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映画『ちょっと思い出しただけ』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。クリープハイプの楽曲(Night on the Planet)にインスパイアされた松居大悟監督が描く

  • Writer :
  • もりのちこ

あの愛おしい日々があったからこそ今の自分がある。
ふと思い出したっていいじゃん。

クリープハイプの曲「Night on the Planet」にインスパイアされた松居大悟監督が脚本を手掛け、池松壮亮と伊藤沙莉を主演に映画化した『ちょっと思い出しただけ』。

クリープハイプの曲「Night on the Planet」は、1991年に制作されたジム・ジャームッシュ監督のオムニバス映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』を自信のオールタイムベストに挙げている尾崎世界観が、映画から着想を得て書き上げた1曲です。

この曲を基に制作された映画は、怪我でダンサーの道を諦めた照生とタクシードライバーの葉(よう)の「終わりから始まりの6年間」を描いたラブストーリーとなっています。

なんでもない、だけど二度と戻れない愛おしい日々を、『ちょっと思い出しただけ』を紹介します。

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映画『ちょっと思い出しただけ』の作品情報


(C)2022「ちょっと思いだしただけ」製作委員会
【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
松居大悟

【キャスト】
池松壮亮、伊藤沙莉、河合優実、大関れいか、屋敷裕政、尾崎世界観、渋川清彦、松浦祐也、篠原篤、安斉かれん、郭智博、広瀬斗史輝、山崎将平、細井鼓太、成田凌、市川実和子、高岡早紀、神野三鈴、菅田俊、鈴木慶一、國村隼、永瀬正敏

【作品概要】
『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画をつくったら』『くれなずめ』の松居大悟監督が、クリープハイプの曲「Night on the Planet」に触発され執筆した、初のオリジナルラブストーリー。

主演にはこれまで『君が君で君だ』など松居監督作品に多く出演してきた池松壮亮と、唯一無二の存在感で多くの作品に引っ張りだこの伊藤沙莉が初共演となりました。

映画制作のきっかけとなったクリープハイプの尾崎世界観も、ミュージシャとして登場。その他にも、永瀬正敏、國村隼、成田凌、お笑いコンビ「ニューヨーク」の屋敷裕政などバラエティに富んだキャスティングとなっています。

今作は、2021年の第34回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、観客賞受賞となりました。

映画『ちょっと思い出しただけ』のあらすじとネタバレ


(C)2022「ちょっと思いだしただけ」製作委員会
2021年7月26日、雨の深夜、東京。タクシードライバーの野原葉(よう)は、仕事帰りのキャバ嬢らしき女性を乗せていました。今日が誕生日だという彼女。

「おめでとうございます」。そう声を掛ける運転手に、女性は嬉しそうに微笑みます。「でも、昨日は死にたいと思っていたの」。色んなお客様の人生が垣間見えるこの仕事を葉は案外気に入っていました。

一方、同じ日に33歳の誕生日を迎えた佐伯照生は、いつもと変わりない朝を迎え、職場に向かいます。猫のもんじゃに餌をやり、道すがらにある地蔵に手を合わせ、通り抜ける公園のベンチには未来からの妻を待ち続ける男・ジュンが座っています。

足の怪我でダンサーへの道を諦めた照生は、舞台照明の仕事をしていました。舞台の上で踊るダンサーにスポット当てながらも、歯がゆい思いが募ります。

誰もいない閉館間際の舞台の上で、裸足でステップを踏む照生。その姿をこっそり見つめる女性がいました。

ミュージシャンの男を乗せた葉は、途中で「トイレに寄ってほしい」とお願いされ、近くの会館にタクシーを止めていました。なにげなく覗いた舞台の上、元カレ・照生が踊っていました。

2020年7月26日、照生の32歳の誕生日。猫のもんじゃが押し入れを漁って「バレッタ」を引っ張り出してきました。1年前に別れた彼女・葉からのプレゼントでした。

1年前、足の怪我によりダンサーの道を絶たれた照生は、少しづつ前へと進んでいました。伸ばしていた髪を切ります。バレッタももう使うことはないでしょう。

気持ちもさっぱりした照生は、帰り道で後輩のダンサー・泉美に再会します。泉美と行きつけのバーに行った照生は、常連客たちに誕生日を祝ってもらいました。それなりに楽しい誕生日の夜が更けていきます。

