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Entry 2021/08/20
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映画『空白』感想と解説評価。ラスト結末で魅せる古田新太の演技こそ“真の父親の表情”だ|映画という星空を知るひとよ73

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第73回

『ヒメアノ~ル』(2016)の吉田恵輔監督による、主演・古田新太×共演・松坂桃李の映画『空白』が、2021年9月23日(木・祝)より全国公開を迎えます。

或る日突然1人娘を交通事故で喪って怒り狂う父親・添田充を古田新太が、添田の娘が万引きしたと追いかけて事故を目撃したスーパーの店長・青柳直人を松坂桃李が演じます。

被害者の父となった添田のどこにも行き場のない怒りは、店長の青柳に向けられ、彼を徹底的に追い詰めます。モンスターと化す驚異的な父親、それに関わるスーパー店長の駆け引きに救いの道は開けるのでしょうか?

映画『空白』をご紹介します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

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映画『空白』の作品情報


(C)2021『空白』製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本】
吉田恵輔(※吉田監督のよしは土となります。)

【企画・製作・エグゼクティブプロデューサー】
河村光庸

【音楽】
世武裕子

【出演】
古田新太、松坂桃李、田畑智子、 藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子、寺島しのぶ

【作品情報】
映画『空白』は現代の「罪」と「偽り」、そして「赦し」を映し出す吉田恵輔監督がオリジナル脚本で挑むヒューマンサスペンス。

第43回日本アカデミー賞三冠を獲得した『新聞記者』(2019)、現実の祖父母殺人事件にインスパイアされた『MOTHER マザー』(2020)、その他、『ヤクザと家族』(2020)などの作品を次々と生み出している河村光庸プロデューサーが企画しました。

モンスターのような父親・添田を古田新太、彼に人生を握りつぶされていく店長・青柳を松坂桃李が演じ、『さんかく』(2010)の田畑智子、『佐々木、イン、マイマイン』の藤原季節、『湯を沸かすほどの熱い愛』の伊東蒼が共演。

映画『空白』のあらすじ


(C)2021『空白』製作委員会

港町で働く漁師の添田充は、無骨ですぐ怒鳴る短気な男。添田のもとで働く若者の失敗も、容赦なくののしり罵倒します。また、シングルファーザーでもある添田は、一人娘の中学生の花音にも厳しい父親でした。

別れた妻から与えられた携帯電話を持つ花音にも、「携帯はまだ早い」と怒鳴り、おかげで添田に学校のことを相談しようとした花音は何も言えなくなってしまいました。

ある日、花音は町の小さなスーパーで万引きをしてしまいます。スーパーの店長・青柳にその現場を見られ、追いかけられた末に、悲惨な事故がおこります。

花音は追いかけられて車道に飛び出し、女性が運転する乗用車に轢かれ、起き上がろうとしたところを後ろから来たトラックにまた轢かれて引きずられました。

娘のことなど無関心だった花音の父親でしたが、ふためと見られない程損傷の激しい娘の遺体を見て号泣します。

そして、せめて花音の万引きの汚名を晴らそうと、青柳を激しく追及。そのうちに、その姿も言動もストーカーを脱した恐るべきモンスターと化し、青柳の人生を握りつぶしていきます…。

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映画『空白』の感想と評価


(C)2021『空白』製作委員会

古田新太演じる狂気を放つ父

映画『空白』の全ての始まりは、少女・花音の万引きでした。

万引き少女を捕まえようとスーパーの店長が追いかけます。逃げた少女は道路に飛び出し、2台の車に轢かれてしまいました。

最初に轢いたのは女性が運転する乗用車。2回目は男性が運転する大型トラック。

大型トラックに轢かれて何メートルも引きずられた花音の遺体は、身元が特定できないほどボロボロになった無惨なものでした。乱暴者で周りの人から怖れられている花音の父・添田ですが、その遺体を見ただけで号泣します。

添田は、妻と離婚し娘と2人暮らしでした。離婚の原因は自分の意見こそ正しいと思い人の話に耳を傾けない性格の添田にあると思われます。

離婚してからも我が道をいくという態度で、普段は娘のことなど眼中にないような素振りでしたが、本当に娘が死んでしまったとなると、どうしようもない怒りが湧いて来たのでしょう。

傍若無人で怖いもの知らずな添田ですが、「花音と一緒に暮らしていながら、あの子の何を知っているというの?」という別れた妻・翔子の一言が彼の胸を貫きます。

一緒にいながら花音と向き合って話したことはほとんどありません。花音が何が好きで、欲しい物が何なのかもわかりません。

もっとしっかりと花音との時間を大切にすればよかったという後悔が添田に襲います。

そんな大事なことに今さら気がついてももう遅い。添田は、自分の力では解決できない辛い現実があることに気がつきました。

添田が怒鳴りちらす合間にふと見せる寂しげな表情……。

娘を亡くした親の‟怒りに満ちた顔”から、徐々に‟父親の顔”らしくなっていく添田。演じる古田新太のきめ細やかな演技が光ります。

怪物父の猛襲を‟受け”る松坂桃李


(C)2021『空白』製作委員会

モンスターファーザーの標的にされたのは、気弱なスーパーの店長・青柳です。

青柳は脳梗塞で突然死んでしまった父親の後を継いで、スーパーの店長になりました。真面目に仕事をしていたのですが、花音の万引きを発見したことで、彼の人生は狂って行きます。

青柳は、花音の死を不幸だったと割り切れるほど利己的でもなければ、すべての責任を負う度胸を持つほど自己犠牲的でもありません。

青柳は、はっきり言って小心者。それが偶然にしろ、モンスターのような添田の怒りの標的となり、無責任なマスコミ報道で世間からの誹謗中傷を浴びることになるのですから大変です。

添田の言い分としては、花音の無実を証明したいのです。事件の一部始終を知っている青柳を必要以上に追いかけて、真実を知ろうとするのですが……。

ストーカーまがいのその行為もまた不幸を招きました。

謝っても到底許されないようなことをしでかした時、人はどうすればよいのでしょう。謝るしかない青柳の苦しみを、素直な表現力で演じるのは松坂桃李。

添田演じる古田新太の怒りも哀しみも、すべてを受け止めるような演技を披露しています。

まとめ


(C)2021『空白』製作委員会

『空白』は、スターサンズの河村光庸プロデューサーが企画し、『愛しのアイリーン』(2018)、『BLUE/ブルー』(2021)などの吉田恵輔監督とタッグを組み、製作されました。

誰の身にも起こりえる予想もできない出来事に翻弄される人々を斬新に描いた本作。現代の「罪」と「偽り」を見事にあらわし、そして「赦し」を問いかけるヒューマンサスペンスとなっています。

普通の人々が当たり前に生きている毎日で突如訪れる不幸の連鎖に、言いようのない恐怖を感じることでしょう。

映画『空白』は、2021年9月23日(木・祝)より全国公開!

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら






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