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Entry 2022/04/30
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『見知らぬ乗客』ネタバレあらすじ感想考察と結末の評価解説。ヒッチコックはテニスの場面でガイとブルーノの“対比”を演出|サスペンスの神様の鼓動50

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

サスペンスの神様の鼓動50

テニス選手のガイが、同じ列車の乗客として偶然居合わせただけの見知らぬ男に「交換殺人」を提案されたことで始まる、不条理な恐怖を描いた映画『見知らぬ乗客』。

数多くの名作サスペンス映画を世に遺し「サスペンスの神様」とも称されるアルフレッド・ヒッチコックが、ミステリー作家であるパトリシア・ハイスミスの同名小説を映画化した作品です。

ハードボイルド探偵小説で知られる作家レイモンド・チャンドラーが脚本に参加していることも興味深い本作は、ガイに交換殺人を持ちかけるブルーノの一方的なサイコパスぶりが恐ろしい作品です。

本作が1951年に製作されたことからも「映画初のサイコパスキャラ」ともいえるブルーノ。非常に興味深いキャラクターであるブルーノの恐ろしさと共に、本作の魅力を深掘りしていきます。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

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映画『見知らぬ乗客』のあらすじとネタバレ


(C)1951, Renewed (C)1979 Warner Bros. Entertainment Inc.All rights reserved.

アマチュアながらもテニスプレーヤーとして世間に名が知られているガイ。彼はワシントンから故郷メトカフへ向かう列車の車内で、「ガイのファン」を公言する男ブルーノと出会います。

読書に集中したいガイのことなどお構いなしで一方的に喋りかけてくるブルーノ。彼は新聞のゴシップ記事を好む下世話な男であり、やがて彼は「ガイが上院議員の娘アンと交際中」というゴシップ記事を話題にあげます。

ガイには妻ミリアムがいて、現在は離婚協議の最中であるという状況も把握しているブルーノは「ミリアムが邪魔だろ?」とガイに質問をします。

流石に不愉快な様子を隠そうともしないガイに、ブルーノは「自分がミリアムを殺すから、あんたは俺の父親を殺してくれ」と、交換殺人を提案します。

交換殺人の提案にくわえ、いつの間にか自身のことを「友達」と言い出したブルーノに不気味さを感じたガイは、メトカフに到着したタイミングでこの話を一方的に終わらせ、一人列車を降ります。

しかし列車を降りる際に、ガイはアンからプレゼントされた、特注のライターを車内に置き忘れてしまいます。

メトカフに到着したガイは、ミリアムが働いているお店を訪れます。離婚について話したかったガイですが、ミリアムにその気はありませんでした。

ミリアムもガイ以外の男性と不倫をしており、相手の男の子どもを身籠っていましたが、ガイが突然テニスプレーヤーとして有名になったことから「離婚に応じない」と言い出したのです。頭に血が上ったガイはミリアムと激しい口論になり、店内の多くの人々がその光景を目にします。

一方、自宅に戻ったブルーノは、母親に父親への不満を爆発させます。そこに父親が帰宅したことで席を外したブルーノは、ガイに交換殺人の件を電話しますが、ガイに一方的に電話を切られます。

その夜、メトカフに姿を現したブルーノは、男性2人と遊園地へ遊びに行くミリアムを尾行します。ミリアムは男性たちとボートに乗り、遊園地内の小島に到着します。

彼女を追いかけたブルーノは、ガイの持っていた特注のライターでミリアムの気を引きつけます。そしてブルーノは隙をついて、ミリアムの首を絞め命を奪います。

次の日、ガイの自宅にブルーノが現れます。そしてブルーノはミリアムを絞殺したことをガイに伝え「次は君の番だ」と言います。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『見知らぬ乗客』ネタバレ・結末の記載がございます。『見知らぬ乗客』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)1951, Renewed (C)1979 Warner Bros. Entertainment Inc.All rights reserved.

ミリアムが殺害された事件を受け、ガイはアンとその家族に会いに行きます。

事件を重く受け止めているアンと父親とは対照的に、アンの妹バーバラはミリアムがいなくなったことを好意的に受け止め喜んでいる様子。

ガイはやがて、事件発生前にミリアムと口論している様子を多くの人に見られていたため、事件の容疑者にされます。しかしガイには事件が起きた時間、列車で移動していたというアリバイがありました。

ガイは列車内で会話をした大学教授を警察署に呼び、事件当日の証言を得ようとしますが、大学教授はその時酔っぱらっていたために何も覚えていませんでした。

自身のアリバイを証明できなかったガイは容疑者とされ、警察の監視下に置かれます。ただでさえミリアム殺しを疑われているガイですが、そこにブルーノが姿を見せるようになります。