その頃、葉は合コンに参加していました。煙草を吸いに出た所で康太に出会います。気さくに話しかけてくる康太と意気投合する葉はLINEの交換をすることに。葉のアイコンは、照生の猫・もんじゃの写真のままでした。

元カレの猫と知って「引きづってんすか?」と残念がる康太に、「違う違う、変える変える」と、その場で写真を変える葉。照生も葉も、次の恋へと向かっていました。

そんな照生と葉の恋の終わりは、さらに1年前に遡ります。2019年7月26日、照生31歳の誕生日。

葉は、公園のベンチに座り妻を待つジュンに話しかけます。「待っても来ない時はどうすればいいですか?」。ジュンは答えます。「たまには迎えに行ってもいいかもしれませんね」。

ここ2週間、連絡を寄越さない照生に葉は、不安を抱いていました。仕事の途中でしたが、タクシーで照生を迎えにいきます。

照生は足を怪我したばかりで、ダンスを続けられないことに苦しんでいました。辛い時こそ照生を支えたいと願う葉と、葉に会うと傷つけてしまいそうで距離を置いていた照生。

どこまでも平行線な2人。「ずっと会話になんてなってなかったのかもね。お客様、到着しました。降りて下さい」。

葉は、用意していた誕生日ケーキを照生に手渡し、その場を去っていきました。行き交う人々の中、「ファイト」と書かれたケーキを照生はひとりで食べます。追いかけることはしませんでした。

以下、『ちょっと思い出しただけ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ちょっと思い出しただけ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)2022「ちょっと思いだしただけ」製作委員会
2018年7月26日、照生30歳の誕生日。照生は、ちゃんと付きあって1年経つ彼女・葉と一緒に幸せな朝を向かえました。枕元にはプレゼントが。

ダンサーとして髪を伸ばしていた照生に、葉がプレゼントしたのは「バレッタ」でした。いつもと同じ朝が輝いて見えます。

一緒にストレッチをして、猫のもんじゃに餌をやり、道の地蔵に手を合わせ、公園のベンチで妻を待つジュンに鉢植えの花をプレゼントしました。ジュンの妻がこの日に亡くなったことを2人は知っていました。

照生のバイト先である水族館に開館前に忍び込んだり、職権乱用タクシーでドライブしたり、夜はアパートの屋上で花火をし、お気に入りの映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』を観ながら一緒にケーキを食べます。

「来年、プロポーズしようかな」。照生がこぼした言葉に嬉しさを隠し切れない葉。じゃれ合う2人の最も幸せな時間が静かに流れていきます。

照生が葉に告白したのは、さらに1年前の2017年7月26日、29歳の誕生日でした。その日は激しい雨が降り続く1日でした。

あやふやな関係ながらも照生に思いを寄せる葉は、プレゼントを届けに照生を訪ねます。そこで目にしたのは、ダンサーの後輩・泉美が照生にプレゼントを渡している場面でした。

ショックで逃げ帰る葉は、途中で妻を探すジュンに出会います。雨の中、傘もささず探すジュンに傘を差し出し、変わりに妻探しを請け負う葉。

びしょ濡れで戻ると、ジュンの側には妻が戻っていました。安堵する葉に、丁寧にお礼をするジュン。そんな2人が羨ましく見えた葉は、もう一度照生と向き合う決心をします。

照生のバイト先の水族館にびしょ濡れで駆け込んだ葉を、照生は優しく抱きしめてくれました。「ちゃんと伝えたら壊れてしまいそうで、でもちゃんと伝えたい」。照生も葉のことをちゃんと好きでした。

