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Entry 2021/12/28
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映画『レイのために』あらすじ感想と評価解説。坂本ユカリ監督が娘から見た父親の姿を独創的に描く|インディーズ映画発見伝29

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第29回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」

第29回となるコラムでは、坂本ユカリ監督の映画『レイのために』をご紹介いたします。

『21世紀の女の子』(2019)の一遍『reborn』(主演:松井玲奈)を監督した坂本ユカリ監督が小川あんを主演にむかえ、娘から見た父親を描いた映画。

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映画『レイのために』の作品情報


(C)Yukari Sakamoto

【公開】
2019年(日本映画)

【監督・脚本】
坂本ユカリ

【キャスト】
小川あん、木下政治、平井亜門、松浦りょう、石田奈々、井藤瞬、小野寺絢香、重野滉人、諏訪珠理、夏目志乃、榎本梨乃、小畑みなみ、熊谷愛

【作品概要】
坂本ユカリ監督は、上智大学哲学科在学中に自主映画を作り始め、初監督作となった『おばけ』(2014)はMOOSIC LAB2014に出品され、MOOSIC LAB2014主演女優賞、ミュージシャン賞受賞します。

その後、MVなどの制作も手掛け、映画『21世紀の女の子』(2019)の一遍『reborn』(主演:松井玲奈)を監督し、その次に監督したのが『レイのために』(2019)です。

主演を務めたのは『約束の時間』(2019)、『新しい風』(2021)などの小川あん、『21世紀の女の子』(2019)の一遍『reborn』にも出演していた平井亜門がレイの恋人役を務めます。

その他『眠る虫』(2020)の松浦りょう、『透明人間☆田村透』(2019)の石田奈々などインディーズ映画で活躍する若手の役者陣が顔をそろえます。

映画『レイのために』のあらすじ


(C)Yukari Sakamoto

引っ込み思案のレイ(小川あん)は、大学のクラスメートとうまくいかず、どこか浮いてしまっています。

恋人の中村(平井亜門)とも踏み込めずどこか距離があるまま日々を過ごしています。

ある日、母親に電話をして本当の父親のことを知りたいと思い切って告げます。

そして実の父に手紙を送ったレイ。

後日実の父から返事が来ると、うわついた気持ちで手紙を握り締め封を開け読みます。

突然のレイからの手紙に父親は驚き、今更会っても良いものかという気持ちはあると書いてありましたが、レイと再会することに。

おめかしをして父を待つレイ。ぎこちなさはありつつも話し始める父娘。

全部が全部思い通りになるわけではない現実で、レイは自分の世界を生きながらも少しづつ前に進もうとし始めます。

映画『レイのために』の感想と評価


(C)Yukari Sakamoto

レイはどこか独特の雰囲気を持っており、クラスの中では浮いた存在です。

講義の中で意見を求められ発言をするも、それはまた違う問題なのではと遮られてしまったり、ポエムだと揶揄されてしまいます。

ノイズのような演出で、話しかけられているのにその言葉が入ってこない、自分だけが違う世界にいるようなレイの疎外感、戸惑いをリアルに演出します。

「中村、何で私といるの?」と聞くレイに中村は「わからない」と答えます。

同じ部屋で過ごし、共に時間を過ごしているはずなのに2人の間には距離があります。

中村がその距離を詰めようとした時、思わずレイは逃げ出してしまいます。一方で、中村も呆然と何かを思い詰めるレイに踏み込んで聞こうとはしません。

他者とどこか距離をとってしまう背景にはレイ自身の幼少期が関係しています。レイはまなざしを向けられることに対し、監視されている、居心地が悪いと感じています。それは母親にその目が父親とそっくりと言われていたことも関係しているでしょう。

それでも実の父親との再会などを通じて、まなざしに怯えず向き合おうとし始めるレイは、必死で自分の言葉を他者に伝えようとし始めます。

家族との関係も恋愛も距離をとってしまいうまくいかないレイですが、それでもどうにか前へ進もうとします。他者ではなく、まずは自分が自分にまなざしを向けようとしているかのようです。

まとめ


坂本ユカリ監督(C)Cinema Discoveries

主人公のレイのように、独特な雰囲気のある映画『レイのために』。

自分らしく生きることの難しさ、世間とうまく関われず感じている疎外感をファンタジックに演出します。

初めて父親と再会したレイは、実の父に自身が抱いていた幻想を重ねているような印象も受けます。

幻想と現実が入り混じった父。自分の中で父と会うことは一大決心だったのに、母や父にとってはもう過去のことであり、自身が思い描いていたこととのズレをレイは感じています。

こうであってほしい幻想と現実は違うということを知っていく、それはレイが大人になっていき、世間とうまく繋がっていくための通過点なのかもしれません。

坂本ユカリ監督が演出するファンタジックでありながらも、現実味もあるような独特な世界観に引き込まれます。

坂本ユカリTwitter

次回のインディーズ映画発見伝は…


(C)UNDERDOG FILMS

次回の「インディーズ映画発見伝」第30回は、中村祐太郎監督の『若さと馬鹿さ』を紹介します。

次回もお楽しみに!

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