ガイの行く先々で待ち伏せていたように現れるブルーノは「約束を守れ」とガイに迫るため、ガイは悩まされるようになります。

さらにブルーノは「父親殺しの計画」として、屋敷内の地図と鍵、そして拳銃を送って来ます。それでもブルーノを無視していたガイですが、知人のパーティー会場にさえブルーノが現れます。

パーティー会場で貴婦人と「人を殺す方法」について話を始めたブルーノは、突然貴婦人の首を絞め始めます。その様子を見ていたバーバラは、ブルーノと目が合います。

バーバラはミリアムがかけていたのと同じ眼鏡をしていたため、ブルーノはミリアムを殺した時の記憶が蘇り、バーバラの目を直視します。

途中で貴婦人が苦しみ始めたため、ブルーノは貴婦人の首から手を離しますが、騒ぎを起こしたことでガイはブルーノを追い出します。またブルーノに恐怖を感じたバーバラは、アンに「人殺しの目をしていた」と伝えます。

ブルーノを車に乗せて帰らせた後、ガイはブルーノに交換殺人を持ちかけられたこと、彼は話が通じない異常者であることをアンに告白します。

アンはブルーノの母親のもとを訪ね一部始終を話しますが、ブルーノの母親は何も信じようとしませんでした。

「警察にブルーノのことを話せば、必ず共犯にされる」と考えたガイは、悩んだ末にブルーノの父親殺害を引き受けます。

夜中、ガイはブルーノの屋敷に忍び込み、父親に直接話をしようとします。ですが、そこにいたのは父親ではなくブルーノでした。

ガイの突然の心変わりを不審に感じたブルーノは、父親のベッドに潜り込んでガイが来るのを待っていたのです。またアンが母親と話をしたことも知り、怒ったブルーノは「必ず後悔させる」と宣言します。

ブルーノはミリアムの殺害現場にガイの特注ライターを置き、ガイの容疑を決定的にしようとします。そのことを知ったガイですが、テニスの試合への出場が決まっていたため「今、変な動きをするわけにはいかない」とそのまま試合に出場することにします。

「3セットで相手を倒せば、ブルーノに追いつく」と考えたガイですが、焦りからか苦戦をしいられます。ようやく相手に勝利し、急いで遊園地に駆けつけたガイは、そこでブルーノの姿を見つけます。

二人はライターを巡って争いを始めますが、争いの最中にメリーゴーラウンドのスイッチが壊れ、最速で回り始めます。

遊園地の職員がメリーゴーラウンドのスイッチを切ったため回転は止まりますが、急停止の衝撃でメリーゴーラウンドが全壊。ブルーノは全壊した建物の下敷きになり、重傷を負います。

そこに警察が駆けつけます。警察は遊園地の職員の証言から、ミリアム殺害の犯人はブルーノであると目星を付けていました。

あとはガイのライターを持っていることが判明すればブルーノの容疑は確定しますが、ブルーノは意識を失いかけながらも「知らない」と言い張ります。しかしブルーノが息絶え、彼の握っていた掌の中からガイのライターが出てきたことで、事件の真犯人は発覚しました。

容疑が晴れたガイは、アンと列車に乗って出かけます。そこでガイに話しかけて来た見知らぬ乗客を、ガイは無視して席を立つのでした。

サスペンスを構築する要素①「突如提案される交換殺人」


(C)1951, Renewed (C)1979 Warner Bros. Entertainment Inc.All rights reserved.

テニスプレーヤーのガイが、全く面識のない男ブルーノと遭遇したことで始まる、不条理とも呼べる恐怖を描いた映画『見知らぬ乗客』。

本作がまず面白い点は、映画が開始してから数分で、ガイの日常が壊されるという点です。

冒頭の列車内の場面で、ガイはブルーノに「交換殺人」を提案されます。普通であれば断って終わりの話ですが、後述するように、ブルーノは普通の男ではありませんでした。ガイの承諾もないまま、交換殺人の約束はブルーノによって次々に実行されてしまうのです。

またガイも清廉潔白な男ではなく、妻であるミリアムの他に好きな女性がいます。遊び癖のあるミリアムがなかなか離婚に応じないため、ガイは本当に愛しているアンと、一緒になれないという悩みを抱えています。

「ブルーノの提案に乗ってしまうのか?」というガイの葛藤が本作の前半部のポイントになりますが、ガイはなかなか正義感が強い男で、ブルーノの案には乗りません。提案された交換殺人が実行されないため、そのまま終わりそうにも思えますが、やがて本作の物語は中盤からブルーノの異常さが前面に出る展開へと変化していきます。

そしてガイは不幸にも、ブルーノの狂気に巻き込まれることになります。

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サスペンスを構築する要素②「究極の自己中心男ブルーノ」


(C)1951, Renewed (C)1979 Warner Bros. Entertainment Inc.All rights reserved.

