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映画『ピータールー マンチェスターの悲劇』監督マイク・リー【Peterlooの歴史を描く】FILMINK-vol.11

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(C)Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.

「FILMINK」から連載11弾としてピックアップしたのは、日本では2019年8月9日に公開される映画『Peterloo(邦題:ピータールー マンチェスターの悲劇)』監督のマイク・リーです。

実在の事件“ピータールーの虐殺”を描いた本作への思い、彼独自の映画製作方法についてご紹介します。

【連載レビュー】『FILMINK:list』記事一覧はこちら

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製作のきっかけ

暗く悲観的なイギリスの歴史、生活を描くことで知られるマイク・リー監督は現在、イギリスで最も悪名高い、ある事件を取り扱った『Peterloo』の製作に取り組んでいます。

マイク・リー監督は「本作を作ることを漠然と思い浮かべたのは随分と前のことでした」と、彼の歴史的叙情詩『Peterloo』がヴェネツィア国際映画祭で上映された際に語りました。

「そのことは長い間、頭の隅に追いやっていました。しかし本当に興味深いことは、私を含め、マンチェスター北部で育った多くの人々はこの“ピータールーの虐殺”について、よく知らなかったということです。この事件はマンチェスターでも秘密にされていることであり、事件について推測することは厄介で面倒なこととされていました。私は生まれ育った場所から、バスに乗れば5分足らずで事件が起きた場所に着き、歩き回ることができたにも関わらず…」

“ピータールーの虐殺”について

『Peterloo』は事件を大胆に切り込んだ作品ですが、『アラビアのロレンス』や『エル・シド』といった作品とは異なります。

本作はマンチェスターのセント・ピーターズ・フィールドで開かれた平和的な民主主義の集会がイギリス史上最も暴力的で凄惨な事件の場と化した、1819年の“ピータールーの虐殺”について描いています。

集会に集ったのは貧困で劣悪な経済状況への抗議、議会改革を要求するために集まった6万人を超える人々。その多くの抗議者がイギリス政府軍によって殺害され、何百人もの人が負傷しました。事件後、全国的な議論が展開されましたが、政府の弾圧は続いたのです。

そんな歴史事件に基づく本作ですが、現在の政治情勢に関してイギリス国内外から大きな反響がありました。

「ピータールーの研究から、それが急進的な革命を鼓舞するもので、権威に嫌という程怯えていたという、2つのことがわかりました」と、リー監督はヴェネツィアで語りました。

「それは声が聞こえて来ること。あちらこちらで右派の上昇が見え、民主主義の結果が現れていますよね…。イギリスではEU離脱問題が起こり、アメリカではトランプが勝利した。本作は真実について、人が自分の意見をどう表明するかについてなど、あらゆる種類の問題を提議しています。まっすぐに、また漫画的な描写を並行させて政治事件を取り扱うのは難しいことです。しかし人々のニーズ、持っているもの、持っていないもの、権力者、非権力者、あらゆる観点から見ると、それは全体的に共鳴していることが分かるのです。」

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マイク・リー監督の製作現場


(C)Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.

悲観的で、憂鬱で、陰気な映画を作ることで知られ、“ミゼラブリスト”とも呼ばれるマイク・リー監督。本作もリー監督作らしく、とても陰鬱で幅広い時間を取り扱うものです。

彼のデビュー作は、精神障害者の姉妹を持つ女性の物語『Bleak Moments』(1971)。『Meantime』(1984) はイギリスの失業率上昇について扱った、気が滅入るような作品です。英国アカデミー賞にノミネートされ、リー監督の地位を築いた作品と言える『The incendiary Naked』(1988)は自己嫌悪と都会の倦怠感について描いています。

「人々は私の映画のこととなると記憶喪失になってしまったかのように見えます。私は人々にそうしたことを信じ込ませ、気にかけることだけをしたいわけではありません。いつも人々と向き合うことに専念してきましたが、笑わせることだってできるんですよ。」

通常は脚本を用いて映画製作を行わないリー監督。代わりに作品のアイディアの核を捉え、少なくとも半年間のリハーサルとワークショップに参加できる俳優たちと仕事してきました。俳優たちは彼らの役が主役なのか脇を固める役なのか、キャラクターたちがどのような関係性なのかも知らないままにリハーサルを行っていきます。

リー監督の制作現場では、リハーサルや即興を通して物語が構築されていきます。

現実を描写すること

参考画像:マイク・リー監督の映画『ネイキッド』(1993)


©CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION MCMXClll

映画の制作プロセスで最も難しい部分は、物語を確立し、また、どこで終わらせるかということです。

「物語がどこへ行くべきか、どのように終わるべきかを明確にすることも時々あります。この映画に関して言えば、終わりは未解決の問題でした。」リー監督はFIlmlnkにそう打ち明けました。

「私の過去作『ネイキッド』では、どうやって終わらせるべきか分かりませんでした。ある意味で、事柄の真相は学術的なのです。人々はいつも“どの段階で結末を決めましたか?”と言った質問を投げかけます。ですが、それは問題ではありません。誰も“モナリザの目の上の点をいつ描くことに決めたのですか?”と尋ねはしないでしょう」。

