Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/11/09
Update

伊藤沙莉映画『ちょっと思い出しただけ』感想評価と解説。池松壮亮とW主演で恋愛ラブストーリーを松居大悟監督が描く|TIFF2021リポート3

  • Writer :
  • 星野しげみ

『ちょっと思い出しただけ』が東京国際映画祭2021観客賞受賞!

2021年、舞台を日比谷・有楽町・銀座地区に移し実施された東京国際映画祭。2021年1月以降に完成した長編映画を対象に、世界各国・地域の応募作品の中から、厳正な審査を経た15本の作品の「コンペティション」の中に、『くれなずめ』(2020)や『君が君で君だ』(2018)の、松居大悟監督の最新作『ちょっと思い出しただけ』が登場しました。

松居大悟監督が手掛けた、別れた男女の最愛だった時を遡り、もう一度別れ直すまでのほろ苦い恋を描いたオリジナルストーリー。

主演に池松壮亮、伊藤沙莉を迎え、2022年2月11日(金)に全国劇場公開が決定しているこの作品は、東京国際映画祭観客賞に輝きました。

【連載コラム】『TIFF2021リポート』記事一覧はこちら

観客賞受賞の喜びをかみして

松居大悟監督


東京国際映画祭 プロモーショングループ

池松壮亮と伊藤沙莉が主演した本作『ちょっと思い出しただけ』は、みごとに東京国際映画祭観客賞を受賞しました。

トロフィーを手にした松居大悟監督は、東京国際映画祭に4回目の参加となり「初めて(トロフィーの)重さを両手に感じてるのが、嬉しいなと思います」と声を震わせました。

以下は受賞の言葉です。

「(同作は)世界中が経験した2年の苦しい時間、悔しい時間において、悲しい事、嫌な事だけではなく“人と会える瞬間”の嬉しさ、鮮やかさが愛おしく思えるように、過去と今を等しく抱きしめられるように作りました。(人々に)前へ進んでいってほしいと思って作ったので、嬉しいです」

松居監督は、ロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観のオールタイムベストに挙げる、ジム・ジャームッシュ監督の代表作のひとつ「ナイト・オン・ザ・プラネット」に着想を得て書き上げた新曲「Night on the Planet」に触発されて本作を執筆したと言います。受賞の言葉の中で、製作のきっかけとなった「クリープハイプ」の尾崎世界観の名前も挙げました。

「尾崎君の主題歌によって生まれた物語。この映画は、僕の誕生日で初上映となりました。そして、尾崎君が明日誕生日(=11月9日)なんですよ。誕生日プレゼントとして、(尾崎に)伝えられるなと思って、すごく嬉しいです」

監督と尾崎さんとの友情から生まれた、ちょっと素敵な2人の‟ちょっと思い出しただけ”のラブストーリー。

映画『ちょっと思い出しただけ』は、松居大悟監督の言葉にあるように、人と会える瞬間が愛おしく、過去も現在もひとまとめにした全ての時間が大切に思えるような作品です。

映画『ちょっと思い出しただけ』の作品情報


(C)2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【原作・監督・脚本】
松居大悟

【主題歌】
クリープハイプ

【キャスト】
池松壮亮、伊藤沙莉、河合優実、大関れいか、屋敷裕政、尾崎世界観、渋川清彦、松浦祐也、篠原篤、安斉かれん、郭智博、広瀬斗史輝、山崎将平、細井鼓太、成田凌、市川実和子、高岡早紀、神野三鈴、菅田俊、鈴木慶一、國村隼、永瀬正敏

【作品概要】
『君が君で君だ』(2018)『くれなずめ』(2020)などの作品を手がけ続けている松居大悟監督のオリジナル脚本を、池松壮亮と伊藤沙莉の主演で映画化。

ロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観が、ジム・ジャームッシュ監督の代表作『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得て書き上げた新曲『Night on the Planet』を聞いた松居監督が執筆しました。松居監督初めてのオリジナルのラブストーリー。

