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Entry 2022/10/15
Update

【小泉徳宏監督インタビュー】映画『線は、僕を描く』横浜流星が役柄に負けじと水墨画を自ら描く練習を重ねてくれた

  • Writer :
  • ほりきみき

映画『線は、僕を描く』は2022年10月21日全国東宝系にてロードショー

水墨画と出会った青年が、水墨画を学ぶことで自身の過去と向き合い、新たな一歩を歩み始める。映画『線は、僕を描く』は横浜流星を主人公に迎えた、砥上裕將の人気同名小説の実写映画化しました。


(C)ほりきみき

演出を担当するのは『ちはやふる 上の句・下の句/結び』(2016・2018)、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(2013)で若手俳優を起用し、繊細な演出手腕を見せた小泉徳宏監督。

このたび、映画『線は、僕を描く』の劇場公開にあたり、小泉徳宏監督にインタビューを敢行。苦心した脚本執筆について、また主演の横浜流星との役作りなど、大いに語っていただきました。

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霜介の気持ちの変化を模索する


(C)砥上裕將/講談社 (C)2022 映画「線は、僕を描く」製作委員会

──本作は『ちはやふる 上の句・下の句/結び』(2016・2018)で、ご一緒された北島直明プロデューサーからの監督オファーとうかがいました。

小泉徳宏監督(以下、小泉):『ちはやふる 上の句・下の句/結び』(2016・2018)の時もそうでしたが、「また難しい題材がきたな」と思いました(笑)。アートなので、かるたと違って明確な勝ち負けがない。原作はご自身も水墨画家でいらっしゃる砥上裕將さんの同名小説です。拝読してみると、水墨画だけでなく、霜介自身の話もあります。霜介の喪失と再生か、それとも誰が賞を取るのかという賞レースにするのか、話の中心をどこにするかは特に迷いました。それによって、映画の物語の運び方やカタルシスの作り方、最終的な着地点が全然違ってくるのです。そしてそこに、水墨画の技術的な説明や表現も絡んできてどこに重点を置くかでもまた、構成がかなり変わります。原作を読んだ段階では選択肢がありすぎて、途方にくれました。

──脚本は片岡翔さんと連名になっています。

小泉:脚本の開発には片岡さん、北島プロデューサーと他数名のメンバーがいて、時間を掛けて作り上げました。コロナによって撮影が1年延びたこともあり、延べ2年強くらい打ち合わせを繰り返し、そのうえ撮影中にも常に書き換えていたほどです。

原作で湖山先生の揮毫会は割と後ろの方に描かれますが、これを冒頭に持ってくるアイディアを思いついた時に、大きな構成が決まりました。次はクライマックスに向けて、霜介の感情をどうやってお客さんに伝えるか。霜介の喪失感は、誰もが想像できるものではない特殊な状況です。霜介の気持ちの変化のプロセスをどう表現するかを最後まで模索していました。

ストイックに映画と向き合う横浜流星


(C)砥上裕將/講談社 (C)2022 映画「線は、僕を描く」製作委員会
──主人公の青山霜介を演じた横浜流星さんは北島プロデューサーが『オオカミ少女と黒王子』で一緒に仕事をしたことがきっかけでかなり早い段階にオファーしたと聞きました。横浜流星さんは昨年末から『あなたの番です 劇場版』、『嘘喰い』、『流浪の月』、『アキラとあきら』と、精神的に強い部分が強調された役どころが続いています。青山霜介の役はちょっと意外でした。監督は横浜さんとは初めてかと思いますが、お会いしていかがでしたか。

小泉:これは勝手な想像ですが、どちらかと言えば、霜介のような内向的で繊細な人物の方こそ、ご本人の本質に近いのではという気がしています。そして、とてもストイックな方でもあります。今回の題材は水墨画。ご自身が水墨画を描けるようになることが、この映画にとってどれだけ重要かを理解されていて、空き時間ができれば「練習したい」と連絡が来る。出演が決まってから撮影までの2年間、いつも心のどこかに水墨画を心に留めていてくれて、ひたすら練習を繰り返してくれました。そこまで熱心に練習してくださる方はなかなかいません。とても真摯に映画に向き合い、本物を追求される方という印象を受けました。

一般的な撮影では、絵を描くシーンでは代役のプロの絵師が描いたりするものですが、本作では本当に横浜さんが描いているところが多いです。筆のストロークやちょっとした仕草なども身につけ、水墨画を練習することで霜介の役作りにも繋がったのだとわかります。

──役作りについて、横浜さんとどのような会話をされましたか。

小泉:霜介はどちらかといえば内向的なキャラクター。しかし、誰とも打ち解けられない青年にしてしまうと、水墨画どころではなくなってしまいます。過去を背負いながらも、普段はどのような感じで人と接しているのか。どこでどう変化していくのか。そういった温度感や演技のバランスにいちばん気を遣い、現場でもずっと横浜さんと話し合っていました。

で、僕らが出した結論はニュートラルでした。過去にどんな喪失があったとしても、それを普段から表に出している人ばかりではない、むしろ隠している方が自然じゃないか。過去をあまり感じさせない、ニュートラルな感じにしましょうというところで落ち着きました。

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芯の強さが篠田千瑛と重なる清原果耶


(C)砥上裕將/講談社 (C)2022 映画「線は、僕を描く」製作委員会
──霜介にとって水墨画の先輩であり、よきライバルでもある篠田千瑛を清原果耶さんが演じています。清原さんは『ちはやふる 結び』に出演されていましたが、久しぶりに清原さんと一緒に仕事をされて、いかがでしたか。