本作の鍵を握る……というよりも、ガイを恐怖に陥れる最大の元凶となる男がブルーノです。彼は人の話を聞かず、勝手に物事を進めてしまった上で、約束した覚えのないことを実行させようとする、「自己中心的な男」の究極形とも言えるキャラクターです。

ブルーノの異常性は、最初にガイと出会う場面ですでに伝わってきます。一方的にガイに話しかけて、読書を続けようとするガイに「いいから続けて」と言いながらも、隣に座って話を続けるという空気の読めなさ。

結果的には、ブルーノはガイに交換殺人を持ちかけることが最大の目的だったので、ガイが話を聞こうが聞くまいが、お構いなしだったのでしょう。

その後、ブルーノが母親と会話をする場面があるのですが、母親が描いた不気味な男の似顔絵を見て、大爆笑し「そっくりだ、お父様だ!」と感極まった声を出すのですが、ここでブルーノがまともな人間でないことがよく分かります。

ブルーノは自身の父親にコンプレックスを抱いているのですが、その父親からも「あいつは精神が異常だ」と言われています。ただブルーノの恐ろしい点は、やたらと社交的で、周囲に溶け込む才能があることです。

またミリアムを殺害する場面では、言葉を一切喋ることなくミリアムを尾行し、それとなく自分に気付かせて、興味を持たせたところで殺しています。ブルーノに人を惹きつける、不思議な魅力があることが分かる場面といえます。

さらに、ガイに圧力をかけるため、ガイの周囲にいる人々を自然と取り込んでいく辺りなど、かなり頭が良いことが分かります。

自己中心的で殺人にもほとんど躊躇いがない冷酷さを持ちながらも、頭の回転は速く、人心に簡単に取り入る社交性と魅力を垣間見せる点は、現代のサスペンス物では最早欠かすことのできない「サイコパス」といえます。

『見知らぬ乗客』は1951年に製作されていることからも、本作のブルーノを「映画で初めて描かれたサイコパス」という声もあります。

彼が映画初のサイコパスか否かは明確ではありませんが、冒頭から徐々にその異常性がにじみ出る演出は、「サイコパス」という言葉が広く知られるようになった現代だからこそ、ブルーノから感じる異常性はリアルさを感じさせられます

サスペンスを構築する要素③「物語の鍵を握るライター」


(C)1951, Renewed (C)1979 Warner Bros. Entertainment Inc.All rights reserved.

ブルーノのペースに巻き込まれ、ミリアム殺害の容疑者にされてしまったガイ。

この時点で「お互いが見知らぬ人間を殺すことで、完全殺人を成立させる」というブルーノの交換殺人計画は失敗といえますが、ブルーノは意地でもガイに父親を殺させようとします。しかしガイに殺人の意思がないことを知ったブルーノは、ガイをミリアム殺害の犯人に仕立て上げようとします。

ヒッチコック作品は小道具の使い方が見事な作品が多いことで有名ですが、『見知らぬ乗客』では「ライター」が重要な道具として登場します。

ガイとアンの思い出が刻まれた特注のライター。ブルーノはこれをミリアムの殺害現場に置くことで、文字通り「決定的な証拠」を作り出そうとします。そしてそれを止めようとするガイとのライターを巡る攻防が、映画後半部の見どころとなっています。

また遊園地に向かうブルーノが、ライターを排水溝に落としてしまい、取り出すのに苦労する場面があるのですが、ここで初めてブルーノは焦りを感じた様子を見せます。

作品を動かす重要な道具として登場するライターは、計画が失敗し絶望的な状況にある、ブルーノの心情を表現する役割も担っているのです。

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映画『見知らぬ乗客』まとめ


(C)1951, Renewed (C)1979 Warner Bros. Entertainment Inc.All rights reserved.

『見知らぬ乗客』は「映画初のサイコパス」とも呼ばれるブルーノの異常性とその恐怖をじわじわと味わわされる作品です。

ただ本作の何より凄い点は、1時間41分という尺内で一切の無駄な場面や展開がない点です。

特に後半のテニスの試合の場面では、過剰な音楽や演出は一切使わず、淡々とテニスの試合を見せながらも、実況のアナウンスによって急いで試合を終わらせようとしているガイの心情が分かるようになっています。

また勝負をつけられずに焦るガイと、排水溝にライターを落としてしまったブルーノの姿が同時進行で描かれており、ライターを取り返すために「攻め」の姿勢を見せるガイと、絶対にライターを失くせない「守り」の姿勢を見せるブルーノという、対極の立場にある2人を現した見事な演出となっています。

サイコパスの恐怖をシンプルな演出で見せる『見知らぬ乗客』は、現代にこそリアルな恐怖を感じられる素晴らしい作品です。






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