広島国際映画祭2023・特別招待作品『ヴィレッジ』
2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前身として誕生した「広島国際映画祭」は、世界的にも注目されている日本の都市・広島で「ポジティブな力を持つ作品を、世界から集めた映画祭。」というポリシーを掲げ毎年行われている映画祭。
「ダマー映画祭inヒロシマ」の開催より、2023年は15周年という節目を迎えました。
本コラムでは、映画祭に登壇した監督・俳優・作品関係者らのトークイベントの模様を、作品情報とともにリポートしていきます。
第1回は、藤井道人監督作品『ヴィレッジ』。イベントでは藤井監督とともに、作品で主演を務めた俳優の横浜流星が登壇しました。
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映画『ヴィレッジ』の作品情報
【日本公開】
2023年公開(日本映画)
【監督・脚本】
藤井道人
【キャスト】
横浜流星、黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、淵上泰史、戸田昌宏、矢島健一、杉本哲太、西田尚美、木野花、中村獅童、古田新太ほか
【作品概要】
横浜流星と『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)などの藤井道人監督が6度目のタッグで挑むヒューマンサスペンス。『新聞記者』(2019)、『空白』(2021)などを手掛けた製作・配給会社「STAR SANDS」のプロデューサー・河村光庸の遺作となりました。
藤井道人監督プロフィール
1986年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014)でデビュー。以降『青の帰り道』(2018)、『デイアンドナイト』(2019)など精力的に作品を発表。
2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門を含む6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。以降『ヤクザと家族 The Family』(2021)、『余命10年』(2022)と精力的に活動。
2023年には『ヴィレッジ』『最後まで行く』が続けて公開された。
横浜流星プロフィール
1996年生まれ、神奈川県出身。
2019年にドラマ『初めて恋をした日に読む話』で注目を集める。2023年は舞台『巌流島』、映画『ヴィレッジ『春に散る』と主演作に立て続けて出演。
さらに2025年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~』で主演が決定している。
「広島国際映画祭2023」藤井道人監督×横浜流星トークショー
本作は「広島国際映画祭2023」の初日となった11月23日に上映され、上映後には特別ゲストとして藤井道人監督と、主演を務めた横浜流星が登壇し、舞台挨拶とともに撮影当時を振り返るトークショーを行いました。
藤井監督と横浜が初めて対面したのは、2016年のオムニバス映画『全員、片思い』。参加した短編作品は異なるものの、お互いにまだ駆け出しの立場であったことからきっかけでコンタクトし、その後2018年公開の映画『青の帰り道』のオーディションに横浜が参加、見事出演の座を射止めました。
さらに2019年の『新聞記者』など藤井監督とのタッグが続く中、横浜の姿は河村光庸プロデューサーの目に留まり、このプロジェクトがスタートしました。当初プロジェクトでは横浜ありきの企画として出発し、藤井監督はプロジェクトに加わっていませんでしたが、その後合流し企画も刷新されて本作が本格始動したといいます。
藤井組は限られた時間の中で辛抱強く粘りテイクを重ねることから、かなりハードな現場であるとのイメージが伝えられる一方、そんな横浜は藤井監督の現場に対して「俳優の一番いいものを引き出してくれる。俳優に寄り添ってくれる感じ」とポジティブにとらえた所感をコメント。ものづくりへの強い探求心を強く感じさせます。
特に本作のような作品では「役に入り込み過ぎて周りが見えなくなりがち」と語り、藤井監督の視点を意識して撮影に臨んでいたことを明かします。
一方、作品ごとにボクシングやダイビングなど、次々とライセンスやスキルを難なく取得していく横浜の意欲的かつ器用な姿勢に、藤井監督は「(『監督をやりたい』と言い出したら)”来ないで!”って」と、その仕事に向かう真剣さを「心配」の言葉で表現し、横浜を絶賛します。
しかし横浜はそんな藤井の「心配」を否定、「監督を信頼して演技しているので、自分が監督をやるとなったら、(役を演じる上で)変な視点が出てきそうだから」と明かし、企画などのほうに興味があることを示します。
本作の撮影では、共演した中村獅童が持つ所作の美しさに刺激を受けたという横浜は、クランクアップとなったラストシーンの撮影がとても印象的だったと振り返ります。このタイミングは河村プロデューサーが現場を訪れた最後のタイミングでもあり、その隣で現場を見守っていた藤井監督は「グッときた」と、彼の演技を絶賛します。
今後について、横浜はまず先ごろ発表されたNHKの大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』に全力投球するとコメント。一方で藤井監督は「40歳までは、自分で『これは…』と思う仕事を、生活を投げ打ってでもやる」と語りながら、現状映画製作の後続が育っていないという映画界の状況に心配している様子を見せ、「誰かが誰かに(チャンスを)与える、40歳以降はそんなポジションにいるかも」と、自身の抱負を語りました。
映画『ヴィレッジ』のあらすじ
夜霧が幻想的な、とある日本の集落・霞門村(かもんむら)。村の伝統行事である神秘的な「薪能」が行われる近くの山には、巨大なゴミの最終処分場がそびえ立つ。
村の中でも異彩を放ち、美しい景観を乱すこのゴミ処理施設では、幼い頃よりこの村に住んでいる片山優(横浜流星)が働いている。
父親がこのゴミ処分場にまつわる事件で罪を犯し、母親が抱えた借金の支払いに追われていることを理由に、同じくゴミ処理施設で働く作業員に目をつけられ、希望のない日々を送っていた。
そんなある日、かつての幼馴染でともに能に親しんでいた女性・美咲が東京から戻ってきたことをきっかけに、物語は大きく動き出す……。
まとめ
藤井監督の作品はさまざまな事象を織り交ぜて巧みに構築し、テーマとなるポイントを一層際立たせています。その構築手法は「監督ならでは」といえるものであり、本作も一層その醍醐味がたっぷりと味わえる作品に仕上がっています。
能という日本古来の伝統芸能は非常に日本ならではの美意識をたたえたものである一方、能面姿の人たちはどこか不気味な雰囲気を醸し出す面もあり、本作では物語に描かれた「美しい一方で閉鎖的な空気感を醸す村」「その裏にうごめく社会の闇」といった重要なポイントを上手く引き立たせる重要な要素として存在しています。
一方で撮影に関しあくまでもストイックに向き合う監督だけに、役者陣の表情や画の説得力にも非常に高い完成度が感じられる作品でもあります。
そして横浜も本作では非常に魅力的な演技を披露しており、特にエンディングで見せる彼の表情には、さまざまなイマジネーションをかき立てられることでしょう。
初タッグとなった『青の帰り道』より順を追ってたどると、横浜の成長とともに、藤井監督自身の作品に対するアプローチの変化も感じられ、両人の間にはお互いの成長、変化に深い関係すら伺えてきます。
トークは終始和やかな雰囲気で進められましたが、話の端々には両名の映画作り、演技といった面に強い探求心、向上心を見て取ることができ、本作が今回会場に多くの観衆を招いた関心の強い作品となったことを納得できる感じすら見えてくるものでもありました。
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