆすりながら歩くオジサンetc。

25歳の女性が好んで撮る被写体とはとても思えませんが、これらの写真はさわ子のりっぱなコレクションでした。

なぜ、さわ子は中年のオジサンに固執するのでしょう。やはり、心の奥で父に振り向いて欲しい、または父から愛されたいという願望があるのに違いありません

映画のラストの父親との会話で、さわ子が見せるオヤジに対するくすぐったいような笑顔がすべてを物語っていると言えます。

手と手が描く恋愛模様


(C)2022日活

中年のオジサン大好きさわ子ですが、同僚の森といつしか深い関係になります。

友だち以上恋人未満のような危うい関係をさわ子と森は築きますが、何かにつけて2人が触れ合うシーンには、ハンドタッチが登場します。

手と手をつなぐ、手で身体をまさぐる、手をそっと添える……。

親への愛も異性への愛も最初の一歩は、手と手で触れ合うことから始まるのではないでしょうか

交流を深める挨拶の握手などを思い浮かべても、人と人との繋がりに手は欠かせないものと思えてきます。

原作が伝える温かな読後感を損なうことなく描きだした本作の監督は、『ちょっと思い出しただけ』(2022)『くれなずめ』(2021)の松居大悟。

背伸びのないありのままの20代の男女の姿を斬新に描き出した作品となっています。

まとめ


(C)2022日活

日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の制作第一弾、松居大悟監督の『手』をご紹介しました。

ちょっと浮遊感を感じさせる山崎ナオコーラの同名小説が、松居監督によってリアルな日常の出来事のように描き出されています。

さわ子を演じる『彼女はひとり』(2018)の福永朱梨のオジサンフェチぶりや、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の源頼家役で注目を集める金子大地の‟イケメン森”に注目です。

映画『手』は、2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開です。

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

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