小泉:『ちはやふる 結び』のとき、清原さんは15、6歳くらいだったと思います。そのときの印象が残っていたので、千瑛を演じるにはちょっと幼いかなと心配していましたが、まったくの杞憂でした。久しぶりに会ってみると、すっかり大人の女性になっていたのです。しかし、芯の強さにおいては変わらないものがある。もしかするとますます強くなっているかもしれない。千瑛にぴったりだと思いました。

千瑛の持つ葛藤も、脚本で非常に悩んだところです。霜介の悩みに千瑛をどう絡ませ、どこまで表現するか。そこは清原さんが得意とするところだったので、豊かに表現してくれました。彼女に任せてよかったです。

──この作品では横浜さんと清原さんが内面の葛藤などの心情をセリフではなく、表情だけで細やかに語っている場面が多かった気がします。

小泉:二人とも心情を細やかに表現してくれました。撮影をしていく中で2人の演技を見ているうちに、「ここはセリフはいらない」と思って、現場で切ったところがたくさんあります。優れた俳優同士は、お互いの演技を引き出し合う、ということも起こります。例えば、反発して家を出た千瑛が戻ってきて、湖山先生と顔合わすシーンで、湖山先生が千瑛に「おかえり」といいます。それを聞いたときの千瑛の表情が素晴らしかったですね。湖山先生のこのセリフは急遽足したものですが、その結果あの表情が生まれました。

やんちゃな芝居で魅せた三浦友和


(C)砥上裕將/講談社 (C)2022 映画「線は、僕を描く」製作委員会
──湖山を演じた三浦友和さんはセリフの言い方がお茶目で印象に残りました。

小泉:湖山先生は水墨画という由緒ある芸術の師匠ではあるけれど、高圧的な雰囲気を感じさせたくないと三浦友和さんは思っていらしたようです。セリフの語尾を丸くしたりしてお茶目な感じを出してくれました。

原作の湖山先生にはとぼけた感じのところはありますが、三浦さんが演じることで可愛らしいおじいちゃんという方向性に切り替わったと思います。例えば、湖山先生が寝ているシーン。脚本には「寝ている」と書いただけでしたが、脚をテーブルの上に乗っけるというやんちゃな芝居をされたのです。そういうところが三浦さんの魅力ですね。

──揮毫会は水墨画をダイナミックに見せ、水墨画の魅力を存分に引き出していましたが、作品が大きいだけにどうやって撮影したのかが気になりました。

小泉:三浦さんともうお一方にやっていただきましたが、お二人とも熱心に練習を重ねてくださいました。どういうものを描くかは、水墨画の監修をされた小林東雲先生と僕らで決めて、“この絵を描いていただきます”とお見せしたのですが、お二人とも「これ、本当にやるの?」と腰を抜かしそうな勢いでした。“やばいことになった”と思われたと思います(笑)。それを東雲先生が手取り足取り、フォローしつつ、おだてつつ(笑)、お二人を仕上げてくださいました。

ある時、三浦さんが「絵を描くというよりも殺陣を演じるつもりでやることにしました」とおっしゃっていました。自分で絵を描くというよりも東雲先生の動きをコピーして、いかにダイナミックに描いている姿を見せるかということに集中されたようです。要所要所でご本人が本当に描いている部分を作って、そこに集中して練習していただきました。見応えたっぷりのシーンになっていますので、ご期待ください。

インタビュー/ほりきみき

小泉徳宏プロフィール

映画監督・脚本家。2006年、当時25歳にして「タイヨウのうた」を初監督し大ヒットを記録。その後、佐藤健主演の「カノジョは嘘を愛しすぎてる」(2013)や、広瀬すず主演の「ちはやふる-上の句/下の句」(2016)、「ちはやふる−結び−」(2018)でそれぞれ監督・脚本を務め、同作はシリーズ累計で興行収入45億円を超える大ヒットに導いた。新人や若手俳優を次々に起用していく先見性、脚本構成力の高さ、繊細で情緒豊かな演出手腕は高い評価を得ている。

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映画『線は、僕を描く』の作品情報


【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
砥上裕將『線は、僕を描く』(講談社文庫)

【監督】
小泉徳宏

【脚本】
片岡 翔、小泉徳宏

【出演】
横浜流星、清原果耶、細田佳央太、河合優実、矢島健一、夙川アトム、井上想良/富田靖子、江口洋介/三浦友和

【作品概要】
原作は砥上裕將による同名小説。2020年「本屋大賞」3位、2019年TBS「王様のブランチ」BOOK大賞を受賞している。

主演は横浜流星。アルバイト先の絵画展設営現場で水墨画の巨匠・篠田湖山に声をかけられ、水墨画を学び始めることになる主人公の青山霜介を演じる。篠田湖山の孫で、霜介のライバルの千瑛を演じるのは清原果耶。篠田湖山を三浦友和、湖山の一番弟子である西濱湖峰に江口洋介。

監督は「ちはやふる」シリーズの小泉徳宏。主題歌「くびったけ」、挿入歌「LOST」はVaundyが作詞作曲を手掛け、yamaが歌う。横浜流星本人から「yamaに歌ってほしい」との提案があり、それがきっかけでyamaが起用された。

映画『線は、僕を描く』のあらすじ


(C)砥上裕將/講談社
(C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で水墨画の巨匠・篠田湖山に声をかけられて、水墨画を学び始める。白と黒だけで表現された水墨画は筆先から生み出す「線」のみで描かれる芸術で、描くのは「命」。霜介は初めての水墨画に戸惑いながらもその世界に魅了されていく。やがて深い悲しみに包まれていた霜介の世界が変わっていき、止まっていた時間が動き出す。

堀木三紀プロフィール

日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。

これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。

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