リー監督は1965年、彼の最初の演劇作品『The Box Play in the Midlands』を手がけて以来、上記のような手法で映画を作ってきました。執筆とリハーサルのプロセスを組み合わせるというアイディアを思いついたのは「1人で何ヶ月も部屋に座っているのは好きではないから」だったとリー監督は語ります。

しかしそれ以上に、監督は現実を描写することに執心してきました。

マンチェスター、サルフォード、厳しい環境の工業地帯の中で彼の人生観は築かれました。それはコメディと悲劇が密接に絡み合う、彼の作品と変わりがない環境だったとリー監督は語ります。リー監督が映画監督を志したのは、そうした少年時代のあるひと時でした。

「12歳の時、とても寒いマンチェスターの冬に私は祖父の葬儀に出席しました。皆が棺を取り囲んでいたのを覚えています。棺を持った老人たちが急で狭い階段を降りてきた時、私はふと“この瞬間を映画にできるだろう”と思ったのです。悲劇的な出来事が取り巻いても、私はいつもそのような考えを巡らせていました」。

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本質を捉え映画として描く

メイキング画像:撮影現場のマイク・リー監督

(C)Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.

17歳の時にリー監督はロンドンに移り住み、人生で初めて非英語の映画を観たと言います。1960-1962年の間王立演劇学校にて学び、その後はキャンバーウェル、セントラルアートカレッジ、ロンドン映画学校にて勉学に励みました。

キャリアのスタートはテレビでは無く演劇の世界。労働者階級や中流階級以下のイギリス人の現実を細かに描いた即興劇や緻密な文章が評価されます。

「ロンドンへ引っ越した時、素晴らしい映画に通じる機会を得た瞬間のことを覚えています。そして私は現実で本当に会ったことがあるような人々を描いた映画があれば、もっと素晴らしいだろうと考えました。私は人生や物事と向き合い、スクリーンにそれを映す道を選びました」。

それはドキュメンタリーのようなものかと問うと、「いいえ」と否定したリー監督。

「ある意味では、私の映画はドキュメンタリーの状態を望んでいます。私がやりたいことは、その状態に堅牢性を持つ世界を創造し、物事を高めることです。ですから純粋に、正確にあるがままのことを記録する自然主義とは違います。物事の本質を見つける何らかの方法について思慮しています。しかし私の取り組みのモチベーションを高める源は、社会で起こっている出来事です。現実の人々はフィクションの人々よりも面白いのです。」

さらに監督は付け加えました。「最も興味深く、特異でユニークなものを見つけ、それらを適切に映画という形態で描くことが私の仕事なんです」。

そんな監督は英国アカデミー賞を獲得、米国アカデミー賞にも幾度とノミネートされています。他作品とは全く異なる信憑性と人生の真実に溢れている、独自の制作スタイルを持つリー監督作品。しかしそれは関係者にとって易しいプロセスではありません。

「経験し得るすべての喜びがリハーサルの半年間に詰まっているわけではありません(笑)。リハーサル期間は原材料を作るようなものです。人工物自体を実際に作成するわけではありません。すべての映画はカッティングルームでつくられます。フィルムで撮影して、原材料をカッティングルームへ持っていく。私にとって映画を撮るということは、実際に作ることによってその映画が何であるのかを発見する旅なのです。」

人生はそれほど悪いものじゃない


(C)Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.

本作はより叙情詩的なストーリーテリングですが、リー監督のスタイルは変えずに制作されました。

「『Peterloo』は多かれ少なかれ、私のどの過去作よりも編成されていませんでした。規模は大きくてもこれは私にとって、社会やコミュニティの中での個人についての映画です。私たちは創作されたシナリオに加えて、実際の歴史的出来事を提供し、解釈し、蒸留しています。」

『Peterloo』を含むリー監督の作品はどれも妥協の無い陰鬱な作風ですが、その中には喜劇があり、暖かくて素晴らしい映画があります。また陰気な雰囲気が少し薄い作品でも、それは絶望や悲劇から生まれたものです。『秘密と嘘』(1996)(『ネイキッド』に続く高評価を得た作品)は陽気でしたが、時に恐ろしい瞬間も含まれていました。『人生は、時々晴れ』(2002)は暖かい作風でしたが、キャラクターは憂鬱と戦っていました。

リー監督の作品は観客に「人生はそれほど悪いものじゃない」と理解させ、感じさせる魅力があります。リー監督の作品では、笑いは人生にやってくる荒波に対処するための手段なんです。『秘密と嘘』の ブレンダ・ブレッシンのキャラクターの「笑わないとダメね、そうじゃなければ泣くもの」という台詞にあるように…。