そんな2人の出逢いはさらに1年前。2016年7月26日のことです。友達の誘いで芝居を観に行った葉。その日のダンサーの一人が照生でした。

ひょんなことから一緒に帰ることになった照生と葉は、すっかり意気投合し、商店街で弾き語るミュージシャンの曲に合わせ踊り出します。

グルグルと回る2人。これから2人はどこへ向かうのか。それから6年後にこの瞬間を思い出す時がくるなんて、この時の2人は想像もしていなかったはずです。

時は2021年、7月26日。舞台でひとりステップを踏む照生に、トイレに寄ったミュージシャンが出口を聞いてきます。

そのミュージシャンは照生に聞きました。「どこかで会ったことありますか?」。待たせてあったタクシーが目に入ります。

「はい。何度か…」。照生はその運転手が葉だと気付いていました。走り去るタクシーを見送ります。

葉はひとり舞台の上で踊る照生に声をかけませんでした。バックミラーに微かに照生の姿を捕えます。それでも葉にはすでに帰る場所がありました。

その夜、行きつけのバーに立ち寄った照生は、マスターとその彼氏に誕生日を祝ってもらっていました。

ぼやっとする照生にマスターは声を掛けます。「どうしたの?」。「いや、ちょっと…」。照生は葉と出会ってからの6年間を思い出していました。

ひとり自宅に帰り窓の外を見るとうっすらと夜が明けていきます。同じ空を、葉もまた見つめていました。

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映画『ちょっと思い出しただけ』の感想と評価


(C)2022「ちょっと思いだしただけ」製作委員会
映画『ちょっと思い出しただけ』に影響を与えた作品として、クリープハイプの曲「Night on the Planet」と、さらにジム・ジャームッシュ監督の映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』が挙げられます。

映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』では、5つの都市を舞台に同時刻にタクシードライバーと乗客のやり取りを描いており、特にウィノナ・ライダーのタクシードライバー姿が印象に残る作品です。

今作では、主人公のひとり野原葉の職業が、女性タクシードライバーとなっています。タクシーいう空間で、乗客は運転手に様々な話を持ちかけます。

乗客は、夜の街で表は華やかに生きているが実は苦難を抱える女性、離婚した同僚を慰める酔っ払いサラリーマンたち、親の期待に応えるために塾通いをするおませな子供、「もっといい仕事紹介するわよ」とまさに原作さながらの貴婦人とバラエティ豊かです。

タクシードライバーの葉と乗客とのやり取りが、時に切なく時に滑稽で、映画の見どころのひとつになっています。

また、照生と葉のお気に入りの映画として『ナイト・オン・ザ・プラネット』を鑑賞するシーンもあります。2人でタクシードライブをする際には、映画の台詞を真似てふざけ合う姿がとても愛らしいです。

物語は、主人公の照生と葉の6年間を、別れた後から過去にさかのぼり描かれています。映画を逆再生して観ているかのような感覚に、始めは戸惑うかもしれません。

辛い別れの結末を知りながら、幸せの絶頂期を経て、2人の出会いのシーンに繋がっていきます。結末を知っているからこそ、付き合っていた頃の2人がより輝いて見える気がします。

照生を演じた池松壮亮は、ダンサーを目指していた役どころに寄せた、姿勢の良さと中性的な演技に惹き込まれました。

一方、葉はタクシードライバーとしてどんな客にも動じない強い女性です。演じたのは伊藤沙莉。特徴となるハスキーな声と、煙草をくゆらす姿がアンニュイでとてもカッコいいです。

この2人の共演は初めてとは思えない程、息ぴったり。軽快な台詞のラリーは、付き合っている男女独特の2人だけの世界に溢れています。


(C)2022「ちょっと思いだしただけ」製作委員会

そして、変わるものもあれば変わらないものもあります。6年間の2人を取り巻く人間関係にも注目です。

妻を亡くしてしまった男性、新たな恋を掴んだジェンダーなマスター、好意を寄せてくれていた後輩との再会、結婚と出産。当たり前だけど月日は流れていると感じさせられます。

まとめ


(C)2022「ちょっと思いだしただけ」製作委員会
別れてしまった男女の「終わりから始まり」の6年間を描いた映画『ちょっと思い出しただけ』を紹介しました。

誕生日に元カノをふと思い出す。そこには紛れもなく幸せだった自分の姿がありました。愛しい日々と少しの後悔。

年齢を重ねると誰しも、ふと幸せだった時を懐かしく思い出す瞬間があるのではないでしょうか。今更どうのこうのという訳ではないけれど、思い出しちゃったから仕方がない。

なぜか忘れることのないあの人の誕生日。いま幸せだろうか?今言えるのは、あの頃があったから今の自分がいるということ。

「色々あるけど、今、生きている」。自分以外の人の幸せを密かに祈って生きる人生も良いものですね。




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