映画『ちょっと思い出しただけ』のあらすじ


(C)2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

タクシードライバーをしている葉(伊藤沙莉)は、毎日いろいろなお客を乗せています。

ある日、歌手の男性を乗せましたが、途中でその男性がトイレに行きたいと言い出し、やむなく近くの劇場に車を止めました。

男性を待つ間、劇場の中をのぞくと、ひとりの男性がダンスの練習をしているのが見えました。

それは以前の彼氏、照生(池松壮亮)でした。

葉は、足の怪我で踊ることができなくなったダンサーの照生と付き合っていた頃のことを思い出します。

照生の誕生日の7月26日の出来事に限ってですが、2人で一緒にケーキを食べたり、照生のバイト先の水族館で閉店後のデートしたりと、楽しかったことばかりです。

何気ない7月26日が、特別な日だったり、そうではなかったり……、でも決して同じ日は来ないのです。

来年の誕生日にプロポーズしようかなとポツリと言った照生の言葉にとても喜んだ葉だったのですが……。

映画『ちょっと思い出しただけ』の感想と評価


(C)2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

各年ごとのある1日にスポットを当てた作品

映画『ちょっと思い出しただけ』は、タクシードライバーの葉とダンサーの照生という恋人が過去から織りなすラブストーリーです。

コロナ禍の現在で、マスクをつけて仕事をしていた葉は、偶然にも元カレ照生の姿を見かけます。葉の回想は、照生の誕生日の7月26日に限ってという形で、何年も前の過去にまで遡っていきます。

去年も一昨年も、2人が初めて出会った年も、思い出の中の2人は、いつもはつらつとしていて幸せそうですが、小さな嫉妬や気持ちのすれ違いが徐々に表れてきます。

これも若さの特権と言ってしまえばそれまでですが、その瞬間、瞬間を大切にして笑ったり涙ぐんだりと、自分の気持ちに一生懸命な2人に、誰もが共感を覚えることでしょう。

葉の仕事は女性のタクシードライバー。お客さんも様々な人がいます。物語の合間の葉とお客さんとの会話は、リアリティーあふれたユニークなものでした。

葉役の伊藤沙莉は、タクシー会社の制服も可愛らしく、一風変わった可憐なタクシードライバーを見事に演じています。

タクシーが昔の乗用車タイプから現代のタイプに変わっているのも、過去と現在の区別をつける一つの役割を成していました。

また共演の素敵な俳優陣も見逃せません。なかでも、主人公の2人の相談役として登場するのが、行きつけのバー「とまり木」のマスター・中井戸役の國村隼。

人生経験豊富なマスターそのもののような國村のアドバイスは、葉や照生ばかりか、観客も魅了すること間違いないでしょう。

まとめ


(C)2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

松居大悟監督が、尾崎世界観の『Night on the Planet』に触発されて書き上げたオリジナルのラブストーリー、『ちょっと思い出しただけ』。

池松壮亮、伊藤沙莉という実力派の俳優が主役の2人を演じ切りました。

バレッタやクリスマスケーキと日常的な小道具に加え、閉館後の水族館でのファンタジックなデートシーンなどが、恋人たちのリアルな日々を醸し出します。

葉と照生のロマンスに自らの過去も合わせて過去を振り返ってみたとき、いくらかの心の痛みを持つ方もいるでしょうが、過去があるから今があるのです。過去の自分たちを慈しむと自然と今の自分も大切にしたくなります。

別れの悲しみも明日への希望に繋げる素敵な主人公たちの映画『ちょっと思い出しただけ』でした。

【連載コラム】『TIFF2021リポート』記事一覧はこちら




星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

関連記事

連載コラム

SF映画おすすめ5選!洋画邦画ランキング(1960年代)の名作傑作【糸魚川悟セレクション】|SF恐怖映画という名の観覧車85

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile085 第2次世界大戦が終結し世界に平和が訪れたかと思いきや、新たな戦争の火種が見え隠れしていた1960年代。 映画『博士の異常な愛情 または私 …

連載コラム

ドンデン返し映画『皮膚を売った男』あらすじと感想評価。猟奇的題材が話題を集める社会派ミステリー|TIFF2020リポート1

『皮膚を売った男』は、東京国際映画祭2020のTOKYOプレミア2020にてアジアン・プレミア上映! コロナ禍の中困難を乗り越え、2020年も無事実施された東京国際映画祭。話題の作品を集めたTOKYO …

連載コラム

『ヴァイキング・ウルフ』ネタバレ結末あらすじと感想評価の考察。人狼と化した女子高生の運命を描く北欧ホラー|Netflix映画おすすめ132

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第132回 深い森に、切り立った断崖に囲まれた海。ノルウェーと言えばだれもが豊かな自然をイメージするでしょう。そんな風土を背景に様々な映画が …

連載コラム

【邦画のSFと夏休みの親和性】夏に見たい映画オススメの定番作品|SF恐怖映画という名の観覧車6

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile006 (C)「時をかける少女」製作委員会2006 「猛暑」と言う言葉が今までの夏よりも似合う、高い温度が続く夏となりました。 前回のprofi …

連載コラム

映画『調査屋マオさんの恋文』感想レビューと評価。認知症の妻を記録する夫に密着|だからドキュメンタリー映画は面白い33

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第33回 映画『調査屋マオさんの恋文』は、京都みなみ会館にて2019年12月20より公開中。また神戸元町映画館(2019年12月21日~27日まで公開、 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学