マイク・リーは次のように語ります。

「私は『秘密と嘘』(養子に出した黒人の娘を探す白人の母親について)、『トプシー・ターヴィー』(1999)(作曲家のW・S・ギルバートとアーサー・サリヴァンについて)の彼らを拒絶します。…暖かさと希望のかけらもない歌とダンスのルーティーン。(リー監督作品で最も陽気な作風である)『ハッピー・ゴー・ラッキー』(2008)は出発点ではありません。私の映画は完璧に厳格というわけではありません。映画で描かれていることはすべて良いことも悪いことも起こる現実の世界に根ざしています。キャラクターたちをただ幸せに、あるいは悲しませたりすることは簡単です。私はすべてのことが含まれた映画作りを目指していて、そしてそれは充実したことです。『ハッピー・ゴー・ラッキー』は作品そのものは幸福ではありません。幸福について、繋がりについて、共有について、愛についての映画です。そして人生は生きる価値があると信じること。」

大きなうねりの中の小さな声

メイキング画像:演技指導するマイク・リー監督


(C)Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.

新作映画『Peterloo』は正義を求めるコミュニティと、特定の家族を繋ぐ絆を描いています。

リー監督が現代社会へのメッセージとして過去の事件を扱って映画を撮るのは本作が初めてではありません。『ヴェラ・ドレイク』(2004)では、1950年代には違法だった中絶について問題を提起しました。

「『ヴェラ・ドレイク』は、遠い昔の難解な歴史的事件を扱った作品ではありません。この問題は現在の私たち皆に関係があり、関心があることです。増え続ける人口、崩壊しつつあるモラル、望まれていない赤ん坊の問題、中絶についての議論は世界中で広まっています。これは現代的な問題ですが、私は50年代というプリズムを通して、現代的な視点で探りました」。

リー監督の1つ前の作品はイギリスの有名な風景画家 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーを描いた『ターナー、光に愛を求めて』(2014)。リーは映画では滅多に言及されることのない歴史の一部についても取り組みました。

「画家についての映画はたくさんありますが、ターナーについての作品は一つもありませんでした。私はその時、今が彼の映画を作る時だと思ったんです。ターナーはすごく面白く、風変わりで、弱者。私は彼が自分の作品のキャラクター候補に間違いなくなるだろうと感じたんです!また、彼自身と彼の描く深遠な作品の間にある緊張も魅力的ですから。」

実はマイク・リー監督はFilmlnkでの『ターナー、光に愛を求めて』のインタビューの際、“大規模”な作品を撮るとこっそり明かしていました。

「『Peterloo』は同じ方向に進んでいる、聡明で献身的なグループとの大きなコラボレーションです。大虐殺のシーンでは、映画の典型的な展開にならないように気をつけました。大きな物事が動いているとしても、個人の動きを見ることは常に重要です。」

『Peterloo』は民主主義についての作品


(C)Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.

『Peterloo』は技術的にはマイク・リーの“最大の”作品かもしれませんが、最も思慮深い作品でもあります。

「民主主義についての作品です」と監督はトロント映画祭の上映後にそう語りました。

「私は人々に、悲しみや同情、怒り、様々な感情と関わってほしい。ピータールーの事件は恐ろしく不正でした。これが実際の民主主義です。そして、人々の本物の生活と感情から、本物の希望が現れます。権力者による破壊的で混沌とした、盲目で鈍感な状態に対処すること…私が考える限り、これらは依然として反響し続けていますから」。

FILMINK【Mike Leigh: Making Reel History With Peterloo

英文記事/Gaynor Flynn
翻訳/Moeka Kotaki
監修/Natsuko Yakumaru(Cinemarche)
英文記事所有/Dov Kornits(FilmInk)www.filmink.com.au

本記事はオーストラリアにある出版社「FILMINK」のサイト掲載された英文記事を、Cinemarcheが翻訳掲載の権利を契約し、再構成したものです。本記事の無断使用や転写は一切禁止です。

映画『ピータールー マンチェスターの悲劇』の作品情報

【日本公開日】
2019年8月9日(イギリス映画)

【原題】
Peterloo

【脚本・監督】
マイク・リー

【キャスト】
ロリー・キニア、マキシン・ピーク、デビッド・ムースト、ピアース・クイグリー

【作品概要】
『秘密と嘘』(1996)『ヴェラ・ドレイク』(2004)などで知られるイギリスの名匠マイク・リーが、19世紀初頭のイギリスで起きた事件“ピータールーの虐殺”を映画化。

多くの死傷者を出し、イギリスの民主主義において大きな転機となったこの事件の全貌を、リー監督が自ら執筆した脚本をもとにリアルに描き出します。

出演は『007 スペクター』(2015)のロリー・キニア、『博士と彼女のセオリー』(2014)のマキシン・ピークです。

映画『ピータールー マンチェスターの悲劇』のあらすじ


(C)Amazon Content Services LLC, Film4 a division of Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2018.
1819年、ナポレオン戦争後で困窮のさなかにあるマンチェスター。

深刻化する貧困問題の改善を訴え、政治的改革を求める民衆6万人がセント・ピーターズ・フィールド広場に集まります。

鎮圧のため派遣された政府の騎馬隊は、非武装の群衆の中へ突入していき…。

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