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Entry 2021/08/26
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映画『空白』ネタバレ考察。怒りの被害者が加害者ともなる古田新太演じる‟怖い父の心情”|映画という星空を知るひとよ74

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第74回

『ヒメアノ~ル』(2016)の吉田恵輔監督による、主演・古田新太×共演・松坂桃李の映画『空白』が、2021年9月23日(木・祝)より全国公開!

ある日突然娘を交通事故で喪って怒り狂う父親・添田充を古田新太が、添田の娘が万引きしたと追いかけて事故を目撃したスーパーの店長・青柳直人を松坂桃李が演じます。

添田の別れた妻に扮する田畑智子ほか、藤原季節や片岡玲子、趣里、寺島しのぶなどの実力派が共演。古田新太のモンスターファーザーぶりが怖い作品です。

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映画『空白』の作品情報


(C)2021『空白』製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本】
吉田恵輔(※吉田監督のよしは土となります。)

【企画・製作・エグゼクティブプロデューサー】
河村光庸

【音楽】
世武裕子

【出演】
古田新太、松坂桃李、田畑智子、 藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子、寺島しのぶ

【作品情報】
映画『空白』は現代の「罪」と「偽り」、そして「赦し」を映し出す吉田恵輔監督がオリジナル脚本で挑むヒューマンサスペンス。

第43回日本アカデミー賞三冠を獲得した『新聞記者』(2019)、現実の祖父母殺人事件にインスパイアされた『MOTHER マザー』(2020)、その他、『ヤクザと家族』(2020)などの作品を次々と生み出している河村光庸プロデューサーが企画しました。

モンスターのような父親・添田を古田新太、彼に人生を握りつぶされていく店長・青柳を松坂桃李が演じ、『さんかく』(2010)の田畑智子、『佐々木、イン、マイマイン』の藤原季節、『湯を沸かすほどの熱い愛』の伊東蒼が共演。

映画『空白』のあらすじ


(C)2021『空白』製作委員会

港町で働く漁師の添田充は、無骨ですぐ怒鳴る短気な男。添田のもとで働く若者の失敗も、容赦なくののしり罵倒します。また、シングルファーザーでもある添田は、一人娘の中学生の花音にも厳しい父親でした。

別れた妻から与えられた携帯電話を持つ花音にも、「携帯はまだ早い」と怒鳴り、おかげで添田に学校のことを相談しようとした花音は何も言えなくなってしまいました。

ある日、花音は町の小さなスーパーで万引きをしてしまいます。スーパーの店長・青柳にその現場を見られ、追いかけられた末に、悲惨な事故がおこります。

花音は追いかけられて車道に飛び出し、女性が運転する乗用車に轢かれ、起き上がろうとしたところを後ろから来たトラックにまた轢かれて引きずられました。

娘のことなど無関心だった花音の父親でしたが、ふためと見られない程損傷の激しい娘の遺体を見て号泣します。

そして、せめて花音の万引きの汚名を晴らそうと、青柳を激しく追及。そのうちに、その姿も言動もストーカーを脱した恐るべきモンスターと化し、青柳の人生を握りつぶしていきます…。

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映画『空白』の感想と評価


(C)2021『空白』製作委員会

被害者家族の怒りと悲しみ

本作の主人公・添田は中学生の娘・花音を育てるシングルファーザー。何か父に相談したいことがあるそぶりを見せていた花音が、父と話すこともないまま、万引き犯として追いかけられて車に撥ねられて死んでしまいます。

添田は汚名をきせられたまま旅立った娘を不憫に思い、相談事があったと思われる娘の事故死の真実を突き止めようと奔走します。

ですが、それが感情のままに突っ走る結果となり、新たな不幸へと繋がっていきました。

花音の部屋に閉じ籠り、アルバムをめくったり、遺品となった絵を眺めたりと、花音がいなくなってはじめて添田は父親らしい様子を見せますが、同時に花音を喪った悲しみは深まります。

それは別れた妻・翔子にも同じことが言えました。突然の娘の死は別居中の実母にとってもショックです。

親としての花音への接し方で元夫婦は口論となり、翔子から花音を育てる父親としての自覚を問われて添田は絶句します。

ここで、子供にとってどんな父親が理想的なのかと考えさせられます。

おそらく添田は、明治や昭和初期の父親像のようなワンマンないかつい父親だったのでしょう。気に入らないことがあると話もよく聞かずに怒鳴って威嚇し、家族にも暴力も振るっていたタイプに違いありません。

これまではそれですんでいたのかも知れませんが、今回は怒りをぶつける対象が見当たらず、仕方なく事件の関係者に八つ当たりすることとなります。

けれども、そんなことをしても死んでしまった者は帰って来るはずがありません。それが分かっていながらも、添田の持っていき場のない苛立ちはどんどんエスカレートする一方でした。

事故は偶発的に発生したものでしたが、被害者家族の立場になれば、この添田の気持ちはよくわかります。

不幸な事故を作った原因はいったい何なのか? 父親としての最後の務めを果たそうと、添田はなりふり構わず原因究明に乗り出しました。

そして、女性にさえ殴りかかったり怒鳴りつける怖い頑固オヤジが、やがて返り討ちのように子を亡くした親の悲しみを真正面から受け、心の傷を深く抉られることとなります。

被害者が転じて加害者にもなりうる展開……。それは誰の身にも起こり得る予想もできない出来事といえます。

万引き犯を捕まえようとして事故を招く結果となったスーパーの店長、花音のいきなりの飛び出しで事故を起こしてしまったドライバーたち、事件の当事者たちのインタビューを視聴者向けに編集するマスコミに嫌がらせの貼り紙……。

これら全体からは、一つの事故が巻き起こす社会の反響と、表からだけでなく裏からも見つめた事件当事者の心理描写が鋭く描かれていました。

事故の被害者家族である添田の複雑な感情は、花音に対しての懺悔と事故の原因への固執を孕んだものに違いありません。

それまでの自分を責め改めて娘の愛らしさを反芻するという、困難な役どころの添田をリアルに演じる古田新太の演技力に脱帽の想いです。

救いようのない絶望の淵にいるモンスターファーザーの心の葛藤に、‟残された者”の悲しみも色濃く見いだせることでしょう。

まとめ


(C)2021『空白』製作委員会

『空白』は、スターサンズの河村光庸プロデューサーが企画し、『愛しのアイリーン』(2018)、『BLUE/ブルー』(2021)などの吉田恵輔監督とタッグを組み、製作されました。

「空白」という言葉には、紙面などの何も書いていない部分という他に、‟むなしく何もない状態”という意味も含まれています。

本作の主人公である理不尽な事故で娘を亡くした添田は、真相を求めて暴走した挙句に何を得るというのでしょう。

真っ白で空っぽな日々において、僅かな希望の光を見出せるとしたら、それは娘の死に対して怒りを爆発させる添田の父性愛かも知れません。

映画『空白』は、2021年9月23日(木・祝)より全国公開!

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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